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バレンタイン…雪が解け美しき花びら開く…

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第29章 ダブル結婚式

「私たちも去年の今頃、ルペルカリア祭で結婚式を挙げたんですよね。結婚記念日が朱里さん達と同じ日になるなんて、何だか嬉しいです」
 コトノハ・リナファ(ことのは・りなふぁ)は友人に祝福するプレゼントをしようと、モーントナハト・タウンにやってきた。
「あの、すみません・・・ちょっといいですか?」
「はい。なんでしょうか」
「友達が結婚式を挙げるんですけど、何か思い出に残るものをあげようと考えたんです。それで園内の建物とか観覧車を貸してもらえたら、・・・と思いまして・・・」
 いきなり頼んでしまったこともあり、コトノハは遠慮がちに言う。
「申し訳ありませんが・・・。突然そのようなことを申されましても、わたくしどものでは対処しきれません」
「ただで貸して欲しいなんて言いません!ちゃんとお支払いもしますよっ」
「いえ、ですが他のお客様もいらっしゃいますし。貸切というのは・・・」
「じゃあこいうのはどうですか?他のお客さんには迷惑かけませんから、ライトアップの表現だけ貸してくれませんか」
「そのように申されましても、こちらで対応しかねますのでご遠慮をお願いいたします」
「お願いです・・・。一生に一度の、友達の結婚式なんです・・・」
 すがりつくように従業員の袖を掴み、涙を流してしまった。
「どうします・・・?」
「上の方に聞いてみましょうか」
 彼女たちは顔を見合わせて相談し、上司に聞いてみることにした。
「―・・・許可が出ましたよ、よかったですね」
「本当ですか!?ありがとうございます!」
「ただしコードなどの接続の問題があるため、わたくしどもが作業することになりますが。それだけご了承ください」
「はい!えっと、こんなふうにお願いできますか?」
 ライトップのイメージを紙に描き従業員に渡す。
「全て表現出来るか分かりませんが、これを参考にさせていただき善処いたします」
「お願いします!それではお金の支払いに行ってきますね」
 丁寧にお礼を言うとコトノハは町の銀行へ走り、振込みに行く。
「えっと・・・・・・。振り込み完了です♪あ〜でも、貯金がすっからかんになっちゃいましたね。まぁ、こういう時期は仕方ないですよね。一生の一度のことですし♪」
 蓮見 朱里(はすみ・しゅり)たちを祝ってあげるためなら、それくらい惜しくないという様子でポーンッと一括で支払った。
「朱里さんたち、どうしてるんでしょうね?結婚式をあげる時ってかなり緊張するんですね。―・・・大丈夫でしょうか」
 心配になり花嫁のところに行ってみることにした。
「とんとーん♪失礼いたします、花嫁の朱里さん」
「コトノハさん、来てくれたの!?」
「もちろんですよ!」
「でも夜までだいぶあるわよ」
「う〜ん、ちょっと嫁入り前の朱里さんを見ておこうと思いましたね。嫁入り前の姿を見られえるのは、これで見納めですし♪」
「やだそんな、コトノハさんたら・・・っ」
 彼女の言葉に朱里は頬を薄っすら赤く染める。
「それじゃあ私は夜までその辺りを散歩でもしてますね」
「待って!」
「どうしたんですか?」
「もう少しだけ、ここにいてくれないかしら」
「―・・・分かりました!それじゃあまだお邪魔しちゃいますね」
 自分の手を掴んできた彼女の手が少し震えているのを見て、緊張をほぐしてあげようとしばらく傍にいることにした。



「カシスは今頃、メイク室でセットしてるだろうね」
 ヴィナ・アーダベルト(びな・あーだべると)は町中にある待機室で着替える準備をする。
 朱里とアイン・ブラウ(あいん・ぶらう)が結婚することを知り、この機会に自分たちも式を挙げようと考えた。
「最初はかなり渋られたんだっけ」
 シャツに袖を通しながら、説得を出来た時のことを思い出す。
 結婚しようと言った時はなんとか応じてもらえたが、その先がかなり厄介で大変だった。
 自分はタキシードだからカシス・リリット(かしす・りりっと)にはドレスを着てもらおうとしたところ、案の定かなり抵抗されてしまった。
 かといって2人ともタキシードを着て式を挙げるわけにはいかない。
 なかなか首を立てに振らない彼を、ヴィナの“奥さん”のたった一言で頷かせることが出来た。
「俺1人じゃ、説得し切れなかっただろうね」
 抵抗する姿は今思えば微笑ましく、思わず小さく笑ってしまった。
 カシスの方はというとメイク後、ウェディングドレスを着て準備をしている。
「はぁ、本当に・・・サイズがピッタリだな」
 しぶしぶ了承してもまだ少し気乗りがしない様子だ。
 説得役に空京で待ち構えられてしまい、突然現れた相手から逃れられなくなり、言葉に流されるまま着ることになったようだ。
 自分が男だということもあったが、2人目の存在だから結婚式を挙げることになるとはまったく予想出来なかった。
 彼から結婚の話された時、とても嬉しかった。
「もう行く時間だな」
 待機室から出て式場へ向かう。
 カシスと朱里が鮮やかな赤い絨毯の上を歩き、グリプスヒルフェ大聖堂の扉の前へ行くと、シスターたちが中から内側に扉を開く。
 奥の方の天井にある大きなパイプオルガンから演奏曲が流れ始める。
 祭壇の前にいる花婿の元へゆっくりと進む。
「(2人とも凄くキレイ・・・)」
「(これが結婚式か・・・)」
「(緊張してたみたいだけど、落ち着いたみたいですね)」
 席には遠野 歌菜(とおの・かな)月崎 羽純(つきざき・はすみ)、コトノハたちがいる。
 2人はブーケを手にそれぞれの花婿の傍らへ行く。
 カシスはヴィナの傍に、朱里は青のネクタイを締めた白いタキシード姿のアインの傍へ行く。
 青はアインのイメージカラーで、クチナシの花をモチーフに、彼女自身が作ったウェディングドレスだ。
 “Wann krank sein k’’onnen, wenn gesund sind, Versprechen Sie, daβ Sie einander zusammen mit dieser Person helfen?”
