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終わりなき蒼空、涯てることなきフロンティア

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終わりなき蒼空、涯てることなきフロンティア
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リアクション


●秘密のギリシャ旅行

 2025年早春、六人は地球のギリシャを訪れた。
 グループ旅行だ。男女は半々の構成である。
 男性三人はリア・レオニス(りあ・れおにす)レムテネル・オービス(れむてねる・おーびす)ザイン・ミネラウバ(ざいん・みねらうば)で、女性三人は、吸血鬼の少女 アイシャ(きゅうけつきのしょうじょ・あいしゃ)セレスティアーナ・アジュア(せれすてぃあーな・あじゅあ)高根沢 理子(たかねざわ・りこ)だった。
 代王の地位にある理子とセレスティアーナの参加は容易ではなかったものの、リアが前もってこの旅行のことを彼女たちに話をしたところ行きたがり、ふたりともお忍びで参加したのだった。そのため道中、彼らは全員偽名を用いている。
 旅行といっても代王が長期間シャンバラを離れるわけにはいかないため、わずか二泊三日の慌ただしい日程だ。なのであまりあちこちを訪問することはせず、行きたいポイントを絞って動いている。
 ギリシャは、リアの生まれ育った国だ。
 彼は一般家庭の長男として生まれ、高校の卒業旅行で訪れたパラミタでレムテネルと知り合った。その後ジェイダス理事長(当時は校長)と縁ができ、レムと契約した後パラミタに渡って現在に至る。
 パルテノン神殿への道すがら、そんなリアの近況を聞いて、
「ほう、両親に仕送りをしているとはな」
 感心な話だ、とセレスティアーナは言った。
 パラミタに渡る費用以上のことを、リアは父母に頼っていない。薔薇学の学費はすべて奨学金とバイトでつなぎ、職を得てからはできるだけ早く奨学金を返すことができるよう日夜働いた。そうして完済後の今は、わずかながら毎月故郷に仕送りをしているという。
「ああ、いや、自慢をしたかったわけじゃないんだ。パラミタへの移住を許してくれた両親には、ずっと感謝をしていてね……移り住んでからもなかなか安定した暮らしが送れず、心配をかけっぱなしだったことへの謝罪の意味もあるんだ。定職に就かないとやはり生活がどうにもね」
 リアは苦笑気味だった。色々な意味で、なかなか定まらない数年だったと思う。
 乾燥しており高温、なんともカラッとしたギリシャの春だ。
 パルテノン神殿から風景を眺め、真っ青な海と空を堪能したのち、食事のために移動した。
「俺の行きつけだった食堂だ。高校生の時、部活の帰りによく寄ってたんだ」
 海産物を中心とした料理を、目一杯楽しむ。安くて量もたっぷりという、学生には人気のありそうな店だった。お世辞にも高級店とはいえないが、貴人の理子たちにはむしろ、こういった地元の店が新鮮に映るものらしい。とりわけ理子は、「これは何?」「どうやって食べるの?」「美味しそう」を連発してはしゃいでいた。
 ビネガー漬けのイカという見慣れぬものと格闘しつつ、レムテネルはにこやかに女性陣に話しかけていた。
「皆さんは地球は初めてなんですか? 私やザインもそうなんですよ。ずっと来たかったんですが、シャンバラが落ち着いて、やっと来ることができましたね……シャンバラから降りたところの国とは、また違う感じで驚きました」
「とても綺麗な国という印象を受けました」
 アイシャがそう言ってくれたので嬉しくなり、
「一度みんなを、俺の生まれた国につれてきたかったんだ」
 とリアが言った。
「俺のルーツはやっぱりここ。陽気でのんびりしてて、ちょっと雑然とした空気が好きなんだと思う」
「良いところですね」
 と言うアイシャにこたえて、
「だからといって地球に帰りたいわけじゃないけどな」
「そうか、残念だなあ」
 冗談めかして言うのはザインだ。
「毎日ここのメシが食えるってのもいいかもな、と思い始めてたんだが」
 ハハハ、と彼は声を出して笑った。
「ええと……その『ケフテス』ってやつ、もう一皿頼んでくれよ。そうそう、そのミートボールみたいなやつ」
 こうして和気あいあいと食事は進むのだった。

 宿に移動する前に、リアは三人にアクセサリーを手渡した。ベルトや鞄につけておくのに丁度いいサイズだ。紐状の飾りで、鮮やかな色の石が通してある。基本的には同じ色の石ばかりだったが、一定間隔で白い、卵のような形の石が混ぜられていた。
「綺麗な色ですね」
 受け取って、アイシャはこれを手の中で転がした。飾り石同士が触れあってしゃらしゃらと音を立てた。
 白い石はなんとなく、目玉のような模様であった。
「なんとなく魔除けのような印象があるね」
 という理子に、「そう」とリアはこたえた。
「これは目玉の形のお守りなんだ。バスカニアと言って、他人からの悪しき視線……つまり、嫉妬ややっかみといった邪眼から身を守る効果があるとされている。プレゼントするよ。これまでのお礼と、残りの旅の無事を祈って……ってやつだね」
「ありがとうございます」
 アイシャは微笑んだ。さっそくブレスレットのようにして輪に腕を通す。
 その経歴からどうしても、理子もセレスティアーナも、人々からは称賛とともに、悪意の視線を受け取ることだろう。それはアイシャにとっても……同じことだ。
 気休めのお守りに効果があるとは思わない。だがそれでも、自分はいつまでも味方だ、これからもずっと守ってみせる――というリアの願いが、このバスカニアには込められていた。
 さあ、旅はまだ続く。
 楽しもう!