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春が来て、花が咲いたら。

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春が来て、花が咲いたら。
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リアクション



19


 食事の準備をしていたら。
 いつの間にか、ドヴォルザーク作曲 ピアノ三重奏曲第四番(どう゛ぉるざーくさっきょく・ぴあのとりおだいよんばんほたんちょう)――通称ドゥムカの姿が見当たらないことに、マラッタ・ナイフィード(まらった・ないふぃーど)は気付いた。
 ――探すか。
 ――…………?
 ――いや、なんで探すそうなど……?
 ドゥムカが気まぐれに出掛けることなんて、珍しいことじゃないのに。
 どうして探そうと思ったのだろう。
 まあいいか、と思い直して宴席を離れた。
 ぶらり歩いてみるのも良いもので、桜の花の美しさを見ながらドゥムカを探す。
 不意に、音楽が聞こえた。
 どこから? 頭上から?
 見上げる。居た。ドゥムカだ。手にしている楽器はヴァイオリンだろう。マラッタの姿を認めたドゥムカが、演奏を止めて小さく手を振ってきた。
「そちらからの景色はどうだ」
「上々だ。散る桜を上から眺めるのもそう悪くないぞ」
 桜を見上げてドゥムカは言う。それから脚を組み換えた。その際、スカートが揺れて白い太股が見える。
「……その、言い辛いのだが……油断していると、見えるのではないか?」
「ふん。座る時に確認済みだ、見えないようにしてあるさ」
「そうか。ならいい」
 何がいいのかわからないけれどそう思った。探しに行く時に思ったような感覚だ。
「そろそろバーベキューが始まるそうだ」
「そうか」
「行かないのか?」
「もう少し景色を楽しんでから行くさ」
「なら俺も少し見てから行く」
 せっかく桜が綺麗なのだから、見ないと損だ。皆と来ているのだから、バーベキューを楽しまないのも損だけど。
 木の上と、木の下と。
 同じ場所で、違う場所で、二人は桜を見る。


 そんな二人をやや遠くから見守る影二つ。
「ドゥムカたんはぁはぁ。いつもながら甘酸っぱいねいいねこの関係! 気になっちゃうよね〜ぇ♪」
「ルイーゼぇ……何故ロレッタにこういうラブラブしいものを見せようとするんだ……」
 ノリノリのルイーゼ・ホッパー(るいーぜ・ほっぱー)と、ルイーゼに連れられ困り顔のロレッタ・グラフトン(ろれった・ぐらふとん)だ。
「えー。後学のためだよー?」
 本当は、こうしてからかうことが面白いのだけど。
 だって、くっつきそうでくっつかないマラッタとドゥムカの関係でも顔を真っ赤にするような純粋な子なのだ。これはからかわないわけにはいかない。
「後学のためとか、何のことかさっぱりなんだぞっ……ロレッタは帰るぞっ。バーベキューをするんだぞっ」
「うんうん、バーベキューも楽しもうね。ほらほらロレッタ、ドゥムカたんがマラッタくんに話しかけてるよ! 何を話してるんだろうね〜ぇ? ここからじゃ聞こえないよね、もっと近付こうね」
「ううう、嫌だぞ! ロレッタはあっちに行くんだぞー!」
 じたじた暴れるロレッタを連れて、こそこそと大きな木の陰に隠れる。ドゥムカたちまでの距離が縮まる。会話もかすかに聞こえてくる。


「バーベキューが始まったら、どうしても食べろと?」
「せっかくだからな。どうだ?」
「マラッタ……私が食べ物に釣られるような、そんな譜に見えるか?」
「楽しいと思うが……焼き立てが一番美味しいと思うし」
「なっ、悲しそうな声で言うな!」
「? そんなつもりはなかったが……」
「ええい仕方がない。どうしても食べて欲しいなら、まあその限りではないから……後でな」


