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    ★    ★    ★
 
「エントリーナンバー18番、ノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)さんです」
「はーい」
 元気に手を挙げてノーン・クリスタリアが、元気に飛び出してきた。
「おにーちゃん、どこかで見ていてくれるかなあ」
 影野 陽太(かげの・ようた)のことをちょっと考えながら、ノーン・クリスタリアは花道を進んで行った。
 薄桜色の氷霊の衣は、桜の花の模様がちりばめられている。肩のすべすべお肌をむきだしにしたノンショルダーのネックラインには、それに沿うようにして羽衣ふうの飾り帯がクルリと巡らされていた。長い袖の先はふくらんで、中からレースのフリルカフスがのぞいている。腰の後ろには大きなリボン結びがあり、長くのびたリボンの端を広がったスカートの後ろへと垂らしていた。
 髪の両サイドはピンクのリボンで結んでツインテールにし、後ろ髪はそのまま背中へと流している。
 タンバリンをかかえて、ノーン・クリスタリアは、ぴょーん、ぴょーんとスローモーションで飛び跳ねるようにして花道を渡っていった。
 端まで達すると、軽くタンとタンバリンを叩いて反転する。
幸せのリズムに乗って!
 ステージに戻ってくると、ノーン・クリスタリアはタンバリンを打ち鳴らして、陽気なリズムと共に歌いだした。
 歌姫としての歌声が会場に響き渡る。会場の観客たちの魂が震えた。
 最後に精霊の光の翼を広げて飛びあがると、クルリと一回転する。羽根が舞い散るかのように、いくつかの光が周囲へと散っていった。
 ふわりと着地すると、ノーン・クリスタリアが片足を引いて優雅にお辞儀をする。
「頑張ったノーンちゃん! いい被写体よ!」
 オルベール・ルシフェリアが、ノーン・クリスタリアの姿を写真に撮りまくる。
「師王審査員、いかがでしたでしょうか」
「はい。歌声がとってもすばらしかったですねえ。やはり、美を競うのであれば、芸術性は欠かせない要素ですからあ」
「うん、綺麗だったですぅ」
 師王アスカの頭の上で、ラルム・リースフラワーも同意した。
「では、武神審査員、何かコメントがありますでしょうか」
「その無邪気なつつましやかさは、まるでかすみ草のようでした。特に、ちっぱいがよかったです」
 とっさに本音を口にして、ちょっと青ざめた武神牙竜であった。だが、すぐに、ちっぱいがすばらしいと堂々と口にして何が悪かと開きなおった。
 
    ★    ★    ★
 
「エントリーナンバー19番、緋桜 遙遠(ひざくら・ようえん)さ……えっ、ハルカちゃんですか? 20番のリフィリス・エタニティア(りふぃりす・えたにてぃあ)さんも一緒? とにかく、どうぞ」
 どうなっているのだろうかと、シャレード・ムーンがちょっと戸惑う。
 それにはお構いなしで、緋桜遙遠がステージに現れた。
 角のついた恐竜の頭を模したフードをつけたメンターローブでを着て、いかにもネクロマンサーらしい姿の緋桜遙遠が現れた。
 血の色のベルトを何本か縦にあしらった薄紫のローブは、袖の部分に、骨を繋げた輪のような飾りが施されている。フード部分の巨獣の頭は、背後をむいて睨みをきかせていた。
 黒い手袋を填めた手に持った羊の頭蓋骨型のキャンドルを掲げて、緋桜遙遠がゆっくりと花道を進んで行った。赤い飾り帯を外して開くにまかせたローブの前面から、下に着ている身体にぴったりとした黒いスーツの上下が、まるで黒い肌のように垣間見える。
 怪しい行進を終えてステージに戻ってくると、緋桜遙遠は頭蓋骨を高々と掲げた。
「来い、リフィ!」
 緋桜遙遠が叫んだ。同時に、ローブを脱ぎ捨てる。
 その姿が、ちぎのたくらみで幼児化した。一気に身長が五十センチ近く縮む。
「もう、しょうがないんだからぁ」
 誰得、いや一部の女子は得だったかもしれないすぽぽぽーん姿になった緋桜遙遠の背中に、一瞬にして現れたリフィリス・エタニティアが裸の胸をピタリと押しつけてその首に腕を回す。一瞬で、彼女の身体が魔鎧に変化し、緋桜遙遠の身体をつつみ込んでいった。
「変身!」
 リフィリス・エタニティアの魔鎧を装着しつつ、緋桜遙遠がそのまま魔法少女へと変身していく。
 リフィリス・エタニティアがー変化した白いレースがクルクルと回りながら緋桜遙遠の身体に巻きついていき、その上にふわりと黒いゴチックドレスが広がった。
 重ねたティアードスカートの上に覆い被さるように広がった上着は、裾近くの紫のラインがアクセントとなっている。同色のリボンが二の腕の周りに現れ、クルンと縛られた。腰の後ろにも、大きなリボンがひとりでに蝶結びとなって端をたなびかせた。
 長くのびて金色に変わった髪の毛は、黒いレースのついたカチューシャがキラリと光って現れ、左右の髪を紫のリボンでまとめて整えた。
 黒いパンティストッキングを穿いた脚には、紫色のハイソックスとがっしりとしたロングブーツが現れてまとめる。
「魔法少女ハルカちゃん、綺羅星に乗って登場!」
 シューティングスター☆彡の流星を空京大学のキャンバスに落としながら、緋桜遙遠がポーズをとって叫んだ。取り巻きのレイスとスケルトンたちが、カゴに入った紙吹雪を撒いて演出を補佐する。
 ちゅどーんと、流星が着弾すると共に、奈落の蓋がパカッと開いた。あわててスカートを手で押さえた緋桜遙遠が奈落に落ちていく。
「な、なんで〜」
「道連れは許さないですぅ〜!」
 叫び声と共に、二人の姿が見えなくなった。
「大学への破壊行為はだめです!」
 「×」のプラカードを持ったシャーリー・アーミテージが言った。
「ええと、何か残念な結果となっていますが、いかがでしょうかベリート審査員」
「悪は滅びるのです。でも、悔い改めるのであれば、道は開けるでしょう」
 シャレード・ムーンに聞かれたベリート・エロヒム・ザ・テスタメントが答えた。
「はあ。では、姫神審査委員は?」
「とても綺麗な衣装でした。あっ、あれは魔鎧だったのでしょうか、それとも魔法少女だったのでしょうか。今となっては確かめようもありませんが……」
 ちょっと残念そうに、姫神天音が言った。