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【蒼空のフロンティア秋祭】秋のSSシナリオ

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【蒼空のフロンティア秋祭】秋のSSシナリオ
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リアクション

―買い物は楽しいねー?―

「ほら、カデシュ、ちょっとこっち来いよー」
 佐伯梓(さえき・あずさ)はパートナーのカデシュ・ラダトス(かでしゅ・らだとす)を呼んだ。
 もうお昼はとっくに過ぎ去った空京デパート。
 二人は、新しく大型飛空挺を購入したため、家具や生活用品を買い揃えていた。
 大型の家具や寝具の類は、業者を手配して配達してもらう事になっている。
 今は細々とした物を買い揃えている最中だ。
「はあー……、まだ何か買うんですかー?」
 カデシュは心底うんざりした様子で梓に抗議した。
 両手には荷物をたっぷりと持っている。
 梓も同じように荷物を持っているが、カデシュが持っている量の方が断然多い。
「少し休みませんかー?」
 カデシュは、ショーケースに入っているマグカップに釘付けになっている梓に聞こえるような声で言った。
「わあ、猫のマグカップだー。かわいいなー」
 梓はカデシュの言葉が耳に入っていないようだ。
 きらきらとした子供のような目で、いろいろと目移りしている。
「ねえ、カデシュ、俺、これ欲しいんだけどー?」
 梓は振り返り、カデシュを見た。
「おおう……カデシュどーした?」
「いえ、僕の話を聞いてくれない、アズサにイラッとしてただけですよ?」
 カデシュのにこやかな笑顔の裏に隠れている、何か黒い物を感じ取った梓。
 それでも、梓はあははと笑うと、
「ごめん、ごめんって」
 カデシュを見上げながら謝った。
「それで、なんだっけー?」
「少し休みませんかって、言ったんですよ」
「……そうだねー。ちょっと急いで回りすぎたねー」
 梓が今までの買い物を思い出しながらそう言った。
 お昼過ぎから、大型の家具を見回り、ああでもない、こうでもない、と二人で言いつつ、強行軍のごとく小物とか目に付くままに買っていることを思い出した。
 またあははと梓は笑いながらカデシュを見る。
「荷物重いならもとうかー? 全部俺が持ってもいいけど、でも、それって体面とか構図とかの問題でどうなんだー?
 今は俺は女で、おまえは俺よりでっかいだろー?」
 梓はカデシュに振り返り、腕をあげ、身長差が大きくあることを示す。
「確かに僕だけ手ぶらだと、情けなくもなりますけどアズサですからね」
 カデシュはそういいながら、梓に荷物を押し付けた。ずっしりとカデシュが持っていた分の荷物の重さが腕に来る。
 これは確かに重い。文句のひとつでも言いたくなってしまうなー、と梓は思った。
「うーん、誰かもう一人、道連れを連れてくるべきでしたね。さすがに腕が疲れました」
 カデシュはそういって、肩を回しながら前を歩き出した。
「それよりも、アズサはもう男に戻れないんでしょうかね」
 そう、佐伯梓は元は男だ。とあることがあって女になった。
 カデシュはそのことを言っている。
「戻れるなら戻りたいかな。ちょっとだけだけどね」
 梓は今まで浮かべていた笑みを引っ込め、真剣な表情になった。
「でもさ、カデシュ。わかってると思うけど、俺は恋人も女にしてくださいって願って女の子になったんだよ」
 だから、と梓は決意を新たにした様子で、
「自分だけ元に戻りたいだなんて、そんな傲慢、俺自身が許さないよ」
「そうですか。それなら仕方ないですね」
 カデシュは納得したようにうんと頷いた。
「そうそう、だから戻れるとしても二人一緒か、もしくは戻らないかだねー」
 またあははーと能天気そうな笑みを浮かべて梓はそう言った。
 わかって貰えて嬉しい。そんな気持ちと、小難しいことは考えないようにする。そんな二つの思いがない交ぜになって梓は笑った。
 結局いつも通り、ふわふわと笑いながらどこか馬鹿っぽく振舞うことが最善であると気づいた。
 そんな中で、喜怒哀楽をしっかりと押し出していけば何とかなるんじゃないかな、とも思ったりするのだ。
 ゆっくりとした足取りで歩いているせいか、いまだ休憩所につかない梓とカデシュ。
 カデシュがいろいろと文句を言っている。荷物を持っていないのに。
 でもそこには、嫌そうな素振りは全く無い。
「はは、カデシュは変わったねー」
 そんなカデシュを見ていた梓が言う。
「そうですか?」
「うん、なんかなー、素が出てきたというか、メッキが剥がれてきた感じ?」
 こんな怖いやつだと思わなかった、という言葉飲み込んで梓は言う。
 でも、そんな梓の物言いにカデシュは少しだけ機嫌を悪くしたようだった。
「アズサも変わりましたよ」
 カデシュからの反撃だ。
「なんだか、丸くなりましたね。昔はこうツンツンしてたのに」
「わーわー、俺の昔の性格のことは忘れようよー! そうしよう! なっ!?」
「どうしましょうか?」
 カデシュはにこにこと、黒さを隠すこともせず梓に脅迫まがいの笑顔を向けている。
「あ、そうだ、僕、新しいコーヒーメーカーが欲しいんですけど」
 ふふっとカデシュは柔らかくほほえむ。
 ただし、そのほほえみは、梓曰く暗黒微笑。背後には黒いオーラが駄々漏れの代物である。
「コーヒーメーカー? カデシュはコーヒー好きだもんねー。買うから機嫌直してくれよ、なー?」
「しょうがないですねー」
 梓とカデシュはそんなほほえましいやりとりをしながら休日の一日を過ごしていくのだった。

 ――あ、さっきの猫のマグカップ買っていーい?
 ――買ってないんですか? てっきり買うとばかり……。

 一度荷物を置くと二人はまたデパート内に舞い戻るのだった。