薔薇の学舎へ

波羅蜜多実業高等学校

校長室

葦原明倫館へ

秋の夜長のパジャマ&コリマパーティー

リアクション公開中!

秋の夜長のパジャマ&コリマパーティー
秋の夜長のパジャマ&コリマパーティー 秋の夜長のパジャマ&コリマパーティー

リアクション

「ところで、サクラさんにちょっと訊きたい事があるんですけど。聡さんの事、心配じゃないんですか? ナンパしてるって聞いたから……」
 火村 加夜(ひむら・かや)の問い掛けに、サクラは「心配」と不思議そうな目を向けた。
「何も心配する事なんてありませんよ。だって、聡は必ず私の所に帰ってくるもの」
 あまりに自信満々なサクラの答えに、流石に気圧された加夜は「は、はぁ……」と頷くしかなかった。その傍では、天貴 彩羽(あまむち・あやは)が彼女たちの会話に耳を澄ませている。
「逢えない時とか、不安にならないんですか? 私はついやきもちを焼いちゃって」
 それでも、加夜は疑問気に問いを重ねた。サクラはと言えば僅かな戸惑いも見せる事なく、「なりませんね。聡さんの心には私しかいませんから」ときっぱり言い放つ。
「そうなんですか、羨ましいなぁ……」
 彼女の盲信にツッコミを入れるでもなく、加夜はほうっと天井へ視線を持ち上げた。それからようやく彩羽の視線に気づくと、慌てたように表情を引き締める。
「あ、あなたは気になる男性はいるんですか?」
「気になる男性? ……そうね、山葉涼司とか気になるかも」
(教導団でもイコンパイロットの天御柱でもない生徒を戦争に駆り立てる悪として、私の敵だし)
 彩羽の内心を知る由も無い加夜は、共通の話題を見付けた安堵と興味にぱっと表情を輝かせる。
「それで、何かアクションを掛けたりはしたんですか?」
「アクション? どうすればいいかしら」
(ハッキングで資産の切り崩し?それとも情報操作で日本との信頼関係破壊とか?)
 恋の話とはかけ離れた彩羽の思考に、しかし加夜が気付くことは出来ない。
「そうですね、まずは仲良くなるところから……」
 頬を淡く上気させて語り始める加夜の言葉を、彩羽は逐一ティ=フォンにメモしていた。そう、彼女がこの場を訪れたのはあくまで一般的な女子学生である契約者の心情や思考を研究するためだった。
「アドバイスになるのか分かりませんが、諦めずに好きな人を想い続ける事って大事ですよね。私も片想いを続けて……」
「続けて?」
 加夜の続きを促すように、彩羽が問い掛ける。加夜は耳朶を薄桃色に染め、「今は幸せです」とはにかみながら答えた。
「そう、幸せなのね」
(片想いが成就すると幸せになるのも、普通の女性と同じみたいね)
「はい! あの、聞いてくれてありがとうございます」
 完全に擦れ違ったままの二人の会話は、しかしその事実を誰も知らないままに弾んでいくのだった。