 一緒に食べる約束だろうか。妙にじれったいというか、もっと素直になればいいのにというか。
「っていうか! なぁんで同じ場所なのに距離があるかなぁ〜! マラッタくんが上に登るとか、ドゥムカたんを降ろすとかすればいいのに〜。もっとぎゅっぎゅくっついてきゃっきゃうふふするべきだよねぇ、あの可愛い二人はさ〜」
 ねぇ? とロレッタに言うが、ロレッタは頑張って視線を逸らしていた。
「……桜が綺麗だぞ!」
「うんうん。ドゥムカたんの白い脚も綺麗だよ。ほら見える?」
「み、見ないぞ!? 見ないっていったら、見ないぞ!!」
 見えるように抱っこしていたら、パシャリとシャッターを切る音が聞こえた。
「シーラちゃん」
「お二人も可愛かったのでつい撮ってしまいましたわ〜。ドゥムカたんの可愛さもさることながら、ロレッタさんもとっても可愛いですわよね〜♪」
 デジカメを手にしたシーラが微笑んで立っていた。
「それにしても本当、ドゥムカたん可愛いですわ……ドゥムカたんはぁはぁ」
「だよね。可愛いよねぇドゥムカたん……! もっとくっつけばいいのにね!」
「そのじれったさがあの二人の関係の素敵なところなんですわ! ですので私たちは遠くでひっそりと見守るのみです……!」
「それがまた楽しいんだけどね!」
「ですよね!」
 シーラを顔を見合わせて、手と手を取って固く握手し。
 再び、ドゥムカとマラッタの逢瀬を見守った。


「あの二人にはついて行けないぞ……」
 ロレッタはそんな二人からこっそりと一歩離れた。シーラが現れたことで、ルイーゼから離れやすくなったからだ。
 だが、前門の虎後門の狼とはよく言ったもので。
「おや、ロレッタさん。どうしたんです?」
 後退したら、にこにこ笑顔の大地にぶつかった。
「ルイーゼとシーラについていけないんだぞ」
「おやおや、そうなんですか。じゃあバーベキューに向かいます? ほら、もう始まりますし」
 少し屈んで目線を合わせ、ね? と言って手を差し伸べる大地に、少し警戒。
「……なんだか大地が優しいんだぞ」
 それが無性に落ち着かない。何だ? 何を企んでいるんだ?
「俺はいつでも優しいですよ?」
「嘘だっ」
「嘘じゃないですって」
 柔らかに微笑んだ大地から杯が渡された。
「甘酒ですよ。どうぞ」
「へ、変なものとか入ってないか?」
「何か入れてほしいんですか? ではこれを」
 握った拳が杯の上にかざされる。身を固くしたが、開かれた手から落ちてきたのは、
「……桜の花びら?」
「綺麗でしょう?」
 甘酒に浮かんだ花びらがゆらりと揺れる。確かに風流で、凄く綺麗だ。綺麗なものを見ていると、楽しい気持ちになる。
「ありがとうだぞ!」
 礼を言ったら、大地も嬉しそうに笑った。
 もしかしたら、今日は本当に本当に優しいのかもしれない。
 ――花見効果ってすごいんだぞ。
「あ。そうだ、ロレッタさんにだけ、特別にお土産を渡しますね」
「? お土産?」
 甘酒を飲んでいるところに渡されたのは、
「抹茶味のお団子セットです」
 緑が鮮やかなお団子。
 変なものは入っていないだろうか。そう、こちらに対してもやはり警戒してしまう。でも、さっきまで優しくしてくれているし。
 ――今日はきっと、いい大地なんだぞ。
「ありがとう!」
「どういたしまして……ククク」
「!?」
 いま、何か、不穏な笑みが。
「だ、大地?」
「はい、どうしました?」
 けれどもう、普通の笑みだ。温かい笑みだ。
「今の笑みは……」
「今のって、なんです?」
「……なんでもないぞ」
 得体のしれない恐怖に、お団子はあとでみんなで食べようと決めた。
 ちなみに。
 そのお団子には一つだけ、ねりわさび味という見た目からは判別できない凶悪なものが混じっており、みんなで食べた際に不遇な誰かが悲劇に見舞われたという。


