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第一回葦原明倫館御前試合

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第一回葦原明倫館御前試合
第一回葦原明倫館御前試合 第一回葦原明倫館御前試合

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   拾参

   第四回戦
 審判:プラチナム・アイゼンシルト

○第一試合
 白砂 司VS.ドライア・ヴァンドレッド

 ドライアは指折り数えて呟いた。
「後三回勝てば、優勝だ」
 それから司を睨み付けた。
「負けねえぞ!」
「それはこちらも同様」
 二人はそれぞれ槍を構えた。――ドライアが新品なのはもちろんだが、司の槍も疲労が酷かったので交換してある。
 ドライアが上段に構えた瞬間、司の【シーリングランス】が発動した。ドライアが後方へ飛ばされる。だが見事に着地し、今度はドライアから仕掛けた。
「俺の突き破る牙、まばたきすら赦さねェぜ!」
 猪突猛進という言葉がこれほど似合う者もいまい。司は大きく吹っ飛ばされた。
「これで終いだ!」
 ――ここだ。
 吼えながら襲い掛かってくるドライアに、司は【適者生存】を使った。ドライアの動きが鈍くなる。
 すかさず、槍を掬い上げるように振るう。地面ぎりぎりを穂先が通り、大きくしなって、ドライアの膝を思い切り打った。
「ぐわぁ!」
 膝が砕けるほどの音がした。
「ちくっしょぉぉぉお!」
 膝を抱えてのた打ち回りながら、ドライアは叫んだ。「まだだ、まだ俺は強くなってやる!これからだ。見てやがれ!」
「ああ」
と、司は頷いた。「敗北から学べる者は、きっと強くなれる。俺も、お前もな」

 やや大きめの担架で運ばれる途中、審判の道三とすれ違った。ドライアにしか聞き取れぬほど小さな声で少年は呟いた。
「未熟者め」
 ドライアはぎょっとして、担架から起き上がり、そこから転げ落ちた。


○第二試合
 氷室 カイVS.クリスティー・モーガン

 元々白いクリスティーの顔は、今や完全に色を失っていた。
「大丈夫か?」
とクリストファーが尋ねる。
「心配ない」
「そう言うなら、心配はしないが」
 クリストファーは肩を竦めた。
「何だ?」
「いや、こういう戦いなら俺にもチャンスがあるかと思ったんだけどな、案に相違してそっちの方が勝ち残るんだから、分からないものだな」
「ボクにも意地がある」
「意地、ねえ」
 クリスティーは槍を握り締めた。そう、ボクがボクとして生きていくために、この意地だけは手放せない。

 しかしクリスティーのダメージは、既に頂点に達していた。身体を見られたくないばかりに、救護所へ行っていないのもいけない。ある程度回復しているカイとは、スピードも力も比べ物にならなかった。
 それでも、カイの剣を一度は【チェインスマイト】で相打ちにし、二度目は直接弾き返すという荒業で凌いだ。
「驚いたな」
 カイは目を細めた。「それだけの疲労で、ここまでやるとは」
「負けられないんだ……」
「それはお互い様だ」
 とんっとカイは地面を蹴った。どこから来る!? クリスティーは身構えた。そして動けなかった。
 カイは真正面から、袈裟懸けにクリスティーを打った。

 水を含んだ雑巾のように身体が重かった。しかしクリスティーは救護所へは行かず、控え室に戻った。ぐったりとその身を長いすに横たえると、左腕で両目を隠し、目を閉じた。
 ふ、ふふ……笑みがこぼれる。
「前略 静香さま――」
 百合園校長の桜井静香へ、手紙を書こうと思う。彼女はクリスティーのペンフレンドだ。書くことがたくさんありそうな気がした。いや、たった一つか。
 自分はここまでやれたということ。
 それはこれまでになくシンプルで楽しい内容だった。


