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【蒼フロ3周年記念】パートナーとの出会いと別れ

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【蒼フロ3周年記念】パートナーとの出会いと別れ
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 ■ そんな出会いもあんな出会いも ■
 
 
 
 
 朝8時。
 師王 アスカ(しおう・あすか)はパートナーたちと共にいつも通りの日常、朝食を取っていた。
 ボリュームが多めな朝食は、今日もこれからがんばる為のパワーの素だ。
 朝食を食べている皆を、オルベール・ルシフェリア(おるべーる・るしふぇりあ)はフォークの先を囓りながら眺めた。
 アスカには今、オルベールを含めて6人のパートナーがいる。
 その中で、ルーツ・アトマイス(るーつ・あとまいす)蒼灯 鴉(そうひ・からす)だけはアスカとどんな経緯で契約したのか、オルベールは知らない。
 そのことがふと気になって、オルベールは聞いてみた。
 
「アスカってどうやって2人と知り合ったの?」
「ふえぇ? どりゃっふぁはなあ?」
 口いっぱいに料理を頬張ったまま、アスカは首を傾げる。
「……うん、食べながら喋るのはお行儀が悪いわ、アスカ」
 可愛いけど、と付け加えてから、オルベールは今度はルーツに聞いてみる。
「ルーツちゃんはどうやってアスカと知り合ったの?」
 こちらはゆっくり味わいながら食事をしているから、もごもごではない答えが返ってくるだろう。一体どんな出会いがと期待していたのだが、
「もう2年前だから覚えてないな……すまない」
 ルーツは申し訳なさそうに答えた。
「あ、いいのいいの。まあ、そうよね……」
 素直な回答ではあるけれど、情報は全く無し。
 こっちはどうせまともな返事は無いだろうと思いつつ、オルベールは一応鴉にも聞いてみた。
「で、バカラスは?」
「女悪魔に語るネタはねえ」
 うん、やっぱこいついつか殺す。爽やかにオルベールは心に誓った。
 これで結局、出会いのことは分からずじまい。
 けれど分からないと思うと余計知りたくなるのが女悪魔心というものだ。
「そういえば、龍杜神社で過去見が出来るって聞いたわね……」
 こうなったら絶対に過去を見てやると、オルベールは3人を龍杜に強制連行することに決めたのだった。
 
 
 ■ ■ ■
 
 
 アスカがルーツと出会ったのは、2年前のことだ。
 その頃のアスカは自分に契約者の素質があったことを全く知らなかったから、レンタルした小型結界装置を常に身につけて、パラミタ各地を回って絵を描いていた。
 
 タシガンの森、夏の夜20時。
 契約者でないアスカが夜の森を一人歩きするだなんて自殺行為だとは知っていた。けれど、森の深い闇と木々の間に輝く星のきらめきに、むくむくとインスピレーションが湧いてきてしまったアスカは、じっとしていられずに森に入ってしまった。
 少しならきっと大丈夫。静かにしていれば大丈夫。
 大丈夫と思える理由を並べて、アスカは森の中にテントを張ると、焚いた火の明かりを頼りにスケッチブックに筆を走らせた。
 どのくらいその作業に没頭していただろうか。
 ふわっと白っぽいものが焚き火に照らし出された。
(て、天使……?)
 乳白金の長めの髪が、夏の夜風を受けて柔らかく揺れている。
 端整な顔立ちとどこか儚げなその様子に、アスカは天使を連想したのだ。
 その天使はアスカのほうに数歩踏みだし……ぽてんっとその場に倒れた。
「ど、どうしたの?」
 慌てて傍らにかがみ込んだアスカが聞くと、天使の唇が小さく動いた。
 
