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学生たちの休日5

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    ★    ★    ★
 
「さあ、ここが空京デパートの婦人服売り場ですよ!」
 視界全部を埋め尽くす衣服をぐるりと指し示して、水橋 エリス(みずばし・えりす)が叫んだ。空京で一番大きな空京デパートの、ワンフロアまるまるが婦人服で埋め尽くされている。
「いや、そう言われても、主。私にどうしろと言うのだ?」
 ちょっと戸惑いながら、夏候惇・元譲(かこうとん・げんじょう)が言った。
「もちろん、惇姐さんの服を選ぶに決まってるんだよね」
 ニーナ・フェアリーテイルズ(にーな・ふぇありーているず)が、それ以外の選択肢はないと答えた。
「べつだん、今の装備で、不満は……」
「装備なんて言っちゃだめです。服です。おしゃれです。勝負服です。女の子はもっとエレガントに。おしゃれすれば、きっと恋人も喜びますよ?」
 水橋エリスにそう言われてしまうと、強行に嫌がることもできない。引っぱられるままに、夏候惇・元譲は試着室に入っていった。
 さすがに大デパートの試着室は広い。三人が入っても充分動ける広さがある。
「いろいろと見繕ってきたよー」
 ニーナ・フェアリーテイルズが、籠に入った服の山を持って戻ってきた。
「さあ、脱いで、脱いで」
 色気のないヴァンガード強化スーツを着ている夏候惇・元譲に水橋エリスが言った。
「ううむ……」
 軽く唸りながら夏候惇・元譲が服を脱いだ。中身はたっゆんですばらしいプロボーションなのに、着ているのが厚手のスポーツブラにショーツでは、あまりに色っぽくない。
「そこからでしょうか……」
 水橋エリスが、ニーナ・フェアリーテイルズの持ってきた色とりどりの下着をとっかえひっかえ夏候惇・元譲に着させていく。
「こんな見えない物を……」
「甘いですよ。見えない所から始めなくてはだめなんです」
 渋る夏候惇・元譲を説き伏せて、水橋エリスが七色の下着を着せ替えていった。
「これで、彼氏も一週間はいちころです。さて、本命の方ですわね」
 水橋エリスが、ニーナ・フェアリーテイルズの持ってきた服を次々に着せていく。
 夏候惇・元譲は身長が高いので、たいていの物は意識しないでも簡単に着こなせる。女性としては、うらやましいと言うか、ちょっと小憎たらしいところだ。
 まずは無難なところから、各学校の制服というところだが。イルミンスールの制服は、一挙手一投足ごとにゆったりとした袖やマントがふわりと翻り、なんとも神秘的に見える。蒼空学園の制服は、ちょっと子供っぽくすぎて今ひとつと言ったところか。逆に、パラ実のセーラー服は、見るからに貫禄のある姐御といった感じだ。教導団の物はハマりすぎてちょっと怖い。天御柱学院の物は、また今までとはまったくの別人に見える。百合園女学院はまたちょっと子供っぽすぎて似合わないか。明倫館の物は、意外にぴったりイメージがあってちょっと驚く。
「これで、いつでも転校できますね」
「主をおいて転校などするわけがないであろう」
 冗談はよしてくれと、夏候惇・元譲が言った。
「また持ってきたよー」
 そこへ、ニーナ・フェアリーテイルズが戻ってくる。
 今度は、魔女の短衣に純白のドレス、チャイナドレス、巫女装束、メイド服、執事服、サンタの服、浴衣、バスケットのユニフォーム、テニスウェア等々がてんこ盛りになっている。
「わーい、色っぽくなったんだもん」
「これは、ないであろうが」
 魔女の短衣を着た夏候惇・元譲が、さすがに恥ずかしいとすぐに脱ぎ始めた。
「洋装はあれですが、意外と和装は似合いますね」
 巫女服に着替えさせながら、水橋エリスが言った。
「もう好きにしてくれ。それで、これ全部買うつもりなのか?」
 諦めの境地の夏候惇・元譲に言われて、水橋エリスとニーナ・フェアリーテイルズはちょっと引きつった笑いを浮かべて互いの顔と財布を見合わせた。
 
