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【海を支配する水竜王】その女…卑劣な声音

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【海を支配する水竜王】その女…卑劣な声音
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第10章 助けたい優しき思い

「うぅ・・・」
 電撃ロープを鞭代わりに殴られまくったアリアがようやく目を覚ます。
 度重なる拷問のせいで、少女の意識はまだはっきりとしていない。
「全然・・・・・・力が入らない・・・」
 天井につけられたレンズから魔力を吸収され、意識を失いそうになる。
「今日は鎖で殴ってやろうか?」
 鎖を手にしている兵がアリアの牢の中にやってきた。
「―・・・いっ、ぃやぁ・・・」
 アリアは首を左右に振り怯えた目をし、どんな目に遭わせられるのか恐怖のあまり身を震わせる。
「貴様、何のためにここへ来た?言わないともっと酷い目に遭わせてやるぞ!」
 ゴーストは手にしている鎖を容赦なく叩きつける。
「い・・・・・・言わない・・・そんなこと・・・」
「そうか、だったら殴られるしないよなぁあ?」
「来ないで、来ないでぇえ。痛い、痛いっ、やめて・・・きゃぁあーーっ!!」
 牢獄中に少女の悲鳴が響く。



「着づらいな。仕方ない、メガネを外すか」
 地下3階にいた兵の服を奪った四条 輪廻(しじょう・りんね)は、メガネを外し小部屋で着替える。
「はー、はー・・・うぅ、やっぱり眼鏡ないと緊張するけど、ばれたらダメだし・・・うん、大丈夫、やれる・・・やらなきゃ」
 泣きそうになりながらも、食事を乗せたトレイを持って地下4階へ降りる。
「大丈夫でござるか?」
 緊張している彼を見上げて大神 白矢(おおかみ・びゃくや)が心配そうに言う。
「な、何とか・・・」
 牢獄の前に行くと、牢の中につながれているアリアがぐったりとしている。
「おいおい、お前だけストレス解消はずるいだろ、俺にもやらせろ」
 兵の手から鎖を半ば強引に奪い、彼を牢の外から出す。
「いったようでござるよ」
 完全に牢の傍に離れたか、白矢が確認する。
 少女の身体すれすれの位置に鎖を叩きつけ、拷問しているフリをする。
「けが人に鞭打つようで悪いですが・・・残った貴女を助けるために、他の人はまた危険に晒されます」
 黙ったままのアリアに輪廻が話しを続ける。
「それに他の場所の戦力も低下します。自分が犠牲になれば・・・なんて、2度とやるなよ」
 輪廻はアリアに向かって怒気を含んだ口調で言った。
「・・・ご、ごめんなさ・・・い。ごめんなさい・・・」
 少女は謝りながら一筋の涙を流した。



