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【2020節分】ハチャメチャ豆撒きロワイヤル

リアクション公開中!

【2020節分】ハチャメチャ豆撒きロワイヤル
【2020節分】ハチャメチャ豆撒きロワイヤル 【2020節分】ハチャメチャ豆撒きロワイヤル

リアクション



●中盤、やっぱりカオスになりました

 豆撒き会場がカオスになった要因の最たるは、第三勢力の介入である。その先陣を切ったのは、久世 沙幸(くぜ・さゆき)セシリア・ファフレータ(せしりあ・ふぁふれーた)桐生 ひな(きりゅう・ひな)の蒼学トリオであった。
「いや、鬼娘っぽくなるのは節分だから良いのじゃ。少し恥ずかしい位でそこは良いのじゃが……
 この季節にこの水着は寒すぎじゃろおぉぉぉぉ!?
 フィールドの中央脇で、豆色に塗られた大玉を前に、虎柄のビキニを着たセシリアが吹き抜ける風に身を震わせる。
「だって、節分だし、こういうのってインパクトが大事だし。大丈夫、これから運動すればあったかくなるよ!」
「登場シーンは可愛くキメたいですね〜。何事も最初が肝心なのですっ」
 同じ格好の沙幸とひなはノリノリで、これからの作戦を確認している。
「そこまでしてする事なのかえこれは!? それにスタイル的に私だけ浮いておるし……
 セシリアが、他の二人にはあって自分にはないのを羨むように、ジットリとした視線を向ける。
「準備が出来ましたわ。皆さんどうぞ乗って下さいな」
「潰されにゃいで頑張ってくるのじゃ」
 大玉を所定の位置に据えた藍玉 美海(あいだま・みうみ)が声をかけ、ナリュキ・オジョカン(なりゅき・おじょかん)が三人の背中を押して大玉に誘導していく。
「ここからフィールドの中央までは、地面を凍らせてありますので楽に進めますわ。それからは落ちないように気をつけて下さいませね」
「さっすが美海ねーさま! よーし、皆を驚かせちゃうぞ!」
「さぁ、敵も味方も見て驚くがいいのですーっ」
「ほう、なかなか良い眺めじゃのう……何だかワクワクしてきたぞい」
 三人が大玉の上に乗り、美海とナリュキが大玉を転がすために三人の背後につく。
(……ああ、こうして見上げれば皆さんのお尻がわたくしを誘いますわ。今すぐにでも食べてしまいたい……あら? 背中に何かついてますわね。……まあ、よろしいでしょう。今は大玉転がしに専念ですわ)
(くひゅひゅ、三人とも潰れてしまうがいいにゃーっ)
 そして、大玉がゆっくりと動き始め、次第に速度を上げていく。ここに来てその異様な光景に気付いた生徒たちが、何だあれはとばかりに騒ぎ立てる。
「にゃははは、どけどけどけーなのじゃー!」
「あ、そうです。皆さん、走るときはバック走になりますからね。油断すると本当にすぐ落ちますわ」
「…………なんじゃと?」
 セシリアがその事実に気付いた時には既に、氷のガイドは終わりを迎えていた。
「ちょ、待つのじゃ美海!? 今すぐ転がすのを止めぬと私たちがまず……って速い速い速い!?
