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【秋のスペシャル】はーろーーーうぃーーーーーーーんっっ!!

リアクション公開中!

【秋のスペシャル】はーろーーーうぃーーーーーーーんっっ!!
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リアクション


●Dance the Night Away

 ここはダンスフロア。
 テーブルは最低限、代わりに四人組の弦楽団が、優雅にワルツの調べを聞かせる。
 耳を撫づその音色は、木や岩ですら踊らせるほどになめらかで、おいで、と手招きするような愉しさに満ち、ただ立って聴いているだけでも、無意識のうちに足でステップを踏んでしまうことだろう。
 輪舞曲(ロンド)は巡りダンスは回る。手を結び巡る恋人たち、これを眺める者たち、あるいは、踊り疲れ休息し談笑しあう人々……そのすべてが大きな輪であった。

 黒いベール、黒いドレスの貴婦人は、魔女と思わしきなまめかしさ、胸元には薔薇の花一輪、歩むたびにその紅も踊る。
「理事長、この人混みではぐれてしまうと合流が大変そうなので……」
 貴婦人は手をさしのべた。
 ベールの下のその貌(かお)は、誰あろう黒崎 天音(くろさき・あまね)だ。
 完璧すぎるほどに貴婦人を演じている。うっすら浮かべる笑みですら、妖しいほどの美しさだった。
 理事長と呼ばれた少年は、年の頃十四ほど、利発そうな瞳をしているが、その視線は同時に、刺すように鋭い。小悪魔的な風貌、見る者の視線を奪わずにはいられない美少年だ。
 少年はジェイダス・観世院(じぇいだす・かんぜいん)……そう、薔薇の学舎理事長たるジェイダスである。彼はある事件の影響で姿形が少年となってしまった。しかしその性格は変わらない。
「では遠慮なく」
 少年は貴婦人の手を取った。
 ジェイダスも仮装している。
 シルクハットを頭に、片眼鏡を顔に、そして身を、しわひとつないタキシードにくるんでいた。怪盗紳士といったモチーフである。その少年版といったところか。
 ダンスフロアを訪れた天音は、ごくさりげなく切り出した。
「一曲、ハロウィンの魔女と踊って頂けるかしら?」
「喜んで」
 ふっ、と少年は微笑(わら)った。その口調がまさしくジェイダスであった。
 両手を結び、貴婦人と怪盗紳士はワルツに身を任せる。
 いくらか天音のほうが背が高いのだが、息のあったステップはその違和感をすぐにぬぐい去った。
 ジェイダス、そして天音の姿を目にして、半仮面の男は静かに微笑んだ。
 すらりとした長身、茶色の髪、目を覆った翼のような半仮面は普段と同じ、されど今宵、ルドルフ・メンデルスゾーン(るどるふ・めんでるすぞーん)が袖を通したのは、やや古めかしいデザインの軍服だった。
 上背があるだけによく似合う。二十世紀初頭の欧州某国の将校といった趣である。
「ルドルフさんは何を着ても素敵だね」
「ありがとう。仮装といっても、衣装箪笥から引っ張り出してきた衣装に過ぎないのだがね」
 ルドルフはヴィナ・アーダベルト(びな・あーだべると)に顔を向けた。
「君の仮装もいい。気に入ったよ。一度くらいなら血を吸われてもいいかもしれないな」
「そんなこと言うと本気にしちゃうよ」
 半仮面の男は直接ヴィナの言に応えず、口元に笑みを浮かべるだけだった。
 ルドルフの言うように、ヴィナは吸血鬼に扮していた。闇そのもののような黒い装束、それだけに、彼の黄金の髪は普段以上に豪奢な印象を与えている。
 今夜、ルドルフとヴィナと二人で会場を訪れていたのである。
「娘にはハロウィンのお菓子をあげたりするけど、もう自分がもらう年齢じゃないなぁ」
 というヴィナの言葉があったためか、彼らの足は自然に、お菓子の交換をしている場所からダンスフロアへと向かっていた。
「ルドルフさんはお菓子はいいのかい?」
「私は甘いものは……」
 言いかけた彼の目の前に、ヴィナはそっとクッキーを差し出した。
「ジンジャー系の甘くないお菓子だよ。さっきもらったんだ。一緒に食べない?」
「さすが君は、僕のことをよく知っている」
 ルドルフはこれを受け取り、一口で食べた。彼はヴィナもクッキーを食べたのを見届け、そっと手を差し出した。
「せっかくだ。二、三曲踊らないか? 美しき吸血鬼くん」
 仮面の下にはどんな表情が隠れているのか、それはうかがい知ることはできない。
 しかしヴィナを誘うルドルフの唇には好意が感じられた。キャンドルの灯のような、やわらかな熱が。

「仮装、あまりしないのですが似合っているんでしょうか……?」
 ダンスフロアのすぐ横を神楽坂 翡翠(かぐらざか・ひすい)が歩みゆく。
 彼の扮装は、軽くアレンジしたオペラ座の怪人。黒のタキシードはマント付き。右目を仮面で隠していた。紫色の雫型のペンダントがアクセントだ。髪は一つに束ね、颯爽とされど音もなく歩く。
 翡翠は裏方に徹し、できたての料理を運んでいた。パーティ用の料理も、彼はみずからの腕を振るっている。
 現在運んでいるのはパンプキンパイ。パイ生地を色々な形にくり抜き、ホワイトチョコを入れて閉じ焼き、仕上げにパンプキンクリームを乗せたという手間暇かけた一品だった。食べてしまえばそれも夢だが、その一瞬を楽しむのがこうした料理の肝である。
 給仕が終わるとすぐ仮装をとき、料理を急いで仕上げるとまた仮装して給仕に行く――といった次第で、翡翠は今夜、大変忙しく過ごしていた。なにせ来客が多いので、息をつく暇もない。
 ルドルフが翡翠に気づいた。彼はヴィナと踊りながらタイミングを見て、そっと片手を上げて下ろす。ありがとう、という意を示したのだろう。
 翡翠は会釈で応じた。
「皆さん、楽しそうですね」
(「忙しいので、楽しむ余裕ないですね」)という言葉は飲み込む。
 だが彼は微笑した。たしかに大変な仕事であるが、人に喜ばれるというのはいいものだ。このとき、
「格好よくて美味しそうな給仕さん、食べちゃって構わない? もちろん、そのパイを、だけど」
 猫が甘えるような声で、セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)が翡翠に声をかけた。
 なんともセクシー、実に大胆な衣装のセレンフィリティである。
 水着衣装の魔女という設定なのだが、その黒いブラ、ショーツはランジェリーにしか見えない。
 純情な男子だと、とてもではないが直視できない姿だろう。実際、彼女が近づいてくると赤くなって俯いてしまう少年を方々で見た。
 今回、セレンフィリティの恋人セレアナは、国軍の公務でどうしても参加できない。ならば自分が目一杯楽しんで、この記憶を土産話とし、寝物語にでも聞かせてあげよう。そして、「行きたかったー」と悔しがらせてあげよう……そう彼女は考えている。
 呼びかけられた翡翠は足を止めて応じた。
「ええどうぞ、魅力的な魔女さん。遠慮無く召し上がって下さい。もちろん、パイの話ですが」
 翡翠もそこらへんは心得て、セレンフィリティの言葉に乗って盆を差し出すのである。
「ありがと」
「どういたしまして」
 翡翠とセレンフィリティの視線の間を、弦楽器によるメヌエットが流れていく。