 いったん1階に戻ったレイディス・アルフェイン(れいでぃす・あるふぇいん)はルーセスカに連絡をとり、行動をして貰うよう伝えた後に地下牢へ戻った。
 まだ施設の外へ救出出来ないと伝えた。
「見張りの兵がいますね。どうしますか?」
 ルイ・フリード(るい・ふりーど)は彼の方を向いて強行突破するかどうか聞く。
「問題はそこなんだよな」
「暗殺・・・しますか。ゴースト兵を」
「おいおい、物騒な手段だな。まぁ、成功法でいくならそれくらいしかないか。このまま放置しておくと危険だからな」
「助けてもらった恩を返すためにも、絶対に助けるのだよ」
 ブラックコートを羽織ったリア・リム(りあ・りむ)がスナイパーライフルを構える。
「後ろは頼みましたよ」
「えぇ、任せて」
 物陰に身を潜めながら四方天 唯乃(しほうてん・ゆいの)が片手を振る。
「こちらは準備完了なのです」
 エラノール・シュレイク(えらのーる・しゅれいく)も小声で返事をする。
「・・・ラズのことだ。おとなしく捕まっていても、何かしらやっているだろう・・・今は周りと協力して救出か・・・」
 捕まってしまったラズを助けようと、アシャンテ・グルームエッジ(あしゃんて・ぐるーむえっじ)も行動を共にしている。
「兵が数匹いますね」
 ルイは壁際に身を潜めて人数を数える。
 氷術で天井に手すりを作り、床を蹴って掴む。
 ターゲットの肩に飛び乗ると声を出されないように片手で口を塞ぎ、暗殺殺法のように脳天に刀を突き立てる。
 掴んだ兵の首をゴキンッと捻じ曲げて動けなくした。
 仲間がドサッと床に倒れる音を聞いたもう1人の兵が振り返る。
 声を上げる間もなく、リアのライフルに脳天を撃ち抜かれ、床へ脳漿を撒き散らす。
「騒がれると困るのよね」
 物陰に隠れていた唯乃が飛び出し、護国の聖域の聖なる気を纏った鉄甲で兵を殴り飛ばす。
「逃がさないのですよ」
 仲間を呼ぼうと廊下を走るターゲットの位置をロックし、エラノールがライトニングブラストを放つ。
「すげーっ、やるな〜!」
 手際の良さにレイディスは歓喜の声を上げる。
「ここが牢屋ね」
 牢獄の近くへやってきた唯乃は、看守がいないか確認する。
「騒がれると面倒だ。凍結させてしまおう」
 アルティマ・トゥーレの冷気で凍結させてしまおうとアシャンテが冷気を放つ。
「えーっと鍵は・・・あった」
「ピッキングじゃ開錠は無理か」
 アリアの牢を開けようとしたが、開かなかった。
「無理やり開けると、他の兵が来てしまうかもないぞ」
「あぁ・・・そうだな」
 レイディスはアシャンテから鍵を受け取り、アリアの牢の鍵を開けた。
「大丈夫でしたか?ラズ」
 返してもらった牢の鍵を開けてやり、アシャンテはラズを助け出す。
「うーん、やっと開放された」
 ようやくロープと鎖から開放され、ラズはぐーっと背伸びをする。
「生徒を助けるためだったからっていっても、あ・・・あんまり無茶するなよ」
 目のやり場に困りながらレイディスがアリアに言う。
「気をつけるわ・・・」
 少女は気力なく項垂れるように頷いた。
「私もそろそろ牢から脱出するか」
 ミューレリアはすでに開いている扉を開けて牢屋から出る。
「武器はないけど、それなりの技は持ってるから。何かあれば私も戦うぜ?」
「えぇ、そうしてくれると助かります」
「おうっ、任せてときな!」
 ルイに向かってミューレリアは自信満々に言う。
「今、牢から出してやるからな」
 輪廻は大怪我を負っている歌菜と黒龍の牢獄の鍵を開けてやる。
「待って、鍵を開けてくれるだけでいいわ」
「深手を負っているじゃないか!ほうっておけるわけないだろ」
「大勢で逃げると途中で誰かが捕まってしまうかもしれない。それに・・・幸姐さんたちが必ず助けに来てくれると信じているから」
「そうか・・・気をつけよう」
 ラズとアリアを助け出した輪廻たちは牢獄から出た。
 レイディスがアリアを背負い、アシャンテがラズを背負い上の階へ上がる。
「武器を確保したいところだけど、手当てが先だな」
 ミューレリアは傷ついたアリアを見て言う。
「ここで手当てをしましょうか」
 3階の廃材置き場に隠れ、ルイたちがアリアの応急処置をする。



