First Previous |
1 |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
11 |
Next Last
リアクション
「ごめん、遅くなったわ。いくわよ……フリューネ!」
ペガサスに乗って駆けつけたのは、『天空騎士』と畏れられる義賊――リネン・エルフト(りねん・えるふと)である。
「アイランド・イーリ、砲撃を要請!」
【ガンファイアサポート】を使い、彼女は旗艦の名を叫ぶ。結集した仲間の空賊船が、濃霧に向けて一斉に砲撃した。
巻き上がる爆煙で、またしても飛空艇の姿は視界から消えた。
「ったく、また厄介な所に呼んでくれるわね!」
いたずらっぽく微笑んだのは、ヘリワード・ザ・ウェイク(へりわーど・ざうぇいく)。彼女は、愛するフリューネのもとへ急ごうとするリネンを引き留め、空賊団に支援を申請していた。彼女たちが遅れた理由は、万全の状態で戦いに望むため、準備をしていたからである。
「お待たせフリューネ。騎兵隊と王子様の登場よ!」
パートナーを茶化したヘリワードの比喩に、フリューネも可笑しそうに口元をほころばせる。
「ふふ。少女の救出には、うってつけのキャスティングね」
「その娘……。もし本当に熾天使なら、オレらの親族って可能性もあるんだよな……」
フェイミィ・オルトリンデ(ふぇいみぃ・おるとりんで)が、ドラゴンの巣がある方を見つめていた。
熾天使に。恋に。
彼女たちにとっては、あまり人事とは思えないことだらけである。
「……にしても。何でこう次から次へと異常事態が起きてんだ!?」
フェイミィが、しだいに鋭くなる雨粒を防ぐため、融合機晶石【バーニングレッド】を発動した。
融合機晶石。あまり聞き慣れないアイテムだが、これは体内に取り込むことで体に炎をまとうことができる、特殊な機晶石だ。
「使って、フリューネ!」
リネンが、ひとつ多めに持ってきた融合機晶石を、フリューネに投げ渡す。
「ありがと。また、使わせてもらうわ」
以前にもリネンから借りたことがあるので、フリューネは融合機晶石の使い方を知っていた。すぐに発動させ、純白の翼に炎を焚きつける。
灼熱の炎をまとった彼女の姿は、伝説の霊鳥である、不屈の火の鳥――鳳凰を思い起こさせた。
「持続は30分! そこまでに趨勢を決めちゃいましょう」
同じように、リネン、ヘリワードも炎をまとう。
三度(みたび)、爆煙から姿を現した飛空艇に向かって、彼女たちは氷槍をかきわけ、突き進んでいく。
「もうっ! 遅かったじゃない。リネン!」
彼女たちと並んで飛ぶ、美羽がぷりぷりしながら言った。
「ごめんね。準備に、時間かかっちゃって」
苦笑するリネン。そんな彼女たちを、コハクが純朴な眼差しで見つめていた。
リネン。それにフリューネ。彼女たちは、コハクにとっても大切な友人だ。絶対に傷つけさせない。コハクはその温和な胸に、熱い誓いを秘める。
「子供を狙った奴隷商人なんて、絶対に許せないよ! 私がこらしめてあげる!」
美羽はくるりと方向転換すると、敵の飛空艇につっこんでいく。ミニスカートがひらひらとはためくが、決して、淑女の下穿きは露出しない。
鉄壁なのは、なにもスカートだけではなかった。フォースフィールドでバリアを張り、空から降る氷の槍を防いでいる。
飛空艇に接近すると、美羽は扉をこじ開け、なかに乗り込んでいく。
「なんだ、貴様はっ!」
パイロットが向けた銃を、素早く蹴り飛ばす。そのまま得意の脚技をたたみかける。
ミニスカートがひるがえっているうちに、パイロットは昏倒していた。
「えへへっ。らくしょーだよ!」
【超ミニスカ格闘王】の称号は、伊達ではないのだ。
一方、パートナーのコハクも、敵の飛空艇に乗り込んでいた。しかも、セラフィックフォースを発動させて。
鏖殺寺院のいち構成員など、瞬殺できる状態にあるが、温厚な彼は殺すことはしない。槍の柄で敵のみぞおちを突いて、気絶させるだけだ。
「……よしっ」
飛空艇をジャックしたふたりは、すぐに進路を反転させ、敵の陣営へとつっこんでいく。
レンの脳裏には、少女とドラゴンの噂がよぎっていた。そして、フリューネから聞いた星辰異常の話。
愛する竜と一緒に居ても少女が泣くのは、竜の身に何かあったのか。治療が必要なら早期に施さなければならない。
……眼前の鏖殺寺院を打ち負かしたら。
「なに心配はいらない。俺たちが居れば万事上手くいくさ」
不敵な笑みを浮かべ、彼は両脇にいるフリューネとリネンを交互に見た。
ふたりとも、燃えていた。精神的にも物理的にも。
強い女は、炎で化粧をするんだな――。レンは、さらに美しくなったふたりの女性を見ながら、そんなことを思った。
自分の隣には、信じあう仲間が居る。
負けられない戦い。それが今だ。
