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【秋のスペシャル】はーろーーーうぃーーーーーーーんっっ!!

リアクション公開中!

【秋のスペシャル】はーろーーーうぃーーーーーーーんっっ!!
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リアクション


●ローラといっしょ!

「ええ!? ハロウィンてお化けとかの服じゃないの?」
 紅護 理依(こうご・りい)は思わず訊き返してしまった。
 そもそも彼女に仮装の意思はなく、今日はたまたま、パーティがあるというから参加してみただけの話だった。一通り見て食べてして楽しめればいいか、くらいにしか考えていなかった。要は見物が目的だった。
 ところがいざ参加して歩いてみれば、参加者の大半はなんらかの仮装をしており、それがまたなんとも楽しそうだったのだ。
 自分もなにか衣装、持ってくればよかったかな――そう理依が考えはじめたまさにそのとき、彼女の目に『貸衣装サービス』の立て看板が飛び込んで来た。更衣室つきの衣装テントだ。
 さすが蒼空学園、こういったところの段取りはぬかりがない。山葉校長が気を回して用意したものだという。
「しかも無料? じゃあ一つ頼んでいいかな?」
 と、頼んでみて受け取った衣装が、なぜだかメイド服だったのだ。
 ここで冒頭の台詞に続く。
「ええ!? ハロウィンてお化けとかの服じゃないの?」
 ところが受けた説明が『魔女や吸血鬼の従者としてのメイド』ということだった。だからこれでも立派なハロウィン衣装になるのだという。
「チェンジも可能か……でも」
 顎に手を当てて理依は考えた。
 まあ、せっかくだし。

 鼻歌を唄いつつ、五十嵐 理沙(いがらし・りさ)は会場入りした。
 彼女は悪魔ッ娘の仮装、黒基調のコスチュームに青い角、アイドルっぽく肩を出している。
 悪魔娘の彼女の目的は、来場者の魂を狩ることではない。来場者をナンパ……もとい、スカウトするつもりなのだ。
「さっすがハロウィンパーティ、可愛い娘がいっぱいネ。いい娘がいたら是非ウチのメイド喫茶にスカウトしなきゃ」
 ふふっ、と含み笑いした。歩いているだけでも楽しくなりそうだ。
「とりあえずあのあたり、行ってみようかしら?」
 理沙が目をつけたその場所では、小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)クランジ ロー(くらんじ・ろー)(ことローラ)に、パンプキンパイの作り方を指導していた。
 美羽は三角帽子、黒マント、黒ゴスロリの三点セットで、ミニスカ魔女に変身していた。すらりとした脚のラインが映えるコスチュームだ。
「簡単に手順を話すね。まずはカボチャをボールで潰してから、生クリーム、卵、グラニュー糖、シナモンパウダーを加えて混ぜるの。それから、小麦粉とバターでパイ生地を作り、混ぜたカボチャを包む」
 用意したオーブンを見せて、
「それをオーブンで焼いたら、チョコペンでジャック・オー・ランタンの笑顔を描いてできあがり……って、聞いてる?」
「聞いてる。聞いてる」
 同じく魔女の仮装、とんがり帽子に黒のワンピース、スカートに星柄をあしらった衣装で、こくこくとローラはうなずいて見せた。しかし、なんとなく上の空である。
 ローラと美羽で一緒にパンプキンパイを作って、ひとつを御神楽夫妻に、もう一つを涼司に渡すという計画であったのだが、美羽は段取りを間違ったかもしれない。
「うーん」
 それじゃあ、と美羽は試すことにした。
「ローラ、手順の一番最初を言ってみて?」
「えーと」
 大きな目をぱちくりさせて、ローラはしばし考えていたが、やがて、
「パンプキンパイ、おいしそう星」
 とにっこり、ハッピー光線でも放ちそうな満面の笑顔で告げたのだった。
「いやそうじゃなくて……」
 美羽は肩をすくめた。
 彼女はパンプキンパイを持参し、ローラに「一緒に作ってみない?」と誘ったのである。
 これは昨年、ハロウィンパティシエコンテストで9位に入賞したものをさらに改良したものなので、味のほうは保証付きだ。
 ところが、「これが見本ね」とあらかじめ作っておいたパンプキンパイを先に見せたのが美羽の失敗だった。
 見た目だけでもサクサクこんがり、手を伸ばさずにはいられないお菓子の登場に、すっかりローラは心奪われてしまって、作り方の説明どころではなくなったのだった。美羽が手順を説明している間もずっと完成品見本を注視していた。
「しょうがない、先に完成品を一切れ……」
 食べてみる? と、言わんとした美羽であるが、そこに乱入者があらわれた。
 ひらりと翔んで二人の前に着地すると、お面を被った謎の人物が立ち上がりざまに宣言したのだ。
「ふーはははは、わしは天津麻羅、神じゃ! 今宵は色々あって本来の姿を見せることができんかったので、涙を呑んで緋雨の身体を借りて降臨してやった。崇めて良いぞ、ほれ?」
 腰に手を当てて仁王立ち、その物言いはたしかに、水心子 緋雨(すいしんし・ひさめ)のパートナー『天津麻羅』そのものである。口調ばかりか声まで似ている。
 とはいえ声はお面の奥から出ており、お面着用者の姿形は緋雨以外の何者でもなかった。
「えっと……麻羅がどうしても、っていうから一応やってみたわ。麻羅ならきっとこういうわよね、ってことで」
 そのお面は麻羅を模したものだった。外すと、そこにはローラもよく知る緋雨の笑顔があったのである。緋雨は、知的な印象のある眼鏡をちょいと直した。
「ローラさん、この前は焼きカレーとかありがとね♪」
「緋雨、どうした? 麻羅は?」
 ローラは不思議そうに首をかしげた。緋雨と麻羅がいつも一緒なのはローラも知っている。
「あはは、実は迷子になってはぐれちゃったみたい……ホント、どこ行ったのかしらね〜。でも、私単独でローラさんと会うことになったら、どーしてもこれをやれって麻羅からうるさく言われてて……まあ、約束は果たしたってことで」
 そのあたりの事情はあまり追求しないで、と言わんばかりに片眼をつぶって緋雨は苦笑いした。
「そういうわけで私の仮装はその『麻羅』よ。二人で一人ということでよろしく!」
 かぽりとお面を下ろして彼女は続ける。
「……ということじゃ!」

