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嘆きの邂逅~闇組織編~(第3回/全6回)

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嘆きの邂逅~闇組織編~(第3回/全6回)
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「お重に詰めましたさかい、お外行かはる方お一つどうどす」
「うわーっ。美味しそう、いただきます」
 部屋から出て行こうとする百合園生にエリスは重箱を一つ渡した。
 笑顔で百合園生を見送った後、皆が集まる部屋へと踏み込んだ――。
 真っ先に憧れのあの人。桜井静香の姿が目に入る。
「こ、こここ、ここここここっ、校長せんせの分特別用意しとりまぶふぇっ」
 とととととっと近づきながら、手を伸ばして静香にお重を差し出す。
 そして、いつものように緊張で舌を噛んだ。
「ふふふ、いつも美味しい料理ありがとう、エリスさん」
 変わった喋り方をする人だなあと思いながら、静香は微笑んで重箱を受け取った。
 湯葉さし、根菜の煮物、鯛のかぶと焼、全て手間隙かけて手作りした京風のあっさり料理だ。
「すごいね、この包丁細工も可愛いし。料亭で見るような料理だ。……最近はそういう店いけないからなあ」
「ここここ、こちらも、どうぞどす」
 パートナーに持たせていた可愛い手まり麩の浮いたお吸い物も、こぼさないよう注意しながら、エリスは静香に差し出す。
「ありがとう。戴きます」
 静香は嬉しそうに、箸を受け取ってエリスの手作り料理を食べ始める。
「うん、味も凄く美味しいよ」
「そ、そうどおすかあ!?」
 その言葉にエリスは舞い上がる。
「美味しいですか? エリスも味見したいようですよ、校長先生を」
 ティア・イエーガー(てぃあ・いえーがー)の言葉に、皆が手を止めて注目する。
「あら失礼、エリスがでなく皆さんがでしたわねぇ」
 うふふと笑うティアに鈴子が苦笑する。
「そうですのよね、特にこのお耳が美味しそうですわよね。あら、頬っぺたも中々」
 口をあーんと空けて、ティアは静香に接近する。
「ちょちょちょっと、なにしてはるまふん!」
 エリスは混乱しながら止めようとする。
「はいはい、それ以上やりますと、説教室行きになってしまいますよ?」
 鈴子が驚いている静香を引き寄せて、ティアを制する。
「心配要りませんわよ、わたくしとしては校長先生より鈴子さんの方が美味しそうに思ってますもの」
「ティアさん……吸血鬼でもありませんのに」
 妖艶な笑みを見せるティアに、さすがの鈴子も困り顔で苦笑するばかりだった。
「そなたが占い師のリーアさんですね?」
 邪馬壹之 壹與比売(やまとの・ゐよひめ)は、サンドイッチを食べ終えて、手を拭いているリーアに近づいた。
「わたくしこの様な事もしているのでございますよ」
 差し出したのは、ファンシーな台紙に手作り感溢れる名刺だった。
 ト占術研究会の長である旨、記されている。
「同業者さんね。でも手法が全く違いそう」
「どうです、こちらの研究も?」
「勉学として学ぶのは面白そうよね」
「では、占うのは慣れているでしょうから、たまには占って差し上げましょうか?」
「ええ、お願いするわ」
 微笑むリーアを、壹與比売こと壱与はカードを使って簡単な占いを始める。
 結果を見た壱与は、微妙に眉を寄せた。
「ん……何か良からぬ邪念の兆しでございましょうか?」
「うん、やっぱりそうかもね。私も嫌な予感がしていたところ。尤も、自分の未来のことはよくわからないんだけどね」
 リーアは苦笑ともいえる笑みを見せた。
「ここらで一服どうどっしゃろ、この水羊羹は京都のお馴染みの和菓子屋はんから取り寄せたんどす、舌とろけますえ〜」
 続いて、エリスが羊羹を皆に配りだす。
「ここのお水美味しいさかい、そんで煎れたお茶と合いますえ?」
「ふふ、そうね。沢山飲めば、皆も記憶を思い出しやすくなるかもしれないわよ。悪い思い出がある人には勧めないでおくわ」
 リーアはエリスから茶と羊羹を受け取って、美味しそうに食べるのだった。
「おっ、美味しそうな物、食べてるな」
 順番待ちをしていた和原 樹(なぎはら・いつき)とパートナーのフォルクス・カーネリア(ふぉるくす・かーねりあ)が部屋へと入ってきた。
「俺が聞きたいのは、過去のことじゃなくて、行方不明の子の手掛かりなんだけれど、そういうのって占いで分かる?」
 樹がリーアに尋ねた。
 リーアは茶を飲み干して湯飲みをテーブルに置く。
「写真と持ち物があれば多少は分かると思う」
「行方不明のあの子……イリィちゃんだっけ? 写真や持ち物あるかな」
 樹が静香と鈴子の方に目を向けるが、2人共首を左右に振る。
「んー、分校にならあるかもしれないよな。ただ、あそことは携帯繋がらないし……。来てもらうことは出来るかな?」
「出張料高いよ?」
 にやりとリーアは笑みを浮かべる。
「その際には、百合園生徒会の予算からお支払いできると思います」
 鈴子がそう言い、樹は頷いた。
「それじゃ、見つからないようなら早めに頼むよ」
「了解」
「わかりました」
 リーアと鈴子がそう答える。
「あ、でもせっかくだから個人的なことも占ってもらおうかな」
 そう言って、樹はフォルクスの方に目を向ける。
「こないだ、フォルクスが新品のマグカップなくしたんだよ。買って帰る途中にどっかに置き忘れてきたっぽいんだけど、本人はどこに置いたか思い出せないらしくてさ」
「む。高価なものではないんだが、どうにも気になってな」
 フォルクスが眉を寄せる。
「授業とか読んだ本の内容とかは忘れないくせに、普段の生活のちょっとしたこととかはよく忘れるんだよなー」
 ふうと樹はため息をつく。
「いいわよ」
 リーアは立ち上がって、なくした日とおおよその時間を聞いてからフォルクスの額に手を伸ばした。
「ふむ……ほら、帰り道でショーウィンドーに夢中になったでしょ。そこに置き忘れたんじゃない?」
「あ、なるほど」
 ぽむとフォルクスが手を打った。
「あのブライダル店か」
「な、なにそれ? 何でそんなところで立ち止まってるんだよ」
「よし、後で一緒に行こう。ついでに揃って試着も出来るしな」
「1人で行け!」
 そんな2人のやりとりに、百合園生達が微笑みを浮かべていく。
「じゃ、行くぞ。あ、ありがとうございました」
 フォルクスを引っ張って外に出ようとし、樹はリーアに向き直ると頭を深く下げた。
「ううん、見つかるといいね。……素敵なウエディング衣装」
「違います、マグカップ! もう……」
 恥ずかしげに樹はフォルクスを引き連れて、外へと出て行った。
 
