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5000年前に消えたはずの…蜃気楼都市

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5000年前に消えたはずの…蜃気楼都市
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第3章 幸せの裏側・・・

「噂の蜃気楼都市はここのようだネ」
 キャンディス・ブルーバーグ(きゃんでぃす・ぶるーばーぐ)は空京オリンピックの開催式のため、アトラスの傷跡に聖火リレーの火種を得に行く途中、ある噂を聞いた。
 それは数百年年に一度だけ現れるという蜃気楼都市の噂だ。
「ちょっとよってみよう、いいことがありそうな予感がするヨ。もし清音がいたらミーにした無礼を詫びさせてやりたいネ!」
 中に入ると茅ヶ崎 清音(ちがさき・きよね)がキャンディスの方へ駆け寄ってくる。
「聖火リレーの火種のために、百合園からとおぉーいところまでご苦労様!今までの無礼の数々、どうか許してぇえーっ」
 今までないがしろにしていたことを、清音はキャンディスの前でかしづいて詫びる。
「ようやくミーをパートナーとして認めたネ〜?」
「どうか私をパートナーでいさせてキャンディス様ーーっ!!」
「う〜ん・・・そこまで言うならしかたないネ!」
 キャンディスは崇拝するように言う清音を見下ろして優越感に浸る。
 実は目の前にいるこの清音は、キャンディスが願った、ただの虚像にすぎない。
 本物の清音は百合園の学園から一歩も外へ出ていないのだ。
「そうだネー、まずは何をしてもらおうか」
「なんなりとーっ。許しをもらえたこの日に・・・神よ感謝します」
「オリンピック公式のマスコットでもやってもらうヨ」
「喜んでやらせてもらうわ」
 都市の住人にマスコットとして愛想をふりまき、ちやほやされながら開会式の入場券のプレミアムチケットの売り上げに貢献する。
 可愛い百合園の生徒が売っているということで人だかりが出来てしまう。
「皆様ちゃんと並んで買ってね。そこの割り込みの人は並び直してっ」
「その調子だヨ。いいネ、いいネ〜」
 チケットはキャンディスの願いの影響により、本物として扱われて飛ぶように売れる。
「早く買わないと売り切れるわよ」
「そうネ!さぁ今のうちに勝っておいた方がいいヨ。買わないと席がないかもしれないヨ〜っ!」
「最後尾はここよ」
 清音は看板を持って並んでいる人々に言う。
「ここでもう完売ネ〜。買えなかった人、ごめんなさいネ」
 カゴの中に入れたチケットを全て売りきった。
「くふふっ、いいところで儲けられたヨ〜」
 キャンディスは売り上げを数えながらニヤニヤとする。



「ふふふ・・・ついにこの日は来たり・・・」
 都市の調査をしていた櫻井 馨(さくらい・かおる)は、突然足を止めて怪しげに呟く。
「どうしたんですか・・・?」
 綾崎 リン(あやざき・りん)は顔を顰めて、彼のニヤケ顔を気味悪そうに見る。
「―・・・これは、何ですかますたぁ〜!?」
「調査とはただの偽り・・・これが狙いだったんですよ!」
「いつわりなんですぅかぁ!」
 彼の願いにより外見が6歳になってしまった彼女は、舌足らずになってしまう。
「ひっ・・・酷い、あんまりです・・・ふひゃぁっ」
 ぶかぶかになった服をつんと踏んでしまいコケてしまった。
「さぁスクール水着に着替えてください、それとも着替えさせてあげましょうか?」
「はわっ、自分で着替えますよぉ」
 更衣室へ行き、リンは渡された水着に着替える。
「幼児用のビニールプールで遊びましょう」
 プールへ入れてやりながらペタペタとリンの身体に触れる。