 花見は良い。
 何が良いって、綺麗な花が見れるのは勿論、女の子という綺麗な華も見れるのが良い。
 不束 奏戯(ふつつか・かなぎ)は杯を傾けながら、花と華を見ていた。また、綺麗なものを見ながらの食事も格別美味しい。バーベキューとは別に持ち寄られた弁当に舌鼓を打っていると、
「お注ぎしましょうか?」
 凛とした声が響いた。視線を声の主に移す。と、メーテルリンク著 『青い鳥』(めーてるりんくちょ・あおいとり)――通称千雨が酒瓶を持って奏戯を見ていた。
「お酌してくれんの? ありがとー♪」
 空になった杯を差し出すと、千雨が一歩近づいて膝をつき、酒を注ぎ足す。その姿を見て、
「つーか可愛いねーきみ」
 奏戯は思ったことをそのまま口にした。
「なっ……」
「お名前なんつーの?」
 明らかに取り乱した千雨に構わず名前を問うが、真っ赤な顔で「ふざけないで」と言われてしまった。ナンパな言葉に慣れていないのだろう。ちなみに奏戯としてはふざけているつもりなど一切なく、本気の本気、本心からの言葉である。
「ちょっと話ししていかない? 俺いま一人でさ、寂しかったんだよねー」
 こちらは半分本当で半分嘘。花見を満喫していたから寂しかったわけではない。
「きみみたいな可愛い子が傍に居てくれると、すっごく嬉しいんだけど」
「でも、私他の人のところも回りたいし……」
「少しでいいからさ。一緒に花見しようよ? 可愛い子と一緒に見る桜、すごく綺麗だろうし」
「もう、あんまりしつこいと怒りますよ?」
 誘い続けると、千雨は怒っているのにまったく怖くない、怒り顔好きな人からしたらたまらないような可愛い顔で怒ってきた。
「怒った顔もチャーミングだねっ」
 なのでまた素直に称賛すると、より一層頬を赤くして「だからね……!?」と声を大きくしてきた。ああ、本当に怒る姿も愛らしい。
 にこにこ笑顔で怒り顔を堪能していると、
「奏ちゃんの……奏ちゃんのバカー!!」
「ひぃっ!?」
 奏戯の横の地面が抉れた。土が舞う。剛刀の一撃が地面に刺さっていた。
「ち、ちーちゃん!?」
 振り返った奏戯が見たのは、剛刀を握り目に涙を溜めて奏戯をキッと睨むデローン。
「そりゃね、私こんな見た目だし、奏ちゃんにつりあってないし、大人のお姉さんの方がいいんだろうけど……」
 今にも泣きそうな声と顔。罪悪感が湧きあがる。
「ご、ごめんちーちゃ……うわぁっ!!」
 が、謝ろうとした瞬間、剛刀が振られた。必死で避ける。千雨のことも心配したが、彼女は既に別の花見客のところで談笑していた。さすが、美人は危機回避能力が高い。
 では心配しなければいけないのは何かというと、とっても可愛い恋人に襲われる自分の身である。
「ごめんね! ちびでぺたんこで童顔でお子様で!!」
「いやっ俺はちーちゃんのそういうところを見て嫌だと思ったことは一度もっ!! ていうかさっきの子もぺたんこだったよっ!」
「胸見てたんだ!? 奏ちゃんのバカーっ!!!」
 フォローしたつもりが墓穴を掘っていて、再び剛刀が振り下ろされた。間一髪で避ける。
「あたし、あたしお子様な見た目だけど、奏ちゃんを想う気持ちなら誰にも負けないもんー!!」
「いえそのすんませんそもそも出来心からだったんです本当にごめんなさっ」
「奏ちゃんのバカー!!」
「わあぁっ!!」
 謝っても止まらない斬撃。
 必死で避けながら、ああもうナンパなんてするべきじゃないのかな、でも女の子可愛いし……! と、不純な葛藤を続ける奏戯であった。


