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空賊たちの物語

 2025年春。
 一冊の本がツァンダのロスヴァイセ邸に届いた。
 それは地球から届いた本だった。
 タイトルは『HIGHLANDERS』
 著者はラン・エクルベージュ
 リネン・ロスヴァイセ(りねん・ろすヴぁいせ)の生みの親だ。

「なんだか恥ずかしい……というより、懐かしいわね。自分の事なのに、他人事みたい」
 リビングのソファーに腰かけて、リネンは恥ずかしげに微笑んだ。
 隣には、伴侶の{SNL9998958#フリューネ・ロスヴァイセ}の姿がある。
 本の表紙には、リネンとフリューネの姿が描かれており、中には彼女たちを始めとしたタシガン空峡の空賊たちの物語が記されている。
 描かれているのは、空賊たちが隆盛をほこっていた2020年頃から、去年頃までのリネンとフリューネを中心に扱った冒険小説だ。
「……これ、忠実に描かれてるわよね。実際に見たみたいに」
「え? そうかな」
 ラン・エクルベージュはリネンの生みの親だが、当時親交はなかった。
 リネンは売られた子だったから。
 再会したのは、リネンがパラミタで有名になり、インタビュー番組などに出演するようになってからだ。
 母がリネンを見つけて、連絡をしてきた。
 リネンの今の生き方を母は心配のあまり否定し、そんな母をリネンは受け入れる事が出来なかった。
 だけれど、母はリネンを諦めなかった。
 和解するために彼女のことを調べていき、そして彼女の冒険を本にまとめたのだ。
 今、リネンとランは和解し、話が出来る程度の仲にはなれていた。
「今とは全然違うリネンの姿が描かれてるわ。胸を痛めながら書いたんじゃないかしら」
 序章にはフリューネと出会ったころのリネンが描かれている。
 犯罪組織に調教された過去を持ち、リネンは全くの無口、無感情の戦闘少女であった。
「それが今では……っ」
「あっ、何するのよ、フリューネ! あはははは」
 フリューネが脇腹をくすぐると、リネンは声を上げて笑った。
 過去の自分なら、絶対にしない反応。でも今は、相手が彼女なら自然に出る表情だった。
「そうそう、空賊団も大型飛空艇一隻も持たない弱小勢力だったのに」
「はあ……思い返すと、よくここまでこれたなあ」
 フリューネがページをめくり、リネンが覗き込む。
 挿絵に描かれている別人のような自分も、ページをめくっていくと、今の自分に近づいていく。
「ほんと、おかしな話よね。フリューネみたいな空賊になりたい、自由に生きたいって言ってた娘が、今になって足抜けに四苦八苦とか…」
 本に書かれている話は、ほぼ自分が体験してきたことなのに。
 作り話のようにさえ思える。
 行き当たりばたりで、矛盾だらけになってしまうこともあった。
 でもそれも全て、フリューネと一緒に生きたいという願いから。
 本当に作り話のように、めまぐるしく周囲も自分さえも色々なものが変わっていったけど、その願いが叶っただけで幸せだった。
「私が変わった時、いつもフリューネがいたわ。フリューネがいたから、変わりたいって、前に進みたいって思えたの」
 本を閉じた後。
 リネンはフリューネを見詰めた。
「だからきっと、これからも……」
「ええ」
 フリューネはリネンの腕を掴んで引き寄せて抱き留め、励ますように背を叩いた。
「あなたも、あなたの心も、空を、自由を求めていて、それが叶ったのね。その手助けができたのなら、私も嬉しいわ」
 温かなフリューネの温もりに、リネンは強い安心感を覚える。
 そっと抱きしめて、身体を預けた。

 これからも、一緒に幾多の空を飛ぼう――。