    ★    ★    ★
 
「みんな、たのしそーれす」
 試着室の中から聞こえてくる水橋エリスたちの嬌声に、林田 樹(はやしだ・いつき)の背中のリュックに入った林田 コタロー(はやしだ・こたろう)が楽しそうに言った。
「ちょっと待て、行きたい所があるからと言うのでついてきたが、なんで婦人服売り場なんだ。ジーナの服なら、自分で選べるであろうが。私はゴスロリはさっぱり分からん」
 ツーリングに行く寸前だった林田樹が、ライダースーツ姿のままでジーナ・フロイライン(じいな・ふろいらいん)緒方 章(おがた・あきら)に言った。
「ええ、ここです。そろそろ樹様にもファッションに目覚めてもらわないといけませんので」
 にんまりと、ジーナ・フロイラインが、小悪魔的な笑みを満面に浮かべた。
「あー、帰る。ジーナ、帰るっ!! 断じて帰るぞ、私は!!」
「今日は徹底的にコーディネートさせていただきますわっ! さ、あんころ餅っ!あんたは左側持ってくださいまし!」
「へいへい。言われなくてもしますよー。僕だって綺麗な樹ちゃんは見たいもんね」
「なんで両脇から押さえ……こら、帰る〜っ!!」
「……ってことで、ごめんねー樹ちゃん。我慢してねー、すぐ終わるから」
 がっしりと両脇から押さえ込まれた林田樹が暴れようとする。
「あのー、お客様、他のお客様に御迷惑がかかりますので、店内での乱闘は……」
 さすがに見かねて、店員がやってくる。
「ほら、怒られちゃったでしょう。さあ、観念して試着室に行きましょうね」
 シュンと押し黙った林田樹をずるずると引きずって、二人は試着室に入っていった。林田樹が逃げ出さないように緒方章が見張っているうちに、ジーナ・フロイラインがこれはと思う服を集めてくる。
「樹様はせっかく丸みのあるボディラインをお持ちなんですから、それを生かして、丸みのあるデザインを選ぶべきなんですっ! ほら、襟ぐりが丸く開いている物とか、ボトムもフリルのきいている……」
「ちょっと待て、丸みを帯びたという表現はどうなんだ。この引き締まった身体に余分な肉はないであろうが」
 ジーナ・フロイラインの言葉に、思わず林田樹が反論する。聞きようによっては、ころころと太っているみたいではないか。
「よぶんなおにくぅ?」
 林田コタローが、ちょっと不思議そうに林田樹のたっゆんな胸を見て小首をかしげた。
「ふむ。カラクリ娘の言うことも一理あるが、色味が樹ちゃんに合わなくないか? 顔の作りがはっきりしている樹ちゃんだと、中間色系はぼけて見えるよ。そのデザインにするなら、この色でもこっちのパターンで……。模様は花柄よりも幾何学模様にすると……」
 緒方章が、別の服を集めてきて、コーディネートをしなおす。
 結果、丸い襟ぐりにビーズの刺繍をあしらった薄い水色のカットソーに、ロイヤルブルーを基調とした三色の幾何学模様のフレアスカートという出で立ちの林田樹が完成する。
「こ、これでいい……のか? ああ、くらくらする。に、似合っているんだろうな……多分……」(V)
 自分では判断つかずに、林田樹がつぶやく。
「餅ぃ、このスカート、なかなかやりますねぇ。配色がばっちりでやがるじゃないですか」
「そう言うカラクリ娘の選んだトップスも、なかなかいいんじゃない? ビーズの刺繍って、綺麗に見えるしね」
 ジーナ・フロイラインと緒方章が二人で自画自賛する。すでに本人はおいてきぼり状態だ。
「ねーたんきれー。きれーれすね、きれーれすね、じにゃ! あき!」
 何を言っているのかよく分からないが、林田コタローも気に入ったようだ。
 もともとスラックスばっかりでスカートの一枚も持っていないという林田樹のことで、スカート姿そのものがいたく斬新でまったくの別人にすら見える。
「ってことで、樹様、これ買いますよ! 次は靴選びです」
「うん、賛成。買ってお持ち帰り〜。さっ、次、次っ!」
 ここでの作戦は終わったと、二人が移動をうながす。
「分かった、レジに行って支払ってくる。着替えるから暫し待て」
 もう完全に諦めた林田樹が、試着した服を脱ごうと手をかけた。
「何言っているんですか? 着たままですよ!」
 敢然とジーナ・フロイラインがそれを妨害して叫んだ。
「え? このまま? タグはどうするんだタグは! こ、コタロー! 私は、どうなってしまうんだあっ!」
 いくらなんでも、値札とかは外させてほしいと、林田樹は現在唯一の良心とも言える林田コタローに助けを求めた。
「ねーたん、きがえらめーって。こたもそーおもうれす。きれーなねーたんのまんまがいいれす」
 役にたたない。
「待て、お前たち、いいかげんに……」
「さあ、次ですよ!」
 わめく林田樹を、ジーナ・フロイラインと緒方章が、問答無用で引きずっていった。
「う? う?! ねーたん、ないじょーぶれすか?」
 放り出された林田樹の服をバッグに詰めると、林田コタローはあわててその後を追いかけていった。