「え、マイナが倒れた?」 
 驚いたように目を丸めたネージュ・フロゥ(ねーじゅ・ふろう)の視線の先、舞衣奈・アリステル(まいな・ありすてる)を引き摺るようにして運んできた結衣奈・フェアリエル(ゆうな・ふぇありえる)は困ったように頷いた。そのまま「ボクは男の娘部屋に戻るね」と去っていく結衣奈を見送り、ネージュは舞衣奈の肩を軽く掴んで揺さぶる。
「マイナ、聞こえる?」
「う、うーん……?」
 暫し呼び掛けを続けていると、ようやく舞衣奈の目が開いた。ほっと安堵の吐息を漏らすネージュへ、舞衣奈はきょとんと疑問気な目を向ける。
「あれ、ボク……?」
「大丈夫? マイナ。倒れたって、ユウナが運んで来たけど……」
 不思議そうに室内を見回していた舞衣奈は、ネージュの言葉に双眸を丸める。
「な、なんでボクをマイナちゃんの名前で呼ぶの!?」
「え、どういうこと?」
 困惑した様子のネージュに答えず、舞衣奈はある直感に導かれるまま自分の体へ視線を落とした。
 そこには、当然ながら舞衣奈の衣服に包まれた体がある。
「ボク、ユウナだよ! それにここ、女の子の部屋ってことは……」
「マイナは男の娘部屋にいるってこと!?」
 そんな二人の驚きの声が届く筈もなく、結衣奈の格好をした舞衣奈は弾む足取りで廊下を辿っていた。
「ふっふっふ……取り替えばや男の娘、なのですよ」
 彼女の目指す先にあるのは、当然ながら男の娘部屋。結衣奈の制服と髪飾り、そしてブルーのカラーコンタクトを身に付け、髪をツーサイドアップにして完全に入れ替わった舞衣奈は、懐からおもむろにスマートフォンを取り出す。
「成程、とりかえばやで男の娘部屋潜入とな。面白そうじゃな」
 スマートフォンの液晶に浮かび上がるのは、庵堂楼 辺里亜(あんどうろう・ぺりあ)の姿だった。楽しげな笑みを浮かべた辺里亜は、自信満々と言った様子で胸を張る。
「そういうことなら、わらわも協力するのじゃ! わらわの主を含めた女の子達も、別の意味で秘密に包まれた花園を是非見てみたいと思っているじゃろうしのう!」
 辺里亜の言葉と同時に、スマートフォンが自動で静音カメラを起動する。
 頷き返してにやりと悪戯な笑みを浮かべた舞衣奈は、差し足忍び足で男の娘部屋へと向かっていく。
 遂に部屋の扉へ手を掛けた瞬間、そんな彼女の肩に、不意にぽんと手が乗せられた。
「ねぇ、あたしと話さない?」
 笑顔で声を掛けたのは、ミネッティ・パーウェイス(みねってぃ・ぱーうぇいす)だった。ぎくりと肩を跳ねさせた舞衣奈は、恐る恐るに振り返る。
「あた……ボクと話したいの?」
「そう。キミに興味があるのよ」
 にっこり微笑んだミネッティに、どうしたものかと舞衣奈は視線を彷徨わせる。
(ええい、仕方ない!)
 そこへ、助け船を出したのは辺里亜だった。大音量で鳴り響き始めたアラームに、警備をしていた九頭切丸が飛んでくる。
 じろりと向けられる機械の瞳に、男の娘部屋への侵入未遂を咎められていると誤解したミネッティは眉尻を下げ視線を逃がしつつ後頭部を掻いた。その隙をついて、舞衣奈は一目散にその場から逃げ出す。
 もう少しで女の子部屋に辿り着く、その寸前。曲がり角から飛び出してきた自分の姿に、舞衣奈は驚愕を露に双眸を見開いた。
「あたし!?」
「ボク!?」
 動揺に囚われた二人は、状況を冷静に判断する事も対処する事も出来ないまま、正面から思い切りぶつかった。
 きゅう、と廊下へ倒れた二人の元へ、遅れて現れたネージュは困ったように肩を竦めた。


