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【2021修学旅行】ギリシャの英雄!?

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第二章:クレタ島の迷宮(その1)
 ここはクレタ島。地中海に浮かぶギリシャ最大の島である。
 その島にある迷宮では、ミノタウロス退治の依頼を受けたセルシウスが戦いを繰り広げていた。
「でぇぇあああッ! くっ……!? はあぁぁッ!!」
 薄暗い迷宮内で槍を手にしたセルシウスが奮戦し、一旦距離を置く。
「ぬぅ…‥元従龍騎士の私をここまで手こずらせるとは……流石伝説の怪物の事だけはあるな!!」
 ハァハァと息を整えるセルシウス。
「セルシウスさん。ここは俺に任せて」
 光学迷彩で姿を消した上で、セルシウスの盾役に徹していた大岡 永谷(おおおか・とと)が姿を見せる。
「む! 迷宮に突入前に禁猟区のお守りをくれた貴公か! しかし……これしきの相手で」
 永谷は迷宮突入前に、セルシウスと交わした短い会話の中で「あなたの実力を頼りにしてるから、よろしくな!」と言い、一応お守りを渡していたのだ。
「いえ、セルシウスさん。貴方に万が一があれば、俺達皆この迷宮から出られなくなるんだ」
「そうか……では、頼む」
 一歩進み出る永谷にミカエル・パレオロゴス(みかえる・ぱれおろごす)が話しかける。
「ミカエルさん? 手伝ってくれるの?」
「ふむ。切り札とされるセルシウスをトトと共に護衛することは、朕の使命であろうな」
 永谷がギリシャに行くと言うので、ミカエルも久しぶりにギリシャの地に行きたくなった。
 ミカエルは、自身が皇帝として治めていた帝国は既に滅んで久しいことは知識で知っていたが、今、ミノタウロスで彼の民の末裔が苦しんでいるとなれば、退治せぬわけにはいかない。
 祖国を憂うミカエルの思いは永谷も理解できるものであった。
「朕も皇帝になる前は、トルコの宮廷でモンゴルと戦ったのじゃ。迷宮で運動不足のモンスターとモンゴルのどちらが強いか、言うまでもないわ!」
「そうは言うけど、結構手強そうだよ? ミノタウロスのプリオンですっかり強化、凶暴化されてるみたいだし」
「ふん! 朕の必殺シチリアの晩鐘で、蹴散らしてくれよう!!」
 永谷とミカエルは、そう言って目の前に居るプリオンで汚染された犬を見る。
「氷術!!」
 永谷が先制で氷を呼び出し、犬へと放つ。
「ガルルルッ!!」
 犬は持ち前の運動神経でそれを難無く交わす。
「貰った!」
 その着地点を読んでいたミカエルがスプレーショットを放つ。
 犬に弾丸が当たる。
「どうだ!? 朕の読み通りだな!」
「ミカエルさん! 気をつけて! セルシウスさんを手こずらせた獣だよ! これくらいで引くわけが……」
 永谷がミカエルに注意を促すが……。
「キャインキャインッ!!」
 犬は一目散に迷宮の奥へと駆けていった。
「……あれ?」
「弱いな」
 永谷とミカエルが暫し呆然と立ち尽くす。
「ゲホンゲホン……うむ! 見事な腕前であった。さぁ、皆の者、こっちだ! 付いてくるがいい!!」
 先頭を切って歩き出すセルシウス。確かに、この迷宮の構造を把握できる唯一の人物なので、皆、それに従うが……。
「セルシウス様は……頼りないというか……不安ですわ」
 ポツンと呟いたのはリーブラ・オルタナティヴ(りーぶら・おるたなてぃぶ)である。すかさず、シリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)が「まぁな」と相槌を打つ。
「でも、エリュシオン人つーとティセラねーさんの一件や戦争の事除いても、高飛車でいけすかねーって印象だったけど、セっさんはなんか親しみがもてるな。こう、貧乏くせーっつーか、庶民的っつーか」
「たしかに今までお会いしたエリュシオンの方とは雰囲気が違いますわね……て、やはりセっさんなのですか?」
「そう。さっき、それでいいって言ってたしな」
 シリウスが前を行くトーガの男の背中を見てケラケラと笑う。
 ローマで高級ブティックを襲撃したりする契約者達と違い、シリウスには観光で無駄使いできるほどお金が無かった。
 さりとて修学旅行である。「どこかタダで観光できるとこねぇかなー?」と考えていたシリウスにはうってつけであったのだ。

 迷宮突入前、シリウスは迷宮の説明を島民から受けて戻ってきたセルシウスに話しかけてみた。
「セっさん? おーい!」
 シリウスの数度の呼びかけにようやく振り向くセルシウス。
「貴公は?」
「ああ、皆と同じでミノタウロス退治に参加するぜ」
「そうか……心強いな」
「なんたってオレには金が無いしな。ホラ、迷宮だって史跡だろ? タダで観光できるじゃねぇか」
「……観光ではなく、これは……」
「大丈夫大丈夫! ミノタウロスってのはイコンでど突きあえる化物らしいけど、準備は万端にしてあるぜ!」
「ほう。何か秘策があると?」
「ああ! 詳しくは潜ってから話すよ。よーし行こうぜ、セっさん!」
 シリウスがセルシウスの肩をパンパンと叩く。
「セっさん?」
「……ん、どした? セルシウスだからセっさん、でいいだろ? セルシウスー! ……とか戦闘中に叫ぶと舌噛みそうだしさ」
 シリウスの言葉にセルシウスが少し考え、
「ばん……いや、貴公らの文化は知らぬが、我がエリュシオン帝国において、名前は……」
 セルシウスが何やら言いかけるより早く、シリウスの隣にいたリーブラが頭を下げる。
「よろしくお願いしますわ。セっさんさん…‥あら、余計に舌を噛みそうですわね」
「……セっさんで頼む」