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精霊と人間の歩む道~イナテミスの精霊祭~

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精霊と人間の歩む道~イナテミスの精霊祭~
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リアクション

 
「大ババ様、エリュシオン帝国にはイルミンスールよりも優れた魔法技術があるって聞いたけど、イルミンスールも結構色んなこと魔法で実現してるよね? 優れた魔法技術って、具体的にどんなのかなぁ?」
 アイスを頬張るアーデルハイトへ、カレンが目をキラキラさせながら質問を重ねていく。元々好奇心が強く、魔法を極める修行をしているカレンにとって、その辺りは最も気になる点なのだろう。
「そうじゃな……個々で見れば、それほどイルミンスールとエリュシオンに差はない。じゃが、エリュシオンはイルミンスールが個人レベルでしか行えぬものを、不特定多数の者が行えるようになるだけの技術を確立しておる。イルミンスールのものとは比較にならぬ魔力集積炉など、とにかく規模が段違いなのじゃ。であるからこそ、あれほど広大な土地を支配しているとも言えるな」
 技術そのものについては、ある程度のレベルまで極めれば、それ以上は大きな差を生むことはない。そこからはより大規模、より効率的な技術の運用が求められ、それをいち早く達成した国家がより強大な力を持ち、より広大な土地を支配することが出来るのである。
「ふ〜ん、とにかくおっきいんだね! あ、おっきいで思い出したけど、エリュシオンにはイルミンスールの10倍近くある世界樹があるの? 名前はえっと……イグドラシルだっけ」
「言語によって多少読み方が異なるから、それもまあ正解じゃ。私らはユグドラシルと呼んでおる。樹齢数万年、樹高1万メートルのパラミタ大陸最大の世界樹じゃ。エリュシオン帝国の首都にもなっとる」
「はぁ〜……イルミンスールでも十分おっきいのに、それ以上におっきい世界樹があるんだね〜」
 カレンの質問に答えたアーデルハイトに、葵が感嘆の表情で頷く。
「他にも、カナンの『セフィロト』、マホロバの『扶桑』、コンロンの『西王母』……やはりこれらは樹齢数万年、樹高数千メートル級の世界樹じゃ。イルミンスールはそれらに比べると、雑草扱いなんじゃよ」
「雑草言うなですぅ! ……覚えてろですぅ、いつかもっともっと大きくなって、そいつらぜぇんぶ見下ろしてやるですぅ!」
「……あのー、大ババ様? 今まで他の世界樹の話をしちゃいけなかったのは、それが理由?」
 エリザベートの恨みのこもった物言いにカレンが問うと、アーデルハイトは苦笑交じりに答える。
「それも理由の一つではあるのじゃが、まあ、私としては、おまえたちに無用な気を揉ませたくなかったのもあるのう。他の世界樹のことも、物語の表舞台に上がってこんかったら、知る必要はないのじゃよ。そのようなものに気を取られておるよりは、個々の魔法習熟、イルミンスールの魔法技術向上に努めていた方が建設的じゃろ。……ま、結局のところは上がってきてしまったがの。それについては一度講義の機会を作らねばな。カレン、今後とも魔法の修練を怠るでないぞ」
 アーデルハイトの言葉にカレンが元気よく頷いたところで、代わりにジュレールが言葉を発する。
「世界樹のことは理解したが……今後イルミンスールは帝国とどう対するつもりなのだ? ただでさえ王国が西と東に分裂して争っているというのに、このままで本当に大丈夫なのか?」
 はぐらかすことを許さないかのようなジュレールの表情に、アーデルハイトも彼女の意思を尊重した答えを返す。
「……確かに、シャンバラ王国が不完全な形で成立したのは、私らの責任じゃ。イルミンスールとしては不用意に西シャンバラ、特に蒼空学園には手出しせん。向こうの生徒にも不用意な対立を避ける動きがあるようじゃから、この街でその活動を保護してやることも検討しておる。『精霊指定都市』の成立も、エリュシオンとのことを見据えてのものじゃな」
「はいはーい、結局イルミンスールと精霊との関係ってどうなってるんですか〜?」
 葵の問いに、アーデルハイトがエリュシオンの精霊のこと、エリュシオンの精霊との対立の可能性が、シャンバラの精霊を『精霊指定都市』成立に向かわせたことを説明する。
「うーん……なんか複雑な話だね〜」
「まあな。……正直、精霊の態度、そしてこの街の態度は私らにとって予想外じゃった。今では彼らにすまなく思うぞ」
「……大ババ様にいつもの腹黒振りが見られない……アイスの食べ過ぎで白くなったのかな?」
 話を聞いて葵が頭を抱え、アーデルハイトの態度にカレンが首をかしげる。
「後は、『ロイヤルガード』もそうじゃな。各学校から精鋭を集め、シャンバラ王国を守る組織を作り上げる。……確か初期メンバーは学校の推薦で決められるはずじゃったが、カレン、おまえ入っとった気がするぞ」
 突然の話に、カレンとジュレールが面食らう。
「ま、どうなるかはまだ分からんがの。そういう話もあるかもしれん、とだけ思っておけばよい」

