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リアクション
第11章 影祓われし時
「みんな、信じてたぜ!」
にゃん丸は仲間達を信じ、この時を待っていた。
夜魅の後ろ、ぐわりと浮かび上がった、巨大な禍々しい影。
見据え、口元に浮かべた苦笑。
不思議と、封印の書に挑んだ時より気負いはなかった。
ただ、結果が読めない行動をとっている自分自身には苦笑するしかない。
「リリィの石化も治ったし、自分の命は、まぁ……いいか」
そんな呟きを聞かれたら、リリィにはどんな目に遭わされるか分からないが。
「白花と夜魅のお母さんに頼まれちまったからねぇ。これも運命かな」
トン、軽く地を蹴る。
何も考えない、何も考えられない。
今はただ、斬るべきモノを見据え。
そして、にゃん丸は光条忍刀を手に、影龍へと斬りかかった。
「皆、再びまた同じような事が起きかねない方法よりも、完全に決着をつけられる方法を選んだ……その思いをムダにはしない」
これが最後の機会、もう後がない……その決意を持って蒼人は挑む。
「この世界に、てめぇの居場所はねぇ!」
普段の丁寧さをかなぐり捨てて、蒼人が吠えた。
「お願い、蒼人、にゃん丸くん……夜魅を解放して上げて!」
その身体に力が満ちる……冬桜のパワーブレスだ。
「君がいるから、ライはあんなに苦しんだんだ」
ヨツハはずっと見てきた。災厄を防ごうと夜魅を殺す決意をしたライを。
その苦悩と苦しみ、痛み。
元々の、諸悪の根源への怒りは、恐怖を上回った。
故に。
「ライの決心を無駄にはさせないんだからぁぁぁ!!!」
怒りの雄たけびと共に、爆炎波と出力最大にした光精の指輪での攻撃が、炸裂した。
「授受、ルオシン!」
コトノハもまた、エターナルディバイダーを掲げた。
ルオシンの力と自分の想いの力、そして神楽授受の想いの力を同調させる。
ヒールを纏わせたそれは言わば、『活人剣』。
「夜魅と影龍……その絆を今、ぶった斬ります!」
振るわれる剣と思いと。
ギャア■ァァ§★‰¶ァァァ。
影龍の絶叫が、空間を震わしヒビを入れた。
「あのバカ、何をトロトロしてるのよ」
「リリィ、のるか?」
変熊仮面はイオマンテの手にリリィを乗せた。
「あぁ……やっぱそうだよなぁ」
夜魅を託したにゃん丸は、咆哮を上げる影龍をぼんやりと見あげた。
何も考えず飛び込んだ、片道切符の道行き。
このまま喰われるか、この空間と共に消滅するか。
けれどその手を誰かが掴んだ。
「まったく! あんた後のこと何も考えてないでしょ?」
誰か……いや、リリィ以外に誰がいるだろう。
「重いんだから、早く帰ってこぉぉぉぉい!」
そして翔子が変態仮面が真人が綺人が……共に戦った仲間が、しっかりとリリィの体を支えてくれている。
「あたしは、あんたなんかを待ってる気はないからね!……だからさっさと帰ってきなさいよね!」
憎まれ口とは対象に笑顔が見える。
「……ああ」
やはり敵わないな、影龍なんかよりずっと強いんじゃない?、思いつつにゃん丸は口元に笑みを形作った。
「今が、扉を封印する時だね!」
にゃん丸達の帰還。
確認した神和綺人は扉を見据え、手の中の雅刀に意識を集中する。
途端ズン、と肩に圧し掛かる重圧。
それはそのまま、扉の向こう……切り離された影龍の狂乱のようで。
「戦場では諦めた者から命を失い、最後まで立っている者が勝者」
ふと思い出す、兄の言葉。
平和な日本の実家にいるときは正直、実感がなかった。
だが今、綺人には兄のこの言葉の意味がわかった。
「だから僕は諦めない……最後まで膝は、心は、折らないんだ!」
ぽうっ、その手に宿る温かな光。
それは受け継いだ、封印の力。
「皆、扉開放を阻止してくれた……後は僕達の役目だよね」
それは清泉北都も同じ。
「最後の仕上げは私達に任せて、なのじゃ!」
そして、駆けつけたセシリアが。
いや、それだけではない。
「ほら、二人とも手を繋いで」
詩穂は嬉しそうに、半ば無理やり夜魅と白花の手を繋がせた。
そんな詩穂を見つめ、セルフィーナは思いだしていた。