「めー♪」
 修羅場が繰り広げられる一方で、牧場の精 メリシェル(ぼくじょうのせい・めりしぇる)はバーベキュー準備をしているシルヴィットに話しかけた。
「ん? メリシェルどうしたですかー?」
「めめー!」
 これを持ってきたよ! とばかりに食材入りの袋を掲げると、解してくれたらしいシルヴィットが「おー、食材ですねー! 何を持ってきたですかー?」と問う。
 その質問を待っていたんだ、とばかりに袋の中身をがさごそやって、
「めめ!」
 これだよ! と披露するはラム肉。
 ラム肉である。羊肉である。そしてメリシェルは羊である。
「……それって、え?」
 シルヴィットの笑みが少し引き攣った。
「あのーもしかしてそれって、共食いになるんじゃないですかー?」
「めめ?」
 共食いとは何だろう? メリシェルは首を傾げる。
「うーん。ま、いいですよねーラム肉美味しいですしー」
「めめー♪」
 その通り! とガッツポーズを決めて、食材を置くトレイに並べた。美味しく食べられてね、とエールを送りながら。


 ――それにしてもメリー、なんであんなチョイスを……。
 ――すごく……可哀想です……。
 少し離れた場所で見守っていたセルマ・アリス(せるま・ありす)は、そう思う。
 けれどメリシェルはとっても楽しそうである。共食いであるなんて考えもしていないのだろう。これと決めて持ってきた食材を自信満々に提供する。いっそ清々しい。
 ――ま、俺は俺で花見しようか。
 大勢の人がいるのだから、少し抜けても問題ないだろう。
 ――あ、でもせっかくだしオルフェと見たいな。
 確か、オルフェリア・クインレイナー(おるふぇりあ・くいんれいなー)も花見バーベキューに呼ばれていたはずだ。だってさっき、御影が生魚をプレゼントしてきたし。新鮮すぎてびっちびちしていたし、さすがに持って歩くのもどうかと思ったのでバーベキューのトレイに置いてきたが。
 オルフェリアを探して歩くと、
「セルマさーん♪」
 聞き慣れた、愛らしい声が耳に届いた。
 ぶんぶんと大きく手を振って、セルマの許へと駆けてくる。
「オルフェ」
「よかったーセルマさん見つかりましたですよー。うっかり他のお花見団体さんのところに突撃しちゃったりしちゃいましたが結果オーライですねっ」
「それは……」
 どうなのだろう、と苦笑いしつつ。
 探してくれていたことに少し嬉しくなる。
 ――一緒に見ようって、同じこと考えてたんだなぁ。
「ねえオルフェ、一緒に桜見ようか」
「はいっ、もちろん喜んで♪」
 二人並んで手を繋いで、桜が綺麗に見える場所を探し歩く。
 大体この辺かな、と陣取ったのは、一緒に来た面々の居る場所から遠くないのに人気は少なめの、落ち着いて桜が見える場所だ。
 腰を落ち着けたところで、
「セルマさん、はいっ」
 満面の笑みのオルフェが紙コップを渡してきた。
「? このカップ何?」
「これをお注ぎするのですよー」
 取り出したのは一本の瓶。
「今回のとっておきなのです♪ 桜のジュースなのですよー」
「桜のジュース? どんなのだろ、初めて見たな、これ」
 注がれたそれは透き通ったピンク色をしている。
「乾杯なのです♪」
 コップ同士を軽くぶつけて、一口飲んだ。すっきりとした甘さと、ふんわり薫る桜の匂い。
「美味しいね、これ」
「えへへ。それはよかったですー。セルマさんが喜んでくれるとオルフェも嬉しいですよ♪」
 飲みながら桜を見た。時折吹く風が枝を揺らし花びらを舞わせる。
 セルマが花見をするのは、パラミタに来てからは初めてのことだった。
 地球に居た頃は日本に住んでいたから、春が来れば桜を見る機会もあったけど。
 ――今まで見た桜の中で、一番綺麗だな……。
 それはたぶん、きっと。
「隣にオルフェが居るから、かな」
「はぇ? オルフェがどうかしたですかー?」
「ううん? 桜が綺麗だなって」
「なのですよ! ほら見てください、花びら取れたんですよー!」
 掌に落ちた花びらを、オルフェリアが瞳を輝かせながらセルマに見せた。
「本当、綺麗だよね。持って帰ることってできないかな」
「できそうですか? オルフェも持ち帰りたいですよー」
「んー……このままだと萎れちゃいそうだし……。あ、でもこれに入れれば」
 ごみ捨て用にと持ってきたビニール袋を取り出した。もしかしたら、この中に入れておけば萎れずに持ち帰れるかもしれない。
 ビニール袋を受け取ったオルフェリアが、すくっと立ち上がり花びらを集め始めた。セルマも手伝う。
「これとか綺麗だよね」
「わあ、素敵なのですー♪ セルマさんは花びら集めの才能がありますね!」
「いやそれ、どんな才能?」
 苦笑しつつも二人で取って回ると、短時間でもそれなりの量が集まった。
「セルマさんセルマさん」
「うん?」
「オルフェは、この花びらを押し花にしようと思います」
「それいいね。押し花ならずっとそのままの形で残るしね」
「で、ですね。栞にしちゃおうかなって思うのですよ」
「栞か」
 考え付かなかった。中々良いことを思い付くなと感心する。
「それで、セルマさんと一緒に作れたらな……って。だめですか?」
「うん、いいよ。帰ったら、一緒に栞を作ろう。約束だよ」
「はいっ♪」
 小指同士を絡めて、指きりげんまんをして。
 顔を見合わせて、ふふっと笑い合った。