 そう1人ずつ、聞かれ順番に“Ja, ich verspreche.”、と答える。
 神父に“Ver’’andern Sie den Ring bitte”と言われ、互いにリングを交換をする。
 ヴィナが結婚指輪をカシスの指にはめると、気恥ずかしそうにカシスが顔を俯かせる。
 アインは朱里の細い指にはめ、朱里はアインの指に指輪をはめた。
 “Machen Sie den Kuβ vom Schwur bitte.”
 光の反射で万華鏡にように色が分かるステンドグラスの輝きの下、互いに夫・妻と認め合うために、夫婦の証の口付けを交わす。
「(アイン・・・私、幸せよ。今までも、そしてこれからも)」
「(僅かの間に僕の中の大部分を君が作ってしまった。戦闘機械として生きていた僕は2人と違って人間ではないから迷っていた。だけど夫婦となること決めた今は、もう何も迷うことはない)」
 この2年間で掛け替えのない沢山のものをくれた彼女に感謝し、誕生日の花言葉どおりの幸せな花嫁に誓いの口づけをする。
「来てくれてありがとう、皆!」
 朱里が嬉しそうにコトノハや歌菜たちに手を振る。
 外へ出ると友人たちの拍手と歓声を浴び、フラワーロードを歩く。
「とてもキレイですよ、朱里さん!」
「皆、いっぱい幸せになってくださいねーっ」
「おめでとうっ」
 友人の朱里とアインにエースも祝福の言葉を送る。
「おめでとー、お幸せにー」
 結婚式の様子を録画撮影しているクマラが新郎新婦にカメラを向ける。
「オメガさん、これが結婚式っていうものなんだよ。愛する2人が夫婦になるんだ」
「そうなんですの?わたくしにはまだよくわかりませんわ」
 エースに結婚式の様子を見せてもらったが、恋愛したことのないオメガにとっては分からなかった。
「ブーケなげるから取ってね!いくわよー、それぇえ!」
 背を向けた朱里はポーォンとブーケを投げる。
「えっ、私!?」
「次は歌菜さんみたいね。頑張って♪」
 ブーケをキャッチした歌菜に手を振る。
「おめでとう、朱里ちゃん、アインくん。君達の行く道に今後も幸せが降り注ぎますように」
「ありがとうーっ!ヴィナさんとカシスさん、おめでとう!幸せになってねっ」
 2つの夫婦は、互いに幸せいっぱいに大きく手を振った。



 着替え室に入り着替えたヴィナとカシスは2人の待機室へ入る。
「カシス、チョコ持ってるでしょ。今食べたいな」
「今食べるのか?仕方ないな・・・。―・・・っ!?」
「トリュフチョコ・・・カシス、頑張ったね。ありがとう」
 甘い匂いに絶えながらチョコをつまんだ彼に口を寄せてチョコを食べる。
「俺は甘いものが苦手だからな、味は保証出来ない・・・」
「うん、美味しい」
 もしかしたら失敗してしまったかもと思う彼に、ニコッと優しく微笑みかける。
「カシスは2人目の妻になるけど、ちゃんと愛してるよ?片思いの相手もいるから妻が増えるかもしれないけど、愛しい気持ちは何も変わらない」
 そう言うと彼の許しも得ずに、お姫様抱っこをする。
「なっ、いきなり何するんだ!?」
「朱里ちゃん、アインくんに負けてられないでしょ?俺たちだって、らっぶらぶの夫婦なんだからさ」
 彼を抱きかえたまま待機室から出て行く。
「ドレスから着替えたっていうのに、何いってるんだっ。いや、ドレスを着てても・・・そのっ」
「俺の花嫁は、最高に可愛いよ」
 パニック状態になりしどろもどろに言うカシスの頭を愛しそうに撫でる。
「そうだな、自分の妻が一番可愛い。そういうものだろう?」
「あ、聞かれてしまったみたいだね」
 廊下を通りがかったアインに聞かれてしまい、ヴィナは苦笑いをする。
「お互いに、幸せになろう。伴侶を大切にな」
「もちろんだよ」
 笑顔を向けるとカシスを抱きかかえたまま町を出た。
 朱里とアインが待機室に戻ると、バレンタインチョコを互いに食べさせ合う。
「ね・・・おいしい?」
