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はっぴーめりーくりすます。

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はっぴーめりーくりすます。
はっぴーめりーくりすます。 はっぴーめりーくりすます。 はっぴーめりーくりすます。 はっぴーめりーくりすます。 はっぴーめりーくりすます。 はっぴーめりーくりすます。 はっぴーめりーくりすます。 はっぴーめりーくりすます。 はっぴーめりーくりすます。 はっぴーめりーくりすます。

リアクション



11.迷子の辿り着いた先。


 せっかくのクリスマスなのだから、家で寂しく過ごすことはないと、要・ハーヴェンス(かなめ・はーべんす)キルティス・フェリーノ(きるてぃす・ふぇりーの)を誘ってヴァイシャリーの街まで来たものの。
 ――どうしよう。何をするとか、どこに行くとか、全然決めてないよ……。
 東雲 秋日子(しののめ・あきひこ)は、一人ひっそり頭を抱える。
 そんな無計画を暴露できるはずもなく、ふらふらと歩くこと一時間ほど。
 歩きまわった結果、郊外まで来てしまっていて。
 店に入るにも、その店がない。そんな状態で、いつまで歩こう、どうしよう、と途方に暮れていた時に見えたもの。
「あれ? あんなところにお店がある……人形工房?」
 街の外れに店があることにも驚きだけど、その場所がなんだか賑やかなことのほうに興味を惹かれた。
「覗いてみようか?」
 と言葉が出たのは、このままあてもなく歩いているのはどうかなと思ったのと、キルティスに対しての申し訳なさからだ。
 要と二人きりで出掛けるのがなんとなく恥ずかしくて、それでキルティスを誘ったのにこの有様。
 その上キルティスの少し困ったような表情から察するに、向こうは自分がこの場に居ることは迷惑なのではないかと考えていそうだ。
 だからあの誘いは、キルティスが「僕、帰りましょうか?」と言い出す前に打った布石のようなものである。
 幸いにして、
「いいですね、面白そうです」
 要が乗ってくれたので、工房に向かう。
 しかし、本当に賑やかだ。煩いのではなく、楽しそうな賑やかさ。
「お店の中でパーティでもしてるのかな? もしそうなら、私達も混ぜてもらいたいね」
 開いたドアの向こうに見えたものは、テーブルに並ぶたくさんの料理。
 クリスマスの定番、ローストチキンやクラブサンド。
 食べやすい大きさに切り分けられた豚バラ肉の塩釜焼き。
 異色を放つ、お好み焼きとおはぎ。
 もちろん、クリスマスケーキもある。ホールの大きいものから、一口二口で食べられそうなプチケーキまで。
 店内の飾り付けもばっちりで、入口の脇にはモミの樹のツリー。壁にはガーランド。天井からはテープペナントが下がっていた。
 窓際にはポインセチアが飾られ、大きな窓にはスノースプレーで雪の結晶やベルが描かれている。
 それから、
「いらっしゃいませ」
 店主らしき人の、場にそぐわない無愛想な声。
 ――あれ?
 その人を一目見て、秋日子は思う。
 ――キルティスに、そっくり。
 肩より下まである長さの茶髪。左右で色の違う瞳の色までも同じ。どこか冷めた印象を与えるところも、似ている。違いといえば、キルティスには猫耳が生えていることと、肌の色くらい。
「こんにちは。楽しそうでしたので、お邪魔させてもらいました」
 じーっと店主を観察していた秋日子に代わって、要が一礼。
「自分は、要・ハーヴェンスと申します」
 そして丁寧に自己紹介。
「キルティス・フェリーノです。お邪魔します」
 続いてキルティスが会釈して、
「あ、えと、東雲秋日子ですっ」
 一拍遅れて秋日子も名を名乗った。
「ご丁寧にどうも。俺はリンス・レイスです」
 額面通りのお堅い挨拶をしたと思えば、そのまま二の句はなし。ただ、リンスの視線はキルティスに向かっている。
 ――もしかしてリンスくんも、キルティと自分が似てるって思ってるのかな。
 そう判断して、
「リンスくんとキルティって、なんとなく似てるね」
 言ってみた。
「そうですか?」
 キルティスのノリはあまり良くないが、恰好が恰好だからだろう。男の子っぽい恰好の時は、いつも決まって冷静沈着なのだ。口数も少ない。
 否定的な呟きは聞かなかったことにして、
「ねぇ、キミ。……猫耳つけてみる気、ない?」
「ない」
 リンスに問うたら、にべもなくばっさり切られた。……冷静度は、男装時キルティスより上かもしれない。
「でも似てるとは思うな。他人の空似ってすごいんだね」
「じゃあつけてみようよ。そっくりさんになるよ」
「やだ」
 初対面でこれ以上食い下がるのも心象を悪くしそうだからと止めておいて。
「ねぇねぇ、料理って食べても良いの?」
 美味しそうな料理に、話題転換。
「どうぞ。お茶もあるよ」
 ――あ、よかった。怒ってはいないね。
「ありがと!」
 笑って言って、空いている椅子を三つ確保して。
「よーし、食べよ……って、キルティ?」
 キルティスの姿が見当たらなかった。
 きょろきょろ、辺りを見回してみたら、
「えいっ☆」
 リンスの後ろに居て、そして不意打ちで猫耳を装着させたところだった。