「おろーん・・・怪しいなぁ・・・。ひぎゃぁああ!?」
 壁際の直径3mmの丸い放電装置をつっついた佐々良 縁(ささら・よすが)が感電する。
「何やって言っているのよすが」
 あまりの無用心さに佐々良 皐月(ささら・さつき)は深いため息をつく。
「コント担当は陣くんだけでいいから」
「そんな、ただ調べようとしただけなのに。一緒にしないでよ、げほっ」
 髪の毛を焦がした縁は口から煙を吹く。
「救出しやすいように、ひと暴れしますかね」
 ブラックコートで気配を隠し、リュース・ティアーレ(りゅーす・てぃあーれ)は地下4階の牢獄を作る資材を破壊する。
 騒動に気づいた兵たちが地下5階から駆け上がる。
「牢獄を作る素材が他にもあるかもしれませんね」
 同じような目的で破壊行動をしようとしている赤羽 美央(あかばね・みお)がそれを見てニヤリと笑う。
「美央、ミーたちのところに多数の敵兵が迫ってイマース!」
 危険が迫っているとジョセフ・テイラー(じょせふ・ていらー)が騒ぐ。
「オーッ待ってくださいヨ〜」
 先に進む美央の後を慌てて追う。
「(喉がからからなノニ。酷いデース)」
 休ませようとしない美央に、ジョセフは心の中で叫んだ。
「てめぇらか?騒いでいるやつは」
 ジョセフが背後から襟首を乱暴に捕まれる。
「は、離してクダサイ〜!!」
「貴様らもこのあたしに、氷漬けにしてほしいかぁあ?」
 突然現れた女は、寒氷陣の中にジョセフと美央を陣の中へ閉じ込めた。
「あなたが董天君ですか?」
「だったらどうする?」
「ふふふっ、ちょっと戦ってみたかったんですよ!」
「無謀なガキだな」
「私がただのガキか、試してみるといいですっ」
 アイスプロテクトを美央自身とジョセフにかけ、氷系の術の耐久性を上げる。
「戦うしかないのデスネッ」
 董天君に向かってジョセフが火術を放つ。
「あーっははは、氷漬けになれ!」
 向かい風の吹雪を溶かせず、逆に美央は溶けた雪を被ってしまう。
「くぅっ」
 武器と盾によるファランクスの守りと、ディフェンスシフトで素早くジョセフの前に駆け寄り守る。
「術と術による効果くらい考えておけよ!やっぱガキはこんなもんかぁ〜?」
「(術1つで吹雪を消し去れるほど甘くなかったですね。ジョセフが凍り漬けになってしまうところでした)」
 雪の中を走り、雪の中に隠れて攻撃の隙を窺う。
「(やっぱりここは足元を狙います!)
 近くまできた瞬間に、美央がランスバレストの一撃を放つ。
「甘い甘い♪なかなかいい案だったが、途中でSP尽きるなんてなぁあ。あーっははは!」
 彼女の一撃が槍で受け止められてしまった。
「そ、そんな。もう・・・SPが・・・」
「ちゃーんと技を使いすぎて倒れるなんてなぁ、ちょー笑えるっ」
 術を解き美央とジョセフを捕縛し、兵に牢獄へ連れて行かせた。



「兵たちが慌てているようですね」
 牢から引き離そうとわざと、リュースは破壊行動を繰り返す。
「誰か・・・捕縛されてしまったようですが」
 階段の裏側に隠れ、捕縛されている生徒たちの姿を見つけた。
「1人ゴーストじゃない人がいますね、あれは誰でしょう・・・」
 目を凝らして灰色の髪の女を見ると、彼女はリュースが隠れている方へ振り返る。
「こっちに気づいたんですか!?」
 女はゆっくりと階段を降り、辺りを見回す。
 ため息を1つつくと、階段を登っていく。
「(気づかなかったみたいですね)」
 リュースはふぅっと安堵の息をついた。
「遊ぶ対象はまだとっておくか」
 それだけ言うと、女はそこから離れていった。
「今の言葉・・・オレが隠れていることに気づいていたんでしょうか。だとしたら・・・そのうち仕掛けてこられるかもしれませんね」
 嫌な予感がし、冷や汗を頬に流した。



