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はじめてのひと

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●自分だけのパートナーにしていこうね

 携帯電話売り場で、ある機種を手にしてネージュ・フロゥ(ねーじゅ・ふろう)は感心したように声を上げた。
「なるほど……『cinema』にも派生版があるんだね」
 キーボード搭載タイプである。蓋を開くと小さいながらキーボードがあり、その上の空間に、フルカラーホログラムの横画面が三面表示されるという設定だ。通常版に比べるとやや大型となるものの、徹底した軽量化が図られていることもあって、この程度なら携帯するのに支障は来さないだろう。問題は多少値の張るところだが……そこもクリアできないわけではない。
「うん、じゃあこれを二つ契約することにしようかな。マイナはこの桃色のにするといいよ。女の子向けのデザインだから可愛くてよく似合うと思う」
 と言ってネージュは、一つを舞衣奈・アリステル(まいな・ありすてる)に渡す。
「ネーおねえちゃん、こんなに良いもの買ってくれていいのですかー?」
「もちろん! これはマイナがパートナーになってくれたお祝いなんだよ。地球で購入したスマートフォンだけだとあたしも不便だから機種増設するわけだし、せっかくだからお揃いにしようね」
「嬉しいのですよー」
 受け取った携帯の高機能さ、美麗さ、それに何より、『パートナーのお祝い』とネージュが言ってくれたことの感激に、舞衣奈はエメラルドのような瞳をキラキラと輝かせた。
 ネージュの選んだ色はクリーミーヴァイオレット、目に優しい色彩だ。
「機能がいっぱいあるけど、使いこなせるかな?」
 ネット接続はもちろん、各種コミュニケーション・サービス、立体写真撮影、クレジットカード機能、ゲーム、マルチリモコン等々、ありとあらゆる便利を詰め込んだ端末なのである。動画を元にしたアニメーション製作も可能だし、音楽プレーヤーにも早変わりする。
「ちょっと文字を入れるのは大変だけど、がんばって覚えるのですー」
 舞衣奈は嬉しそうに、その蓋を開けたり閉じたりするのだった。

 その日、舞衣奈に宛ててネージュは以下の『はじめて』メールを送った。

「マイナへ。
 はじめての本格的なケータイ……というか、スマホはどう?
 今までは子供用ケータイだったから、出来ることがいきなり
 多くなってびっくりしてるんじゃないかな。

 スマホは使い方しだいでいろいろな事が出来るよ。
 とりあえずはいろいろいじってみて、のえるやあたしにいろいろ聞いて、
 自分だけのパートナーにしていこうね。
 このスマホが、マイナの一番になってくれるといいな。」


 そんなネージュの期待に応じるべく、舞衣奈は頑張って以下の文面を返すのである。

「ネーおねえちゃん、パートナーのおいわいに、すっごいケータイ、
 ありがとうなのですよー。

 おてがみをおくれるだけではなく、ゲームであそべたり、
 本も見ることが出来るなんておどろきなのです。

 このケータイをネーおねえちゃんだと思って、たいせつにするのです。」


 互いに、互いのメールを見せ合って微笑みをかわす。
 さっそく、お互いの動画を使って立体アニメーションを作ってみようか。
 新型携帯電話で、二人のコミュニケーションは一層深まりそうな予感がするのだ。