「うう……やっぱり恥ずかしい……」
 はにかみながら理依は歩いていた。どうしても内股気味になる。
 こんな服装、するのはほとんど初めての彼女だ。
 貸衣装コーナーで受け取ったメイド服、頭にはカチューシャ。清楚な衣装だがスカートが少々短く、どうしてもそこが気になってしまう。手をスカートに添え、それでもちらちら、周囲の仮装を観察しつつ理依は歩を進めた。
 スカートとパーティの様子が気になって、理依は正面を見ていなかった。
 すぐ目と鼻の先に広い背中があるのにももちろん気づかなかった。

 天津麻羅かつ水心子緋雨な緋雨(ややこしい)の登場で少々展開が狂ったが、美羽は気を取り直してローラに向き直った。
「じゃあローラ、まずは見本を一切れどうぞ。次に緋雨さんの分も切り分けるね」
 一切れを皿に載せて差し出した。上品な小皿、フォークもそえて渡そうとする。
 ところがローラは、
「ありがと♪」
 迷わずパンプキンパイを手づかみしようとするではないか。
「あ、それだめだめ、お皿を取って……」
 注意しようと緋雨が身を乗り出す。
 そこにちょうど、
「ふふ、可愛い子発見♪」
 すりっと五十嵐理沙が姿を見せた。
「君が噂のローラちゃんね? 蒼学でメイド喫茶『第二』ってのやってるの。ハロウィンまで特別衣装メイドちゃんとハロウィンメニュー展開中よん、来てね☆」
 肩をローラに触れ、理沙はニンフのように色っぽい目をして話しかけた。
「はわ?」
 ところが急なことで驚き、美羽からパンプキンパイを受け取るため屈み込んでいたこともあって、ローラはぐらりとバランスを崩す。
 そこにアクシデント、
「ええ!?」
 うっかりよそ見していた理依が、ローラと理沙に衝突した。
「はわわ!?」
 パンプキンパイを掴み損ねたローラは、思わず前のめりになって美羽にしがみつこうとした。
「ま……待って待って!」
 小柄な美羽にとってはちょっとした危機だ。
 パンプキンパイにとってはちょっとどころではない危機だ!
「パス!」
 それでもパンプキンパイは守る、と決めた美羽は、皿ごとこれを緋雨に投げた。
 空を飛ぶ。一切れのパンプキンパイが空を飛ぶ。
 皿も飛ぶ。
 フォークも。
「えっ!? パ、パスっ!?」
 緋雨がダイビングして両手を伸ばし皿をキャッチした。
 そこにフォークがカチンと乗って、
 見事! パイ一切れもぽすっと収まったのである。
 ほぼ同時に、
「はわわー!」
 ローラが美羽に覆い被さって倒れ、
「ひゃっ」
 ローラに背を預けていた理沙がそこに折り重なって、
「えええっ!?」
 最後に、理依が理沙にのしかかった姿勢で停止したのだった。
 ううむ……、とうなると、緋雨はお面を再び被った。
「これにて一件落着、じゃの…………違うか?」
 とはいえ誰も怪我することなく、笑いあって土埃を払い、これも何かの縁ということで、名乗りあって四人でパンプキンパイを作ることになったのである。

「はーい、みんな可愛いわよ〜。じゃあ、笑って笑って……」
 カメラのセルフタイマーをセットして、理沙は美羽、緋雨、理依、そしてローラと並んだ。
 中央にはみんなで作ったパンプキンパイ、これを囲むようにして記念写真を撮影するのだ。
 デジカメがシャッター音を立てる。

 カシャッ。