空京

リアクション

■エリュシオン史の防衛

一方、そのころ。
パラミタパビリオンにて。

「ヒャッハァー！　ランジェリー・ラボ、オトナの夜の部だぜ！」

ランジェリー・ラボは深夜にもかかわらず、
煌々とライトアップされていた。

「どうしてこんな時間まで開けてるんだ！
営業時間はとっくに過ぎてるぞ！」

警備員が走ってきて、止めようとするも。

「深夜にパンティーが必要になったらどうするんだよ！
ノーパンでうろうろするのかァー！？」

南　鮪（みなみ・まぐろ）が、反論する。

実際には、
パラミタパビリオンの防衛のため、
照明をつけておくという理由もあった。

「わしが幻の展示品なんじゃあ！」

土器土器　はにわ茸（どきどき・はにわたけ）は、
明らかに偽物だが、勝手に陳列されていた。

「わしがエリュシオン最古の埴輪なんじゃあ！」

自ら囮になり、敵を欺こうとする作戦であった。

その様子を横目に、紅色の和服姿の
メニエス・レイン（めにえす・れいん）は、
緋桜　ケイ（ひおう・けい）とともにエリュシオン史の防衛に参加していた。

この着物は、ケイのパートナーの
悠久ノ　カナタ（とわの・かなた）が、普段着ているのと同じものである。

２人は昼間から万博会場を見て回っているが、
メニエスを見て、一般の人が怖がらないようにという、ケイの配慮でもあった。

メニエスのパートナーのミストラル・フォーセット（みすとらる・ふぉーせっと）は、
いつでも呼べる距離に下がらせている。

イルミンスールの教頭として、
生徒が警備しているのを見るのが、メニエスの目的である。

「あたしのものじゃないのを守るわけないじゃない……」

警戒するように確認してきた生徒には、メニエスはそう、退屈そうに答えた。

一方、ケイは、
自分が傍にいれば、何かあった時にメニエスの無実を証明できるし、
もし本当にメニエスが何かしようと考えたとしても、牽制することができると考えていた。

クレア・シュミット（くれあ・しゅみっと）は、
エイミー・サンダース（えいみー・さんだーす）とともに、
エリュシオン史に近づく者を捕えるための罠を設置しようとしていた。

「高速で動く獣のようななにか、ってーけど、
そんならそれで、『速く動いただけでは避けられない』ようなトラップを仕掛ければいいよな。
まぁ、速さ以外芸がないとは限んねーし、
それだけでどうなるかはわかんねーけど」

エイミーは、ネット状の罠を設置する。

そうしていると。

「エイミー！」

クレアの禁猟区が反応する。
その先では、罠を引きちぎって飛び出した何者かの影があった。

「来たな！」

アクセルギアなどで可能な限り早く動けるようにしたエヴァルト・マルトリッツ（えう゛ぁると・まるとりっつ）が、賊を捕えようと飛び出す。

パートナーのロートラウト・エッカート（ろーとらうと・えっかーと）は、別の場所で待機している。

展示品の柱の陰から飛び出してきたエヴァルトに、一瞬、相手が驚いたようなのが伝わる。
しかし、すぐさま、高速の影は移動してしまう。

「逃がさん！」

エヴァルトが、畳み掛け、ワイヤークローで縛りつけようとするが。

「メニエス！　やはり現れたな！」

ジェットドラゴンと偽龍翼で飛行する松平　岩造（まつだいら・がんぞう）と
ドラニオ・フェイロン（どらにお・ふぇいろん）が、着物姿のメニエスを見破り、攻撃しようとした。

岩造とドラニオは、メニエスの襲撃を警戒して、たいむちゃんタワーの防衛をしようとしていたが、
上空を飛行するうちに、パラミタパビリオンに入るメニエスを見つけたのだった。

「面倒なのが現れたわね！」

メニエスが魔法で応戦しようとするのを、ケイが制止する。

「止めろ！　攻撃しちゃダメだ！」

そこへ、

小鳥遊　美羽（たかなし・みわ）とコハク・ソーロッド（こはく・そーろっど）が、バーストダッシュで飛び出してくる。

「今はそんな場合じゃないわ！　エリュシオン史を守るのよ！」
美羽の叫びで、一同はハッとする。

エヴァルトから逃れた賊を、挟み撃ちで捕まえようとする
美羽とコハクだが、動きが早くて逃げられてしまう。

「アイシャとの大切な思い出だ！　奪わせはしない！」

リア・レオニス（りあ・れおにす）は、
騒ぎの中であっても、エリュシオン史を守る事だけに専念する。

レムテネル・オービス（れむてねる・おーびす）が、魔法を唱える。

「我は射す光の閃刃！」

まぶしい光で、賊への目くらましを食らわす。

高速で動く何者かは、逡巡したようなしぐさを見せたのち、踵を返した。

「待て！」

エヴァルトが追いすがるが、
相手はあっというまに暗闇の中に身を紛れ込ませ、
遠くへと走って行ってしまう。

そうした賊との攻防の最中にも、岩造とメニエスの間には緊張が走っていた。

岩造は、つかつかとメニエスに歩み寄る。
その間に、ケイが割って入る。

「どけ！」

岩造に睨まれ、ケイは強い視線を返す。

「メニエスは、今はイルミンスール魔法学校の教頭だ。
それに、イルミンのロイヤルガードである俺が同行している。
ならば、展示品の防衛にも参加できるはずだ」

「だが、そいつは犯罪者だぞ！
これまでにどれほどの事をしてきたと思う！」

ケイの説得に、岩造は厳しい口調で返す。

「ここで、ロイヤルガードが争うべきじゃないと思うわ」

ケイの友人でもあり、ロイヤルガードの美羽が言う。

「私も注意していたが、彼女は害意を示す行動をとっていない。
この状況で、ロイヤルガード同士が無用な騒ぎを起こすのは、得策ではないだろう」

同じくロイヤルガードの同僚である、クレアも、冷静に指摘し、
岩造は、不承不承、うなずく。

「……仕方あるまい。だがもし、少しでもおかしな真似をしたら、
その時は容赦しないからな！」

岩造はメニエスを睨みながら言った。

こうした騒動はあったもののエリュシオン史は、
防衛に参加した者の活躍で、
犯人にふれられることなく、防衛に成功した。

　――エリュシオン史――

　防衛　　成功！

■□■

落ち着いたのち、
ケイはメニエスと２人で休憩する。

「はい、これ」

ケイは、アムリアナの花嫁衣装を取りに行ったときの、
鏖殺博覧会のお土産を取り出す。
ネルザ、アイザック、バスパークのマスコットであった。

「鏖殺寺院のメンバーらしいけど……」

「……寺院のメンバーなんて今更興味ないわねぇ。まぁ、貰っておくわ」

メニエスは、受け取ったマスコットを見てつぶやく。

「ていうか、誰なのよこれ」

「あたしはネルザ。鏖殺寺院のネルザ・レストよ！」

マスコットを押すと、そんな声が響き渡り、緊張感が抜ける。
苦笑するケイに、思い出したように、メニエスが告げる。

「どうでもいいけど、ずっとあたしと居ると後々困るわよ。
貴方こちら側じゃないんだから」

ケイは、メニエスに向き直る。

「そのときは、そのときさ。
……でも、もし、そんなときが来たとしても、
俺はメニエスの味方でいるのをやめないよ。
……約束する」

先に視線を外したのはメニエスだった。

「本当、馬鹿ね」

ケイに聞こえるか聞こえないかくらいの声で、メニエスがつぶやく。

「え、何？」

聞き返したケイに、影が重なる。