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第52章 恋の悩み相談

「なんだか……賑やかね」
「うん、ホワイトデーだしね」
 空京の一角にて。 
 フリューネ・ロスヴァイセ(ふりゅーね・ろすう゛ぁいせ)の返事に、リネン・エルフト(りねん・えるふと)は不思議そうな顔をする。
「ホワイトデー? そういえば……そんな単語、色々なところで見かけるわ……」
「バレンタインデーのお返しをする日、らしいわよ。というわけで、はい」
 フリューネが、ぽんと、リネンに包装された箱を差し出した。
「……何?」
「だから、バレンタインのお返しよ、クッキーの詰め合わせ。手作りじゃないから、胃薬は必要ないわよ」
「お、お返しなんて……いいの?」
「勿論、リネンの為に用意したものだもの」
 フリューネの言葉に、驚きの表情を浮かべながらリネンは手を伸ばして、その黄色の箱を受け取った。
「ありがとう……すごく、嬉しい」
「私だって、先月のバレンタイン、嬉しかったわよ」
 そうフリューネは明るく微笑む。

 ホワイトデー大感謝祭が行われている通りの、街路樹の脇に置かれているベンチに並んで腰かけて。
 街を歩く人々や、楽しそうなカップルの姿を見ながら、2人は他愛もない話をしていく。
 空を飛ぶ、鳥たちの事。
 路肩に咲いている花の事。
 それから……。
「そういえば、フリューネの悩み……。今回もお返しのことで、ちょっと悩んでる?」
 リネンがそう問いかけると、フリューネは軽く眉を寄せた。
「ううん、私からは特にあげてないし、悩んではいないんだけど、誘ってくれる人はいるから……迷いは少しあるかなあ」
「そっか……。それとなくヘイリーたちに相談してみたんだけどね……全然参考にならなかったわ……」
「何だって?」
「ヘイリーは『そんなもんガツンと言ってやりゃいいのよ、拳で!』っていつもの調子だし、フェイミィは『みんなまとめて愛してやりゃいーじゃん?』て……あのエロ鴉は、もう……!」
 リネンの言葉に、フリューネは笑みを浮かべる。
「うん、みんなまとめて愛してる! でもそれじゃ、相手も周りも納得してくれないでしょうからね」
「そうよね」
 うんうんとリネンは頷く。
「で、リネンはどう思う」
「え、私? 私は……その……フ、フリューネに好きな人がいるなら、遠慮しなくても……いいと思う、けど……」
 問われたリネンは、複雑そうな顔で俯いていく。
「けど、なにかな? というか、リネンは交際申し込まれたら、即付き合っちゃう人?」
「え! わ、私!? 私はそんなそういう事言ってくれる人なんか……胸ばっかり大きい、し……暗いし……」
「でも、実際のところ、リネンと付き合いたい人って、結構いると思うわ。世の中には、胸の大きな女の子大ッ好きな人、たっくさんいるから! あ、リネンの魅力が胸だけってわけじゃないわよ、念のため」
 笑顔で言うフリューネ。
 リネンは顔を赤らめながらこくんと頷いた。
「ちなみに、リネンの好みのタイプは?」
「好みの、タイプ……」
 突如、リネンの頭の中に、パートナーの姿が思い浮かぶ。
「だ、ダメ! 女の人はダメ! 私、ノーマルだから! フェイミィもフリューネも、そんな目でなんか見てないから!」
「なるほど、気になっている子がいるみたいね」
「違う、違うんだから……」
 リネンは真っ赤になってぶんぶん首を横に振った。
 フリューネは声を上げて、笑いだす。
「ごめんごめん。リネンはノーマル。リネンはノーマル〜。フリューネ覚えた! ふふ……なんかこういう話をするのも、結構楽しいものねー」
 言いながらも、フリューネはまだくすくす笑みを浮かべていた。
 もおっと、赤くなったままリネンは言って、フリューネからもらったクッキーを一個、口に運んだ。
 甘くてとても美味しい。
 フリューネの笑みと、クッキーの美味しさに。
 リネンの中に、幸せな気持ちが広がっていく。