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リアクション
9.実は明日がクリスマス
夕闇が迫っている。
美しい夕焼け空を見ながら、白馬を操り集落を目指しているのは、薔薇の学舎の黒崎 天音(くろさき・あまね)とブルーズ・アッシュワース(ぶるーず・あっしゅわーす)だ。
「……また、子ども相手なのか。お前が子ども好きだとは思わないが、また登られるのはごめんだぞ」
ドラゴニュートのブルーズは洞窟での子供たちを思い出して、ぶつぶつ呟いている。
「ブルーズ、君クリスマスは初めてでしょ?」
ブルーズの呟きを無視して、天音が問う
「ああ、先日お前と書物などを調べたぐらいだ」
「たぶん、子供たちもクリスマス知らないんじゃないかな」
孤児院のある集落が見えてくる。
白馬を休ませ、孤児院に入った二人を出迎えたのは、らんらんと目を輝かせた子供たちだった。
朝から、孤児院を訪れる大人はみな、彼らに驚くべき楽しみを与えて続けている。
白馬から降りる天音たちを見たときから、既に期待でいっぱいだ。
「僕はローグだし、ローグの技能なんて、子どもの内から身に付けてもろくな事がないと思うよ」
少し考えて、天音は子供たちに聞いた。
「ところで、君たちは明日がクリスマスだって知ってるのかな?」
子供たちはきょとんとしている。
誰もクリスマスなんか知らないのだ。
部屋に入った天音は子供たちにカードを渡す。
「クリスマスが何かは、明日になれば分かるよ。君たちはきっとニューイヤーも知らないのかな?」
真顔で頷く子供たち。
「いいかい、これから渡すカードに、明日起こる奇跡のお礼を書くんだ」
「奇跡?」
「なんだそれ?」
「うれしいこと?」
「そうだ、君たちが列車から助けられてここにいるのと同じように、明日また新しい軌跡が起こるよ」
子供たちの顔が輝く。
カードを前に文字がかけない子供は、絵を描いている。
明るく楽しい奇跡の絵を。
洞窟でもらったクレヨンや色鉛筆を駆使して。
さて、天音たちが臨時宿舎のようになっている集落の別民家に引き上げた後も、子供たちは寝ることが出来ない。
なんといっても2度昼寝しているのだ。それに明日の奇跡も気になる。
「明日まで起きている・・・」
そんなことを呟く子供もいる。
再び来訪者だ。
日暮れ後にやってきたのは、百合園女学院のジュリエット・デスリンク(じゅりえっと・ですりんく)とジュスティーヌ・デスリンク(じゅすてぃーぬ・ですりんく)、それにアンドレ・マッセナ(あんどれ・まっせな)の三人だ。
明日を待ちきれずに、夕方のうちにやってきた。
麗しの美女三人は馬にのって、大荒野を駆けてきた。
白馬の隣に馬を留め、孤児院の玄関をはいった三人を待ち構えていたのは、先ほど以上にらんらんと目を輝かせた子供たちだ。
「わたくしたちを待っていて下さったのね」
うんうんと頷く子供たち。
「明日からと思ってましたけど、それなら話は別ですわ。今日から授業を始めますわ」
にっこり笑うジュリエット。
「やったー♪」
寝れない子供たちから歓声があがる。
子供たちは一室に集められた。
それぞれに本が配られる。
「まずはわたくしからです。授業はわたくし、アンドレ、ジュスティーヌと続きますの。途中退席は許しませんわよ」
輝く目で頷く子供たち。
配られたのは、フランス語を学ぶための「こどものための日仏対訳『悪徳の栄え』」と社会学を学ぶための「はじめての社会ダーウィニズム」(いずれも「波羅蜜多ビジネス新書ジュニア」刊)だ。
ペラペラめくったレッテが叫ぶ。
「せんせー、俺ら字がよめねー」
「そうだったわね、忘れていましたわ。では先生が読みます」
ジュリエットが、まず本を朗読する。
数人の子供が、ゆっくりと頭を揺らしている。左右に、前後に。
「「まずは社会ダーウィニズムという考え方(思想)について説明しますわね。これは地球の二十世紀にすすめられた考え方で、一言で言えば優れた者や社会に適した者が生き残り、脱落した者はそのまま食い物にされていくという
・・」
ゴンッ!