「つべたぁいですねぇ」
 リンの方は馨に可愛がられたい願いが叶ったと思い、プールの中へ入れてもらって遊ぶ。
「ねぇリンちゃん浮き輪に乗りません?」
「溺れないからいいですよお」
「リンちゃん・・・乗らないんですか・・・?」
「むうっ・・・分かったですよぉ〜」
 寂しそうにしょんぼりとする馨のために、仕方なく浮き輪に乗ることにした。
「ほぉら浮き輪ですよ」
 身長100cmサイズになったリンの脇を掴み、浮き輪に乗せてやる。
「はいリンちゃん、麦藁帽子。よく似合ってますね」
 馨が彼女の頭にかぽっと被せる。
 可愛がられている少女は、顔を真っ赤にして帽子を深く被る。
「あらら、お顔をちゃんと見せてくださいよ。見せないとくすぐりますよ、こちょこちょ〜っ」
「きゃぁあますたぁくすぐったぁい」
「お顔見せないともっとくすぐりますよ。はははっ、はふー・・・はふー・・・」
 馨の表情は他者が見たらぎょっとするような顔になってしまっている。
 願いを叶えたたった数分で彼は、へぇえー・・・・・・ん・・・たい!と変身したような感じだ。
「ますたぁ〜冷たぁいのが食べたいですぅ」
「じゃあリンちゃんにアイスをあげましょうか。お口あーんしましょうね」
 スプーンでアイスをすくい、食べさせてやる。
「僕も少しもらいますね。あむっ」
 リンが使ったスプーンを食べそうな勢いで、がぶっと噛んでアイスを食べる。
「次はあっちむいてホイしましょうか。負けた方はしっぺですよ。いきますよー、じゃーんけんぽん」
「あう私の負けですぅ」
「リンちゃん、あっちむいてー・・・ホイッ!僕の勝ちですねっ」
「うぅしっぺ・・・」
「やさぁしくやってあげるから大丈夫ですよ。えいっ、ふふふ・・・」
 しっぺをするフリをしてニヤつきながら、馨は超スピードでリンの片腕を2本の指で、撫でまくる。
「プールの後はお風呂に入らないといけませんよね、僕が入れてあげます。はい、ばんざいしてくださいー」
「こぉですかぁますたぁ。なっ、何するんですかあ!?」
 脱がそうとする馨にとうとうキレたリンが禍心のカーマインを彼に向ける。
「ま待ってくださいリンちゃん、ただお風呂に入れてあげようと・・・あわっ!?」
 足元に銃弾を撃ち込まれ、馨は頬から冷や汗を流す。
「僕と一緒にお風呂・・・はんぎゃぁああーっ!!」
「ますたぁのハレンチ・・・制裁ですぅうっ」
 スプレーショットの弾丸の雨を浴びせられた馨の身体は、プールへすっ飛んでいく。
 額の風通しがよくされた彼は、ぷかぁーんとプールに浮かんで気絶する。



「この都市が噂の夢が叶うところか・・・」
 フォルクス・カーネリア(ふぉるくす・かーねりあ)はレンガ造りの家の近くで、住民同士で会話している光景を見て呟く。
「教会か・・・6月と言えば。ジューンブライドだな」
 傍にいる和原 樹(なぎはら・いつき)をちらりと横目で見る。
 彼を女装させてみたい趣味はないが、自分のために着てくれるなら着て欲しい願望を抱き始めた。
「せっかく近くに教会があるんだし、着てみないか?」
「―・・・なっ、何を?」
 石畳の道を進んでいた足をピタッと止め、ぱっとフォルクスの方へ振り返る。
「ほら、すぐそこにあるんだ。教会があって季節が6月といったら、着るものはあれしかないだろう?女装をさせる趣味はないが、お前が我のためにそういう格好をするところは見てみたい」
「わ・・・分かった」
 じーっと見つめるフォルクスの視線、そして着てみて欲しいという叶えてみたい願望により、樹はとうとう断りきれなくなってしまった。
「ただしお前も同じやつを着ろよ!」
「ふむ・・・我も着ればいいのか。その言葉、忘れるなよ」
「貸衣装屋がどうしてこんな都合のいい場所に!?」
