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【おとこのこうちょう!】しずかがかんがん! 前編

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 第5章 未来の自分を探して

■□■1■□■ 過去と未来の邂逅

「え? ホントにあたし……?」
ミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)は、未来の自分を見て呆然とした。
「ちゃんと栄養を取るんだよ。キミたちは大事な労働力なんだ」
スラムの人々に、食料を渡しながら、未来のミルディアは言う。
「ああ、やっぱあたしだ……」
現在のミルディアは、その様子を見てうなずく。
未来のミルディアは、
スラムの人々に、食料の無料配布と、働き場所の斡旋をしていた。
しかし、食料は余りもののような粗末なもので、
働き場所も過酷な労働を低賃金で行わせているのだった。
「でも食いっぱぐれるよかマシだろ?
 宦官の連中には感謝してるよ。
何せ下界との貿易を認めてもらったんだから。
 その代わり兵器やら何やら、
宦官の連中が欲しがってるモンは優先して仕入れてるよ。
あいつら金払いはいいし、ホント宦官さまさまだよな。
 この世の中、キレイごとだけじゃやってけないんだよ」
現在のミルディアに、未来のミルディアは言う。
「ねえ、この時代のあたしは武器とかたくさん持ってるんでしょ?
 一緒に過去から来た人も未来の人と
レジスタンスを組んで戦うって言ってるから装備は必要だし、
未来では過去とは違う兵器や防具があるかもしれないから!
お願い!」
現在のミルディアに頼まれて、未来のミルディアは言う。
「まぁ、過去のあたいがわざわざ訪ねて来てくれたんだ。
宦官の連中もそろそろ鼻についてきたし、
宦官をやっつけるってんなら、その達成に対して後払いで貸してやるか。
いいな、貸すだけだぞ!
お前が死んだらあたいも消えちまうんだからな!
ちゃんと返しに来いよ!」
(……やっぱ根っからは悪くなってないよ、あたし)
 現在のミルディアはそう思った。

★☆★

(ヴァイシャリー以外全部沈没って事は!
軍も海軍中心になってるって事よね!
あれ? 何か私にとっては理想郷?)
そんなことを考えてやってきたローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)だったが、
自分が死亡していたことを知り、愕然とする。
しかし、その時期と、静香が権力を握った時期が重なることに不信感を抱き、
ローザが調査をした結果、
空京大学近くの
「Cafe―Ristorante Verny」にたどり着いた。
「ランチメニューのカレーが神がかってるって、学生たちの間で人気なんですってね」
ローザは、店主の、
20代後半、黒髪黒眼の眼鏡を掛けた雀斑(そばかす)の地味な女性に言った。
時折、食堂には、明らかに堅気ではない筋の人物が訪れて
封書を人知れず置いて行く姿が見えた。
「行きましょう」
店主の女性は、ローザを車に乗せて、空京郊外に連れ出した。
途中で左側のウインカーを点滅させながら右折して、
細い路地を入り追手をまく素振りを見せつつ、店主の女性は、人気のない場所にやってくる。
店主の女性がフェイスマスクを外すと、
艶やかな金髪が現れた。
「特殊メイクね」
「ええ。名前と姿を変えて潜伏し、機会を伺っていたの」
現在のローザに、未来のローザは言う。
「エレーンルナが……娘が、
ヴァイシャリーに居るのよ……。
高等教育を受けさせると言いながら実際は体の良い人質でしかないわ。
あの人に似て、芋ケンピが好きな、私の最愛の娘なの」
未来のローザの一人娘は、百合園におり、事実上の人質になっているというのである。
「私が事を起こせば奴等の事、
必ず娘に危害が及んでしまう……。
どうしたらっ、どうしたら、いいの……?」
ためらっていることを伝えた未来のローザを、現在のローザは叱咤する。
「この世界を変える力は貴方しか持っていないのよ!
しっかりしなさい、
“元シャンバラ王国海軍司令長官”ローザマリア・クライツァール!」
未来のローザは、現在のローザを見つめる。
現在のローザは続ける。
「私は、この世界のローザマリア・クライツァールを騙り、
 腐敗する体制下で堕落した軍の現況を憂う将校……かつてのあんたの同僚や部下……を主軸に、
海軍を中心として秘密裏に決起する為の算段を整えてきたわ。
必ず救いましょう、この世界も、あんたの……私の娘も」
二人のローザは手を取り合い、決起を誓うのであった。

★☆★

サレン・シルフィーユ(されん・しるふぃーゆ)は、
レジスタンスの人々が活動しやすいよう、スラムの一角で暴れていた。
「人々が助けを求めていれば過去だろうと未来だろうと、
 正義のヒロイン、ラヴピース、ここに参上ッス!!」
その隙に、【紅桜】達、レジスタンス組織が活動できるようにという作戦であった。
「アクセルパンチ!」
ラヴピースのパンチで、塀が崩れ穴が開く。
「被害の方が大きい気がするッスけど、気にしたら負けッス!」
「この時代の私は元気だったわねえ」
「こ、この声は!」
ラヴピースが振り返ると、未来の自分がいた。
未来の自分は、髪を伸ばして、色っぽい服装をしている。
「怪我をした一般人の人達を、私のスナックに連れて行きましょう」
「了解ッス! ……スナック?」
未来のサレンは、正義のヒーローを引退して場末のスナックのママをやっているのだった。
しかしスナックのママは仮の姿、
裏ではレジスタンスに情報や物資の提供を行う協力者として奔走しているのである。