「フリューネ。俺が援護する。思う存分、敵を蹴散らせ」
「任せたわ」
戦いにおいては、なによりも自分を信じるフリューネだが。いまは、レンにその翼を預ける。
接近攻撃をしかけるフリューネを、レンが銃で援護した。射撃のあいまに【古代の力・熾】を使い、熾天使の光で敵を撹乱させる。
アシストを受け、余裕のうまれたフリューネは、堂々と旋回した。
彼女は空に足をつけ、地を見上げている。その視線の先にあるのは、無防備の飛空艇。
炎をまとうペガサスが、空を翔け、飛空艇の翼を焼いた。
霧雨のなか焼け落ちていく飛空艇を、少し離れたところで猪川 勇平(いがわ・ゆうへい)が睨みつけていた。
彼はドラゴンを、その身に、その魂に宿している。今回、鏖殺寺院の攻撃対象となっている手負いの竜を、放っておくわけにはいかなかった。
「剣で戦いたいところだけど……。今は魔法の修行中だからな」
激戦区で暴れ回りたいのをぐっと我慢して、彼は支援に徹していた。後方から【千眼睨み】をつづけている。
「人の恋路を邪魔するなんて、無粋な方たちですわね!」
光の箒にまたがったウイシア・レイニア(ういしあ・れいにあ)が、かわいい顔を険しくさせた。
「そうだな。俺たちはとりあえず、竜と少女に近づくやつらを撃退させよう」
「お安い御用ですわ」
勇平にうなずいてみせると、ウイシアは弓を構えた。天使の貌(かんばせ)で弓を射る彼女の姿は、さしずめ恋のキューピッドといったところである。
しかし、【破壊天使】を冠するウイシアが導いてくれる相手は、恋人などではない。地獄の閻魔様である。
フリューネたちに気を取られていた飛空艇へ、矢が突き刺さる。
「やりましたわ」
ふらふらと力なく落下していく飛空艇を、ウイシアは満足そうに見下ろしていた。
「我が槍は邪悪を貫く。さあかかってくるがいい!」
ウルスラグナ・ワルフラーン(うるすらぐな・わるふらーん)が、切っ先を向けて身構えた。民衆のために戦う彼は、鏖殺寺院の非道を見過ごせない。
ウルスラグナの悪を憎む想いは本物で、わざわざ某秘密結社に入って、悪を学ぶという徹底ぶりである。そんな彼だからこそ、『許せる悪』と『許されざる悪』の違いがわかる。
鏖殺寺院は、『許されざる悪』である。
「総ての邪悪なる者は、ウルスラグナ(勝利)を恐れよ!」
かろうじて前線を突破してきた敵の飛空艇に、彼は槍を突き立てた。
彼の信条は、一撃必殺。その誓いの通り、貫いた一撃の槍が、敵を奈落の底へと叩き落としていく。
その間も、勇平は後方にて、【その身を蝕む妄執】というトリッキーなスキルで援護をつづけていた。
「う……うわぁ!」
「助けてくれぇ……!」
恐ろしい幻覚に怯えたパイロットが、めちゃくちゃな操縦をはじめた。二隻の飛行艇が、くねくねと蛇行して、互いに正面衝突する。
「ちょくせつ戦わなくても、敵は倒せるんだな」
勇平が、自分の上げた戦果にうなずいていると。
立ち込める爆煙の前。彼らに向けて、フリューネが高々と親指を掲げていた。
「フリューネさん、守りはお願いね……」
霧のなかを進む早川 あゆみ(はやかわ・あゆみ)が、祈るように空を見上げた。
メメント モリー(めめんと・もりー)は殺気看破を使い、周囲に気を張り巡らせている。氷の槍が降ってきたのをいち早く察知して、爆炎波を放ち、水になるまで溶かしていった。
「それにしてもさ。今回のことって、パラミタの自然環境でも有り得る現象なのになぁ」
「そうね」
「ドラゴンのせいって決め付けちゃうのは横暴だよ〜」
「ええ。たしかに、横暴だわ」
パートナーの嘆きに、あゆみは儚げな声で応じた。
モリーがそう不満を漏らすのも無理はない。
勝手に流行らせ、勝手に飽き、あろうことか勝手に恨む。そんな人の身勝手さは、かつて局所的に流行ったマスコットのモリーだからこそ、よく理解できる。
「とにかく、私は戦闘が不得手だから……。ドラゴンさんたちのもとへいって、やれることをやりましょう」
彼女はヘッドライト付きヘルメットをかぶり直し、モリーもそれに倣った。
ふたつの光が目指すのは、ドラゴンの巣である。
ライトを下向きに点け、慎重に進みながら、あゆみはそっとつぶやいた。
「熾天使はすでに滅びた種族のはず。だとすれば、この現象が終わった時、女の子も姿を消してしまうのかしら……」
「じゃあ、ドラゴンが一緒にいるためには、少女と共に消えるしかないってこと?」
「それは……わからないわ。でも、もしそうだとすれば。なんだか切ないわね」
大切な相手と一緒にいられる、幸せの代価。それが決して、悲しい結末を招かぬようにと、彼女たちは願った。
First Previous |
1 |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
11 |
Next Last