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リアクション
■ 天使の杜 ■
ネージュ・フロゥ(ねーじゅ・ふろう)が高天原 水穂(たかまがはら・みずほ)を連れてやってきたのは、古都鎌倉のとある場所に建てられた屋内霊園『天使の杜・こども陵苑鎌倉』だった。
「ここにねじゅちゃんの大切な人がいるのですか?」
「うん。ここは、あたしの日本での親友だった子、すずちゃんが眠る場所なんだ」
水穂に頷くと、ネージュはこども陵苑鎌倉の建物を見上げた。
地球にいた頃、ネージュには大親友がいた。それがすずだ。
数年前、ネージュがパラミタに渡ってしばらくして、すずは病気でこの世を去った。パラミタにいたネージュは結局、すずにお別れも出来なかった。
その後、すずの母親からペンダントが届いた。卵形の淡い黄色い石が入れられた、羽根飾りの枠がついたペンダントだ。
同封されていた手紙にはこうあった。
『ネージュちゃん、すずと友だちでいてくれてありがとう。このペンダントはすずからの最後の贈り物。だからあの子に会いたいときには忘れないで持ってきてね』
「このペンダントがすずちゃんに会う為の鍵になってるみたいだね」
ネージュはフランがあらかじめメールしておいてくれたお参りの手順を確認して、首からペンダントを外した。それを参拝室の受付端末にかちっとはめこむ。
すると受付機にすずの名前が表示された。
確認ボタンを押して、待つこと数分。
カーテンの奥から、薄紫のリボンが結ばれた大きな桃色の卵が載った、可愛い羽根飾りの厨子が出てきた。
「この卵の中にいるんだね……すずちゃん……」
「ここに眠っているのは子供たちだけだそうですから、こういう可愛らしい演出をしているのでしょうね」
水穂はそう言いながら周囲を見回す。建物の内装もやさしいパステルカラーに彩られ、お墓というイメージからは遠い。
お参りするときだけ、コンパクトなお墓が機械で運ばれてくる。それが水穂にはぴんと来なくて、これでは落ち着いて眠っていられないのではないかと、他人事ながら気になった。
厨子が中央に運ばれ、止まった……そのとき。
『 ねじゅちゃん。来てくれてありがとう 』
いきなり聞こえてきたすずの声に、ネージュは思わず音源を探した。
さっきまですずの名前が表示されていた受付機に、今はすずの顔が映し出されている。その背景は恐らく病院。
そう、これは……すずからネージュへの最後のビデオメッセージだった。
『 ねじゅちゃん、一緒にパラミタに行く約束守れなくてごめんね。
でもこれからは私、いつもねじゅちゃんと一緒にいるよ。
ありがとう、短い間だったけど、とってもとっても楽しかったよ 』
病気で少しやつれていたけれど、すずは微笑んでいた。
ネージュは声をあげて泣き出した。涙が止まらなかった。
病気が治ったら一緒にパラミタの百合園女学院に通おうと、すずと約束したことが思い出される。
先に行って待ってるね。
そう言ったネージュを、がんばってねと送り出してくれたすず。
思い出を1つ蘇らせるたびに新たな涙が溢れてくるネージュを、水穂は何も言わずにそっと抱きしめてくれた。
「すずちゃん……すずちゃん……っ……」
ネージュは泣きながらすずの名を呼び続けた。
ひまわりの花が供えられた礼拝台。厨子の手前に置かれた額縁の中、はにかんだ笑顔のすずの写真は、そんなネージュをずっとやさしく見つめているのだった――。