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2024年ジューンブライド

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リアクション

「『やっと』なのか……『もう』なのか……悩んじゃうけど。ここまで来たのね」
 リネン・エルフト(りねん・えるふと)フリューネ・ロスヴァイセ(ふりゅーね・ろすう゛ぁいせ)が結婚の約束を交わしてから、数日が経った。
 知り合ってから、やっと。恋人になってから、もう。
「時間の長さよりも、私はリネンと結婚できるということだけで、十分嬉しいわよ」
 リネンとフリューネは、見慣れたお互いの笑顔を見て、幸せな気持ちを共有する。
「今年は本当に式、あげようね?」
 そうこうするうちに、約束していた結婚の日は、刻々と近付いていた。


 結婚式当日。ロスヴァイセ邸、ルミナスヴァルキリーにて。
「嫁入り……婿入りだかどっちかともかく! 上せる前に言っておく。リネン、あんたはクビよ」
 フリューネとともに現れたリネンの顔を見るなりヘリワード・ザ・ウェイク(へりわーど・ざうぇいく)は言い放った。
 ドレス姿のリネンとタキシード姿のフリューネを、ヘリワードは順にじっと見る。
「……ヘイリー、」
「もう師匠とか団長とか呼ぶな。契約があっても、あんたとあたしは赤の他人よ……二度と帰ってくるな!」
 リネンの言葉を遮り、突き放すヘリワード。……けれど、リネンとフリューネには分かっている。
『過去の人である自分にいつまでも甘えるな』
『凄惨な裏社会なんかに戻ってくるな』
 そんな想いで、ヘリワードが言った言葉なのだと。
「……ロスヴァイセ家で、幸せになるね」
 リネンの答えで、納得したのだろう。ヘリワードはそれ以上、何も言わなかった。
「では……そろそろ始めさせていただきましょうかぁ?」
 進行役を務めるミュート・エルゥ(みゅーと・えるぅ)の声が、大広間に響く。
 式場のとなる部屋に続く大扉が開かれ、祝福の詞がリネンとフリューネを包み込んだ。
 その場には、リネンとフリューネの結婚式に集まった親族や、二人を祝福する空賊たちが参列している。
 先日、リネンの婚約の告白を見届けたフェイミィは自分を見直す旅に出ていて、今はいない。
 祭壇の前には、神父が立っていた。
「まずは、新郎の入場ですぅ」
 ミュートの声を聞いて、フリューネがリネンに微笑みかける。
「幸せに、するわね」
 フリューネはそう言って、一足先に広間へと踏み入れた。
 祭壇の右にフリューネが立つと、次はリネンの番だ。
 リネンとヘリワードは、一緒に式場に入った。
 バージンロードをゆっくりと歩いていく間、リネンの頭の中には今までの様々な思い出が駆け巡る。
 祭壇の前で、ヘリワードとフリューネは頭を下げる。
 これで、ヘリワードからフリューネへ……ロスヴァイセ家へ、リネンが引き渡された。
 ロスヴァイセ家に降りる。それは、フリューネが非合法な空賊団を辞める、ということに他ならない。
「今までありがとう……ヘイリー。本当に……本当に……ずっとっ……」
 リネンの声が震える。
「……大切なのは、今とその先、よ」
 ヘリワードはリネンの背を押すように言葉をかけ、二人に背を向けた。それだけで十分、ヘリワードの祝福の気持ちは伝わってきていた。
「それでは、誓いの言葉に移りますぅ」
 ミュートは静かに微笑みを浮かべて、並んだリネンとフリューネを見た。
 神父の前で、リネンとフリューネは誓いの言葉を交わす。
 病める時も、健やかな時も。これからも、ずっと二人で助け合い、支え合っていくのだと。
「まったく……とんでもない人たちですよ。結婚のためだけに死人をこうもこきつかうとか、ねぇ」
 指輪の交換を済ませたリネンたちを見て、ミュートは誰にも聞こえないように笑った。

 結婚式が終了し、続けて披露宴に移る。
「では、会場を移動しましょうかぁ?」
 披露宴の会場は、ロスヴァイセ邸の傍に接舷されたガーディアンヴァルキリーだ。
「さあ、行くわよ」
「うん! ……って」
 リネンが驚く間もなく、フリューネがリネンを抱き上げた。
「ちょっ、と、びっくりしたじゃない」
「ふふ。攫わせてもらうわよ?」
 そう言って、いたずらっぽくフリューネが笑う。
「もう……」
 嬉しそうにリネンが微笑んで、フリューネに身を任せた。
 こうして一緒に過ごせる何でもない時間が、リネンに取っては本当に幸せだった。

 ガーディアンヴァルキリーの艦上につくと、リネンとフリューネはお色直しをする。
 今度はフリューネがウェディングドレスを、リネンがタキシードを着ることになっていた。
「あっという間だったわね」
 ウェディングドレスを着ながら、フリューネがしみじみと呟いた。
「結婚までが? それとも結婚式が?」
「うーん……どっちもかしら」
 先に着替えを終えたリネンは、フリューネをじっと見つめた。
 タキシードのフリューネも、ドレスのフリューネも、やっぱり素敵だ。
「……でも、やっぱり長かったわね」
「じゃあ、『やっと』じゃない」
 リネンとフリューネは、先日の会話を思い返して笑い合う。
「幸せになろうね。ずっと、もっと、どこまでも……」
 幸せを噛みしめるように微笑み合うリネンとフリューネ。
 お色直しを終えたリネンたちが皆の前に姿を現すと同時に、ミュートの操縦するガーディアンヴァルキリーが上空へとゆっくり浮かび上がっていく。
 空の上で、盛大な披露宴が始まろうとしていた。