「よし、侵入しやすくなった!」
 縁はアシャンテが氷漬けにした看守を飛び越え、黒龍と葛葉の牢獄の前に立つ。 
「さって、天くんお迎えきたよー」
 すでに鍵は輪廻に開けてもらっているため、牢の扉を開けることが出来た。
 仲間たちを拘束しているロープと鎖を、葛葉が光条兵器で切る。
「・・・・・・ってカナちゃんっ!」
 牢の扉を開けた瞬間、縁は驚愕の声を上げる。
「ありゃ・・・だいぶ危険な状況だねぇ」
「歌菜!貴方まで捕まっていたのですか!?ああ、なんてひどい・・・」
 島村 幸(しまむら・さち)は歌菜の元へ駆け寄り、ぎゅっと抱きしめる。
「ちょっと・・・大切な人を守っただけですから」
 痛みに耐えながら彼女は無理やり笑ってみせる。
「よくもここまで無茶をしたものです」
「すみません、心配かけてしまって」
「ようやく拘束から開放されたか」
「そうだね・・・・・・ぇっ。なんかすごい殺気を感じるけど。気のせい・・・かな?」
 ブラッドレイとリヒャルトは幸の殺気を浴びてビクッと身を震わせる。
「そんなに大勢で・・・逃げたら・・・捕まってしまう・・・・・・」
 大怪我を負った者たちを守りながらでは捕まってしまうと言い、足手まといにはなりたくないからと、自分は置いていけというようなこと言う。
「私のことは・・・構わなくていい、と・・・・・・」
 自分を背負う葛葉に、構うなと言う。
「死、に・・・たか、・・・・・・った、のか」
「そういう訳、・・・ッ、・・・では・・・・・・」
 命を諦めるのかと言われた黒龍はブンブンと首を左右に振る。
「俺、は・・・パートナー、・・・と、して・・・お前を、守る。それ、が・・・剣、の・・・花嫁と、しての・・・・・・役目、・・・だから」
「・・・、・・・そう、か・・・」
 黒龍は抵抗せずに、葛葉に大人しく背負われる。
「さ、長居は無用。急ぎますぞっ!」
 異変に気づいた兵が来ないうちに出ようと、ガートナ・トライストル(がーとな・とらいすとる)が急かす。
「他の人たちが結構、倒していったのかな?」
 縁たちは地下3階から地下2階へと登る。
「この部屋は誰もいないみたいですぞ」
 重症の彼らを手当てするためにガートナが入れそうな部屋を探す。
 ブラッドレイの身体に入り込んだ銃弾を取り出す針を消毒しようと、幸はガートナと協力して火術と氷術でお湯を作る。
「イッてぇ〜!」
「動かないでください!傷が広がったらどうするんです!そんなに死にたいんですか?」
 幸はムッとした顔で言う。
「そんなに死にたいならここで解剖されてみますか・・・くくくっ」
「いっいや・・・簡便してくれ・・・・・・」
 諦めてブラッドレイは我慢することにした。
「一応、縫合しておきましたけど。これが終わったら、ちゃんと病院へ行きましょうね。いいですね?分かりましたか!?」
 幸の威圧に各自こくりと頷いた。



「なーんか、敵の人ってちょう余裕満々っぽいよね」
 ニコ・オールドワンド(にこ・おーるどわんど)は不満そうな顔をする。
「あのニコさん?こんな方法で本当に大丈夫なんですか」
 鏖殺寺院の制服を着たユーノ・アルクィン(ゆーの・あるくぃん)が心配そうな顔をする。
「ちょっとお礼にプレゼントをあげてくるだけだよ。くふふっ」
 不敵な笑みを浮かべる。
 緩い結び方でロープで巻かれ、ニコは捕まえられているフリをする。
「視察に来た寺院の生徒。脱獄囚を捕まえた」
 ユーノは簀巻きしたニコを抱えて牢屋の前へ行く。
「うわーん、助けてー」
 もちろんニコのほうは捕まっている演技をしている。
「姚天君と董天君は実は敵視しあっている」
 見張りの兵たちはユーノの情報攪乱に首を傾げた。
「姚天君が天井に着けさせたレンズには、実は生きている者にしかそれと分からない方法を使い、牢屋の兵士たちを監視する機能もある」
 腑に落ちないという顔をする兵に、ユーノはさらに言葉を続ける。
「生徒を逃がした兵士は、董天君の手先として厳重に罰せられる」
「(くふふっ、どよめいてるね)」
 互いに顔を見せ合い、どよめく兵を見てニコは含み笑いをする。
「なお、一部の兵士にしか伝えられていないが、董天君を殺した兵士には、姚天君から褒美があるとのこと」
 兵は顔面を蒼白させてざわめく。
「無理だ、一瞬でくたばる!」
「(ちぇっ、度胸がないな)」
 口を尖らせてニコはつまらないという顔をする。
「レンズが今、正常に働いていないので、今のうちに一度取り外すべきです」
 一気に喋ったユーノはふぅっと息をついた。
「―・・・なぁ、レンズをつけるようにいったのは董天君様のほうだったよな?」
「あぁそうだったはずだ」
 互いに指示されたことを兵たちが確認し合う。
「おい・・・いつ、姚天君様の指示でレンズをつけろといったんだ?」
「そっそれは・・・・・・」
「いつだ?」
「間違えたかもしれません。あははは・・・あれー確認して来ますね」
 ニコを抱えたまま、全速力でユーノは地下3階へ戻った。