「……おなか空いた」
 
「ベタかっ!?」
 思わずツッコミを入れてしまったけれど、倒れるほど空腹なら大変だ。
 アスカは荷物をあさって携帯食料を引っ張り出すと、その天使に与えた。
「お水も飲んでね。あ、お腹が空いてるのは分かるけど、ゆっくり食べてね〜」
 扇いで風を送ったりと、アスカが看病するうちに、天使は元気を取り戻してきた。どうやら倒れた原因は空腹だけで、それ以外の要素はなかったらしい。
「ありがとう、助かったよ」
 人心地ついたように天使は礼を言った。
「元気になったのなら良かったわ〜。あ、私はアスカ。天使様の名前は?」
「……天使?」
 天使はくっと堪えかねたかのように笑った。
「何となくそうじゃないかって思ったんだけど違った?」
「大違いだ。我は吸血鬼であって、守護天使ではない」
「きゅ、きゅ、吸血鬼〜っ?」
 アスカは座った体勢のままで、ずるっと後退った。
 
「助けてくれたことに感謝する」
 ルーツと名乗った天使改め吸血鬼は、倒れることになった経緯をアスカに説明した。
「我は自身の封印が解けた後、1人で旅をしていたんだ……」
 人と関わるのが怖くて、ルーツは誰もいないような場所を選んで彷徨っていた。火とから血を吸うのは嫌だったから、魔物を眠らせてはその血を拝借していたのだが、人のものとは違い、魔物の血は美味しいものではない。
 食欲が湧かなくて、つい1食抜き、2食抜き……としていたのが重なり、遂に身体に限界が来てしまった。
 これではいけないと魔物を求めて森を歩いていたのだが、動く力もなくなって、とうとう倒れたのだ。
「へ〜、私がここにいたのはたまたまなんだけど、役に立てて良かったわね〜」
「そういえばこんな森の中で何をしていたんだ?」
 漸くそのことに思い当たってルーツは尋ねた。
「絵を描いてたのよ〜。私、小型結界装置を借りてパラミタ各地をスケッチ旅行してるのよ」
 相手が吸血鬼だと知って怯えていたアスカだったけれど、絵の話になるとアスカの口はよく回る。
 芸術の話になるとルーツとアスカの話は合ったから、2人は次第に意気投合していった。
 
 体力が回復すると、もうこれ以上ルーツがここにいる理由はなくなった。
 後はさよならを告げて立ち去れば良い。
 けれど、何故だかアスカと別れを迎えることが、寂しく感じられた。この時ルーツは、色々自分の中で疲れていたのだと思う。
 だからアスカにこう持ちかけた。
「我と契約を結ばないか? そうすれば小型結界装置など無くとも、パラミタの地を自由に歩けるようになる」
「契約? 無理無理。私にはそんな素質ないもの〜」
 アスカは笑って否定するが、ルーツは彼女の中に契約者の力を感じた。
「ならば試してみても良いか?」
 自分の直感を確かめてみたくなり、ルーツはアスカに尋ねた。
「試してみるくらい別にいいけど、無駄だと思うよ〜」
「無駄ならそれで構わない。では……」
 
 
 ■ ■ ■
 
 
 そこでいきなりルーツが水盤から身を起こしたので、過去見は途切れた。
「ちょっと、続きを見せなさいよ!」
 オルベールに言われても、ルーツはうんとは言わなかった。
「後は見るようなことでもない。契約は成功した」
「せめて方法ぐらいは教えなさいよね」
 オルベールに尚も促され、ルーツはちらっと鴉に目をやってから答える。
「その……お互いのおでこにキスを……って鴉! 殺気やめてくれ!?」
 飛ばされた鴉からの冷たい視線を、ルーツは両腕で遮った。そうしながら、話を逸らすように今もルーツが謎に思っていることを口にする。
「未だに少し解せないことがあるんだ。契約者になると、力も頭脳もその時点で跳ね上がるはずなのに、アスカにはそれが見られなかった。むしろ……元からそうであったように、力が存在していて……」
「ああ、もうバカラスはルーツちゃんに絡むのはやめて、さっさと自分の出会いを見せなさいよね」
 言いかけたルーツの言葉を乱暴に断ち切ると、オルベールは鴉をアスカの横へと押しやった。
 
 
 ■ ■ ■
 
 
 それはマホロバ、ルーツと契約してから季節が1つ移った秋の日のことだった――。
 
 ルーツと契約を果たしたアスカは、以前にも増して精力的にパラミタを回っていた。どこでも踏み込んで行ってしまうアスカを、ルーツがはらはらしながら追いかけるのが、いつものことになりそうな、そんな頃。
 