 ――この人、僕に似てる。
 それが、リンスに対してキルティスが抱いた第一印象。
 秋日子が猫耳を付けてみないかと言った時、面白そうだと思ったのだ。
 しかし、それは男装時の自分が言うことではないし、やることでもない。
 やるなら、女装時である。
 というわけで、工房内の一角でこそこそと着替えることわずか一分足らず。
 女の子の姿になりかわり、キルティスは持っていた猫耳を手に忍び寄って、
「えいっ☆」
 隙だらけの背後から装着させてみた。
「…………」
 リンスの沈黙。
 とことこ、横に並んで見せて。
「じゃーん♪ 双子ごっこでーす、どっちがリンスさんでしょう?」
 これだと秋日子たちしか気付いてくれないからと、キルティスは声を張り上げる。
 すると、
「似てるな」
「リンスくん、何してるんだよ」
「リンぷーが二人?? なになに、どないなってんの?」
 ざわざわ、蒼也から、涼介から、社から、上がる反応。
「本当に似てるねぇ!」
 よくやった! とばかりに顔を輝かせて、秋日子。
「実は生き別れの御兄弟ですか?」
 恐らくは冗談で、要。
「そんなに似てるの?」
 思いのほか嫌がっていないリンス。
「ほらほら、やっぱつけてみて正解だったじゃないですか〜。面白いでしょ? 楽しいでしょ〜? お似合いですし♪」
 にこにこ笑って、顔を見合わせる。
 しかし本当に、そっくりさんだ。驚くほど向こうの表情は動かないけれど。
「リンスさんが二人居ますわ! シャッターチャンスですわ〜♪」
 パシャリ、シーラ・カンス(しーら・かんす)が写真を撮って行った。
「いつから居たんだろ……」
 うふふあははと去っていくシーラを見て、リンスがぽつりと呟く。
「お友達ですか?」
 もしそうなら、してほしいことがある。
「友達の相棒……かな?」
 それは、
「じゃあ、写真もらっておいてください!」
 焼き増してもらうことだ。
「何で」
「僕が記念に欲しいからです♪」
「外見は似てるけど性格は結構違うね、俺ら」
「そこまで似ていたらむしろ怖いですよー」
 なるほどそうか、とリンスが頷いて。
「でも、写真は自分でねだってね」
 けれど断るところは断られたので、後で彼女に声をかけてみようとキルティスは思うのだった。


「ごめんね」
 要が美味しい料理に舌鼓を打っていると、秋日子に謝られた。
 ――何のことでしょうか?
 果たして自分は何か謝られるようなことをしただろうか? いや、ない。むしろ、出掛けることに誘ってもらえた件で礼を言いたいくらいだ。
「今日、無計画だったんだ」
 だけど、秋日子はそこを気にしていたらしい。
「どこに行くかとか、何をするかとか。なーんにも決めてなくて、……」
 小さくなっていく声。しょんぼりと言う姿。
 要はやっぱり、首を傾げる。
「目的地が決まってなくてもいいじゃないですか。自分は秋日子さんと一緒にいられるだけですごく楽しいですよ」
 おかげで、こうしてパーティも楽しめたわけだし。
 いいことばかりだ。
「え、ええ!? それって、」
「?」
 ――どうして秋日子さんは顔を真っ赤にしているのでしょう?
 わからないけれど、嫌そうではないからにこりと微笑んでおく。
 秋日子が楽しそうなら、それでいいから。