(うん、大丈夫。楽しんでるよ、アキ君も気を付けてね)
 極寒の地にいるパートナーとの精神感応を終え、エルノ・リンドホルム(えるの・りんどほるむ)はふう、と一息を吐き出した。既に随分と夜も更け始めた会場内では、ぽつぽつと眠ってしまった生徒が出始めている。
 彼女の隣では、カーリン・リンドホルム(かーりん・りんどほるむ)が小谷友美とくだを巻いていた。ぴくぴくと獣の耳を跳ねさせ、カーリンはうんうんと神妙に頷いて見せる。
「そうよねー、格好いい彼って欲しいわよね。年上でも年下でも別に構わないんだけど、いい出会いも無いし……」
「出会いが無いの? そんなに綺麗なんだから、一人や二人寄ってきそうなものだけど」
 疑問気な友美の言葉に、カーリンはふるふると左右に首を振って見せる。
「良い男がいないのよ。うーん、理想が高いって訳じゃないと思うんだけどなぁ……」
「ちなみに、理想はどんな男?」
 困惑気味に嘆くカーリンへ、友美はずいと顔を寄せる。
「気が合って、格好良くって、家事とか出来る人で、お部屋がきちんとしていて、ちゃんと収入があって……」
「……その理想、随分高いんじゃないかしら」
 指折り紡がれ始めたカーリンの言葉に、友美は呆れた様子で半眼を向ける。
「と、とにかく! もう今日は沢山美味しいもの食べて素敵な温泉に浸かってお肌を磨いちゃったんだから、後は明日からに懸けるしか無いのよ! この施設、何時まで滞在できるのかしら?」
「え? チェックアウトは十一時頃だったと思うけど……」
 曖昧な友美の返答に、カーリンはきらりと目を光らせる。
 そうして両手で友美の手を取ると、開けた胸元をぐっと寄せて詰め寄った。
「なら明日、朝一でもう一回温泉に浸かりましょうよ!」
「私も? ……そ、そうね! 女を磨くためだもの!」
 小谷友美、三十路。カーリン・リンドホルム、二十代後半。
 不思議な連帯感の生まれた二人は、がっしりと拳を握り合い頷き合うのだった。
「ところで、あなたは?」
 すぐ傍に座ってスイーツを食べていた、パジャマ姿のフィリシア・レイスリー(ふぃりしあ・れいすりー)。突然の友美の問いに驚いたように目を瞬かせたフィリシアは、照れたように頬を赤らめながらも静かに唇を開く。
「ちょっと……というか、いささか乱暴なところがあって、気が短くガサツで、気が効かなくて……」
 まるで罵倒のような言葉の前半に、一同の目の色が驚きに染まる。
 しかし、フィリシアの瞳にはあくまで幸せそうな光があった。彼女の言葉は続く。
「何だか欠点だらけといえばそれまでなんだけど、そんな無骨な外面に隠された包容力、というか、そういうものを感じるんです」
 気恥ずかしげながらもどこか誇らしげに言い切ったフィリシアへ、「私もそんな彼がほしいー」などと茶化すようにカーリンが口を挟む。フィリシアは耳朶まで赤く色付かせながらも、「だから、私はそんな彼が好きなんです」と断言した。
「幸せそう、ですね」
 エルノの言葉に、フィリシアは深々と頷く。そこでフィリシアは、自分の確保してきたスイーツを一同へ差し出した。
 真っ先に手を伸ばした友美から庇うように片手を差し出しつつ、エルノへ微笑む。
「どうぞ、美味しいですよ」
「ありがとうございます、頂きます」
「ちょっと! 私も!」
 目を輝かせたエルノは、促されるまま手渡されたフォークでケーキをつつく。途端綻ぶ表情に、フィリシアは嬉しそうに目元を緩めた。脇から手を伸ばした友美やカーリンも一歩遅れて菓子にありつき、美味しいお菓子を食べながらの歓談は続いていく。
「さてと、次はあなた達の番よ」
 同じくお菓子へ手を伸ばしながらにこにこと話に耳を傾けていた水神 樹(みなかみ・いつき)は、突然の友美の言葉に思わず菓子の欠片を喉へ詰まらせた。とんとんと首元を叩き、慌てた友美達の視線に見守られながら何とかそれを飲み込んだ樹は、眉を下げた笑みを浮かべる。
「私は婚約者がいるので……」
「婚約者!?」
 ぎょっと身を乗り出した友美とカーリンの問いに、樹は身を引きながらもはにかんで頷く。
「とても優しい人で……弥十郎さん、今どこで何をしているのかしら……」
 彼女はその婚約者がシベリアの海で蟹漁をしていることも、今まさにくしゃみをしていることも知らない。