★☆★

(この人外魔境の未来において、“私”は何をしているのでしょうか?
 ダーク静香様に取り入りしたたかに生きているのか、
逆にこの世の中に対応出来ず凋落してしまっているのか。
いずれにせよまずは“私”を探さなくては始まりません)
志方 綾乃(しかた・あやの)は、貴族街で、
「こんな顔の人を見かけませんでしたか」
と聞いて回った。
しかし、もちろん、大多数の人は「知らない」と言う。
やがて、貴族街とスラムの境目で、
綾乃は、子ども達の声を聞いた。
「わーい、コタツ女だー!」
「コタツ女が来たぞー!」
「ひもじいよー、ひもじいよー……げふうっ」
そこには、半壊しているコタツに入り、ゆっくりと移動している未来の綾乃の姿があった。
貴族の子弟が、未来の綾乃を蹴飛ばして遊んでいる。
「これこれ、コタツで生活している人をいじめてはいけませんよ」
現在の綾乃が止めて、未来の綾乃は助かった。
「この“未来”に行き着くまでに、“私”はどんな経緯を辿ってきたんですか?」
お土産を肴に、現在の綾乃は話を聞く。
路上で二人の綾乃が、ぼろぼろのコタツに入って話し始める。
「今の私は、スラム街に住んでいます。
 家はなく、暖房機能は死に、
辛うじて壊れかけの自走機能が残ってるコタツの中で暮らしています。
 あまりに長い間コタツに潜り続けていたため既に体は萎え、
もはや自力で立ち上がることすらできません。
 お腹が減ったら、
「ひもじいよー」と言いながら貴族地区を練り歩きます。
お金が溜まったらご飯を買って食べて、
コタツと自分の消耗を抑えるため、
お腹が減るまで雨風と寒さを凌げる場所でじっと寝てます。
またお腹が減ったら「ひもじいよー」と言いながら……」
「無限ループですね」
「今の状況を「志方ない」と思いながらも、
緩やかに死へと転がり落ちるこの生活のままではいけないという気持ちと、
じゃあ自分に何が出来るんだという諦観の気持ちがごっちゃ混ぜになってます。
 私、いったい、どうしたらいいんでしょうか……?」
「……私があなたに贈る言葉があるとすればこれだけです。 
本当にあなたがやりたいことをやればいい」
現在の綾乃は、覇気のない未来の自分を見つめて、そう言った。

★☆★

「逆賊だー!
 逆賊が通るぞ!!」
そこに、市中引き回しの刑罰を受け、破廉恥な服を着せられ、全身に調教の跡をつけられた、
未来のリネン・エルフト(りねん・えるふと)が連れられてきた。
未来のリネンにつけられた首輪には木札が下げられ、
そこには【『シャーウッドの森』空賊団】の徽章の上から
「私は静香様に逆らった愚かな肉人形です」と殴り書きされている。
リネンは義賊【『シャーウッドの森』空賊団】としてレジスタンス活動を続けていたが、
有名になりすぎて静香達に目をつけられ空賊団は壊滅した。
そして、見せしめとして奉仕奴隷・性奴へと調教され、市中を引き回されているのである。
「こ、これが、私の未来の姿だというの……!?」
現在のリネンは、その様子を見てつぶやく。
「やめて! こんなことは……」
現在のリネンとともに、二人のサレンも現れた。
「ラヴピースはこのようなあくぎゃくひどう……
 あれ、あくぎゃくひどうでいいんスよね?
 と、とにかくゆるさないっス!」
「悪逆非道であってるわよ」
未来のサレンが現在の自分にツッコミを入れる。
現在より賢さが上昇しているのであった。

★☆★

現在のリネンとラヴピースにより、未来のリネンは救出された。
「過去の私……。
 義賊なんかしているから、こんな目にあわされるんだわ。
 これ以上、続けるのはやめなさい……」
「……それでも、私は空賊団をやめないわ。
……未来を恐れて、今を後悔したくない、から」
死んだような目で説得する未来のリネンに、現在のリネンは言う。

「困ってるみたいだね。
 キミ達、あたいが面倒見るよ」
未来のミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)は、
未来の綾乃と未来のリネンに言う。
「労働するんなら、食事も約束する」
「本当ですか!?」
未来の綾乃は大声を上げる。
「あたし達、レジスタンスとして活動してるの。
 お願い、一緒に協力してくれない?」
現在のミルディアも言う。
「まあ、それでも一応、支援するよ」
未来のミルディアは言い、
「わかりました、目の前のご飯が一番大事ですから!」
未来の綾乃は本心を口にした。
「私は……」
「一緒に来ない……?
 私とあなたの世界がパラレルワールドなら、
あなたが過去にくることだって……。
平和な世界で、やり直す事だってできるはずじゃ……」
未来のリネンに、現在のリネンは言う。
それが、本当にできることなのか、確証はなかったが。
未来のリネンの瞳は、少しだけ、活力を取り戻したように見えた。