*...***...*


「皆幸せそう」
 嘉神 春(かこう・はる)は、人形工房の中、クリスマスパーティを楽しんでいる人々を見て呟いた。
 幸せそう。
 それは、ここに来る前、ヴァイシャリーの街を歩いていた時から思っていた。
 恋人や友達と楽しそうにしている人達。笑顔。
 ――羨ましいなぁ。
 生憎、春には恋人がいない。恋人とふたりきりのクリスマス、なんて憧れるのだけど。
 だからこそ余計に羨ましく思うのだろう。
 ――そういえば、どう行けば帰れるんだろう。
 ここに辿り着いたのは、偶然。
 ヴァイシャリーの街をふらふらと歩いていたら、迷子になってしまったのだ。そして工房を見つけて、なんとなく入ってきた。
 だから別に人形が欲しいのではないし、知り合いが居るわけでもないし。
 ただ、幸せそうな人達を見て、いいなぁと思う。
 けれど、羨んでばかりというのは寂しいと、それから何も買わずに居座っているのも申し訳ないからと人形を見て。
 ――あ。
 二対の人形を見て思いついた。
 いつかできた恋人に、対の人形を持ってみたいと。
 そう思ったら、俄然人形を見る目が変わってくる。
 どれがいいかな?
 これはどうかな?
 男女の違いがはっきりしているのは、ちょっとなぁ。
 そうして探すこと数分。
「鯨と、つぐみ?」
 奇妙な組み合わせのぬいぐるみを見つけた。
「あの。なんでこの組み合わせなの?」
 ぬいぐるみを持って、リンスに尋ねる。
「空を飛べるつぐみをすごいと思う鯨と、海を悠々と泳ぐ鯨をすごいと思うつぐみだから」
「じゃあ、鯨であることとつぐみであることに意味はないの?」
「あるよ」
「あるんだ」
「俺が好きだから」
 そんな理由じゃわからないなぁと苦笑してから、
「これください」
 お買い上げ。
「ラッピングは?」
「なくていい、かな。いつか、渡す時――ボクが自分で包んで贈るよ」
 上手く出来るか自信はないけど。
「はーる」
 買ったのと、ほぼ同時。
 聞き慣れた声が後ろから聞こえて、そのままぎゅっと抱きしめられた。ふわり、持ちあげられる。
「ざ、浚?」
 首を動かして、自分を抱き上げている神宮司 浚(じんぐうじ・ざら)の姿を認識。目が合うとにこりと微笑まれた。
 そしてそのままその場でくるりと回って、無駄のない動きで空いている椅子にすとんと座り。抱っこされていた春は、浚の膝の上に座る形になる。
「どうも。春の迎えに来ました」
 その体勢のまま、浚がリンスに挨拶した。礼儀正しいのかふざけているのか判断しづらい行動である。浚だから、で自分は納得できるけど、向こうはどうだろう?
「いらっしゃいませ」
 春が工房にやってきた時と、変わらない声音とイントネーションだった。動じていない。
 とはいえ、
「浚、降ろしてよ」
 この状態は多少不自然な気がする。
「嫌」
「なんで」
「可愛い春が、誰かに食べられちゃわないように捕獲してるから」
「あれ、ボク捕まってたの?」
「うん。その実捕まってるのは俺だけど」
「?」
 どういう意味か判断しかねていると、「人形? 買ったの?」手持ちのそれに、気付かれた。
「あ、わかった。俺にくれるんでしょ」
 これは恋人になった人に渡そうと思っているものだから、
「んー。どうかな? 素敵な恋人ができなかったら、そうなるかもね?」
 曖昧な返事。
 期待だけさせちゃうかなあ、とちょっとだけ良心が痛むけど、
「きっと俺がもらうことになるね」
 優しげな声で、大人な態度で、だけれど自信のある笑みで、浚はそう言った。
 ――どうだろう?
 浚に渡すことになるのだろうか?
 だとすれば、どちらを渡すのだろう?
「浚は鯨とつぐみ、どっちが好き?」
「くれる気になった?」
「参考までに聞いてるだけだよ」
 どっちだろうねえ? と浚が笑う。
「春が俺だと思う方をくれたら、俺はその瞬間それを大好きになるかな」
「ふうん?」
「楽しみにしてるね」
 だけどそれ、楽しみにされるってことは、
 ――ボク、恋人できないってことになるんだけど。