 その頃、食べ物の店を一人練り歩いていたイングリット・ローゼンベルグ(いんぐりっと・ろーぜんべるぐ)は、席の一つに陣取って料理を頬張っていたモップスを発見する。
「モップス、見つけたにゃー! この前は負けたけど、今度は負けにゃいんだからー!!」
 宣戦布告を受けたモップスが皿から視線を外して、イングリットを見据えて自信ありげに呟く。
「いいんだな。ここしか出番のないボクに、勝てるはずがないんだな」
 
 そして……モップスの宣言通り、リンネのパートナーでありながらここしか描写の機会が与えられなかったモップスの負のエネルギーの前に、イングリットは二度目の敗北を喫したのであった。
「も、もうダメにゃ〜……」
「ま、ゆっくり休むといいんだな。まだお祭りは続くんだな」
 余裕の笑みを――結局いつもと変わらない顔だが――浮かべたモップスが、ふとリンネのことを思う。
(……リンネがロイヤルガードに組み込まれることになれば、今まで以上に忙しくなるんだな。リンネは何でも自分でやろうとしちゃうから、苦労が絶えないんだな。……ボクの他にも、リンネを助けてくれる人ができればいいんだな)
 どれほどくたびれた格好に見えても、やはりモップスはリンネのパートナーとして、リンネを気遣っているようであった。

「……う〜ん……ハッ!? ……あ、あれ? リンネちゃんどうしてここに――」
「目が覚めましたか? よろしければ紅茶をどうぞ、頭がすっきりしますよ」
 声に気付いてリンネが目の前のテーブルを見ると、鮮やかな色の紅茶がグラスに注がれていた。
「わ〜い、いっただっきま〜す。……うぅ〜ん、冷えてて美味しいっ!」
「そうですか、それはよかったです」
「……わ! 博季ちゃんいつからいたの!?」
「……って、気付いてなかったんですか。いえ、たまたま通りかかったらリンネさんがぐっすりと眠ってましたので、もし何かあったら危ないかなって思ったので」
 音井 博季(おとい・ひろき)の言葉に、リンネが納得したように頷く。
「そっか〜、そういえばリンネちゃん、フィリップくんを案内してここに戻ってきて、すっごく疲れたところまで覚えてるんだけど……寝ちゃったんだね。博季ちゃん、ありがとね」
「そ、そんな、僕はただ、忙しそうなリンネさんのお力になりたかっただけで……」
 リンネに満面の笑みを向けられて、博季が慌てて視線を逸らす。
「……うん! リンネちゃんふっか〜つ! フィリップくんにはアーデルハイト様が付いてるし、リンネちゃんはお祭りを見に行こーっと!」
 立ち上がり、壇上からぴょん、と飛び降りたリンネが、振り返って博季を指して口を開く。
「何してるの博季ちゃん、早く早く!」
「えっ、僕もですか!?」
「もちろんだよ!」
 自分を指す博季にリンネが頷き、そしてやって来た博季の手を取って、リンネが駆け出す。
「わ、ちょ、ちょっとリンネさんっ!?」
 握られた手から伝わる柔らかな感触に、博季は自らの顔が紅くなっていくのを感じていた――。

「わ〜い、色々買ってもらっちゃった〜。本当にいいの、博季ちゃん?」
「ええ、いいですよ。リンネさん色々考えたり準備したりして、今まで精霊祭を楽しめなかったでしょうから」
 両手に食べ物を、頭には精霊を模したつけ羽根をつけたリンネの隣に立って、博季が周囲を改めて見回す。人も精霊とが手を取り合い、笑顔を浮かべてこの平和な一時を共有している。
「また精霊祭が出来て、本当によかった」
「うん、そうだね〜。大変なこととかいっぱいあったけど、みんなの楽しそうな顔見てると、頑張ってよかったな、って思うよね」
 その後しばらく、二人並んで祭を見学する。
「……博季ちゃん。もし、ロイヤルガードになれって言われたら、博季ちゃんならどう思う?」
「え? ロイヤルガードってあの、各学校がそれぞれ人員を出し合って、シャンバラ王国を守る組織を編成する、それですよね。うーん……なれって言われるってことは、それだけ信頼されてるってことですから、期待に答えられるように頑張る……ですか?」
 果たしてこの発言でよかったのだろうかと思いながらの言葉に、リンネは振り向いて答える。
「……うん、そうだよね。何か色々あるけど、頑張ってやればきっといいことになるよね。……不思議だな〜、博季くんにそう言われるととっても納得できる。きっと博季くんも頑張ってるからだよね」
「……そんな、僕なんてまだまだですよ。今だって――」
「あっ! あっちで何か面白そうなことやってる! 行ってみよっ!」
「ああっ、リンネさんっ、急がなくても逃げませんってば」
 リンネに再び手を引かれながら、博季は今のリンネとの会話のことを思い返していた。