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終わりなき蒼空、涯てることなきフロンティア

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終わりなき蒼空、涯てることなきフロンティア
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リアクション


●決意とともに、フロンティアに踏み出す

 酒杜 陽一(さかもり・よういち)高根沢 理子(たかねざわ・りこ)の結婚式は、2025年に開かれた。
 単なる個人の結婚式ではない。これは国家的イベントである。
 その日は朝から、パラミタ全土が一種異様とも言える興奮状態に包まれていた。
 式は大々的にテレビ放映される予定で、、まちがいなく世界中の注目を集めている。取材に訪れた記者だけでも軽く千人を上回ることだろう。無論、ジークリンデ・ウェルザング(じーくりんで・うぇるざんぐ)セレスティアーナ・アジュア(せれすてぃあーな・あじゅあ)など、国内外の要人ものきなみ出席していた。
 パレードが行われる予定なので道路には前日から交通規制がしかれている。期待を込めて沿道を埋める人々の数も数え切れない。理子の花嫁姿を一目見たいがためだけに、数日かけてこの場所に来たという人も珍しくなかった。
 空には警護のイコンが飛び、あらゆる道路に警官隊が配備されている。
 一般客は式場には入れない。招待客も、くどいほどのボディチェックと身分証の確認を、何度もなされてやっと入れるという有様だった。厳戒態勢の厳しさがわかろうというものだ。
「なんでダメなのよ! ただの三上山の大百足じゃない! 無害だというのがわからないの!」
 などとむくれながら、どすどすと大股に酒杜 美由子(さかもり・みゆこ)が入ってきた。彼女はここに、巨大な百足を連れて入ろうとしていたのだ。もちろんさすがに阻止されている。
 憤懣やるかたない様子で、美由子は陽一の控え室に入った。
 控え室といっても、通常その言葉から想像できるものよりずっとずっと広い。正直、一般人の結婚披露宴なら、この控え室だけで充分開催できそうだった。
 中にはたくさんの人がいる。これまでの冒険で陽一を助けたペンギン、アヴァターラ・ヘルムのペンタを始めとしたペットたちや、従者の皆もそろっていた。しかもひっきりなしに人が出入りしている。
 控え室に入る直前でまた警備の者からチェックされたので、美由子の苛立ちはほとんど頂点に達している。
「やあ、よく来たね」
 陽一は緊張気味だ。それを見て、
「とうとう結婚ですか……ぐぬぬ」
 と美由子は呻り声を発した。
「私なんて生まれてから今日まで深刻な婿不足状態だってのに……!!」
「あ……いや、そんなこと言われても……」
「いえ嬉しいのよ? お兄ちゃんたちが幸せになってくれて。でもさー喜び以外の色んな感情がひしめきあってるっていうかなんていうかさー」
 ここまで言って美由子は大きく息を吸い込むと、
「要するに、先に幸せになりやがってええええええええええええええええ!!!! ってことですよ!」
 この声に異変を察したか、警備の者がわっと押し寄せてきた。陽一は立って、
「なんでもない。大丈夫だから……」
 と彼らをなだめている。
 美由子はそんな陽一の苦労に気がついていない。なぜなら、
「でも、おめでとう……おめでとう……。その気持ちは本当だから……」
 と、号泣していたから。そして、従者やペットたちに慰められていたからである。
 フリーレ・ヴァイスリート(ふりーれ・ばいすりーと)も姿を見せた。
「いよいよか」
「うん。ありがとう」
「今日は、しばしの別れを告げに来た。式が始まってからでは、陽一と話す時間は作れそうもないからな。式が終わったら発つつもりだ」
「え? それって……」
「しばらく寄り道をしていたが、私もそろそろ自分の人生に戻ろうかと思ったのだ……正しい復讐は果たさなければならないからな」
「そうか……なんて言って送り出したらいいのか、ちょっとわからないな……でも、がんばって」
 感謝する、とうなずいてフリーレは続けた。
「だが、今の自分は復讐以外の生きがいを見出している。ゆえに、いつか帰ってきてみせる。だからまた、そのときはよろしく頼む」
「わかった。必ず……」
「理子殿にもよろしくな。幸せになるのだぞ」
 フリーレは去り際、ぽんと美由子の肩を叩いた。まだ、美由子は泣いていて、周囲に慰められていた。
 フリーレは思う。
 ――きっと戻ろう。数千年忘れていた光を思い出させてくれたこの場所に……。
 ご来場の皆様、とアナウンスが流れた
 さあ、式を始めよう。
 全世界が見ている。

 花嫁衣装の理子を見て、陽一はその美しさに見とれ、同時にある決意を抱いた。
 高根沢家の一員となるということは、日本の歴史と、日本の歴史を紡いできた人々の想いを絶やさず次代に伝えていく義務を負うということだ。
 ――これまで知らなかった理子さんの、様々な苦労を初めて知ることにもなるだろう。
 理子が生まれ育った世界に足を踏み入れるということ、それが、陽一にとってのフロンティアなのかもしれない。
 だけどそのフロンティアにおいて、彼は一人ではない。
 ――勇気を出して進んでいこう。理子さんと一緒に……。