 フォルクスが指差す先を見ると、貸衣装屋が数歩先にある。
「あれ、ヨルム・・・そのデジカメどうしたんです?」
 セーフェル・ラジエール(せーふぇる・らじえーる)は貸衣装屋の傍で騒ぐ彼らの写真を撮っている、ヨルム・モリオン(よるむ・もりおん)に顔を向けて首を傾げる。
「いや、その・・・面白いものがあれば知らせて欲しいと言われてな」
「あぁ・・・彼女の頼みですか。面白いものが、今撮っている対象ということですね」
 拒否しようとする樹と、見てみたいというフォルクスのやりとりへセーフェルが視線を移す。
「そういえば、この都市のものはカメラに写るんでしょうか?現物なら写ると思いますけど」
 建物の背景と都市の人々が枠に入るように、カメラのレンズを2人へ向ける。
「もしくは全て虚像か・・・だな」
「現物だとしても都市ごと消えてしまうなら、撮れるかどうか・・・」
 呟くヨルムに軽く頷き、セーフェルは1枚獲ってみる。
「撮れたか?」
 ヨルムは写ったかどうか彼にデジカメを操作してもらい画面を覗き込む。
「一応背景もちゃんと写っているようです」
「後はこれが都市の外に出た時でも、データとして残っているかどうかだな」
「そうですね・・・」
 ここから外に出ても本当に残っているのかセーフェルは画面を見つめる。
「まず男性サイズがあるかどうかだからな。なかったら着ない・・・ていうか着れないから、その時はいさぎよく諦めてくれないか?」
 しぶしぶ樹はドアノブに手をかけて店内に入り、白いウェディングドレスがある方へ歩く。
「このサイズは・・・女ものか。これもか・・・」
 ドレスをかけてあるハンガーに書かれているサイズを見て、フォルクスの視線を気にしつつも男性ものがないことを祈りながら探す。
「(くうっ、もしかしてないのか!?いや・・・この都市ならきっと、願えばあるはずだ)」
 衣装を睨むようにフォルクスが願掛けする。
「―・・・こ、これは!?いや、幻に違いない。男性サイズなんてあるはず・・・」
「ちゃんと触れるようだぞ」
 フォルクスが衣装を手に取り消えないことを確認する。
 本当は女性ものしかなったのだが、その衣装は彼の願望によって現れた物なのだ。
「同じやつが2着ある、着替えるところもちょうど空いているようだな」
「(まさか本当にあるなんて!)」
 あれば着るといってしまった樹は、試着室へ引きずられてしまい、衣装と共にその中へ入れられてしまった。
「着たことがないから上手く着れないな・・・」
 姿見を見ながらファスナーを締める。
「ふぅやっと着れた。まさか本当にこんなのがあって、しかも女装させられるなんて思わなかった・・・」
 新品のドレスだったらしく、ファスナーが硬く締めづらかったようだ。
「樹も着替え終わったみたいだな」
 すでにきっちり着替え終わっているフォルクスが、樹が使っている試着室の傍で待っている。
「―・・・!?(ほ・・・本当に樹なのか?)」
 ヴェールを被った樹の姿に、彼は思わず言葉を失い見惚れてしまった。
 樹の方はというとフォルクスも似合っていて、元々顔立ちのいい彼をちょっと綺麗だと思ってしまう。
「ついでに撮っておきます」
 ウェディングドレス姿の樹とフォルクスへ、デジカメのレンズを向けてセーフェルがパシャッと撮る。
「せっかくだ。その姿で誓いの口付けを・・・」
「いい訳ないだろっ」
「うぐぁっ!(やっぱり世の中、そんなに上手くいかないってことだな)」
 フォルクスは教会の近くへ樹を連れて行き、口付けを迫るが彼に鉄拳をくらってしまい、あっけなく撃沈されてしまう。
「もう帰る!」
「まっ、待ってくれぇえ〜」
 彼の態度に怒った樹は帰ろうと元の服装に着替えて都市の外へ向かい、フォルクスは慌てて着替え、彼の後を追いかける。
「―・・・あ」
