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狙われた乙女~別荘編~(第3回/全3回)

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狙われた乙女~別荘編~(第3回/全3回)
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リアクション

「エルさん、大丈夫ですか〜」
 晃月 蒼(あきつき・あお)は、うつ伏せ状態で埋まり、ぴくりとも動かないエル・ウィンド(える・うぃんど)を一生懸命引き出そうとしていた。
「リュースの友達ね。私も手伝うわ。せーの!」
 グロリアが蒼に手を貸して、エルを瓦礫の下から引っ張りだす。
「ホワイトさんも多分この辺に……いました〜!」
 蒼は、傷だらけで倒れているホワイト・カラー(ほわいと・からー)を見つけて、手を伸ばす。彼女は幸い瓦礫の隙間に収まっており、潰れてはいなかった。
 蒼は抱きしめるように両手でホワイトを瓦礫の中から救い出す。
 その間、グロリアはパートナーの友達だからということもあり、エルに丁寧に手当てをしていた。
「しっかり。傷は浅くはないけど、命にかかわるほどじゃないから」
 グロリアは膝の上にエルの頭を乗せて、水筒の水を飲ませようとする。
「うーん……」
 意識を取り戻したエルは、目の前に女神を見た。
 辛く苦しい別荘での生活。そして、埋もれながら激しい痛みに耐え忍んでいた時間。誰も助けに来てはくれない来てはくれないと諦めかけて、意識を失ったエルだけれど。
 全ては、この感動を得るための試練だったのだ。
「ありがとうーっ!!」
 エルは女神に抱きついた。感動の余り抱きついた。その85Dの胸に顔を埋めて思う存分首を振る。
「ちょっと何するのよ!」
 女神――グロリアはリュースの友人であるエル神をドカッと突き飛ばした。
 そして……。
「ホワイトさんも無事でした〜。よかったです〜。……って、あれ?」
 蒼がホワイトを救出してグロリアの元を訪れた時には――。
「怪我してるのに、元気一杯みたいねぇ……」
「いたっ、死ぬ、本当に死ぬ、死にます。ギブアップ、すみません、ごめんなさい、許して下さい。女神様ーーー!」
 青筋を立てて関節技を決めているグロリアの姿と、絶叫し意識を失った哀れな男の姿があった。

「……こんな……」
 爆音を耳にし、駆けつけたガートルード・ハーレック(がーとるーど・はーれっく)は、自らの敗北を悟った。
 別荘は崩れてしまい、共にヴァイシャリーからやってきた波羅蜜多実業高等学校の卒業生、学友達の多くも埋まってしまっていると思われる。
 一矢報いることも出来なかった自分の無力さと、大事な友であるパラ実の同志を焚き付けるが如く、煽ってしまったことを激しく後悔する。
「悔いとってもしょうがなぁで。やるべきことをやる。そうじゃろ?」
 シルヴェスター・ウィッカー(しるう゛ぇすたー・うぃっかー)の言葉に、静かに頷き、ガートルードもパートナー達と共に、救出作業に加わる。
「埋まってる女は返事しろ〜。よし、そこか」
 ネヴィル・ブレイロック(ねう゛ぃる・ぶれいろっく)は、返事はないものの、瓦礫が僅かに動いた場所に向けて、ドラゴンアーツを放ち瓦礫を吹き飛ばす。
「あら、不良の少年ですわ。優先度は低いですけれど一応引っ張り出しておきます?」
 パトリシア・ハーレック(ぱとりしあ・はーれっく)は、瓦礫の下に埋まっていた人物がリーゼントの男であることを確認し、傍らのガートルードに尋ねる。
「はい、ですがお姉様方が優先です」
「出すだけ出しとこうか。同朋救出の邪魔になるけぇね」
 ガートルードとシルヴェスターはうめき声を上げている少年の元に歩き、力任せに引っ張り出すと、瓦礫の外へと放り出しておく。
「あ……っ」
 その奥に、意識を失って倒れている女性の姿を見つける。
 バニースーツ姿のままで、鉄パイプを持って倒れている女性。勇ましく誇り高きパラ実の女性だ。
 ガートルードは唇を噛みながら、ドラゴンアーツで瓦礫を吹き飛ばし、女性に手を伸ばす。
「ヒールすっから、呼びかけてみろ」
 ネヴィルは意識を失った女性にヒールをかける。
「ご無事ですか。助けに参りました」
「……ん……」
 ガートルードの声に、気絶していた女性が目を開けて、自分の状況を察する。
「畜生……っ。百合園め……」
「申し訳ありません。ですが、今は仲間と共にここから脱出することだけをお考え下さい」
 悔しげな女性の声に、ガートルードは頷きながら手を伸ばす。
 女性は瓦礫の中から自らの身体を引っ張り出し、ガートルードとシルヴェスターの手を取って、這い出た。
「よろしければ、こちらを使って下さい」
 買物から戻ったリュースが、瓦礫の側に救急用具や飲食物を置いていく。
「ガートルードさんは、お優しい方なんですね。でも、大丈夫です。オレ達が必ず助けますから」
「ありがとうございます。よろしくお願いいたします」
 リュースの言葉に、ガートルードは素直に礼を言った。
「襲い掛かって来る者はいませんね。敵側も自分達の仕出かしたことの凶悪さを悔いているということでしょうか。味方もろとも押しつぶすとは、侮れませんわね白百合団。血も涙もない恐ろしき組織ですわ」
 ガートルード達を護衛しているパトリシアだが、今のところ自分達に手を出してくる者はいない。白百合団らしき者も自分達の仲間を掘り出すだけで精一杯なようだ。
「ぎゃーーーーーーー。鏖殺寺院ーーーーーーーっ!」
 突如大きな声が上がり、ガートルード達は空を見上げる。
 上空を飛びまわり、何やら白百合団側の人物達と会話をしていた虫のような存在のヴァルキリーがいたのだが、ガートルード達の姿を見るなり、悲鳴を上げて飛び去ってしまった。
「あれは、ミルミ・ルリマーレン……のわけはありませんね。白百合団は鏖殺寺院のメンバーも手駒にしているのでしょうか」
 テロを企てているような団体ならば、最初から自分達に勝ち目はなかたっということか……。ガートルードは悔しげに拳を握り締めながらも、今は救出作業に専念をする。
「ガートルード……」
 息も絶え絶えな女性の声に、ガートルードは急いでその声の元に走る。
「ご無事でしたか。一味に助けられたのですか?」
 瓦礫の中ではなく、彼女は瓦礫の側に寝かされていた。
「今回復してやるからな」
 ネヴィルがヒールで女性を癒し、精神力が尽きた彼に、シルヴェスターがSPチャージを使い回復させる。
「すまない。ああ……あたしは確かに奴等に助けられた。だがな、奴等は、奴等がオジョウサマだなんて、でまかせだ。奴等はあたしらなんかより、鬼だ、鬼畜だッ、見ろ――!」
 パラ実の先輩女性が指したその場所には、いまだかつて見たこともない地獄絵……いや芸術作品があった。

