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2021年…無差別料理コンテスト

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2021年…無差別料理コンテスト
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第11章 素材の風味を壊さず艶やかに魅せる

「いろんな人に食べてもらうのも、楽しみの1つだね」
 クレープを作ろうとノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)は、【お年賀】高級食材詰合せ」の蓋を、かぱっと開ける。
「小麦粉と砂糖、塩はあるね」
 それをボウルに入れて・・・。
 サササ・・・サラサラ・・・。
 ぱたぱたとふるいにかけておく。
「他の材料は冷蔵庫からもらちゃおうっと。―・・・あった!」
 材料を大事そうに両手で抱え、テーブルへ持っていく。
「いつもは、おにーちゃんが一緒にいたりするけどね」
 影野 陽太(かげの・ようた)は恋人に付き添っているため来れない。
「1人できても、いーっぱいお友達作れるかもしれないもの」
 卵と牛乳を丁寧に混ぜせて、室温で寝かせる。
 30分間後・・・。
 溶かしたバターを泡だて器でカシャカシャと混ぜる。
「とっても甘い香りがする・・・」
 クレープ生地をお玉ですい、熱したフライパンに流し入れる。
「浴衣の格好も似合いますねぇ〜」
 デジカメを手にエリザベートが、にゅっと現れた。
「ノーンさんはお1人で参加しているんですぅ〜?」
「うん、おにーちゃんは来れないの」
「でしたら、このデジカメで撮影したのを、動画サイトにのせておきますから。後で陽太さんに見せてはどうですかぁ〜?」
「えぇ〜っ。ちょっと恥ずかしいな」
「フフッ、きっと喜びますよぉ」
「―・・・でも。おにーちゃん、恋人の傍にいけないの。落ち着いたら言おうかな」
 おいしいバナナと雲海わたあめを、焼きたてのクレープ生地で包みながら、少し顔を俯かせる。
「えぇ、それがいいですねぇ」
「そうするよ!えへへっ」
 いつもの明るい笑顔に戻った少女は、ショコラティエのチョコをトロトロに湯せんし、キレイにデコレートする。
「どうぞ♪」
「いただきますぅ〜」
 焼きたての甘ーいチョコバナナクレープをもらい、さっそくぱくつく。
「パラミタの風味がしますねぇ」
「コンテストっていってもお祭りみたいだし。どうせならパラミタの甘ーいのを使ってみようとね」
「すげーっ!あたしにもくれっ」
「今作ったばかりだよ!」
「ちょーうめぇーっ」
 受け取ると椿はいっきに食べきる。
「可愛いクレープだね」
「いただいてみますわ♪」
「わたあめが入ってるよ?」
「こういうのは始めてかもしれませんわね」
 静香とラズィーヤも試食し、ノーンに感想を言う。
「皆に喜んでもらえたら、それだけで嬉しいの」
「へぇ〜。優勝を狙っている人も結構いるのに。無欲だね」
 作る者の心もスパイスだし、それもアリかな?と思いつつミルディアはクレープを一口食べる。



「来ないのかな・・・」
 祭りが始まってからだいぶ経っているのに、カオルの屋台に梅琳がなかなか現れない。
「カオル!ここにいたのね」
「あっ。どこに行ってたんだ、メイリン」
「ごめんなさいね。ちょっと早く来すぎたみたいなの」
「(浴衣、着て来てくれたのか・・・)」
 金魚柄の浴衣を着て緑色の髪をアップにした彼女の姿に、思わす見惚れてしまう。
「エロマに着せてもらったんだけど。どうかしら?」
「うん・・・すごく似合ってるよ」
「フフッ、ありがとう。カオルもその格好、似合ってるわ」
「ん?あぁ、一応コンテストだし、着ておこうと思ってな」
「飴細工作って作ったことないの。何か、お手伝いできることある?」
「あぁ、もちろん!―・・・っと、袖を・・・これでよしっ」