「うわわわ……っ、こ、このくらい、乙女の気合でカバーだよ……っ!」
「なはははは、避けないと遠慮無く潰しちゃいますよー」
 ゴロゴロと転がる大玉の上で、上機嫌なひな、真剣な表情の沙幸、もう既にいっぱいいっぱいのセシリアがバック走でフィールドを蹂躙していく。綺麗所の女の子三人が虎柄のビキニ姿で玉乗りをしている光景に目を奪われた男性生徒は、次の瞬間ぷちっ、と大玉に潰されて戦闘不能に陥る。幾人からは「食い込み万歳!」「フラットボディ最高!」「俺、新しいプレイに目覚めたかも……!」といった呻きが聞こえてきたとかこないとか。
「美海ねーさま、左に行くよ!」
「分かりましたわ。ナリュキさん、先に行って下さいませ」
「心得たのにゃーっ」
 指示を受けて、大玉の右側に位置したナリュキが速度を早めることで、大玉は徐々に左に曲がっていく。しかしこれがなかなか二人の速度の調整が難しく、意図するまでもなく大玉は左右に蛇行しながらフィールドを蹂躙していく。
「このままイルミンスールの校長を潰しに行くのですーっ」
「お、おおぉぉぉ……」
 まだまだ余裕が見られるひなに対し、セシリアはいつ落ちてもおかしくない雰囲気である。
「おやぁ? 何だか面白いことしてますねぇ……って、こっちに向かってきてますねぇ。そういうことなら容赦しませんよぉ!」
 段々と近づいてくる豆色の大玉を確認したエリザベートが、両手に氷の種を宿らせる。
「そぉれ!」
 その状態で左手を地面に這わせれば、氷が地面に沿うように伸び、大玉とそれを転がしていたナリュキの足元を氷に変える。
「はにゃっ!?」
 つるん、と足を滑らせたナリュキが転ぶ際に大玉を大きく押し、同時に大玉が設置している地面も凍っていたため、大玉は慣性で前方に進みながら回転を始める。
「いやーっ、目が、目が回るーっ!」
「も、もう無理じゃ……」
「お、落ちるですー!」
 三人が悲鳴を上げつつも踏ん張りを見せていたところに、エリザベートが右手の氷を大玉の前方に障害物のように据える。そこに滑ってきた大玉が接触して大きく跳ね上がる。

「「「きゃーーーっ!!!」」」

 空中で三回転半した大玉が地面に着き、振動でついに大玉から滑り落ちた三人がぷちっ、と潰され、そのまま大玉と共にフィールドの端まで転がっていく。ナリュキが事前に仕掛けた背中の接着剤が、こんなところで作用していた。
「回転は綺麗でしたけどぉ、着地がダメダメですねぇ。評点は0点ですぅ〜」
 どっかーん、とフィールドの端の壁にぶつかる音を聞いて、エリザベートが評価を下す。
「さ、沙幸さんっ」
「くひゅひゅ、無事に潰されおった。後は回収するだけにゃー♪」
 沙幸を助けに向かう美海と、作戦通りにご満悦のナリュキの前方で、沙幸とひな、セシリアは大玉と一体化しているかのようにぺらぺらになっていた。
「い、インパクトは、あったよね……」
「か、風邪引きそうなの……じゃ……」
「むぎゅー……でも、わ、悪くなかったです……がくり」
 生徒たちに強烈なインパクトを残した彼女たちがきっかけとなったかは定かではないが、これ以降会場は別の意味で盛り上がっていった。
「お正月の時もそうだったが……こうも日本の伝統行事を曲解されるのは複雑な思いだな。それにおば上もどこかに行ってしまうし、困ったものだ」
「でも、むしろチャンスかもしれないわよ。豊美君抜きで校長二人を懲らしめれば、馬宿君を無下に出来なくなるでしょうし」
 現状の惨状に溜息をついた飛鳥 馬宿に、リカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)が誘いをかける。その手に持たれた四つ目の黄金の目の面を見つけて、馬宿がほう、と呟く。
「追儺式、か。つまりはこれを被り、鬼を祓えという具合だな。……フッ、俺もここの校風に毒されたかは知らんが、面白い。その提案、乗った」
