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終わりなき蒼空、涯てることなきフロンティア

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終わりなき蒼空、涯てることなきフロンティア
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リアクション


●御神楽家の年末

 2029年の年の瀬、御神楽家のコタツの上にボードゲーム盤がひろげられた。
 昨年以来、御神楽家年末年始の定番となりつつあるあのゲームだ。『人生双六ゲーム』、プラスチック製の小さな自動車をコマにして、ルーレットを回し出た目の数だけ進んでいくという実にスタンダードな、それでいて結構白熱するゲームだったりする。
 このゲームの特徴は、コマである自動車に複数の穴が空いているというところである。この穴は車の座席で、最初は運転席に『自分』を意味する小さなパーツを差し込むだけなのだが、結婚マスに止まって配偶者ができると助手席にパーツを差し、出産マスに止まるたびに、後部座席に子どもパーツを差していく。そうして、小さなコマに『家族』を形成していくのだ。まさしくいわば人生の縮図といえよう。
 こうしたゲームでも、各人のプレイスタイルには性格が出るものだ。
「よし、ここは『進学』を選ぶとしましょう」
 御神楽 陽太(みかぐら・ようた)はバランスよく、堅実にコマを進めていた。
「やっぱり株券は購入しておかないとね……」
 かつて名うてのデイトレーダーだっただけあって、御神楽 環菜(みかぐら・かんな)は財テクにはこだわりがあるようだ。一方で、夢と現実の選択になると、常に現実を優先するというシビアなところもある。
「だからー! ここで4が出ないと困るんですってば!」
 たかがゲームであっても、エリシア・ボック(えりしあ・ぼっく)は勝負となるとつい熱くなり、ルーレットの目に一喜一憂している。
 逆にノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)はそれほど一生懸命ではないのに、
「あ、またお金がもらえるマスに止まっちゃった。ラッキー♪」
 と、天性の強運でラッキーな展開を次々引き当てて、エリシアをしきりと悔しがらせるのであった。
「ああ、またお金が減ってしまいました。……でもこれも、修行と思って耐えます」
 御神楽 舞花(みかぐら・まいか)も陽太と同じでバランスよくゲームを進める傾向があるが、若干、運の悪い展開になりがちの傾向があった。
 一方で、陽太と環菜の娘である陽菜にはまだわからないことが多いらしく、ゲームの展開で難しい言葉が出るたび、パパとママに質問するのであった。といってもそれが、「『はさん(破産)』ってなーに?」「『サギ(詐欺)にあう』? 鳥さんのこと?」といった率直ながら厳しい言葉の連発なのには、陽太もちょっと困ってしまうのだが。(なお環菜は聞かれたら容赦なく説明する)
 結局、今回の優勝はぶっちぎりでノーン、次が環菜で僅差の三位と四位は陽菜と陽太、続いて舞花、そしてエリシアがビリという結果になったのだった。
「ううっ、なぜ!? やり直しを要求しますわ!」
 
 今日は御神楽家に、パートナー三人が泊まりがけで遊びにきているのである。たまたま全員休日が重なったので、勢揃いとあいなった。
 この日、邸宅を訪れてノーンは驚いた。陽菜はずいぶん背が高くなって、来年にはもう、小学校に上がるというのだ。長く生きているノーンからすれば、陽菜はまるで一瞬にして成長したかのように見える。つい先日まで赤ちゃんだったのに、見るたびにずんずん大きくなりついに小学生だというのだから、にわかには信じがたい話だ。時の経つのが早すぎるのだろうか。
 その陽菜は母親に似たのか、金髪紅眼の可愛らしい少女へと成長していた。
 彼女は知能指数が高く、文字はすぐに覚えてしまって、漢字交じりの文章でもすらすらと読解してしまう。けれどもまだまだパパとママには甘えんぼさんで、すぐ抱っこをせがんだりするあたりは五歳らしいといえよう。エリシアたちにも懐いているので、なにかというと甘えていた。三人とも悪い気はしていないようだ。むしろ喜んで陽菜を可愛がっているということも忘れずに書いておきたい。
 さて、ゲームが終わってからは、主に陽太とノーンが作った夕食を賑やかに食べ、その後入浴もすませ全員がパジャマ姿になった。(なお、ノーンは氷結の精霊なので、ノーンだけは入浴といっても湯ではなく、別の浴室での水風呂だった)。
 そうしてノーンが、
「じゃあ、パジャマパーティーだね」
 と陽菜にうながした。
「いわば『初めての女子会』ですわ。さあいらしゃいまし」
 エリシアが陽菜を抱き上げ、舞花がつづく。
「陽菜様、今夜は私も御一緒しますね」
 今夜は陽菜を交え女子四人、人数分の寝床を用意した大部屋に消える。陽菜も慣れているのか、ばいばいと陽太と環菜に手を振った。
 もちろんエリシアの言った通り、女子四人でわいわい楽しむというのが本意だが、彼女らにはもうひとつ、久しぶりに夫妻をふたりきりにしてあげるという意図があった。
「ありがとう」
 環菜は皆に礼を述べ、陽菜の額にキスをした。

