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幼児化いちごオレ

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幼児化いちごオレ
幼児化いちごオレ 幼児化いちごオレ

リアクション

「たいへんだよ! むねがなくなっちゃったよ!」
 と、秋月葵(あきづき・あおい)は騒いだ。
 身体が縮むのと同時に、体型も幼児へ変わってしまっている。
「そこはへんかないにゃー。まえからぺったんにゃ」
 と、冷静に返すイングリット・ローゼンベルグ(いんぐりっと・ろーぜんべるぐ)。彼女は葵にいちごオレを飲ませた張本人だった。自分が幼児化したため、他の人にも飲ませようと思い立ったのだ。幸いなことに、イングリットは食いしん坊なためにいちごオレをいくつも購入していた。
「ちがうもん! すこしはあったもん!」
 葵はそう言って自分の胸を示す。イングリットの言うことは確かだが、言うほどぺったんこなわけでも……。
 悩みかけてはっとする葵。
「グリちゃん!?」
 視線の先には、たたたたっと走っていくイングリットの背中。
「にゃははー、つぎはだれにのませようかにゃー」
 楽しそうに笑うイングリットはいちごオレを手にしていた。葵だけでなく他の人まで巻き込むつもりだ。
「だめだよ、グリちゃん!」
 と、葵が叫んでもイングリットは止まらない。
「もう……もとにもどることもかんがえなきゃいけないのに」
 葵は頬を膨らませると『変身!』した。突撃魔法少女リリカルあおいの登場だ。しかし幼児化した姿はそのままなため、どちらかというと魔法幼女である。
『空飛ぶ魔法↑↑』を使用し、葵は飛びながらイングリットを追いかけ始めた。

 校内でも人気のない廊下を行くイングリットは、目的の部屋の前まで来て立ち止まった。
「にゃにゃっ、山葉ががいしゅつちゅう……? ざんねんにゃ」
 校長室の扉には「外出中」の札がかけられている。
「見つけたよ、グリちゃーん!」
 と、聞きなれた声が追いかけてくるのに気づき、反射的にイングリットはその場から駆け出した。
「もっとほかのひとにものませるにゃー!」

「なにやら、騒々しいですね」
 と、火村加夜(ひむら・かや)は両腕の中にいる少年へ言った。
「そうだな……こんなことになっているから、とうぜんだろうが」
 と、加夜を見上げる山葉涼司(やまは・りょうじ)。彼は恋人である彼女の持ってきたいちごオレを飲んでしまい、被害者の一人になっていた。
「そうですね。涼司君、すごく可愛いです」
 ぎゅーっと後ろから抱きしめられて、涼司は頬を赤くした。さすがに初めは戸惑って抵抗したが、楽しそうな彼女を見ると何も出来なくなってしまった。
 校長室の外からは生徒たちの賑わう声が聞こえてくる。
「いったい、どれだけのせいとがこのいちごオレのひがいにあってるんだろうな」
 と、やんちゃな外見とは裏腹に真面目なことを言う涼司。校長である自分まで巻き込まれているだけに、とても心配だ。
「そうですねぇ……でも、ただ小さくなるだけですし、意外とみんな楽しんでるんじゃないですか?」
 加夜がそう言ってにっこり笑う。実際、彼女は幼児化した涼司を可愛がっている。
「……そうだな。でも、そろそろしごとにもどらなきゃな」
 と、顔を逸らすようにして涼司は加夜の腕から抜け出す。
 そして仕事机へ向かい、いつものように椅子へ座ろうとしてはっとした。椅子が高い。
 気づいた加夜がおもむろに近寄ってきて、涼司を抱き上げた。
「私も手伝います」
 と、彼を椅子に座らせてそばへ立つ。
「ああ、ありがとう」
 正面に顔を向けると、使い慣れたパソコンも大きく見えた。元の姿に戻るまで、仕事はスムーズに進まなさそうだ。
 ふと彼女の方を見た涼司は、急に頭を撫でられてびくっとした。
「こんなに可愛い子なら、早く欲しいかもしれません」
「……っ」
 思わず未来のことを想像して赤くなる涼司。
「小さくなっても、そばにいる安心感は変わらないです」
 頭を撫でられながら加夜の言葉に頷いた。小さくなった彼女を見てみたい気もしたが、二人で幼児化してしまっては本末転倒だ。
「どんな姿の涼司くんでも、好きですよ」
 と、額にキスをされ、涼司は彼女をじっと見つめた。出来る限り背筋を伸ばし、彼女の頬へそっと口付ける。
「おれだっておんなじだ」
 小さな彼氏が、あどけない顔で微笑んだ。

