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リアクション
CASE4 空京大学の場合
空京大学、他の学園とは違い最も新しい学校だ。
ここでは保健室は医務室ということだ。
早速覗いてみることにしよう。
医務室には十二星華の一人、ティセラ・リーブラ(てぃせら・りーぶら)が医務室で怪我人の手当てをしていた。
先程訪れた女子生徒の治療も終わり、しばしのんびりとした時間が流れる。
「失礼します、ティセラはいますか?」
「はい、どうぞ」
医務室の前で訪ね人とは、と少し面白かったのかティセラはにこやかになりながら答える。
彼女の声を聞いて自動ドアの前にいたのは宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)だった。
怪我をした様子もなく、何故か手にはバスケットと水筒を持っている。
「ご用件は……怪我をしたという感じではありませんわね」
「お忙しかったですか?でしたら帰りますので……」
「そんなことないですわ。丁度暇になってお茶でも入れようかと思っておりましたもので」
「そうですか、良かった。でしたら、用意してありますのでいかがですか?」
祥子の差し入れを見て顔が綻ぶティセラ。
丁度飲みたいと思っていたのでありがたく受け取る。
「そうですわ、祥子さんお時間ありますか?よろしければご一緒にいかがですか?」
「良いんですか?じゃあお言葉に甘えて……」
一人でお茶をしてもつまらないので、是非にと祥子を誘う。
祥子の方も元々一緒にお茶しようと考えていたのか、遠慮も見せずに椅子に腰かけた。
そこから女性同士で話が盛り上がる。
最近教授のセクハラがひどいのでいつかとっちめてやろう、歴史学科は暇で文献調査の依頼がなかなか来ないと祥子はぼやく。
彼女の話を面白そうに聞くティセラはどこか感じていた疲れもいつのまにか消えていた。
女同士はやはり気兼ねない、そう思っていたがそんな時間は脆くも打ち砕かれる。
「ヒャッハーー!!どいたどいた〜!怪我人のご登場だぜぇ〜!!」
けたたましい動力音と共に現れたのは南 鮪(みなみ・まぐろ)と土器土器 はにわ茸(どきどき・はにわたけ)だった。
建物内でバイクに跨り駆け回っている姿は明らかにおかしいが、彼らには常識は通用はしない。
鮪ははにわ茸を勢いよくティセラ達の傍、医務室内に投棄する。
地べたで寝ころぶはにわ茸に困惑するしかないティセラと祥子。
やがて、何かを感じ経ったのか勢い良く立ち上がり、体をくねくねさせ始めた。
「ティセラ!分かったんじゃ!」
「はっ、はい?」
「恋なんじゃ!これは恋なんじゃ!恋の病なんじゃあ〜!!」
訳が分からないまま暴走するはにわ茸。
どう対応したらいいのか分からないでいるティセラ。
「帝世羅さん!その反応がまた可愛らしいのぅ!!」
「い、いや、私あなたに恋慕の情など抱いては……」
「分かっとる分かっとる!それも恋の病の一つなんじゃ!いわゆる、『嫌よ嫌よは新妻の夜の営みお誘い』病じゃあ!!」
「意味が分かりません!てゆうかあなた!この方を何とかしてくださいまし!!」
「ヒャッハー!俺様はてめぇには興味ねぇンだよ!エリザベートか、パルメーラしか眼中ねぇンだぜぇ〜!!」
「いや、あのちょっと〜!?」
パートナーに助けを求めたが、彼にも言葉は通じないようだった。
はにわ茸を置いてバイクで何処かへと走り去って行ってしまった。
ティセラの前にいる暴走男にどう対処していいのか全く分からずにいた。
せっかくのお茶会も、一瞬にして悪夢の時間に彩られてしまい、ティセラの一日は悲しくも終わっていくのであった
「そういうことなので、しばらく医務官としてお願いいたします、ねぇ……」
医務室にはラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)が置いてあった彼宛ての手紙を読んでいた。
昨日の一件で医務室にはしばらく近づきたくないとティセラは宣言してしまう。
そのため、急遽ラルクに白羽の矢が立ったのだ。
本人は総合医志望なのでこうした推薦は願ってもいないことだった。
ただ昨日のような騒ぎはさすがにご免こうむりたいと考えてもいる。
とにかく、これからは医務官として活動できるのでしっかりとしなければと自分に喝を入れていた。
そこへ本日最初のお客様がやってくる。
「ちーす、眠りに来ました〜……ってあれ?ティセラさんは??」
「彼女ならしばらく医務官としては活動しないそうだ。そういうわけで、健常者ならさっさと帰れ」
隠そうとしないでサボる気満々で入ってきた如月 正悟(きさらぎ・しょうご)は室内にいたごつい男を見て目が点になる。
いつもならティセラの柔らか声が出迎えてくれたのに、今日は野太く低い声なので、何だか具合が悪くなる。
そんな正悟にサボり目的の使用を認めず、背を向けて書類整理を始めるラルク。
ここまで来て帰るのも面倒くさい、どうせ眠いし何だか具合も悪いということで正悟はベッドへ向かおうとした。
しかしその一歩を踏み出した途端、彼の前にはいかつい男の顔が視線いっぱいに広がる。
次の瞬間、正悟の顔にラルクの拳がめり込み彼を吹っ飛ばしていた。
静止画の世界で表現されるかのように時間がゆったりと流れる。
正悟の体が地面に倒されると、ラルクはそっと胸ポケットにしまっていた煙草を口にくわえた。
「ふざけんな、駄目だっつってんだろうが」
「おいこらぁ!いきなり殴りやがる奴がどこにいやがるんだ!おかげで鼻血が出ちまっているじゃねぇか!!」