「ミルミさん、行ってしまいましたね。多少は役に立ってくれましたし、あとは自分達でなんとかしましょう。あ、私は皆を手伝ってきますが、さけはこの別荘から少し離れた辺りで、引き続き作業を行っていて下さいね。絶対に別荘に近付いたらダメですよ。さけは合成獣を呼ぶフェロモンを発しているんですから!」
 はそうさけに指示を出すと、倒壊した別荘の方へと向かっていった。
 さけは別荘からは少し離れた位置、白百合団がテントを立てている位置とは反対側で、意識を失っている不良達の監視を行なっていた。
 縛りあげた不良を見ながら、さけは考え込む。
「目を覚ましたら困りますわね……、かといって回復させないと死んじゃいますし……。それにしても臭いですわ! こっちが気を失ってしまいます! 毒ガスの影響でしょうか」
 煙や汚物の匂い、更にプールのような匂いが漂い、交じり合っており、さけは眉間に皺を寄せるのだった。
「ん……? 臭い……、毒ガス……、気を失う……。ああ、そうですわ」
 ぽむと手を叩くと、さけはせっせと作業を始めるのだった。
 縛り上げたロンゲの不良を横に倒して、ズボンを捲る。
 スキンヘッドの不良を横にして、ズボンを捲る。
 アフロの不良を横にして、ズボンを捲る。
 モヒカンの不良を横にして、ズボンを捲る。
 ロンゲの尻にスキンヘッドの顔を埋めさせ、スキンヘッドの尻にアフロの顔を埋めさせ、アフロの尻にモヒカンの顔を埋めさせ――そうして、不良を次々に繋げて円になるようにしっかりとロープで固定する。
「これで回復して気が付いても、また気を失うこと確実でしょう」
「じ、地獄のドーナッツ……! 恐ろしい……」
 気絶したリーゼントの不良を引き摺ってきた晶は完成度の高いパートナーの作品に目を見開いて驚愕した。
「……暴れましたら輪の中に加えますわよ?」
 ふふんと、さけが目を向けた先には、ガートルードが駆け寄ったパラ実の女性の姿があった。
 ――遠くから、ガートルードがさけの姿を確認し眉を顰めた。
「あの者は百合園生ではありません。……ですが」
 ガートルードは作業を続けるさけを見ながら、改めて百合園の裏を認識することになる。
 荒巻さけ(あらまき・さけ)。確かにその女は百合園生ではない。だがしかし、百合園が主催したミス百合園コンテストでミス・百合園の輝いた女なのだ。
「いわば、彼女こそ真の百合園生のあるべき姿。見本である女。百合園女学院……なんとそこの知れない学園なのでしょう……」
「頼んだ、ガートルード。ダチを守ってくれ……っ」
 がくりと先輩は意識を失った。
 あの恐怖のドーナツの中に、パラ実のお姉さま達を引き摺りこまれないためにも! ガートルードとパートナー達は必死に救出を急ぐのだった。