 馬宿とリカインが手を組んで、今ここにチーム【追儺の面】が結成される。リカインのパートナー、キュー・ディスティン(きゅー・でぃすてぃん)中原 鞆絵(なかはら・ともえ)ソルファイン・アンフィニス(そるふぁいん・あんふぃにす)、それにリアトリス・ウィリアムズ(りあとりす・うぃりあむず)ルピナス・ガーベラ(るぴなす・がーべら)という面々が、一斉にお面を被り一路、校長ズという『鬼』を祓うべくフィールドに繰り出していく。
「大体のお話は解りました……が、やはり争いはよくありません! 何とかして止めなくては……
(あの二人、二校を敵に回して大丈夫なのか? ……と言ってももう遅いか。とにかく、囲まれないよういかないとな)
「楽しいのはいいことですけど、やりすぎはいけませんよ? あんまりひどいようなら、豆と一緒にお掃除しますから」
 馬宿とリカインが並んで先頭を駆け、その後ろをソルファイン、キュー、鞆絵が続く。殿はシベリアンハスキーの『ロウファ』を連れたリアトリスとアパルーサの『アマンダ』に跨ったルピナスが務めるが、何故かロウファとアマンダには『よい子はまねしないでね』と書かれた看板が掲げられていた。
「ねえ、どっちから懲らしめにいくの!?」
「イルミンスールの校長にはおば上が世話になっているからな。俺としては蒼空学園の校長から向かいたいところだが……いいのか? お前はそれで」
「んー、まあ、いいんじゃない? どうせ両方ともやるんだし」
 そして一行は、環菜のところへ進路を変える。すぐに、蒼空学園の生徒が数名、一行の前に立ち塞がる。
「今です! ……皆さん! 僕は見ての通り戦うつもりはありません。無益なことはやめて仲良くいたしましょう!」
 ソルファインがお面を投げ捨て、ついでに服も脱ぎ捨てパンツ姿を晒しながら、事態の穏便な解決を図ろうとする。
「止めろ変なモン見せんな!」
「せっかく虎柄ビキニにハァハァしてたのに!」
「俺たちのメモリーを返せ!」
 しかし、大玉転がしが彼らの身も心も襲った後だったのが、ソルファインにとって不運だった。あえなく無防備な身体に無数の豆をぶつけられて、ソルファインが『死体』の札を掛けられる。救いなのは、彼が犠牲になっている間に他の者たちは傍を駆け抜け、無傷で進軍を続けられたことであろうか。
「ねえ、聞いておくけど、馬宿君ってどのくらい強いの?」
「そう聞かれても、基準次第で異なるとは思うが……おば上にはあらゆる意味で叶わないぞ。……む、午一刻方向、俺たちに敵意あり、注意しろ」
 午一刻、つまり十一時方向を指して馬宿が告げれば、今まさに蒼空学園の生徒が射撃を行おうとしているところだった。放たれた豆はキューの氷術による壁で防がれ、生徒は最も機動力が高いルピナスの一閃で無力化される。
「こんなところか。生前は話し声しか聞こえなかったのだが、何故かこうなってしまってな」
 馬宿、かつての聖徳太子は、十人の相談を記憶することが出来たことから『豊聡耳』と呼ばれたという逸話がある。その力は今になり、発されない声まで聞き取れるようになっているのだそうだ。もはやちょっとしたレーダーである。
「すごいねー。じゃあこのままいっちゃおうか!」
 馬宿のレーダー機能を得た一行は、防衛網を掻い潜って環菜を視界に捉える。踏み込んだリアトリスが豆に雷を纏わせ、手にした大剣でフルスイングを見舞う。直後巻き起こる爆発に、一行が仕留めたと思った矢先、視界が晴れたそこには白っぽい色をした壁が、豆を受け切っていた。
「これ以上校長先生を痛い目には合わせられません。私がお守りいたします」
 環菜の傍に控えていた本郷 翔(ほんごう・かける)が、用意してきた豆腐の盾で環菜を守りながら、豆乳入りの水鉄砲で反撃する。その攻撃はともかく、防御は硬く、リアトリスとリカインの放つ力の込められた豆も、ことごとく跳ね返される。
「何あの盾!? これじゃ一向に懲らしめられないじゃない!」