 セーフェルが2枚目を撮った瞬間、ちょうどフォルクスが殴られたシーンが撮れてしまった。
「どうしましょう、これは消したほうがいいんでしょうか」
 デジカメを操作しつつ彼らに見られる前に、データから消したほうがいいのか悩む。
「何でしょう・・・都市の人たちと背景を映したやつに、何か写っているような気がします」
「どれだ?」
 ヨルムは画面の中を覗き、セーフェルが指差しているところを見る。
「―・・・黒い影?」
「撮る時に指をレンズのところに当ててしまったのでしょうか・・・」
「いや・・・これはそれで写るようなものじゃない」
 他のも見てみるが、それが写っているのはその1枚だけだ。
 もう一度見てみると写っている影の位置が少し変わり、それは見る度にだんだんと人型へ変わっていく。
 5度目には画面に貼りつくように、ベタベタベタッと無数の手が重なるように表示され、その指の隙間から恐ろしい形相で睨む人の顔が写っている。
 セーフェルは悲鳴を上げそうになるものの、都市の中で遊んでいる他の生徒がパニックを起こさないよう冷静に対処しようと、それだけ消してしまおうと消去ボタンを押す。
「これで消えたはずです。―・・・え、どうして・・・・・・」
 消去したか確認すると、消したはずの写真データが残っている。
 不気味な写真を何度消してもデータに残ってしまい、徐々に顔を青ざめさせていく。
「が・・・画面から!?離してください、離して・・・あぁっ!」
 黒い人のような形の影が画面からズルリと這い出し、首をギギッとありえない方向に曲げてセーフェルに掴みかかる。
「まさか悪霊がでるとはな。走れ、ここから出るんだ」
 セーフェルを助けようとヨルムは、彼の足をギリギリと握り絞める悪霊の手を掴み、力任せに引き離す。
 捕食しようと襲いかかる悪霊から逃れようと必死に走る。
 怒って帰ろうとしている樹と、彼の後を追うフォルクスと一緒に出ようと急いで追いかける。



「これが・・・花嫁が着るウェディングドレス・・・。素敵ね・・・」
 教会の中に入った小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)は、スカート丈の短い純白のウェディングドレス姿になった。
 花嫁になりたいという彼女の夢が教会を出現させ、いつもの服装からドレス姿へと変わったのだ。
 ブーケを両手に持ち、せっかくだから憧れの花嫁気分を楽しもうと、教会の中を歩いてみる。
 木製の祭壇の後ろにある高さ5mくらいありそうな巨大なステンドグラスを見上げる。
「窓からキレイな海が見れるようなところもいいけど、こういうところも悪くないわね」
 祭壇の近くにあるパイプオルガンを見たり、その空間に思わず引き込まれてしまいそうな、うっとりとした表情になる。
「でも叶うのはこの都市の中だけ・・・」
 ピタッと足を止めて少女はブーケを見つめる。
「闇龍の呪いで悪霊が引き寄せられたっていうし。何か気になるわ」
「あ・・・悪霊!?やっぱこの都市って出るんですか・・・?」
 美羽の呟きにベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)が顔を青ざめさせる。
「それは調べてみないと分からないけど。もしかしたらこの都市から出なかったっていう者が、どうなったか分かるかもしれないわ」
「―・・・そ、そんな。悪霊と遭遇してしまいそうな場所で、しかもずっと数百年いるってなるとそれは・・・。ひきゃぁあっ、その先は考えられません!」
 どうなったかという彼女の言葉はベアトリーチェにとって恐怖でしかない。
「出ませんように、どうか出ませんように・・・」
 ベアトリーチェはブルブルと怯えながら、ウェディングドレス姿の美羽の後ろへ隠れるようについて行く。