「あの子がいないと、なんだか静かね」
 薄桃色のネグリジェに着替えた環菜が、ベッドに座る陽太ににじり寄った。園下に透けて見える下着はレース地の黒、一児の母とはとても思えぬスレンダーな肢体がまばゆい。
 環菜は普段、こんなセクシーな夜着にならない。
 それはつまり……ということだろう。
 陽太の鼓動はどうしても早くなる。
 動悸を鎮めるべく、陽太は日常的なことを口にすることにした。
「正月に父さんと母さんがうちに来るそうです。二人とも陽菜のことを大好きで微笑ましいです」
 影野祥一と栞の夫妻が訪れるということだ。それに、と続けて、
「来年の四月には陽菜もいよいよ蒼空学園小等部に入学ですね。感慨深いです」
 やや唐突な言葉運びに、環菜はいささか不満そうに、
「そうね」
 とか、
「聞いているわ」
 といささか素っ気ない返答をするのである。
 そうした機微を知ってか知らずか、
「学校と言えば仕事の打ち合わせもありますし、今度エリザベート校長のいるイルミンスールに行きましょう」
 陽太はエリザベート・ワルプルギス(えりざべーと・わるぷるぎす)のことについて触れていた。
「エリザベートかぁ……」
 これは少し、効果があったようだ。環菜は懐かしげな目をする。
「この間、美羽(小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)主催の同窓会で昔のアルバムを見たわね。その中にあった彼女と私の写真……あれはもう、十年近く前のことだったかしら」
 環菜は声を出して笑った。エリザベートと本気で張り合っていた頃のあれこれを思い出したらしかった。
「でも私が一度死んだとき、エリザベートは大泣きしてくれたんだってね……それを聞いたせいか、復活してからは私たち、とても仲良くなることができた。親友になって……」
 そういえば最近、あまり会ってなかったわね、と環菜がつぶやくのを聞いて、
「そうだ、なら今度、エリザベート校長をこの家に招待しませんか? 彼女なら陽菜とも気が合いそうですし、アーデルハイトさんたちにも来てもらったら、きっと楽しいですよ。イルミンに行ったときにその話をしましょうよ」
 これには環菜も大いに乗り気になったようで声を弾ませた。
「いいわね」
 そうして彼女は、ベッドの陽太の上に跨がるようにして乗ると、
「さて、じゃあ夫婦としての業務的なお話はこれでおしまい!」
 と宣言したのである。
「あ……はいっ!」
 陽太の心の男性的な部分が目覚めた。しばらく、忘れていたあの感覚。
「ここからはパパとママじゃなくて、恋人同士の時間よ」
 環菜が、猫のように身をすり寄せてくる。頬に当たる彼女のやわらかな髪がくすぐったい。甘い香りがした。陽太の頭がぼうっと、痲酔にかかったようになる。
 陽太が環菜に腕を回すと、彼女は口づけで応えてくれる。
 長い時間、舌を絡め合った。
 ネグリジェがするするとベッドから落ちた。
 黒い下着の金具が、ちゃりっと小さな音を立てて外れた。
「環菜のおかげで俺は世界で一番幸せです」
 彼女の首筋に唇を這わせながら、彼は息も絶え絶えに言う。
 ほとんど無我夢中、今の陽太は、十八歳ごろに戻ったかのようだ。
「環菜にもずっと幸せでいて欲しいです……いえ幸せにし続けてみせます。昔も今も、これからも俺は世界で一番環菜のことを愛しています!」
「なら、あなたの愛を証明してみせてよ」
「はい!」
 自分が超人になった気がする。いや実際、環菜がいれば陽太はなんだってできる。
 これまでもそうだったし、これからも、ずっとそうありつづけるだろう。
「私も愛しているわ……陽太」
 環菜の吐息が、陽太の耳朶を撫でた。