 何か言いたげな二人の視線に気付くと、樹ははっと我に返ってパートナー達を示す。
「そ、それより、私は皆の話も聞いてみたいな」
 彼女の視線を受けた秀真 かなみ(ほつま・かなみ)は、ぴくんと耳を立たせた。おもむろに立ち上がり、ぶんぶんと両腕を振る。
「恋愛っていいよね!  あたしもいつか燃える恋をしたいな! そして、一緒に船で大海原に出るの!」
「ふふ、若いのね」
 かなみを見守る友美達の視線は、暖かい。恋に恋する年頃のかなみは、得意げに胸を張る。
「その時の為にも、今日聞いた恋バナはしっかり覚えておくよ!」
「そうだよね、いつか樹お姉ちゃんみたいにラブラブ出来る人に出会った時のためにも覚えておかなきゃ」
 ぱたぱたと振られるかなみの尻尾の傍らでは、東雲 珂月(しののめ・かづき)が両手を合わせて静かに頷いていた。「あなたは恋、しているんですか?」そんなエルノの問い掛けに、緩やかに首を横に振る。
「ボクは昔の記憶とか名前を覚えてないから、よくわからないな……。だからいつか、素敵な恋ができたらいいな」
 そう言って微笑む珂月に、エルノもまた納得したように頷いた。順に促す樹の視線を次に受けたのは、カテリーナ・スフォルツァ(かてりーな・すふぉるつぁ)だった。
「れ、恋愛話なんて、あたくしにはそんなの……」
 言い掛けたカテリーナは、しかし半ばで言葉を切る。促す周囲の視線を受けて、ややあって渋々と口を開いた。
「昔は色々ありましたわ。三度結婚したし、領地を攻められたりも……」
「……カテリーナ。そういえば史実を見ると3度結婚していたのよね」
 遠い目をして語るカテリーナだが、現在はどこからどう見ても幼女の姿である。呟いた樹は、「今はこんなに可愛くて小さい女の子だから、その姿で三度の結婚歴について言われるとなんだかびっくりしちゃう」と苦笑交じりに続けた。
「ジョヴァンニ、元気にしているかしら。あたくしの、かわいい息子……」
「……子どももいるんだ」
 当然のことながら、幼女の姿で口にされると随分異様な響きになる。驚いたように呟いたケイラ・ジェシータ(けいら・じぇしーた)は、獲物を見付けたとばかり自分へ向けられる視線の束に気付くと、はっと息を呑んだ。
「ケイラさんの恋バナとかも、聞いてみたいです」
 期待に目を輝かせた樹の言葉に、ケイラは困ったように目を逸らすと「自分の恋バナは……うーん……内緒っていうことでどうかな、駄目かなー」と投げ遣りな言葉を発する。
「話して頂けないですか?」
「んー、えーっと。秘密を着飾ってより魅力的に……とかだよ、うん! あ、お茶のお代わりを持ってくるね」
 逃げるように立ち去っていくケイラの後姿を呆然と見送り、樹は首を傾げる。
 そんな彼女の脇を抜けて、珂月はロジエ・ヴィオーラ・バカラ(ろじえ・う゛ぃおーらばから)へと歩み寄っていく。
「ロジエお姉ちゃん、綺麗だなー」
 きらきらと嬉しげな眼差しを向ける珂月に、ロジエは戸惑いがちに視線を返す。文字通りの温室育ちの彼女は余り人と接する機会が無く、困惑気味に珂月とケイラの背中とを見比べていた。
「ロジエお姉ちゃんは、恋バナは何かあるの?」
 珂月の柔らかな問い掛けを受けて、ロジエはおずおずと口を開く。
「こいばな……? はよくわかりませんが、我は女性にはいつか王子様が来るものだと信じてやみません……!」
 拳を握り、目を輝かせて力説するロジエに、かなみもまたうんうんと深く頷いて同意を示す。しかし「じゃあ初恋は?」と問い掛ける友美の声に、ロジエはきょとんと目を丸めてしまった。
「えっ、初恋……は、まだですが。きっと素敵なものなのでしょう」
 夢物語のように語るロジエへ、友美は「そうなると良いわねー」と微笑ましげに言葉を返す。
「お待たせ、紅茶を貰ってきたよ」
 そこへ、ケイラが戻ってきた。それぞれのカップへ紅茶を注いで回りながら、ケイラは珂月へと目を向ける。
「さてと、東雲さん。自分たちはそろそろ部屋へ戻ろう。ロジエのことは任せても良いかな?」
「ええ、勿論」
「宜しくお願いします」
 頷く樹と、ぺこりと頭を下げるロジエ。名残惜しげに立ち上がるケイラは、新たな出会いに目を輝かせる珂月を導くように一歩前を歩き始めた。


