リアクション
「いらっしゃいませー」 ミニチャイナからすらりと生足を出した久世 沙幸(くぜ・さゆき)に唐突に出迎えられて、ジガン・シールダーズがきょとんとした。 「食堂? ……問」 絵を見に来たのではなかったのかと、ザムド・ヒュッケバインが訊ねた。 「いや、ここは展示室のはずだろ。大勢の人の気配がするから来てみたんだがよ、どこかで勘違いしちまったのか?」 訳が分からなくて、ジガン・シールダーズが首を捻った。 「それ以前に、なんで、私がいるんだもん!?」 隣にやってきた久世沙幸本人が、驚きの声をあげた。 「ほほほほほほほ、面白いことになっていますわね」 すでに中華料理店と化した展示室の中で、いつのまにかちゃっかりとテーブルについて正座していた藍玉 美海(あいだま・みうみ)が満足そうに言った。 「どういうことですの、美海ねーさま」 久世沙幸が詰め寄る。 「なんでもありませんわよ。パラミタの思い出という展示会が開かれるというので、以前描いていただいた絵を展示しただけですもの。でも、さすがはパラミタですわ、とても面白いことになってますわね」 「面白いを通り越してるでしょ!」 まったく動じない藍玉美海に、久世沙幸が突っ込んだ。 確かに、この程度でびっくり仰天していては、パラミタで暮らしていくことなんかできないかもしれない。とはいえ、おかしいことはおかしい。 「とりあえず、何か食うか」 さっきのサンタといい、もう慣れたとばかりにジガン・シールダーズが座布団の上に胡座をかいた。 「食……許可?」 ザムド・ヒュッケバインが呆れる。 「だって、あっちでも、注文している奴らがいるぜ」 そう言って、ジガン・シールダーズが他のテーブルを指し示した。隅っこの方では、チャイ・セイロン(ちゃい・せいろん)がのんびりとくつろいでいる。 別のテーブルでは、高島真理たちが集まっていた。 「わーい、御飯です」 ちょっとここに来た本来の目的を見失って敷島桜が喜ぶ。 「まあ、腹が減っては戦ができぬでござるからな。こんな所に食堂があったのも、一つの運でござる」 「そうですね……」 こちらもすでに食べる気満々の源明日葉に、南蛮胴具足秋津洲がうなずいた。 「仕方ないんだよね。キミ、注文を!」 とりあえず何か食べさせないと動きそうもないパートナーたちに、高島真理が手を挙げてチャイナ姿の久世沙幸を呼んだ。 「はい、ただいまー」 小走りに、久世沙幸が注文をとりに来る。 「おーい、こっちも頼むぜ」 「はい、少々お待ちを!」 ジガン・シールダーズにも呼ばれて、久世沙幸がちょっとあわてた。そそくさと高島真理たちの注文をとると、急いでジガン・シールダーズたちのテーブルへむかって走っていこうとする。 ところが、あまりにもあわてていたものだから、足がもつれた。 「いったあーいんだもん」 すってーんと転んだ久世沙幸が、あわや無人のテーブルに頭から突っ込みそうになって、ぎりぎり鼻先で止まった。突き出したお尻と蹴りあげた生足をクルリと返すと、床の上にぺったんとお尻をついてへヘっと照れ笑いを浮かべる。 「うおっ!」 それを見たジガン・シールダーズが、思わず声をあげた。 「何……要……解説」 どうしたのだと、ザムド・ヒュッケバインが訊ねる。 「いや、見えるはずの物が見えなかった……。いや、別に何が見えたわけでもないんだが、はっきりと何も見えなかった……」 「意味……不明……」 何を言っているのだと、ザムド・ヒュッケバインがジガン・シールダーズに言い返した。 「ちょっと、なんなんだもん、へへっじゃないよね!」 顔を真っ赤にして、久世沙幸が叫んだ。 「あーら、沙幸さん、どうかしまして」 何かあったのかと、平然と藍玉美海が答えた。 「今、もの凄い大事故があった気がするんだよ!」 「ええ、だからこそ、このシーンを描いてもらったんですわ。まさか、絵が立体映像で見られるなんて。堪能いたしました」 にんまりと、藍玉美海が言った。 もっとも、絵を描いてもらったのはずっと前のことであるから、今回の怪現象は偶然の結果ではあるのだが。 「手抜きをしちゃいけないんだもん!」 「それは、描いてくれたイラストレータに失礼ですわ。ちゃんと、ある物は描き、ない物は描かないでくださったはずですもの。……多分」 「ちゃんと穿いてたはずだもん」 久世沙幸が力説した。 「では、どんな物を穿いていらっしゃったのですか。さあ、言ってごらんなさい。さあさあ」 「そ、それは……」 藍玉美海に詰め寄られて、久世沙幸がたじろいだ。 「仕方ないですわね。では、確かめて参りましょう」 そう言うと、藍玉美海が、チャイナドレスの久世沙幸に近づいていった。 「確かめるって、何を……。ああ、美海ねーさま、だめえ!」 いきなりチャイナドレスの久世沙幸の裾をめくろうとする藍玉美海を見て、久世沙幸が突進した。ジガン・シールダーズたちや高島真理たちの視線が集中しているのに、何を確かめようというのだ。 「もちろん、穿いてない疑惑の検証ですわよ」 藍玉美海が、指先でつまんだミニチャイナの裾を持ちあげようとする。 「だめえ!」 久世沙幸が突っ込んでいった。勢い余って、藍玉美海とミニチャイナの久世沙幸に激突する。 「きゃあ!」 六本の足が高々と宙に舞い、そして四本になった。 ごろごろと転がっていった久世沙幸と藍玉美海の二人が、展示室の壁にぶつかって気絶する。 「まさに『鉄壁のガード』ですわねえ」 いつの間にやってきたのか、チャイ・セイロンが、二人の上に飾られていた絵のタイトルを見てつぶやいた。 ミニチャイナの久世沙幸が消えると同時に、中華飯店は展示室に戻っていた。 藍玉美海が出展していた件の絵の他にも、いろいろな絵が飾られている。こころなしか、メイドガイの絵が多いように見えるのは、気のせいだろうか。 |
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