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リアクション
雪の中で
「雪か……」
仲瀬 磁楠(なかせ・じなん)は台所の窓から外を見つめ、買い物に行った七枷 陣(ななかせ・じん)たちを思った。
自分は多分弱くなったのだろうなと思う。
でも、陣たちを見ていると、つい夢想してしまうのだ。
幸せだったあのときを。
(どうか叶うならばもう少しだけ、あの三人のそばで見続けていたい。自分では見る事の叶わなかった、夢の続きを)
「それくらいの寄り道をしても良いよな……」
静かにそう呟き、磁楠は目の前の用事を再開した。
「さて、とりあえずコレをどうするかだ。……やれるとこだけやって後は真奈に丸投げだな」
磁楠が気にしていた三人、七枷 陣(ななかせ・じん)、リーズ・ディライド(りーず・でぃらいど)、小尾田 真奈(おびた・まな)は雪の降り始めた公園にいた。
「わあ!」
リーズが噴水のある公園に入り、くるくるっとターンしてはしゃぎまわる。
「キレイだね、陣くん!」
リーズが振り向いて笑顔を向けると、陣の時が止まった。
(え……)
息も出来ず、頭が真っ白になって、陣はリーズを見つめる。
「……陣くん?」
固まった陣を見て、リーズが声をかけると、陣はハッとして動き出し、反射的にリーズのもみ上げを掴んだ。
「ひぃっ!」
思わず身構えたリーズだったが、陣はリーズの髪を愛しそうに撫でた。
「……えっ」
引っ張られるよりも大きな衝撃を受け、今度はリーズが固まる。
何とも言えない、恥ずかしいような……嬉しいような……暖かいような。
そんな感覚に包まれて、リーズは初めて陣に撫でられた。
「綺麗だな」
「え……?」
リーズは問い返したが、陣は空を見上げていた。
(空のこと言ったのかな)
そんなことをリーズが思っていたが、陣は心の中で自分で自分に言い訳していた。
(今日は聖夜だから変になってたんだろう)
ふと、真奈の方を見ると、真奈がぽつんと自分だけ置いていかれたように立っていた。
「どうした」
陣が声をかけると、真奈は陣に目を向け、嬉しさで泣きそうになった。
寂しいという思いに気づいてくれた。
それがとてもとてもうれしかったのだ。
でも、機晶姫である自分は子供を為せないから。
この思いは主従以上のものかもしれないから。
だから涙が見られないように、真奈は空を見上げた。
「どうかご主人様やリーズ様、磁楠様が私の事を要らないと言うその日まで共に在らせてください……」
「何言ってるんや。そんなの当たり前だろうに」
陣はどこか不安そうな真奈に微笑む。
「オレにとってリーズも真奈も……ついでに磁楠も。皆大切な、その……家族以上の人なんだから」
「……ご主人様」
真奈の思いに、リーズも共感した。
何にもない自分に居場所を与えてくれた陣と真奈、磁楠と共にずっと過ごせたらなぁとリーズも思っていたから。
そこで真奈はふとここにいないもう一人に気づいた。
「そう言えば、磁楠様はちゃんと調理をやっているでしょうか……レシピは渡しましたけど」
「出来る所だけやって、後は放置してるに100ペリカ」
「にはは……あり得そうで困るねぇ♪ でも、パーティのご飯楽しみにしてるのになあ!」
「追加で買った分まで、全部リーズに食われそうや」
陣はそう言うと、今日は徹底的に変になろうと半ばやけっぱちになり、リーズと真奈、両方の手を繋いだ。
「さって、あのアホも待ってるだろうし、行くでー」
三人は手を繋いで、自分たちを待つ人のところに帰っていった。
その頃、同じく街中には有名なカップル二人が歩いていた。
「……おい……ユニ……パーティに行きたいと言ったのはお前だろう……用事とやらは一体何なんだ?」
蒼空学園で行われるパーティに行きたいと言いながら、なぜか学園を出て、街に自分を連れてきたユニ・ウェスペルタティア(ゆに・うぇすぺるたてぃあ)に対し、クルード・フォルスマイヤー(くるーど・ふぉるすまいやー)は心底不思議そうな顔をした。
「街がこんなに綺麗なのに……クルードさん何も思わないんですか?」
「……何故全力で睨むんだ……俺が何をしたと言うんだ?」
可愛らしい瞳で、キッと睨んでくるユニに、クルードは困ったような顔をする。
「もう、いいです……クルードさん」
ユニはあきらめたように踵を返した。
すると、そこにサンタの格好をしたピエロ……ナガン ウェルロッド(ながん・うぇるろっど)が通りかかった。
「はいはい、ごめんよ!」
どんとナガンがユニを突き飛ばす。
「きゃっ!」
「ユニ!」
クルードが素早い動きでユニを抱きとめる。
が。
「あ……」
唇が触れた感覚に、ユニは驚き、目を見開く。
(今、クルードさんと唇が触れた……)
自分の唇に指を当て、ユニは恥ずかしそうなうれしそうな笑顔を見せた。
「……なんだ今のピエロサンタは……。大丈夫か、ユニ」
「はい、大丈夫です。とても……うれしいから」
ユニは頬を染めながら、明るい笑顔をクルードに向けた。
クリスマスの思い出が、ユニには出来たのだった。