「恋バナ? ん~、男の相手はよくするけどそういう話にはいかないよね~。そーそーこの前相手した客がさ~、オッサンだったんだけど、脂ぎった手でいろんな所触ってきてすげーウザかったんだよね~。金払ってるから何をしてもいいと思ってる奴が一番嫌だよね~」
 人数が多すぎるため、自然と幾つかのグループに別れ始めた頃合い。一際大きな集団の中心で、ミネッティは腕組みをして溜息交じりに語っていた。男の娘部屋へ忍び込むことを諦めた彼女は、今度は女子同士の会話に精を出している。
「それはそれは、随分下品な男ですわね……」
 耳を傾けていたペルラ・クローネ(ぺるら・くろーね)は、眉間に皺を寄せて頷いた。
「でしょ? キミは何か嫌な経験、ある?」
「経験はありませんが……そうですわね、胸ばかり見ている男性は好みでは無いです」
 傍らに座る人物を一瞥しつつ、ペルラは言い放つ。ミネッティは彼女の言葉にうんうんと頷き「そんな男、こっちから告白してベッドに入っちゃえば一発で落ちそう!」と下世話な笑い声を上げた。
「こ、コイバナって凄いんだね……私、まだそういうのピンとこないから」
 二人を見比べて驚いたように声を漏らしたのは、館下 鈴蘭(たてした・すずらん)。そんな彼女へ、二人は「試しに一回寝てみれば?」「いずれ自然と解る時が訪れますわよ」と対極のアドバイスを口にする。
 さて、そんな彼女たちの会話に正座で耳を傾ける者達がいた。ミルト・グリューブルム(みると・ぐりゅーぶるむ)霧羽 沙霧(きりゅう・さぎり)の二人である。彼ら、いやすっかり女性した彼女らは、女性同士の明け透けな会話にがたがたと肩を震わせていた。
(どうしてこんな事に……)
 リボンとレースがふんだんに使われたピンクのネグリジェにレギンスを合わせ、更にうっすらと化粧まで施された沙霧は、すっかり蒼ざめてしまっていた。そんな彼を気遣ったか、鈴蘭は「サリーちゃんはどうなの?」と振る。
「ぼ、ボク? ボクも好きな子がいるんだけど、恋愛とか全然興味ないみたいで……やっぱり、ボクと同年代の子ってそういう子も多いのかなぁ」
「そんなの、押し倒しちゃえばすぐだよ」
 あっけらかんとしたミネッティのアドバイスに、沙霧はがっくりと肩を落とす。
 彼の隣では、白地に黒い猫の足跡柄のパジャマを身に纏い、髪もそれぞれ両サイドのひと房を赤いリボンで結んでいるミルトが、同じく肩を震わせて俯いていた。始めのうちこそ「ミルッヒ、恋バナって興味あるなぁ~」とノリノリで自ら潜入してきていたミルトだったが、今ではすっかりその影も無い。
「女の子同士の会話に混ざりたいなんて、感心しませんわね」とペルラの言っていた言葉の意味が、今更ながらに理解出来たような気がした。勿論それは誤解である上に、スイーツが食べたいとごろごろ床を転げ回って暴れてペルラを根負けさせたのはミルト自身だったのだが。
 彼の手元に置かれたお菓子は、序盤の減少具合とは裏腹に、すっかりミルトの喉を通らなくなっていた。掠め取っていくミネッティや鈴蘭の手に抗う気力も無く、ミルトは蹲って言葉を失った沙霧の手を掴む。
「……行こう」
「……うん」
 何時になく疲れ切った声で言い合い、体を引き摺るようにして部屋を出ていく二人の後姿を、三人は怪訝と見送った。


 そんなこんなで、それぞれの夜は更けていく。
 温かな雰囲気と美味しいお菓子、そして楽しい会話を弾ませるうち、一人、また一人と眠りに落ちていく生徒達。
 様々な想いを抱えた彼女達の面持ちは、いずれも一時の幸福に委ねられていた。