「ならば、この一発で! 」
 ルピナスが、馬上の姿勢から何やら赤く染まった豆を放つ。それは豆腐の壁に遮られるが、飛び散った赤い粉、激辛成分の唐辛子が周囲に充満し、うっかり吸い込んだ者たちをむせさせる。
「ケホッ……これは流石に想定外ね。高機能の防護マスクを検討した方がいいかしら」
 環菜もこれにはたまらず、瞳に涙を浮かばせて咳き込む。それは翔が豆乳で中和するまで猛威を振るった。
「散々暴れてくれたようだけど、時間は私たちの味方だわ。……生徒たち、早急に敵性を排除しなさい」
 しかし、体勢を立て直した蒼空学園のディフェンス陣が、環菜の指示を受けて馬宿一行に攻撃を仕掛ける。
「くっ、このままじゃ囲まれるぞ!」
「やむを得ん、ここは引くぞ。……流石は蒼空学園を一手に握るだけのことはある」
「ま、ちょっと違うけど、涙を流させたことだし、懲らしめにはなったのかな?」
 馬宿の指示で後退していく一行を見遣って、翔がふぅ、と一息つく。滲んだ涙を拭いた環菜が、翔に歩み寄って礼を述べる。
「あなたのおかげで時間を作ることが出来たわ。……ありがとう」
「もったいないお言葉です。せっかくですから、この豆腐を後で鍋にして、皆さんに振舞いましょうか」
 翔の提案に頷いた環菜が準備を翔と生徒たちに任せ、持ち場へ戻っていく。一方、フィールドの中央付近まで撤退した馬宿一行は、体勢を立て直して今度はイルミンスールへと進軍していく。
「イルミンスールの校長はどこかおば上に似た雰囲気がある。常々注意しろ」
 告げる馬宿のレーダー機能はここでも有効で、撃退しようとしたイルミンスールの生徒はことごとく無力化されていく。
「芳樹、敵がこちらに向かってくるわ」
「光学迷彩も隠れ身もなしに、正面突破か。……なるほど、馬宿さんが率いているのか。なら、一見愚行に見えるその行動にも納得がいく」
 エリザベートの守りについていた高月 芳樹(たかつき・よしき)アメリア・ストークス(あめりあ・すとーくす)の横で、彼らに誘われて行動を共にしていたミリア・フォレストがにこにこと笑顔を浮かべている。
「皆さん楽しそうですねぇ〜。豆撒きとはこういうものなのですね」
「いや、大分違うと思いますが。とにかく、ミリアさんは下がっていてください。僕たちがお守りします。……行くぞ、アメリア」
「ええ、芳樹」
 芳樹にアメリアが頷き、二人が一行の迎撃に向かう。
「あら……」
「? どうしたの、鞆絵?」
「いえ……気のせいでしょうかね。あたしと同じ空気を持った人がいたような気がしましたけど……」
「トモちゃんみたいな人なんて、そうそう居ないわよ」
 なおも首を傾げる鞆絵にリカインが答えるそこに、芳樹の放った豆がすぐ前の地面を穿つ。
「ここから先は、通すわけにはいかない」
 豆をばら撒きながら、芳樹が一行を制圧にかかる。エリザベートを目前にしながら、なかなか近付くことができない。
「相手は一人よ、全員でかかれば突破できるわ!」
「……いや、待て。……そこか!」
 何かを察知した馬宿が、手にしていた自らの笏『日本治者仕笏(ひのもとおさめしものにつかえししゃく)』を投擲すれば、隠れ身で潜んでいたアメリアの姿を露にする。
「しまった!?」
 伏撃を見破られたアメリアは、リアトリスの轟雷を纏った豆に撃ち抜かれて地面に伏せる。目論見を防がれた形になった芳樹が制圧されるのは、時間の問題であった。
「ウマヤド〜、後でトヨミに言いつけますよぉ〜」
「何とでも言うがいい。話術は俺の十八番だ」
 そう言い放ち、笏で一斉攻撃を指示しようとした馬宿の前に、笑顔を浮かべたミリアがやって来る。
「ミリアさん、危険です!」
「大丈夫ですよ〜、馬宿さんは優しい方ですから」
 芳樹の警告に笑顔で答え、ミリアがじっ、と馬宿を見つめる。
(な、何だ……何故だ、こ、声が、聞こえてこない……! 何を考えているのか、全く掴めない……!)
