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黄金色の散歩道

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貴女と刻む時間


 朝、遊園地ディスティニーランド。

「……とても賑やかでこっちまで楽しくなりますね。今日は誘ってくれてありがとうございます」
 吸血鬼の少女 アイシャ(きゅうけつきのしょうじょ・あいしゃ)は胸を躍らせながら周囲を見回した。園内に流れる陽気な音楽、行き交う人々は皆笑顔で声を弾ませている。見ているだけでウキウキする光景。
「どういたしまして、今日は全力で遊ぼう!」
 リア・レオニス(りあ・れおにす)も遊ぶ気満々というか誘った者としてアイシャを楽しませる気満々である。
 二人は最初の乗り物に悲鳴や歓声を生みながら縦横無尽に走る絶叫系の定番ジェットコースターを選び共に乗る多くの客達と同じように叫び声を空に轟かせた。

 ジェットコースターを楽しんだ後。
「……急に落下したり回ったり……少し怖かったです。リアは平気そうですね」
 アイシャはベンチに座って少し怖がりながら隣のリアを見た。
「あぁ、平気だよ。速いのは得意だから……次は大人しめなものにしようか」
 言葉通り平気なリアはカラカラと笑ってからアイシャを気遣い次は箱物を指し示した。
 その箱物とは
「あれですか」
 お化け屋敷であった。二人は仲良く向かった。
 お化け屋敷ではリアルなお化けが二人を出迎えたが、アイシャはジェットコースターほどは怯えずそれなりに楽しんだが、出口から出た所でリアにわっと驚かされからかわれびっくりした。
 この後、二人は食べ歩きとアトラクションをたっぷりと楽しみ時間は朝からお昼時に変わっていた。

 お昼時、椅子とテーブルが設置されている屋外の休憩所。

「うわぁ、美味しそう、アイシャが作ったの?」
 リアの目の前にはアイシャ手作りのお弁当があった。
「えぇ、お口に合えば……」
 アイシャが言い終わらない内に
「アイシャ、美味しいよ!! ありがとう!!」
 リアはすでにあれこれと食べまくっていた。何せ大好きな女の子の手作りだから。
「リア、そんなに急いで食べると喉に……」
 あまりの食べっぷりに心配になり注意しようとするが
「むぐぅ!?」
 遅かった。リアはおかずを喉に詰まらせ苦しい状態に。
「リア」
 アイシャは急いで飲み物を手渡した。
 リアは受け取り口に流し込み
「……あ、ありがとう。つい美味しくて……」
 何とか助かり安堵しながら弁解をするが
「お弁当は逃げませんから落ち着いて食べて下さい」
 アイシャは可愛らしい顔を少しだけ怖くしてたしなめた。
「……はい」
 リアは少しだけ肩を落として返事をした。
 その様子に
「……リア、美味しく食べてくれてありがとうございます」
 アイシャは笑いをこぼしながら礼を言った。
「こちらこそこんな美味しいお弁当が食べられて幸せだよ。ありがとう!」
 アイシャの笑顔につられリアは顔に笑顔を浮かべ礼を言うなり食べ始めた。
 そして賑やかな昼食が終わると二人はまた食べ歩きとアトラクション巡りに戻った。

 昼。
 楽しむ中、合間に御手洗い休憩を挟んだ時に事件起きた。

 御手洗いを終えたリアが先に出ていたアイシャの元に駆け寄ろうとして気付いた。
「……あれは、ナンパか」
 アイシャが見知らぬ男性に迫られて困っている状況に置かれている事を。
 すぐさま
「あっ! あんなところにたいむちゃんが!」
 リアは指を差しながら大声を張り上げるなり
「アイシャ!!」
 猛ダッシュでアイシャの元に駆け寄るなりアイシャの手を引いて全力で逃げた。

 そのまま手を引いて逃げる中
「……アイシャ、大丈夫?」
「はい。急に声をかけられて……お断りしてもとてもしつこくて……」
 無事を確認するリアにアイシャは安堵していた。
「そっか……でもアイシャは素敵だから仕方無いよ」
 無事なアイシャに安堵するもリアはナンパ男の気持ちが分かったり。なぜならリアにとってアイシャは誰よりも素敵な女性だから。ただしその気持ちは邪なものではない。
「……もぅ」
 アイシャは照れたのか頬を染めてちょっぴり唇を尖らせていた。
 その時
「!!」
 走る二人の前方に生クリームたっぷりのお菓子が降って来た。
「!!!!」
 突然の事に対応出来ずリアとアイシャはそのままお菓子の雨を被り
「……アイシャ、無事? って無事じゃないね」
「……服がべとべとです」
 リアとアイシャの服がべとべとに汚れてしまった。
 すぐに迷惑掛けたスイーツを移動販売する研修中の女性スタッフが慌てて二人に謝りに来た。転んだ拍子に屋台に激突したせいでスイーツがリア達目がけて吹っ飛んだのだ。
「大丈夫だから」
「そうです。そんなに謝らなくとも」
 激しく謝るスタッフにリアとアイシャは優しい対応をするが、女性スタッフは聞き入れず汚れた服を夕方までに洗濯する事とその間着る服としてTシャツ・パーカー・帽子のディスティニーランド限定ペアセットを二人に買って渡した。