鈍い音がした。
フライパンがジュリエットの後頭部を襲ったのだ。
ジュスティーヌの仕業だ。
頭を揺らしていた数人の子供たちが、ゴンッという音と共に前のめりになった。
そのまま床に倒れこむ子供たち。
頭を抑えるジュリエットの後ろで、
「皆さんは、こういう歪んだ大人にならないよう、しっかり世の中を自分の目で見て、自分の心で善悪を判断して・・・、あら、大丈夫かしら?まあ、どうしましょう、私が叩いたのはジュリエットだけですのに」
倒れた子供たちを見て、ジュスティーヌが叫び声を上げる。
「大丈夫、みんな寝てるだけだ」
面白がりやのハルがいう。子供の瞳は、まだ期待に輝いている。
次に出てきたのは、アンドレだ。
「あたしは、まず、『じょーぶこーぞー』と『かぶこーぞー』について教えるじゃん」
また数人の頭が揺れる。揺れる間もなく倒れこむ子供もいる。
「下部構造ってのは飯とか金の問題、上部構造ってのは文化とか宗教とか、エラい人がどーしたこーしたって話じゃん。で、この上部構造が下部構造に合わなくなると、飯や金の流れがおかしくなって、貧乏人と金持ちの差が激しくなるじゃん。貧乏は嫌だから皆武器持って立ち上がるじゃん!革命起きるじゃん!これを難しくいうと『下部構造が上部構造を規定する』っていうじゃん!地球史の流れはこれに沿って覚えれば間違いないじゃん!では、まず革命の例として、フランス革命について教えるじゃん!」
ゴンッ!
フライパンを手にした、ジュスティーヌがぼーっと立っている。
アンドレの長い説明は子供たちにとって、心地のよい子守唄だったようだ。すべての子供が安らかな寝息を立てている。
「誰も聞いていなくても、一応は言っておきませんと」
ジュスティーヌが寝ている子供たちに語りかける。「
「私は皆さんを守るためにやむを得ず武力を使いました。皆さんも武力は大切な人を守るためだけに使いましょう」
気が付くと、倒れたアンドレも寝息を立てている。
「なんてこと・・」
シーが教室を覗きに来た。
「すごいネ、この子達を寝かしつけるノは、とっても大変ナノだよ」
10.クリスマス・パーティ当日
朝早く、ビスク ドール(びすく・どーる)と共にナガン ウェルロッド(ながん・うぇるろっど)がやってきた。
まだ外は薄暗い。子供たちは眠っている。
ナガンは眠っている大鋸の耳元に顔を寄せる。
「話がある」
むくっと起き上がる大鋸、ブルッと震える。
キッチンに向かう三人、そこには昨日しとめた鳥や獣肉がある。
2人、むさぼり食いながら話を進める。
「ここの管理人を探してるって聞いたぜ」
「ああ、俺はガラじゃねぇ」
「ナガンがやるぜ」
「お前が?」
「ああ・・」
「宿代わりに考えてるなら、止めとけ!子供は面倒だぞ」
大鋸がぎょろっとナガンを睨む。
「なんだとぉ、ナガンはそんなんじゃないぞ」
持参のジャンクを食べながらビスクドールが大鋸に舌を出す。
「あまっちょろい考えでやろうとしてんじゃねぇぞォ、だいたいよぉ、孤児院なんて作って維持できんのかぁ?」
大鋸がナガンを見据えた。
「出来ねえ」
大鋸は断言する。
「でもよぉ、ほっとけば女は売られて男はゴミ拾いだ。運よく生き延びれば、俺らの仲間になれるだろうが、どっちにしてもろくな人生じゃねえ。あいつらはあのままコンテナごと売られてたかもしんねぇ、ところが俺らっていう強盗にあって、運命が変わった・・・孤児院は俺が作ったんじゃねえぞ・・・あーーー何いってんだかっ」
夜が明けてくる。
シー・イーが起きてくる。
「ああ、ダージュ、今日がクリスマスだって知ってたカ?なんだか大勢来るようダヨ」
「なんだぁ?そりゃ。な、ナガン面倒ばっかだぞ?」
大鋸がナガンを気の毒そうに見やる。
夜明けと共に子供たちを起こしたのは、やはり夜のうちにやって来た鬼崎 朔(きざき・さく)だ。
「おはよう!」
起こされたは、朔の顔をじっと見ている。
「マジック?」
「何がだ?」
「顔・・・・」
「何がだ?」
「・・・」
その子どもは慌てて布団を頭まで被る。
いつの間にか、子供たちは皆起きている。
「刺青だよね!」
アキラが小声で聞いてみる。
「ああ」
「おはよう!」
今度はレッテだ。
「自分は、鬼崎朔だ。よろしく」
「よろしく!」
朔は子どもとの付き合い方がわからない。
子どもは好きなのだが、顔に刺青があるし目つきが悪い、自分が子供たちに好かれないことは知っている。
「遊んでいい?」
突然、ハルが本当に消え入りそうな声でささやいた。
「自分と?」
頷くハル、「いいよ」と朔が快諾したとたん、
布団やら枕やらが朔目掛けて飛んでくる。
「枕投げだよー」
レッテが言う。
「朔も反撃しなよー」
可愛い子どもと遊んでいるうちに朔のテンションがあがる。
「よーし」
投げた枕がアキラを直撃した。
そのまま後ろに倒れるアキラ、失神している。
「大丈夫か」
近寄る朔、興奮しすぎて鼻血が・・・・
それでも子どもたちににじり寄る朔を機晶姫スカサハ・オイフェウス(すかさは・おいふぇうす)のロケットパンチが制する。
「朔様、子どもが怯えてる・・・」
それまでやんちゃだった子どもたちが無口になっている。
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