 ミリアに見つめられた馬宿の表情が重くなっていき、冷たい汗が吹き出てくる。今の馬宿は、法隆寺の大仏にすら味わうことのなかった、どうしても抗えぬ圧力のようなものを感じていた。
「くっ……退け、退くんだ!」
「えっ、まだ懲らしめてない――」
「いいから行くぞ!」
 耐え切れなくなった馬宿が撤退を指示し、皆が渋々ながらそれに従っていく。
「ミリアさん、大丈夫ですか」
 アメリアを抱えて現れた芳樹に、ミリアがにっこりとして答える。
「ええ。思った通り、馬宿さんは優しい方でしたわ」
 もしかしたらミリアの笑顔には、人が持つ特殊能力を無効にしてしまう効果でもあるのではないかと思わせるような、そんな雰囲気であった。

「リンネ〜、あたいお腹空いたよ〜。さっき買ってきたアイス食べよ、アイス!」
「家に帰るまで待ってよ〜、こんなところで食べたらお腹壊しちゃうよ〜。……あれ? 何だか修練場の方が賑やかになってるね」
「何かやってんのかな? ちょっと行ってみようよ!」
「ああっ、待ってカヤノちゃんっ」
 ちょうどその頃、買い出しに行っていたリンネ・アシュリング(りんね・あしゅりんぐ)カヤノが、修練場の騒ぎを聞きつけて入口から中に入っていく。
「うわー、あっちこっちに豆だらけだ〜。あっ、エリザベートちゃんとおでこちゃんがいるね〜」
「つーかみんないるじゃん。何やってんだろ……って、何であいつまでいんのよ!?」
 状況を掴めずにいるところへ、カヤノがティア・ユースティ(てぃあ・ゆーすてぃ)の姿を見つけて指差す。
「一球入魂! ギャラクティカソニック!」
「はいはーい、疲れた人はいませんかー?」
 風森 巽(かぜもり・たつみ)が上空から襲いかかろうとするイルミンスールの生徒を音速に加速させた豆で迎撃し、ティアが疲労したディフェンス陣を癒しの力で回復させていた。
「ちょっとあんた、何やってんのよ!?」
「ん? ……うわ、何かいたし」
「何か、じゃないわよこのバカ! あたいの質問に答えなさいよ!」
「またバカって言ったね! カヤノ、バカって言う方がバカなんだって知ってる!?」
「あんたも言ったからバカよね! ホント、バカなんだから!」
「〜〜〜〜〜〜〜!!」
 会った矢先から、いつものように口喧嘩を始めるカヤノとティア。何事かとやって来た巽に、リンネが事情を尋ねる。
「ふんふん、なるほど〜。エリザベートちゃんとおでこちゃんは、やっぱり仲良しだね!」
「そ、そうなんですか? ……言われれば確かに、ティアとカヤノに似ているような――」
「「誰が!!??」」
 声をピッタリと合わせて、ティアとカヤノが反論する。
「ふ〜ん、そっか〜。ま、よわっちくて臆病なティア、あんたじゃあたいには叶わないわよね〜」
「誰が臆病者か! いいよ、望む所だよ、ここで会ったが百年目だよ!」
 口喧嘩が過ぎて、既に二人ともやる気満々である。
「ああもう、いつもこうなんですから……」
「まあまあ、仲良しなのはいいことだよ〜。大丈夫、リンネちゃんが見てるから!」
それはそれで余計に心配な気が……分かりました、リンネさんにお任せします」
 リンネにその場を任せて巽が後にするのと、ティアとカヤノのバトルが始まるのはほぼ同時のこと。
「軽く凍りつかせてあげる!
 アイシクルフォール、まねき版!
 カヤノが掲げた掌に、豆を種にした氷柱が生み出されティアに投げつけられる。『豆撒き』が言い辛いらしく、『まねき』になっているが気にする素振りは全くない。
豆撒き仕様、フレイムカウンター!
 飛んできた豆入り氷柱を、ティアは火術を乗せた普通の豆を放って撃ち砕く。
「よわっちいって言葉、撤回してもらうよ!
 火の玉魔球! フレイムブレイザー!
 今度はティアが反撃とばかりに、クルミ大の豆を炎に纏わせて撃ち出す。
「あたいの辞書に撤回なんて言葉はないわ!
 パーフェクトフリーズ、まねき版!
 カヤノが、微細に砕いた豆を凍りつかせて極小範囲の吹雪を作る。凍りついた豆が拳大の大きさになって地面に転がった。
「うわー、二人ともすごいねー。観てるだけでも面白いねー。……あ、アイスどうしよう。カヤノちゃんに凍らせてもらえばよかったかも――」
「せーの、
 真似っ子ファイア・イクスプロージョン!