以前……契約の時、自分と詩穂のお姉さんが少し似ている、と聞いた事を。
だから、なのかもしれない。
「夜魅様と白花様を一緒に手を繋いで暮らせるようにしたいと、詩穂様が拘っているのも……何となくわかるような気がしますわ」
「光の中心には、影はできないわ。今の光は、二人よ。あたしも手伝うわ」
ちょっとだけ緊張したような困ったような2人の手に、自らの手を重ね、ジュジュは言い聞かせた。
共に、光の力を注ぐ。
「詩穂も手伝うわ。壮太くんも政敏くんも、ぼ〜っとしてちゃダメよ」
詩穂が壮太や政敏の手を引っ張り、
「皆で挑んだ方が、個々の負担は減るかもしれませんしね」
「疲れたりケガした人は無理しちゃダメよ。ちなみにルカルカはまだまだ元気だよ」
「騎士として、手を貸すのは当然だ」
真やルカルカやヴェロニカや。
「ボクはまだ弱いけど、それでもまだ頑張れるよ」
「まぁここまできたら、手伝うわよ、手伝えばいいんでしょ」
「それでこそ理沙さんです」
レキが理沙がチェルシーが。
「正義の味方としては協力しないわけにはいくまい!」
「これで影使いの野望もおしまいね」
「最後の仕事ね」
巽がアリシアが沙幸が。
いつしか皆が手と手を繋ぎ合っていく。
「これは……いける」
北都が確信した通り。
人の輪が大きくなるのに伴い、高まる封印の力が、急速に扉を覆い尽くす。
そして。
そうして。
現れた時と同じように唐突に、空間に溶け込むように、消えた。
「後は、空間を、元の状態に、戻す、だけ、だな」
「そうね。リカバーしておかないと危ないわね」
へろっへろな陸斗に、何故か元気なキアは呑気に……容赦なく言い。
「……そろそろ逝けそうだが」
「りくとにーちゃん、頑張れ……ちゅっ♪」
「ちょっ、エディラ、ボクも……陸斗はんより先に倒れられんからな」
「陸斗殿、我が支える……これが最後の頑張りだ」
黎達に視線だけで応え、陸斗は剣を構えた。
そこに重ねられる手。
「陸斗くん、私も手伝います……手伝わせて下さい」
「おっ……おぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
剣から伸びた光は空間をキレイに、元通りに修復した。
そう、あるがままに。
「何で……何でなんだよ!」
透き通っていく夜魅を、壮太は茫然と見つめた。
実体があっても、実体がなくても構わないと、ちゃんと迎えて受け止めてやると、決めていた。
けれど、これは。
このままでは夜魅が消える……消滅してしまう。
陸斗の剣は、あるべきものをあるべき姿に戻す。
だが、夜魅はここでは異物……存在しないモノ、だから。
「悪い、俺が調子に乗り過ぎた、かも」
「いや、誰も陸斗殿を責めたりしてはいない」
「てえぃっ、パニくっとる場合やないやろ」
「……いいの。あたしもう、十分幸せだから」
諦め、というには穏やかに、夜魅が笑った。
だが、そんなのここにいる誰もが、到底認められる事ではなかった。
「大丈夫、です」
そんな中、コトノハは静かに言った。
「ほら、感じるでしょう? 夜魅と私の心、繋がっている事。だから、大丈夫です」
伸ばした指が、絡み合う。
消えさせない、と強い意志を込めて。
繋ぎ止め結びあう、確かな絆。
「それにもし、夜魅が本当に魂だけの存在になってしまったら、私とルオシンの子として転生させます……私たちはもう二度と、夜魅を独りにはさせませんから」
両手を広げ、身体全部で、魂全部で、夜魅を受け止める。
それはまるで、我が子に無償の愛を注ぐ母親のように。
「……うん」
信じられる、心から。
魂と魂が響き合い、結びつく。
夜魅という存在が、コトノハを通してこの世界に迎え入れられる。
やがて。
「わわっ、可愛い!」
ジュジュは思わずぎゅぅっと抱きしめた。
白花をコンパクトにした感じの、黒髪の10歳くらいの女の子。
背中の黒い羽は、守護天使にしては珍しいかもしれない。
「夜魅!」
壮太はそして、その身体をそっと抱きしめた。
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