「アインが食べさせてくれるから、とっても甘くておいしいよ」
「朱里・・・・・・君の料理は、最高だ」
 2人きりの甘い空気に包まれ、新婚夫婦は熱々のひとときを過ごす。
 しばらくするとドアをノックする音が聞こえ、歌菜と羽純が室内に入ってきた。
「今日はお招きしていただき、ありがとうございました!」
「こっちこそ、来てくれてありがとうね」
「おめでとうございます。幸せになってくださいね!」
「おめでとう。幸せにして、幸せになれ」
 歌菜と羽純は2人で用意したオイルランプを新婚夫婦に渡す。
 薔薇の香りがついたオイルにはピンクのバラの造花が入っていて、新郎新婦の名前と結婚記念日の刻印入りのランプだ。
「今日、ルカルカさんは来れなかったみたいね」
「遊園地に行くって言ってましたね」
「あれ、これって・・・ルカルカさんから?」
 メッセージカードつきの箱が、朱里とアイン宛に待機室の中へ贈られてきた。
「これからは夫婦として、2人で一緒に時を刻んでゆくのね・・・・・・ありがとう。大切にするね」
 プレゼント開けるとペアの高級時計が入っている。
 夫婦はさっそく彼女から贈られたプレゼントを腕につけてみる。
「カードに何が書いてあるのかしら?」
 開いて読むとそこには“結婚おめでとう!はすみん、幸せになってね♪あまぁ〜い様子を、遠くから見させてもらうねっ”と書かれている。
「これってどういう意味なの・・・」
「とんとーん♪入りますよっ。よかった、まだ2人共着替えていませんね?」
「コトノハさん?」
「2人に見せたいものがあるんです、来てください!」
「え、えぇえっ!?」
 突然のことでわけが分からないまま、コトノハについていく。
「これに乗ってください!ささ、早く♪」
「いったいどこへ行くの?」
 ドレスを着たまま朱里はタキシード姿のアインとヘリコプターに乗り込む。
「フフッ、ワン・ツー・スリー!」
 遊園地の前までつくとコトノハがパチンッと指を鳴らす。
「―・・・わぁ、キレイっ!」
「これは・・・僕たちの名前か?」
 入り口前の上空を飛ぶヘリコプターから、夫婦が遊園地を見下ろす。
 ライトアップされた園内をイルミネーションに、朱里とアインの文字をハートマークの中に囲って演出する。
「それでは2人にこのハートの中へ飛び込んでもらいます」
「歌菜さんーっ、用意はいいですか!?」
「はぁーい♪」
 式が始まる前に予め頼まれた歌菜がヘリコプターの上から2人にライトを向けると、ハートの中に寄り添う夫婦の影が写しだされる。
 ルカルカと真一郎は園内のカフェの窓越しからその様子を見る。
「んふふっ、はすみんたち喜んでくれたかな?あぁ〜熱い熱い、ラブラブの熱さでルカ溶けちゃうそう♪」
 団長にお願いしてヘリコプターを貸してもらい、上空から2人の姿を写してあげようと考えた。
「(結婚式ですか)」
 いつか自分たちもこういういう日が来るのだろうかと、外に写しだされた夫婦を眺める。
「待っててくださいね」
 この地で自信を持って恋人に、プロポーズ出来る何かを自分も掴まなければと改めて決意する。
 その一言に決意と想いを込めて、うっとりと結婚式のサプライズを見ているルカルカの姿を見つめた。
「うん、待ってるわ。でも、今は恋人としていたいかな」
 ルカルカはにんまりと笑い、彼の肩に寄りかかる。
「ね、空で2人のラブラブ空気吸ってきちゃわない?」
「はい、行きましょうか」
 カフェを出た2人はもう一機のヘリコプターで遊園地の上空を飛び、朱里たちの姿を見に行く。
「とーってもキレイよーーっ!はすみーーんっ」
 落ちないように彼の腕に掴まりながら、大声で新婦に呼びかける。
「嬉しい・・・、嬉しいよ・・・。皆・・・、ありがとうっ」
 思いがけないサプライズをもらった朱里は、ここまで自分のためにしてくれる友達の優しさを嬉しく思い、感動のあまり涙をぽろぽろと流した。