 邪魔にならないように、カオルは袖をたすきでしばっておく。
「割り箸の準備を頼むよ」
「えぇ、分かったわ」
「(調理室借りて猛練習したっけ・・・)」
 不慣れな最初は火傷してばっかりだったけど、今となってはいい思い出だ。
「(花火大会の日屋台きりもりして、メイリンに赤い花の形のプレゼントしたなぁ)」
 その後も、部隊の作戦でも子どもあやすためにみんなで作ったけど、今は趣味の一部となった。
「―・・・それ以上、煮詰めるの?」
「へ?・・・あぁ。ごめん、助かったよ」
 ぼーっと今までのことを考え、鍋で水飴を熱して煮込んでいると、梅琳に声をかけられ火を止める。
 適度な硬さに温めた飴を、割り箸で適量をとりあげる。
「冷えないうちに作らないとな」
 赤色の食紅を練りこみ、和鋏で形を作って羽の部分を広げる。
「それ、何?」
「ん、鳳凰だな」
「もうちょっと羽を広げると、かっこいいかもしれないわよ」
「じゃ・・・もうちょっと。こんなものか?」
「えぇ、そうね」
「嘴は黄色でいいか。目は黄色と赤を混ぜた色にしとくかな。この展示用の飴細工を袋詰めしてくれないか?」
「この透明の袋ね?」
 梅琳は飴に袋を被せ、はずれないようにリボンでしばっておく。
「カオルさん、こんちは♪」
「ルカか。どうだ?1つ」
「う〜ん、せっかくだけど飴は・・・」
「私に遠慮することはないぞ」
「えっ!?団長、よろしいのですか」
「こういう場で我慢する必要はないからな」
「うぅ、あがとうございますっ」
 やっと甘いものが食べられると、ルカルカは大喜びする。
「子供のライオンを作って欲しいな。2つね!」
「耳は丸い感じだったっけ。口は・・・可愛い感じにしておくか。って、同じ形か?」
「えぇ、1個は今食べるの」
「ん、分かった。―・・・ほら。出来立てだから、火傷するなよ」
「ありがとう♪―・・・ん〜、幸せっ」
 あま〜い味に、ほわ〜んとなる。
「カオル、ちょっと屈んでくれる?」
「うん?」
「はい、落ちてたわよ」
「―・・・ありがとう、メイリン」
「もう1つ、あま〜いのありがとう♪」
 頭にバンダナを巻いてもらったカオルを、ルカルカがによによと眺める。
「な、何言ってるんだっ」
「邪魔者は消えるわ♪」
 片手をフリフリと振り、2人から離れていく。
「―・・・カオル?」
「うわぁっ!何!?」
「お客よ」
「あぁ・・・。いらっしゃい」
「その鳳凰、かっこいいですねぇ。そういうの作れるんでしたら、ドラゴンを作って欲しいですぅ〜」
「角は後ろ側にして・・・。口は牙が見えるほうがいいか」
 和鋏で口を押し上げ、飴をひっぱって牙を作る。
「素敵ですぅ〜♪」
 エリザベートはもらった飴を手に走っていった。



「はぁ〜・・・コンテストとかって、まじだるい・・・」
 趣味の悪い紫と金の浴衣を着たゲドー・ジャドウ(げどー・じゃどう)は、ぐったりとため息をつく。
「こら、ゲドー!そんな態度じゃ、客が来ないのですよ。ちゃんと作りやがれなのです!!」
 頬を膨らませた俺様の秘密ノート タンポポ(おれさまのひみつのーと・たんぽぽ)が彼に命令するように言う。
 着ているタンポポ柄の浴衣も、容姿も可愛らしいが、チャレンジすると決めたことも無理やり実行する。
 そのせいでゲドーも出場するはめになった。
「帰っていい?とか言ってみたり・・・」
「むぅー!?いやだいやだ〜っ、タコヤキ作るのです!作りやがらないと、許さないのです!!」
 床にゴロゴロと転がりダダをこねる。
「や、やめろっ!皆見てるじゃねぇか!作ればいいんだろ、作ればっ」
「よーしゲドー、いっぱい作りやがれなのです!」
「はいはい。はぁ〜・・・俺様って超不幸・・・」
「ジェンド、早く教えやがれなのです」
「んっと、薄力粉と卵をボウルに入れてください」
 バツとマルのデザインの浴衣を着たジェンド・レイノート(じぇんど・れいのーと)が、タンポポに作り方を教える。
「投下〜っ」
 ざばざば・・・べちょっ。
「タンポポちゃん!卵は割ってほぐしてから入れるんですよ」