 鏡に映る自分自身を見つめて、佐野和輝(さの・かずき)は青ざめた。9歳頃の姿に戻ってしまっている。しかもこの頃の思い出といえば、嫌なことばかりだ。
「早くげどくやくを手に入れないと」
 と、焦りながら和輝が振り返ると、パートナーのアニス・パラス(あにす・ぱらす)がにっこり笑って言った。
「和輝、アニスのことお姉ちゃんって呼んでもいいよ♪」
 普段は一番年下のアニスが、今は和輝より年上だ。
「ふざけてるよゆうなんてないだろ、今はそれよりげどくやくを――」
 と、言いかけたところでスノー・クライム(すのー・くらいむ)から熱い視線を送られていることに気づく和輝。何か、いつも以上に嫌な予感がする……。
「……」
「ねぇねぇ、スノー。和輝にはこれが似合うと思うんだー」
「あ、アニス……? でも、確かにそれは名案かもしれないわね」
 アニスの手にはフリルのついた可愛い子供服。
「じゃあ和輝、さっそくお着替えしちゃおー」
「おい、待て! どう見たって女物だろうが! そんなの嫌だ!」
 と、身の危険を察知して和輝は逃げ出した。しかし、十メートルも走ったところで転んでしまう。
「大丈夫、和輝?」
 すぐさま駆け寄ってくるアニスとスノー。
 和輝は今の身体を恨み、涙目になりながら上半身を起こした。無意識に床へ座り込んだ形はいわゆる女の子座りというもので、ただでさえ女の子に見える和輝をさらに可愛く見せてしまう。
 その直後、スノーの中で何かが弾けた。
「アニス! 女子更衣室に行きましょう!! あと被服室から服と、写真部からカメラ!!」
「りょうかーい♪」
 スノーの腕に抱き上げられ、和輝は女子更衣室へ拉致されていく。

 すべての準備が整うと、スノーとアニスは和輝の服へ手をかけた。
「ちょ、服を脱がそうとするな! 二人とも少しは羞恥心を――」
 しかし、ここは女子更衣室。誰も彼女たちを止めることなどしないだろう。
「大丈夫だよ、和輝ぃ。ちょっとお着替えするだけだからねー」
「そうよ、大人しくしなさい」
 目の色がすっかり変わっている二人を前に、和輝はただ叫んで抵抗するしかなかった。
「待て待て! 終わる! 終わるから! 俺の人生が終わるからっ!!」
「いいえ、和輝はこれから始まるのよ」
「!?」
 無理やり服を脱がされ、女児服を着させられる和輝。その姿をすかさずカメラに収めて、アニスとスノーは心行くまで着せ替えを楽しむのだった。