 着替えをした後。
「アイシャ、似合ってるよ」
「……リアも似合っていますよ」
 リアとアイシャは互いにTシャツにパーカーのペアルック姿を褒め合った。ちなみにアイシャは帽子も被っている。
「予想外の出来事でしたね……でもこのお揃いも今日のいい思い出です」
「あぁ、俺もだよ(まさかこんな展開でアイシャとペアルックになるとは思わなかったな……」
 アイシャとリアは笑い合いながら自分達の格好を見下ろした。リアは言葉以上に嬉しく思っていた。
 そして
「折角だから遊園地に来た記念に写真でも撮らないか」
 リアは写真屋をするスタッフを発見した。
「是非、撮りましょう」
 アイシャは笑顔で即快諾した。
 二人は写真屋の所に行き、メリーゴーランドと時計塔を背景に写真屋のスタッフが用意した可愛らしい兎のぬいぐるみと一緒に記念写真を撮った。

 記念写真撮影後。
「……素敵な記念になりました。リア、ありがとうございます」
「俺の方こそ最高の記念になったよ。ありがとう、アイシャ」
 二人は撮影後すぐに貰った写真をそれぞれ手に取り見ては嬉しそうな顔をした。
 この後も二人はたっぷりと楽しみ、時間は昼から夕方となり女性スタッフに託した服はすっかり綺麗になって戻り着替えをして女性スタッフを安堵させてから本日最後の乗り物として観覧車に乗った。

 夕方、観覧車内。

「……リア、遊園地が一望出来ますよ。夕陽でとても綺麗です」
 アイシャは身を乗り出し窓から見えるオレンジ色に染まった遊園地に釘付け。
「……」
 向かいの席に座るアイシャの横顔に夕陽が差し込む様を見るリアは感慨深くなりそっと司法試験合格に祝い品としてアイシャから貰った懐中時計を取り出し
「……progress(前進、進歩、発展……あれから)」
 蓋を開けて内側に刻まれた自分とアイシャの名前と口にしたメッセージを見つつ考え事に耽った。
 自分の言葉に返答が無い事に変だと気付いたアイシャは
「リア、どうしましたか……それは……」
 振り返り懐中時計に気付くなり席に座り直した。
「アイシャに貰った物だよ。あの時からこの時計はずっと止まる事無く時を刻み続けてる。俺達も同じで、あれから色々とあって……アイシャは元気になって……今、こうして……」
 リアは懐中時計に向けていた視線をアイシャに向けにこぉと笑いかけた。貰ったあの頃はベッドの上だったのが今ではこうして共に楽しい時間を過ごしている。しっかりと自分達の時間は前進していると実感。
「……はい。あの頃はこうして遊園地で遊ぶ事が出来るとは思いもしませんでした」
 アイシャも感慨に耽った。ベッドがお友達だったあの頃は思いもしなかっただろう。再び外を駆け回れる日が来るとは。
 ここで
「……アイシャ、良かったら俺と家族になってくれないか……といっても広義的な意味でって事で……いつでもアイシャの力になりたいから」
 リアは真剣な表情で抱えていた思いを口にした。
 アイシャは伏し目がちになり
「……家族ですか……ごめんなさい。今、家族になってくれると言ってくれた人達が居て……まずその人達から家族になってみたいと思っています」
 申し訳無さそうに断るも話はまだ終わらずリアが口を挟む隙を与える事無く
「でも……リアは大切な人です。家族にはなれませんが家族のようには思います。励ましてくれたり助けてくれたり……それに個としての私とこうして時間や感情を共有出来て……これは家族を得たりなったりするのと同じくらいきっととても難しく、奇跡のような事なのだと思っています。偽物の人生の中で私が手にした本当の宝物の一つ」
 これまでの事を振り返りながら言葉を続けた。
「……ありがとう」
 愛して止まない女性にそう微笑まれ、リアは照れた。窓から差し込む夕陽もあってか一層そう見えた。
 リアは懐中時計を片付け
「……今日は楽しかったよ。ありがとう、アイシャ」
「私もです、リア。今日は心に残る一日になりました」
 アイシャと共に感謝し合った。共に今日という時間を過ごせた事を。