「……そういや俺、フォルクスの過去とかあんまり聞いたことないな」
 外へと出た樹はフォルクスに目を向ける。
「親のこともほとんど覚えてないんだよな?」
「……親のことはなんとなく記憶にある。変わり者だった、と思う。放任主義で自由を愛し、年中家を空けていた」
 フォルクスは半眼を閉じて語る。
「両親が共に過ごすのは、時折家に戻ってきた時だけだったようだ。仲は悪くなかったがな。我が成人する頃に家と財産を残して失踪したが、あれは元よりそのつもりだったのかもしれん」
 樹は何とも答えにくく、黙って聞いていた。
「まぁそんな訳だ。それなりに愛してもいたし感謝もしている。だが執着はないな」
「そっか……」
「我は樹に会って生まれ変わったようなものだ。昔のことなどどうでもよいではないか」
 フォルクスがそう言い、樹は首を縦に振った。
「フォルクスがいいなら、いいけど……でも、誕生日も覚えてないんだよな?」
「そうだな」
「それじゃ、ちょっと池の水飲んでみないか? とりあえず、パートナーの誕生日くらいは知りたいから」
 樹の言葉に軽く笑うとフォルクスは池の方に歩いていく。
「……たいして意味もないと気に留めていなかったが、お前が祝ってくれるのなら思い出しておくのも悪くはない」
 盛大に祝ってやる、とは樹は言わなかったけれど、誕生日が分かったのなら、きちんと祝うつもりだった。

○    ○    ○    ○


「ロザリンドさんもそろそろ休憩にして」
 ログハウスの中、パソコンを使って情報の取りまとめをしているロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)に、静香がサンドイッチと紅茶を運ぶ。
「すみません、気を使わせてしまって」
 ロザリンドは即座に立ち上がって、礼を言って食事を受け取る。
「何かわかったことはありますか?」
 鈴子がティーカップを手に近づく。
「いえ……やはり不明なことばかりです」
 ロザリンドはそう言って、簡単な経緯を纏めたファイルを皆に見せる。

