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A Mad Tea Party

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A Mad Tea Party
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リアクション

 こうして彼女達の背丈をゆうに越える――或は彼女達が小さく縮んでしまったのか――キノコの森を歩いていると、身軽な動きのフレンディスがぴんと人差し指を路の先へ伸ばした。
「あそこにいる殿方はマスターの先生……睡眠言語の先生ではありませぬか!?」
 確かにそこに、ディミトリアス・ディオン(でぃみとりあす・でぃおん)が立っている。
「それも二人も!!」
「わっ、双子さんだよ!」
 ノーンが言うようにディミトリアスの隣に居るのは彼の兄アルケリウス・ディオンなのだが、フレンディスはまだ眉を寄せ
「分身の術とは手強さ二倍。
 一体どうすればあの睡眠魔法に打ち勝てるのでしょう……!」
 と、全く話しを聞いてくれない。
 アデリーヌの唇の端が若干ひくついている。一人ナーバスになっている彼女は、妙な世界に苛つき始めていた。
「その衣装、自前……な訳はないですよね」
 一方で、彼の友人である歌菜の方は、いつもの調子で二人へと近づくとその姿をしげしげと眺めた。何時も同じ格好をしている二人の物珍しい姿を、これは是非「あの人」に見せなければ、という熱意と共に、一緒に記念撮影を行う。ひとしきり撮り終えて満足した所で、漸く歌菜はその質問を思い出した。
「どうしてこんな所に?」
 その言葉に「巻き込まれたんだ」とアルケリウスが苛立たしげに言うと、ディミトリアスは「あんただって巻き込まれたんだろ」と眉を寄せた。
「俺たちは魂を切り分けて二人になったに等しい存在だが、認識において別個である以上、どちらのせいで、と論じるのは無意味だろう」
「認識において個別であるならこそ、俺がここにいるのはおかしいんだろうが。お前と同じものとして勝手に引きずり込まれたに決まってる」
 はたから聞いていて意味の判らないその会話に、フレンディスが頭を抱えた。
「はうっ、ステレオで催眠攻撃とは……! か、勝てる気がいたしませぬ……っ」
「……そんなものは出していない」
「いいや出てるね」
 フレンディスの言葉へのディミトリアスの反論に、アルケリウスが更に反論を返して、二人の間に微妙な空気が流れた。同じ顔が睨みあっているのは鏡を睨んでいるかのような滑稽な光景ではあるが、当人たちは真剣だ。
 それを壊したのはノーンだ。
「ええと、どっちがどっちかわからないから両方はじめまして!」
 元気な女の子に対して、成人男子二人で大人気ないこともしてはいられない。「はじめまして」とお互いが自己紹介をし終える頃には、すっかり空気は元に戻っていた。それに安堵して、さゆみが二人へと声をかける。
「それで……此処で何をしてるんですか?」
「現象を観測している」
「喧嘩してるのかと思っちゃった」
 答えるディミトリアスに、ノーンは首を傾げた。
「どうして言い合いをしていたの?」」
 続けたが、アルケリウスにとっては歌菜以外知らない相手だ。付き合う義理は無いとばかり無視を決め込んだ兄に代わり、ディミトリアスが応じた。
「観測点を変化させるために意見を反転させている。認識に直接作用しているのが興味深い」
 その物言いは講義中の彼そのもので、フレンディスは撃沈しかかっている。
「観測してたってことは、これが何なのか判ってるってことです?」
「概ねは理解している」
 続いて、さゆみが問いかけるのにディミトリアスが頷くと、アデリーヌがようやく手がかりにありつけるのでは、と「でしたら」と身を乗り出した。
「どうやったらここから出れるんですの?」
「此処からは、出るべき場所はない」
「じゃあ一生このままなの?」
 落胆に肩を落とすアデリーヌに代わってさゆみが問うが、ディミトリアスは首を振った。
「いや、認識において一生へは辿り着かない」
「どういうことですの? 出られないんでしょう?」
 段々と苛立ちをあらわにし始めたアデリーヌは首を傾げるが、ディミトリアスは尚も首を振る。
「出るべき場所がないだけだ」
「は?」
 アデリーヌとさゆみは思わず顔を見合わせてお互いに首を傾げあう。
「出る場所はないけど元には戻るの?」
「元には戻らない。時間は絶えず流れている。アキレスは永遠に亀に追いつけない」
 さゆみが不思議そうに首を傾げると、更に言葉は続いていく。フレンディスは既に限界だ。
「意味が分かりませんわ。結局どういうことなんですのよ!」
「否定すれば無く、肯定すれば存在すると言うことだ」
「謎なぞみたいだね!」
 複雑怪奇な物言いに、ノーンはただはしゃいでいるが、アデリーヌの苛立ちは既に臨界点を突破しようかという所で、思いきり眉を寄せて地団太を踏む。
「今聞いてるのはそういう事じゃないですのよっ!」
 そんなアデリーヌを他所に、そういえば、と思い出したように歌菜が口を開いた。
「所でツライッツさんを見ませんでしたか?」
「見てはいない。が、いるのは間違いない」
 相変わらず禅問答のようなディミトリアスに、さゆみは首を捻り、アデリーヌが声を上げようとしたが、それを遮って「まどろっこしい」とアルケリウスは舌打ちした。
「……いいから”振り返ってみろ“」
 その言葉に一斉に振り返ると、そこには丁度木の影から飛び出して来たツライッツの姿があった。
「……!?」
 皆が一声にこっちを見ているのに、何が起こったか判らないような驚いた顔をし、ツライッツは慌てて耳を抑えると、真っ赤な顔をしたままで、ばっと駆け出して行ったのだった。