「本当にそこに入るつもりなのか?」
「当然そのつもりよ〜。鬼の祠だなんて、面白そうなものが見られるに違いないわ〜」
 どうしても祠を描きたいからと、アスカはルーツを無理矢理引き連れて、中に入っていった。
 魔物が巣くう危険な場所だったが、運が良かったのだろう。アスカたちは結構深くまで進むことが出来た。
 だが……。
 そこまで来たら、魔物の気配は途絶えた。代わりに人の気配がある。
「これは尋常ではないな。引き返そう」
 ルーツは止めたが、アスカは絵を描くのに夢中で生返事。
「うん、ちょっと待ってて……うわ、こんなの見たことないわ〜」
「全く……アスカ!」
「え?」
 不意にルーツに突き飛ばされて、アスカは地面に転がった。
 次の瞬間、ルーツがうめき声をあげ、その場に倒れる。
 襲われたのだ。
 ようやくその事実に気付いたアスカが顔を上げるとそこには……蒼い髪の男性がいた。
「あの……」
 それ以上何も言えないうちに、アスカは蹴られてまたひっくり返る。そして首に男性の手が回され……締め上げられる。
 強い手の力だ。
 痛い……。
 ルーツは大丈夫なのか。
 様々なことが頭の中を駆け巡る。だが不思議と、『死』に関しては何も考えなかった。
 どうしてこうなったのか不思議で、アスカは自分の首を絞めている男性の顔をじっと見た。見覚えはない。こんな綺麗な青い髪だったら、一度見たら印象に残っているはずだ。
 そうして眺めていると、不意に締めあげる力が緩んだ。
 息が出来るようになったアスカは、目の前の男性に言った。
「綺麗な色の髪をしてるのね〜」
 
 
 それを聞いた鴉は呆気にとられた。
 最初はもちろん殺す気だった。
 ずっとこの祠で生活してきた鴉は、自分の住まうこの辺りにだけは魔物避けの香を焚き、加えて適度に魔物の処理をしていたから、実に静かな暮らしだった。
 それが人の足音が聞こえるわ声が煩いわで、かなり苛ついた。こちらに来られるのも困るので、殺して魔物の餌にでもしてやろうと、アスカたちに襲いかかったのだ。
 けれど首を絞めた時に見たアスカの瞳に、つい締める力が緩んでしまった。
 何故ならアスカは、あまりにもまっすぐに観察するような眼でこちらを見て来たからだ。
 そこに加えて、髪が綺麗だと言う純粋な感嘆の言葉。
 ……殺す気を削がれた。
 もうどうでもいいから一眠りしようと、鴉はアスカを手で追い払う仕草をする。
「さっそと失せろ」
「え〜、そんなこと言わずにモデルになって♪」
 アスカは急いでスケッチブックを拾い上げ、鴉のスケッチを始めようとする。
 そのうちにルーツも起きあがり、鴉に反撃を喰らわせようとする。
 自分の理解を超えたカオスに、鴉は頭痛がしそうだった……。
 
 けれど今まで暗闇の中で生きてきた鴉にとって、こういったことは初めてだった。
 こいつらについて行くのも悪くないかもな。
 そう思った鴉はアスカと契約を成立させたのだった。
 
 
 ■ ■ ■
 
 
「で、どうやって契約したの?」
 オルベールに聞かれ、鴉はどうだったかと考える。
「ああ、思い出した。すっげえくだらないぞ……ゆびきりだ……」
「ゆ・び・き・り」
「……悪いのかよ。ならそっちも見せろ」
 鴉に言われたオルベールは、大急ぎで首を振る。
「あ、ああ……ベ、ベルとの出会いはつまんないからパス! さ、用は終わったんだから帰りましょ。那由他ちゃん、ありがとうねー」
 皆を追い立て、オルベールは早々に龍杜から退去した。
 秘密をばらす訳にはいかない。
 そう……パンドラの箱は開けるべきでない、のだから――。