「みゅ〜っ、タンポポに割り方を教えやがるのです!」
「うん。平らなところにちょっとぶつけて、ヒビに指を入れて・・・割るんです。からはゴミ箱に入れてくださいね」
「よぉ〜し、割れやがれなのですっ」
 ぱかっ。
「からはいらないのですよね。ポイッしてやるのです!」
「それじゃ次は、だし汁を加えながら混ぜるんです。あっ、少しずつですよ」
「出来たのです。次の手順を教えやがれなのです」
「このタコヤキ機に、タコヤキのもとを入れて焼くんです」
「タコは、いつ入れやがるのですか」
「もうちょっと焼けてからですけど。―・・・ゲドーさんは何を作っているんですか?」
 タコヤキの香りに似つかわしくない、ちょっと甘い香り・・・。
 ジェンドは怪しむように、・・・じっと見る。
「何って、タコヤキだ」
「へぇ〜・・・」
「ジェンド!もうタコを入れやがるタイミングが、わからないのです」
「あ、ごめんタンポポちゃん。真ん中に入れてください!」
「―・・・みゅ」
「もうひっくり返してもいいですよ。こうやってやるんです」
「ま〜るくなっていきやがるのですっ」
 くるくると回して楽しみながらタコヤキを作る。
「ふぅ、危ない・・・ばれるかと思ったぜ」
 ボウルに入れたホワイトチョコを、火術でどろどろに溶かす。
「ククク、こいつがマヨネーズだ。紅ショウガとカツオブシも作ってやるぜぇ」
 チェリーを細かく刻んでいき、別のチョコをスライスしておく。
「青海苔とソースも必要だよな」
 キャラメルソースとココアパウダーも小さな器に入れる。
 ゲドーのささやかな反抗を知らない2人は・・・。
「出来やがったのです!」
「これを上の方にかけて完成ですよ」
「わぁ〜いっ。タンポポが始めて作ったタコヤキ、みんな〜食いやがれなのです!」
 教えてもらった通りタンポポは、ソースを塗って刻んだ紅ショウガと青海苔、カツオブシをかける。
「はむはむ、これも食べたかったんですよねぇ」
「形がちょっとよくありませんが。始めて子供が作ったものなら、上出来ですわ」
「屋台といえばコレもあるよな」
「もっと焼くのですっ、ささっと食いやがれなのです!」
 食いしん坊の校長とラズィーヤ、椿。
 3人の女の子たちに手作りをタップリと振舞う。
「よし・・・気づかれてないな」
 タコヤキ作りに夢中になっているタンポポから、ゲドーはフイッと自分が作っているやつへ視線を移す。
「お、タコヤキが焼けたな」
 こっそりぷちシュークリーム“タコヤキ”を取り出し、準備しておいたソースや紅ショウガなどをかける。
「タンポポたちのに、これを混ぜてみるのも面白かったかもな?」
 氷術でひんやりと冷やす。
「甘い匂いがするな。それ、なんだ?」
「食ってみるか?俺様、お手製の“タコヤキ”だぜぇ」
「ちょっと怪しいけど、匂いも見た目も美味そうだしな・・・。ていうか冷たいし」
「そーやって食べるのが流行なんだぜぇ?」
 椿の突っ込みを軽くかわす。
「マヨネーズは?」
「こっちの使ってくれ」
「けっこう、甘い匂いすんだけど・・・あむっ」
 マヨネーズをかけて椿は一口で試食してみる。
「はぁ!?これ、ホワイトチョコじゃないか」
「ぷちシュークリームですわね。紅ショウガはチェリーですのね」
「ソースはキャラメルソースですぅ?」
「団長、タコヤキもありますよ。中にタコが入っているんです」
「ふむ・・・」
「ん〜っ、あま〜いっ♪。このカツオブシ、スライスチョコみたい。え・・・・・・タコヤキって、こんなのじゃないわよね」
「デザートのタコヤキですわよ」
「―・・・・・・っ」
 ラズィーヤの言葉にルカルカは顔面を蒼白させる。
「団長こちらの方でした・・・」
「そうなのか?」
 ゲドーのタコヤキを食べる寸前、タンポポのタコヤキを渡される。
「(まさかこんな変化球がぶっとんでくるなんて・・・。びっくりしたぜぇ)」
 甘い方を食べさせた罪で処刑される前に、ルカルカが自分を道ずれにナラカへ、落ちるかと一瞬思いひやっとした。