○第三試合
 ゲイル・フォードVS.サー・ベディヴィア

 ゲイルはちょっと困ったことになったな、と思っていた。数合わせで参加したはずが、こんなところまで勝ち残ってしまったことにだ。
 しかし、サー・ベディヴィアなら話は別だ。この相手は強い。それだけでなく、騎士道精神に満ち溢れている。何しろ、円卓の騎士だ。参加した甲斐があろうというものだ。
「さあ我が槍を受けて見せよ、ライトニングランス!!」
 ゲイルの両肩をベディヴィアの槍が刻む。
 ゲイルはスピードを上げ、離れた位置から持っていた全てのクナイを投げつけた。
 ほとんどが避けられたが、脇腹を一本が掠っていった。傷を負っても、ベディヴィアは眉一つ動かさない。
 その仕返しとばかりに、ベディヴィアの槍がゲイルの臍の辺りを思い切り突いた。
「ぐふっ……!!」
 くるん、とベディヴィアが槍を回し、地面に突き立てた。
 戦場での騎士とは、こういうものなのだろうか、と薄れゆく意識の中、ゲイルは思った。


○第四試合
 神崎 輝VS.シエル・セアーズ

 試合場へ向かうシエルを選手専用通路で待っていたのは、山田だった。
「やまださん……」
「サンダーだ!」
「あ、そうでした。さんださん」
 何か用ですかと続けると、山田は顔をしかめながら言った。
「負ける気だろ?」
「えっ?」
「今度の相手は、パートナーだろ?」
「そ、そうだけど」
「言っておくが、そんなことをしたら、傷つくのはあっちの姉ちゃんだぜ?」
 輝が男と気づいていない山田は、そう言った。
「傷つく……?」
「殺せとまでは言わねえ。だが、本気でやれ! それだけだ」
 踵を返して去っていく山田に、シエルは尋ねた。
「どうして、そんなことを?」
 首だけ巡らし、山田は言った。
「ファンになったんだよ」
 にやり、と牙のような歯を覗かせて笑った。

 シエルが試合場に出ると、わあっという歓声が耳を劈いた。シエルはぽかんとした。
 既に試合場で待っていた輝が笑う。
「何だか凄い人気みたい」
「どうして、こんな」
「ボクらみたいなアイドルが、こんなところまで残ってるのがみんな意外なんじゃない?」
「それは……確かに」
「みんなきっと勝ちたかったんだよね」
「え?」
「戦いが好きだったり、剣に命を賭けたり……。ボクらは、そういう人たちを破って、ここに立っている」
「輝――」
「ぬるい試合は出来ないよ?」
 輝の言葉は、シエルを強く打った。山田の言葉の意味に、今気づく。
 シエルは頷いた。唇が震えている。それを噛み締めて誤魔化した。
 プラチナムが波一つ立たぬ口調で試合開始を告げる。この人は、どうしてこんなに冷静なのだろうとシエルは思った。
 輝が剣を、シエルは槌を構えた。
 タッ、と二人同時に駆け出した。シエルは飛び上がり、輝の肩目掛けて槌を振り下ろした。輝はそれを避け、シエルのふくらはぎを狙った。
「遠慮するな!」
 輝の怒鳴り声に、シエルはキッとなる。落ちるより速く、シエルは【バニッシュ】を発動した。
「あっ!!」
 輝が叫んだ。大丈夫? と声をかけようとして、シエルは迷いを振り切った。着地と同時に槌を背後に回し、その反動で輝の脇腹目掛けて叩きつける。
 が、輝の【ソニックブレード】がシエルの槌を粉々に破壊した。剣はそのまま、シエルの胸へと吸い込まれていった。

 輝は試合場から動かなかった。瑞樹は救護所の瑠奈に付き添っている。運ばれていくシエルの傍らにいるのは、山田だ。
「御免ね……」
「気にしない気にしない。シエルっちには、うちのサンちゃんが付いてるから心配しないで」
 裁が微笑みながら、輝にタオルを渡した。それを頭からかぶり、裁に促されるよう、輝も試合場を出た。
「……勝つから」
「うん」
「シエルのためにも、他の人のためにも、ボクが絶対勝つから」
「うん。勝って」
 裁は至極あっさりと言ってのけた。
 うん、と小さく、けれどしっかりと輝は頷いた。