 そんな甘い二人を見ながら、中国古典 『老子道徳経』(ちゅうごくこてん・ろうしどうとくきょう)――通称シャオは白酒を飲んだ。
 最初は、白酒のつまみに可愛いもの――すなわち、男の娘であるセルマに女装させてはべらせようと思って近付いてきたのだが、オルフェリアといい感じになっているのを見て考えを変えたのだ。
 ――ま、たまにはゆっくり彼女と仲良くなるのも良いしね。
 手酌で酒を飲むのは少し寂しいものがあるけれど。
「それにしても私珍しく空気読んだわ! 偉いと思わない?」
「めー♪」
 いつの間にか傍に寄ってきていたメリシェルを抱き上げて問うと、メリシェルが高く鳴いた。肯定してくれているように思える。ぎゅむーっと頬擦り。
「メリーも可愛いもんね」
 メリシェルで我慢、というと相手に悪いけれど、男の娘の可愛さには勝てない。
「さーて飲み直すぞー!」
 桜とお酒で気分は良い。
 いくらでも飲めそうで、ぐいーっと杯を傾けた。
 空になった杯に酒を注ぎ足そうとしたら、
「お注ぎしましょうか?」
 千雨にそう声をかけられ、動きが止まる。
 ――これは良い女の子!
 お願いするわと差し出して注いでもらい、またぐびり。
「やっぱり可愛い女の子にお酌してもらうと一段と美味しくなるわねー♪」
「か、可愛いだなんて……」
「照れてるの? ますます可愛い♪」
「か、からかわないでくださいっ」
「だから、真っ赤になって否定するのが可愛いんだって♪」
 悪戯好きなSの心が疼き、くすくす笑って抱き締めた。「きゃぁ!」とか「ちょっと!?」と驚く反応が初々しくてまた可愛い。
 抱き締めながら、セルマとオルフェリアを見た。笑い合っている。とても幸せそうに。
 ――頑張んなさいよ。
 ――私はあんたらのこと応援してるんだから。
 ふっと微笑み、最後にもう一度千雨をぎゅっと抱き締めてからぱっと離れた。
「付き合ってくれてありがとね♪ そろそろバーベキューが始まる頃かしら。一緒に行きましょう?」
「本当、びっくりした……。心臓に悪いからやめてくださいっ」
「そんな真っ赤な顔で怒らないでよ、またいじりたくなっちゃうわ」
「お断りですっ!」