 その女生徒は数十分前まで中庭にいたという。その後は再び校内で見かけられており、何者かに追われているとかいないとか。
「うぅー、あるきにくいよぉ……」
 ぶかぶかになった靴でずりずり歩きながら、紅護理依(こうご・りい)は呟いた。
 6歳ほどの姿になった彼女はだぼだぼの服を両手で押さえていた。脱げないよう、ずり落ちないようにとがんばっているが、さすがにこの姿では限界がある。
 それでもどうにか解毒薬を探して歩き続ける理依。
 ふと、頭上を何かが飛んで行った。空飛ぶ箒にまたがった少女、優奈だ。
「なぞのじょせいと、みつけたでぇ!」
 その叫びに理依ははっとする。この近くに解毒薬を持った人が?
 少し速度をあげて歩き出し、彼女を追いかける。
 すると、角を曲がったところに猫耳と猫尻尾を持った謎の女生徒Bことマヤーを見つけた。幼児化した生徒に解毒薬を飲ませている。
「あんたがはんに――うわぁ!?」
 勢いがつきすぎて止まれず、優奈はその横を通り過ぎて墜落してしまった。
「にゃにゃ……」
 マヤーは呆然と優奈の方を眺めていた。すぐに解毒薬と思しき小瓶を手に、そちらへ向かう。
 理依は駆け出した。
「ちょ、ちょっとまって!」
 片手を伸ばし、てとてとと駆けていく。しかし、すぐに服が足へ絡まり、そのまま前へ転んでしまった。
「う……ぐすっ」
 冷たい床に打った鼻が痛い。普段ならこんなこと、絶対にしないのに。
「ふぇ、ふええええん……!」
 むくりと起き上がるなり、あまりにも今の自分が情けなくて理依は泣き出してしまった。辺りに泣き声が響き渡り、優奈へ解毒薬を渡していたマヤーが振り返る。
「話はまた後でにゃ」
 と、優奈へ言い残し、理依の元へ駆け寄るマヤー。
 涙でぐちゃぐちゃになった視界の中、心配そうにこちらを見ている女生徒の顔が見えてはっとした。
「もう泣かなくていいよ。ほら、これが解毒薬だよ」
 と、理依の頭を撫でながら小瓶を渡す。
「ふぇ……おくすり……。にがく、ない……?」
「大丈夫。後味がちょっとしょっぱいだけにゃ」
 にっこり微笑む彼女を見て、理依は小瓶の蓋を開けた。ごくり、すべてを飲み込んで前を見る。
「……戻った」
 手も足も、服も靴も、元通りになっていた。

「にゃー、だから詳しいことはトレルに聞いてよ。マヤーはただ尻拭いの手伝いをしているだけで……あ」
 言ってしまってからはっと口に手を当てる。
「じゃ、そのトレルとかいうやつにいちごオレのませるわ。で、トレルはどこにいるんや?」
「そ、それはー……分からない、にゃ」
 と、マヤーは幼児化したままの優奈から視線を逸らす。
 優奈は軽く鼻で笑うと、彼女へいちごオレを突きつけた。
「だったら、あんたにものんでもらうで!」
 思わず逡巡するマヤー。優奈の後ろでは後から追いついたレンが心配そうに事の成り行きを眺めている。
「……ごめんなさいっ!」
 一瞬の隙を突いてマヤーは逃げ出した。猫の獣人型機晶姫ならではの素早さであっという間に姿をくらます。
「にげよった……」
「とりあえず解毒薬もらったんだし、それ飲んでから追いかけたら?」
「……それもそうやな」

 非不未予異無亡病近遠(ひふみよいむなや・このとお)は実験室を借りて解毒薬の作成に挑戦していた。
「これでどうでしょうか?」
 と、近遠は調合を終えた飲み薬をイグナ・スプリント(いぐな・すぷりんと)へ差し出す。
「飲めばいいのか?」
「はい。解析結果で出た成分を分解させる薬です」
 小さな両手で薬を受け取り、ごくりと一気に飲み込むイグナ。
「う……なんか、へんなあじがするのだ」
「それで効果の方はいかがですか?」
 と、横から顔を出してきたアルティア・シールアム(あるてぃあ・しーるあむ)を軽く睨み、イグナは言った。
「なんにもかわらない、みればわかるだろう?」
「失敗でしたか……何か足りなかったのかもしれませんね」
 近遠は冷静にそう返し、成分の分析を続けていたユーリカ・アスゲージ(ゆーりか・あすげーじ)を振り返った。
「新しいことは分かりましたか?」
「うーん……それが、よく分かりませんの。もっと時間をかけて調べないと」
「そうですか……でも、今はそんな時間もありませんし、やるだけやってみるしかないですね」
 と、近遠は再び机の前へ立ち、新たに作業を始めた。
「それにしても災難でございましたね、イグナ様」
「うむ……ふかくかんがえずにのんでしまったのがわるかった」
 自分ひとりだけが幼児化している状況に、イグナは落ち込んでいる様子だった。そんな彼女へアルティアはくすっと笑って、近遠の手伝いをしに向かうのだった。