 リンネがアイスの処遇に困っていたところへ、自分の得意とする呪文の詠唱が聞こえ、そちらを振り向けば、修練場の隅で立川 るる(たちかわ・るる)が火術で包んだ豆を撃ち出していた。
「うぅ〜ん。やっぱり人の真似じゃ、しっくり来ないよね」
 はぁ、と溜息をついて、るるが一人呟く。
「意外と光術とかの方がイケるかなぁ? るるらしさで言えばやっぱり星……スター? メテオ? コメット?」
「ねーねー、どうしたの?」
 そこに、るるの詠唱を聞きつけたリンネが声をかける。
「わっ!? り、リンネちゃん!?」
「うんっ、リンネちゃんだよ☆ ねーねー、どうしたのー?」
「うん、あのね……」
 言って、るるが心に思っていたことをリンネに告げる。自分が魔法使いとしてこの先生きのこるためには、一発すごい技が必要だと。
「そっか〜。リンネちゃんはとにかく、大・爆・発! な魔法が好きだから、爆発系魔法ばっかり練習しちゃうし、名前もちょっと変えちゃったりなんだ。本当はエクスプロージョン、なんだよ」
 魔法の発現に際しては、言葉が絶対に必要というわけではない。それでも、魔法を発現させたいという想いが重要な要素であることから、本来詠唱すべき呪文を変えて、より想いを引き出すようにすることは、それなりに行われているようである。
「るるちゃん、星が好きなんだ? じゃあ、星、星……流れ星……メテオ……ううん、おかしいね……ミーティア! えっと、熱源発生系……召喚……招来……インベーダー! ……あわわ、それじゃ人だよねっ。えっとえっと……」
 うんうんと考え込むリンネ。思いつきで言っているように見えるが、そこから有用な魔法を各自生み出していくので、侮れないのである。
「うんうん、なるほど〜。ありがとう! 参考にさせてもらうねっ」
「ごめんね〜、何かあんまり力になれなくて。……うわ! アイス溶けちゃう〜。じゃあ、リンネちゃん行くねっ」
 アイスの箱を抱えて、リンネがその場を後にする。
「カヤノちゃん、もう行くよ……って、カヤノちゃん!?」
「ううぅ……こ、今回は引き分けにしておいてあげるわ……」
「そ、そうだね……いたたた、もう動けないよ……」
 リンネが戻ってくると、カヤノとティアが全身に豆をくらい過ぎて動けなくなっていた。ちなみに負けた方は『豆をアーデルハイト様の年の数だけ食べる』罰ゲームだったそうだが、それは天地がひっくり返っても無理だろう。
「ティアちゃん大丈夫? リンネちゃん家で休んでく? カヤノちゃんがいつも遊んでもらってるみたいだし、おもてなしするよ?」
「べ、別に遊んでるわけじゃないんだけどなぁ……」
 その後、巽に話を通した上で、ティアも連れて、カヤノと一緒にリンネが家へ戻っていく。そして、アドバイスを受けたるるは自分だけの魔法を目指して、練習を再開するのであった。

「いや〜、節分の日に喧嘩してるっていうから来てみたけど、思った以上にすごいね、これは。結局大豆だから環境には優しいだろうけど、当たったら痛いよねー」
 フィールドの脇で、一ツ橋 森次(ひとつばし・もりつぐ)が恵方巻を銜えながら混沌と化した会場を眺めていた。
「確かに凄いね。……それより森次、僕の作った恵方巻どうかな? 森次が望むなら僕の恵方巻も特別に――」
「はいはいそっちは自重しようね。んー、認めるのがシャクだけど美味い」
 頬を染めながらズボンを下ろしかけた夕凪 牧人(ゆうなぎ・まきと)に一発くれて、森次が恵方巻を食べ終わる。
「ボク、もう少し近くで見てくるよ」
「危ないよ森次、僕も付いて行くよ」
「いいよ来なくても」
「いいじゃないか、僕は森次のお兄さんなんだから」
「別に兄ってわけじゃ――」
 なんて言い争いをしている森次の額に、ぺし、と豆が当たる。一発で済めばまだしも、どかどかどか、と雨のように豆が、しかも大きい方の豆が森次に降り注ぎ、あっという間に森次が剥けた皮と砕けた豆まみれになる。
「も、森次、大丈夫?」
 牧人に全身を払われた森次の表情には、穏やかながら確かな殺意が潜んでいた。