・組織の幹部から誘惑された元白百合団員の『早河綾』。彼女が組織の一員として働かされていたことが、大きな鍵である。
・副団長率いる白百合団と協力者が強引な方法で早河綾を奪還。
・早河綾の手引きで、百合園生キマクの組織アジトへと向う。
・アジトにて組織幹部でC級四天王のツイスダーを刺激し、衝突。ツイスダー、パラ実生を誘導、百合園女学院への強襲が計画される。
・多方面からの協力でパラ実生退ける。白百合団の防衛、現神楽崎分校生徒会長の誘導による一騎打ちで副団長がツイスダーを撃破。
・副団長神楽崎優子、パラ実生徒会にC級四天王に任命される。
・キマクの外れに神楽崎分校設立。パラ実生との調和を図る。組織とは完全に対立したと思われる。
・離宮の封印解除を兼ねて、囮行動開始。
・神楽崎分校で行ったバレンタインパーティにおいて、薬の混入事件、誘拐事件が発生。

※早河綾は精神が不安定な状態で、組織について未だ深く語れる状態ではない。本拠地の場所なども知っている可能性がある。
※通常白百合団員を直接指揮している副団長神楽崎優子(兼神楽崎分校総長)は、離宮調査隊を率いて離宮に向っており、不在。

「こうしてみると、組織側も統制とれてないみたいだよね。分校での騒ぎも誘拐と誘拐未遂、薬の混入、マリルさんとの交渉の全てがどう繋がっているのかよくわからないよ。マリルさんに接触してきた人が、組織側の人で、ハーフフェアリーの子供の誘拐に成功しているのなら、マリルさんが目的なんだから、こっちに何か連絡があるはずだけど、何もないし……。全部無関係な可能性もあるよね」
 静香が経緯を見ながら言った。
「末端はバラバラなのでしょう。そうしてこちらを混乱させ、真の目的を隠しているのかもしれません。幹部より上の情報は何も流れてきませんし、捕らえた者も口を割らないようです。綾さんもですけれどね」
 鈴子がそう説明をする。
「こちらは画像になります。録画した画像に画質の補正や光量の調整を加えました」
 ロザリンドが画像を表示する。
 テレサ・エーメンス(てれさ・えーめんす)が上空から録画したものを加工した画像だ。
 人物が特定できるほど鮮明ではないが、神楽崎分校に近づいた者、ミルミやブラヌと接触をしている人物、誘拐未遂犯などが映っていた。
 その中から興味を持って訪れたパラ実生と思われる者達を省いていき、残りの者をピックアップし、動画や画像として引き伸ばしてあった。
「それからこれも、解析お願いできますか?」
 鈴子がロザリンドにディスクを一枚渡す。
「封印解除に向う際に、襲ってきた者が映っています」
 そのディスクはレキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)が鈴子に提出したものだった。こちらは人物がそこそこ大きく写っており、知り合いが見れば誰だか判りそうであった。
「近づいて来た時にわかるかもね。皆にも見てもらおう」
 静香がそう言い、集まった者達のそれらのデータは公開、配布されることになった。
「それにしても。組織が動くならリーアさんまで巻き込む形になってしまいます。それは大丈夫なのでしょうか?」
 ロザリンドが心配そうな顔でリーアの方を見た。
 彼女は食事を終えて、次の百合園生の過去を見ているところだった。
「組織とやらがマリルを狙っているのなら、いずれ私も狙われるはずよ。状況は理解したし、あなた達が帰った後は、私もしばらく身を隠しておくつもり。あてなら沢山あるから大丈夫よ」
 リーアが振り向いて、そう言った。
「それでしたら、よろしいのですが……」
 ロザリンドはそう答えたが、不安感を拭い去れずにいた。
「警備とか私しとくしー。ロザリーは引き続き資料まとめ頑張ってー」
 テレサがロザリンドの肩を揉む。
「何かあったらリーアさんの盾ぐらいにはなって時間稼ぎするよ」
「ありがとう、テレサ」
 ロザリンドは淡い笑みを見せて、食事を摂りながら作業に戻ることにする。
「……そういえば、私過去の記憶無いんだ。ちょっと見てもらえる?」
 テレサがそう問うと、リーアは頷いてテレサの額に手を当てた。
「ふふ……昔も今と変わらず、ムードメーカーだったみたいよ」
「何その笑いー!」
 リーアの笑みにつられてテレサも笑みを浮かべる。
「女王の騎士に近い存在だったわね」
「でも騎士じゃないんだ?」
「素質はあったのに、ならなかったみたい」
「だよねー。大変そうだもん」
 そしてまた、笑い合った。
 テレサはなんだか懐かしい友人に会ったような感覚を受けていた。