「そんくらいでピーピー喚くな、やかましいぞ」
「うっせぇ!この時間に俺はいつも来ているんだよ!これは医務官たちの間では常識事項だ!」
「そんなくだらん常識に付き合う義理はない」
火をつけて黙々と煙を吹かす飛んでも医務官に正悟が鼻血を盛大に噴きながら怒鳴りつける。
ラルクはまるで気にしている素振りを見せず、正悟の言葉に耳を貸そうともしていない。
正悟の一人空しい反論に付き合いきれないといった感じでいると、彼の後ろから別の生徒が現れた。
「すみません、少し横にならせていただきたいのですが……」
「ん?」
「……緋桜さんか、やめときな。このおっさんケチ臭いぞ」
「おっさんじゃねぇ、これでもまだ20代前半だ」
現れたのは緋桜 遙遠(ひざくら・ようえん)、長身のすらっとした男子は確かに具合が悪そうに見えた。
顔色も真っ青で、額には大粒の脂汗も出て、立っているのもやっとだという感じだった。
しかし彼のこの病状はすべて自分が仕組んだことだった。
昨日の件で、代理に誰が医務官になるか綿密に調べてから自分の取って有利になるかの策を張る。
それは自らに闇術を掛けて人為的に体調不良を招こうということだ。
下手をすれば自らの命にかかわることだが、医務室で寝るというのは止められない中毒性があった。
遙遠の様子にラルクは一瞬顔を曇らせ、正悟も彼の様子に疑問を抱いていた。
「(ありゃあわざとだな、まぁこのおっさんなら多分……)」
「分かった、奥のベッド使え。但し、1時間だけだぞ」
「ありがとうございます、失礼いたします」
「おおおぉぉぅぅい!!なんだよそれ!?明らかにわざとらしいじゃねえか!何その素通り姿勢は!?明らかにおかしいだろうが!!」
「うっせぇな、例え人為的に体調不良演出していたって、術式が解けねぇタイプなら仕方がねぇじゃねえか」
「納得できるかぁ!!このくそ親父、ふざけんじゃねぇ!!」
「んだとこのくそガキ!年上に対する口のきき方っていうのを教えてやる!!」
正悟とは違いあっさりと遙遠の使用を許可したラルク。
もちろん、前者は納得など出来ずについには堪忍袋の緒が切れてしまう。
正悟の罵声にラルクも我慢の限界に到達、二人は武器を持っての大乱闘に突入してしまった。
巻き込まれてはたまらないと、医務室の扉を閉める遙遠。
外では騒ぎで集まりだした人々がごった返す事になるが、遙遠は一人ゆっくりと柔らかなベッドで眠るのであった。
「す、すみませんが……保健室へ行ってきます」
ある講義で今日中に医務室へ向かうと告げて教室から出ていく男子生徒。
武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)、葦原明倫館に学籍を置いている彼だが本日は外部参加可能な空京大学の講義に参加していた。
連日の徹夜で疲労が溜まっていたのか、講義中に座っていても耐えられない程状態は悪化してしまう。
やむなく医務室へと向かうが、場所が何処だか分からない。
周りの生徒たちも、彼が外部の人間とは気付かなかったため助けるといったことはなかった。
壁に手をついて必死に医務室を探しているが見つからない。
地面に膝をついて、それでも一歩でも進もうとするが体が言うことを聞かない。
そのまま上半身も地べたにつく形で倒れてしまう。
意識も朦朧として、その瞳は閉じられる。
彼の前から駆け寄る足音を遠ざかる意識がそっと感じていた。
どれほど寝ていたのか、牙竜が目を開けると前には天井、下にはベッドがあった。
誰かによって運ばれたのか、そう考えているとベッドの傍に誰かいるのに気づく。
お礼を言うために声を掛けると、カーテン越しのシルエットが動き出した。
「すまない、たすかったよ。ありがとう……」
「それはどうも、他校で倒れるなんてまぁ貴重な体験はいかがでしたでしょうか?」
「……!せ、セイニィ、君だったのか」
「そうですよ、あなたに泣かされたセイニィさんですよ。ご機嫌いかが、牙竜さん?」
現れたのは十二星華の一人、セイニィ・アルギエバ(せいにぃ・あるぎえば)だった。
予想外の人物に戸惑いを隠せないでいる牙竜。
それもそのはず、この二人以前にとある出来事で些か折り合いのつかない関係になってしまったのだ。
突っぱねるような言い方をするセイニィに、牙竜は困りつつもお礼を言う。
「いや、君で良かったよ。ありがとう。」
「べ、別に!たまたま講義参加者リスト見て、あなたの名前があったから、気になって教室の前にいて、出てきたと思ったら倒れて心配、なんてしていないんだからね!」
「……そうか、してくれたのか」
「だから、違う……!」
ついつい自分の本心を暴露してしまうセイニィの言葉に牙竜が反応する。
反論しようと彼の顔を見たセイニィは言葉を失ってしまう。
自分を見つめる優しげな瞳、吸い込まれそうなその金色に心取り込まれそうになってしまう。
必死に我に帰ろうとするも、顔は以前赤いままだった。
一方の牙竜もセイニィの姿に見惚れていた。
夕日に照らされた彼女の金髪が輝き、一本一本が細やかな絹糸のように繊細で柔らかなものに見えた。
お互いがお互いに見惚れていると感じたのか、しばし言葉のない時間が流れる。
その後、セイニィは照れ隠しをするために、一言二言話してその場を立ち去ってしまう。
牙竜も、具合が良くなったので帰宅の途に就く。
改めて決心する、いつか必ず彼女の傍に立てる男になろうと堅く自分に言い聞かせるのであった。
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