百合園女学院へ

薔薇の学舎

校長室

波羅蜜多実業高等学校へ

KICK THE CAN2! ~In Summer~

リアクション公開中!

KICK THE CAN2! ~In Summer~
KICK THE CAN2! ~In Summer~ KICK THE CAN2! ~In Summer~

リアクション


・Bカップを馬鹿にするヤツはBカップの谷間に挟まれて窒息死してしまえ!

「うーん、いい天気ー!」
 天沼矛から出たエミカ・サウスウィンド(えみか・さうすうぃんど)は、大きく伸びをした。
 夏の晴れた空の下、彼女はピンクと黒を基調としたセパレートタイプの水着とサンダルを合わせている。どうやらエレベーターで降りてすぐに着替えたらしい。右手には彼女のお馴染みの武器である紫電槍・改が起動していない状態で握られている。
「だけど、やっぱり猛暑なだけあって朝から暑いねー」
 ここ数年、温暖化の影響か猛暑日が続くことが多い。日本の領海にある海京の気温とて例外ではなかった。
 だからこそ、水着かろくりんピックユニフォームなのだろう。エミカなりの熱中症対策といったところか。
 それなら別にユニフォームにこだわらずスポーツウェア全般をOKにしてもよさそうなものだが、本人としては缶蹴りという名目で人を釣りつつも、海水浴とろくりんピックの雰囲気を同時に味わいたかったという事だろう。スポーツウェアなら体育館にでも行けという話らしい。
「もうそろそろ守備側も準備を始めてる頃かなー?」
 あと三十分で、開始時間だ。エミカはPASD用に新しく導入したスマートフォンを手に取り、全体にメールを送信する。
「で、俺様はどっちに行けばいいんだ?」
 その横で、王 大鋸(わん・だーじゅ)がエミカに尋ねた。
「えー、ヒャッハーしたい方に行けばいいと思うよ」
 適当に答えるエミカ。ここまできたら好きにすればいいとでも言いたげである。
「よっし、んじゃールールかっくにーん!」
 改めて、事前告知していたルールを提示する。

1.海京のエリアは分けは、東西南北の4つだよー。
2.守りの人数は(MC換算で)最大20人。どのエリアに何人置くかは、守りの人達にお任せ。
3.服装は基本的に、水着かろくりんピックユニフォーム。武器は一つだけ。ただし、服に隠せるものやアクセサリー系なら持っててもいいよー。
4.スタートエリアは任意で決めて。一箇所を一気に攻めるもよし、それぞれ均等に割り振って撹乱するもよし。
5.捕まっても復活は出来ないから、頑張ってねー。
6.守備側の人は攻撃側の人をタッチすればオーケーだよー。普段は100mルールってのがあるみたいだけど、今回はなしで。
7.武器による「直接攻撃」は禁止だよ。スキルも、武器を使わなければいけないのはものによっては反則になるから注意してね。
8.制限時間は5時間、午前9時から午後2時まで。


「おっと、それから……」
 念のため、彼女は一文加えておく。

大原則:「攻撃側をその目で見つけた」守備側の人が、缶まで戻って踏み、名前をコールすれば捕まえた事になる。

 もはや日本ではわざわざ説明するまでもない、暗黙の了解である。だからこそルール表記の際に記さなかったのだが、意外にも缶蹴りを知らない者が多かったのである。
 まあ、ローカルな遊びといえばそうなのだから仕方がない。
「あとは、お互いの顔が分からないと困るよねー。今日の朝の時点での、攻撃と守備のメンバー表送らないとね」
 もう一度操作し、現段階で把握している参加メンバーのリストを全員に送る。なかには実際の学籍とは異なる(そもそもパラ実に至っては学籍があるのか)人もいるため、あくまでも申告されたものではあるが。
「よっし、と。ノインさーん、コリマ校長ー、よろしくー!」
 続いて、開始に先立って海京全体を特殊な結界が覆い始める。一種の回帰術式が組み込まれているらしく、これによって、例え街に損害が出たとしても、結界の効果でゲーム終了後には元通りになるらしい。
 さすがに今のノイン一人では参加者平均レベル40、しかも120人以上を影響下に置く結界を張るのは困難だ。全盛期の彼女なら別だが。
 そこで、コリマの、正確には霊体である彼のパートナー達の魔力を借りて補っているのである。
(こんなもので大丈夫だろう)
 どこからともなく、コリマのテレパシーが聞こえてくる。
 彼は常に都市全体を超能力で監視しているので、何をやろうとも筒抜けである。そんな彼にとっては、今回のは本当に大した問題ではない、ただの契約者達の戯れに過ぎないのだろう。
 もしかしたらその中で、現在の契約者の力を確かめようという意図があるのかもしれないが。
 