「……ボクに豆当てたのダァレかな? ねえ、ちょっと遊ぼうよぉ?」
 言って森次が、弁当にと持ってきていた納豆を取り出す。
「そ、それは、確かに豆だけど、止めた方がいいと思うなぁ」
「うん、ボクもこれはないなーって思うんだ。……でもね、ちっさい豆ならまだしも、こんな大きな豆をいくつもぶつけられたんだよ? この報復に相応しいものっていったら、これしかないじゃないか」
 ちょうどそこに、新たな敵と勘違いした蒼空学園とイルミンスール、両校の生徒が森次を挟みこむように対峙する。
「やられたらやり返すだけだよね!!」
 飛んできた豆を防御姿勢で防いだ森次が、手にした納豆を手近な生徒へぶつける――。

「うぅ、クサイですぅ〜。それにあっちこっちでメチャクチャなことになって、ちっともカンナにぶつけられないですぅ〜」
 その後フィールドは、第三勢力が荒らし回ったことで混沌と化し、さらには大豆の代わりに納豆が投げ込まれ、戦場よりも阿鼻叫喚の光景が広がっていた。『ぬるぬるパーティー、ポロリもあるよ!』と言われてもとても参加したくない状態である。
「お困りみたいだなぁ、イルミンスールの校長さんよぉ〜」
 そこに、南 鮪(みなみ・まぐろ)とそのパートナー、織田 信長(おだ・のぶなが)土器土器 はにわ茸(どきどき・はにわたけ)が現れる。
「おまえ、あの邪悪なツルピカデコに豆をぶつけたいんだろう? 退治と言わず殲滅だぜ、ヒャッハァ〜!」
「そうですぅ。どうすればいいですかぁ?」
 かつて一度攫われたことなど露知らず――あの時は終始眠っていたので当然である――、エリザベートが鮪に尋ねる。
「ヒャッハァー! それじゃ俺に任せときな、一緒にたっぷりお楽しみと行こうぜ、くっくっくぅ〜」
「カンナにギャフンと言わせられればいいですぅ〜。あなた、任せたですぅ〜」
 そして、「おまえはここに隠れてな」と勧められた、光る種モミの入っていた袋に収まったエリザベートを担いで、鮪がしてやったりといった表情を浮かべる。
「後は身代わりをぽいっと……ヒャッハァ〜!!」
 
「……あれ? ここにもいないですねー。ミーミルさん、どこに行っちゃったんでしょう?」
 しばらくして、エリザベートのところに飛鳥 豊美(あすかの・とよみ)と、彼女を誘って行動を共にしているメイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)セシリア・ライト(せしりあ・らいと)フィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)が現れる。一行は豆撒きの最初で豊美ちゃんと別れてしまったミーミルを誘うべくやって来たのだが、ミーミルはここにはいないようである。
「ミーミルがどこに行ったか知ってますかぁ?」
 メイベルがエリザベート――ではなく、鮪が用意した、作画崩壊したエリザベートのお面をつけられたはにわ茸――に尋ねれば、エリザベート? はくねくねしながら知らんぷりをする。
「何だかくねくねしてますねー。豆を当てられ過ぎたからでしょうか?」
「あらあら、大変ですわ。エリザベート様、大丈夫ですか?」
「これしきのことでヘタレるわし……私じゃないですぅじゃけえ」
 尋ねる豊美ちゃんとフィリッパに、エリザベート? はやっぱりくねくねしていた。
「……ていうか、どう見てもニセモノだよね? くねくねしてるのうっざいわー!
 セシリアのハンマーの一撃が、べちゃ、とエリザベート? もとい、はにわ茸を潰す。
「あっ、本当ですー。私気付きませんでしたー」
「本物はどこに行ったんでしょうね?」
「休憩でしょうか?」
「……と、とにかく、知らせなくちゃ!」
 どこまでもボケっぷりを披露する豊美ちゃんたちを急かして、セシリアが何かを知っていそうなはにわ茸を引きずって行く。
「くやしいのう、くやしいのう、なんでわしがエリザベートじゃないと判ったんじゃ。同じぐらい可愛らしいのにのう」
 まだくねくねするはにわ茸を大人しくさせて、一行はミーミルのところへ向かう――。