「エミカさーん!」
 エミカと大鋸の背後から声を掛けたのは、如月 正悟(きさらぎ・しょうご)だ。
 どうやら彼女達の次の便で海京に到着したらしい。
「やほー、正悟君。どしたの? もうすぐ始めるよー」
「うん、分かってるよ。俺は攻めに行くけど、エミカさんは……まだここにいるってことは、攻撃だよね?」
「そうだよー。で、王ちゃんが守備」
「あ、さっき好きにしていいっつわなかったか!?」
「ま、流れであたしが攻めることに今したから。はい、じゃあ行った行った」
 とりあえず守備側に大鋸を追いやろうと、紫電槍・改を起動する。さっさと行かなきゃ電流流すぞ、ということらしい。
 こういう気性な人が多いから空京大学が「パラ実空京分校」などと言われてしまうのである。実際パラ実卒の人が多いのも事実だが。
「また、えらいゴツイ武装を持って……紫電槍・改はやばくない?」
「これ、出力調整出来るから大丈夫。見た目はこれでも、護身用のスタンガン程度まで落とせるし」
「でも、よく持ち込めたね」
 天沼矛を利用する際には武器は全て取り上げられる。武器は一つというのは、事前申請をしても運べるのが、一人一つまでという制約があったためだ。エレベーター内でのテロ対策である。
「起動してなければただの棒にしか見えないからねー」
「まあ、そうだけど……わっ!!」
 話しながら一歩踏み出そうとすると、わずかな段差に引っかかって正悟が転びそうになる。
 咄嗟にエミカの身体を掴んで、何とか地面にぶつかるのを防ぐ。むしろ、前のめりになったためせいで、顔がエミカの胸元にうずくまる形で止まる。
「…………?」
 顔を上げ、正悟は違和感に気付いた。不可抗力であったとはいえ、そこにはあって然るべき柔らかさ、質感というものが感じられなかった。
「……なに?」
 まじまじと見つめらるエミカはきょとんとしている。そして彼の視線は彼女の胸に送られていた。
「あ、これは……なるほど、そういうことか。晒が無理なわけだ」
「ぶつぶつと何言ってるの? 転んだせいでおかしくなっちゃった? 君はまともな人だと思ってたのに……」
 じっ、と真顔で正悟がエミカと目を合わせる。
「もっと胸を張りなよ」
 右手をユニフォームのポケットに突っ込み、正悟はエミカの掌の上にそれを差し出した。
「正悟君……」
 彼はエミカを慰めるように、ぽんと彼女の肩に手を置いた。
「頑張れ」
 それ以上、正悟は語らない。おっぱい党党首である彼は全ての女性(乳を持つ者)の味方だ。それ以上は言葉はいらない。あくまで紳士的に、女性と接しただけだ――紳士的に胸パッドを渡しただけだ。
 だが……

「デストロイ・モード、起動」
 
 エミカからひどく冷たい声が発せられた。
 大気が揺れている。紫電槍・改はそれ自体が稲妻であるかのように、真昼間でも分かるほどの強力な光を放っている。
 それだけではない、空気中に漂う電磁波さえも取り込み、その威力はもはや護身用のスタンガンどころではなかった。むしろ直撃したら人間など体細胞ごと蒸発してしまうのではないかというレベルだ。
「ちょ、エミカさん、それ洒落にな……」
「Bカップをバカにするなーーーーっっ!!!」
 怒りのあまり、なぜか自分のバストサイズを暴露してしまうエミカ。
 彼女の叫びの直後、爆音が大気を揺るがした。
 午前九時。
 その音と、朝の日差しの下でも分かるほどの雷の閃きが、ゲームの始まりを告げた。