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クリスマス…雪景色の町で過ごすひととき…

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第18章 守り合うことを誓いたい

「マーケットの方は・・・かなり華やかな雰囲気だったが、この辺りは落ち着いた感じがするな・・・。こういう夜景も悪くない・・・」
 グレン・アディール(ぐれん・あでぃーる)は街頭の灯りを受ける大聖堂を見上げて呟く。
 クリスマスマーケットの方は飾り付けられた屋根の上にサンタやもみの木のイルミネーションが光り輝いていた。
 それはお伽話の絵本から出てきたような可愛らしい風景だった。
 しかし今、彼が見ているのはそれと異なる静かな色味の景色だ。
 レディッシュイエローのような灯りが、真夜中の大聖堂の外壁を美しく染めている。
「遠くから見た感じとは違いますね。町の灯りに照らされて、もっと鮮やかな感じがしました」
 噴水の傍を歩きソニア・アディール(そにあ・あでぃーる)は建物の周りを見回す。
「たしか・・・この辺りにシュヴールの橋があるはずだが。―・・・向こう方に人が集まっているな。そこか・・・?」
 モーントナハト・タウンの夜景の他に、橋の下で誓った相手と縁で結ばれるという話に興味を持ち、パートナーたちとやってきたのだ。
「カップルや友達同士でゴンドラに乗っているみたいですね」
 手摺を掴み石造りの橋からソニアが見下ろす。
「あの人ごみの中にいるのは・・・・・・、アイツか?―・・・意外だな・・・アイツがこんな場所にいるなんて・・・」
 道を往来する人々の中に紛れている見慣れた女の姿を見つけたグレンは、まさかここでも会うとは思わなかったというふうにふぅと息をつく。
「董天君じゃないか!祭りの時以来だったけな。」
 李 ナタもその彼女と会うのは妖怪たちの夏祭り以来だ。
「あんなにはしゃいでいる董天君が見れるとは思わなかったけどさ。なんか意外と可愛いところもあるじゃねぇか」
 孤島やパラミタ内海付近で会った様子とは異なる彼女の一面を見て、女の子らしい部分もあるんだと呟く。
「―・・・よぉし、ククッ・・・」
 ナタクたちの存在に気づいていない董天君の背後に忍び寄り、良からぬことを思いついた彼はにんまりと笑う。
「(またつまらないことを思いついたのか・・・)」
 グレンは呆れ顔をし、やれやれとため息をついて、ドンッとナタクの突き飛ばすように押す。
「おわぁあっ!?」
 その声音が聞こえる方へ振り返ろうとする董天君の後ろから、グレンに押された拍子に彼女へ抱きつくようにぶつかってしまう。
「ナタクさん・・・大胆ですね」
 そうとは知らないソニアがぼそっと呟き、勇気ある特攻に目を丸くする。
「・・・よ、よう・・・さ・・・寒くないか?」
「てめぇえ・・・。このあたしに抱きつこうなんていい度胸してるな?ぶっ飛びやがれぇえっ!」
 抱きつかれたと思った董天君は怒りのあまり、ナタクの腹に肘鉄と拳をくらわし石畳の上へ殴り飛ばす。
「うぉぎゃぁあーーっ!!」
 凄まじい衝撃に大声を上げ、ひんやりと冷たい道へドシャァアーッと滑り転ぶ。
「どういうつもりだ?おいナタク、何とか言えよ」
「あでっ!や、やめろぉお」
 降り積もった雪に突っ伏したまま、怒りの収まらない彼女にぎゅむっとブーツで頭を踏みつけられてしまう。
「(何だこりゃ。はしゃいでた時との差が激しすぎるじゃねぇかっ)」
 足から逃れようとナタクは手足を必死にばたつかせる。
 祭りで見た彼女の態度とはかなりギャップがあり、それはまるで天国を見た後に地獄を見せられたような気分だ。
 そこからちょこっと離れた場所でソニアは、“殴り殴られている2人のやりとりは挨拶のようなもの”になってしまったと、心の中で呟き可笑しそうにクスッと笑う。
 といっても一方的に、いつもナタクが殴られているようだ。
 暴力的なのは相変わらず変わらないが、それでも最初に会った頃と、今とでは少し雰囲気が変わったように見えた。
「あのお祭りで会えたことがきっかけなんでしょうか?フフッ♪」
 不思議そうに思ったソニアは2人を見つめ、微笑ましい光景を見るかのようにニッコリと笑顔になる。
「―・・・その辺にしておいてくれないか?そう見えたのは・・・凍った路上を滑ってしまったからだろう・・・」
 ナタクの背中を押した張本人が、やられっぱなしの彼を哀れにでも思ったのか、何食わぬ顔で止めようと声をかける。
 クリスマスイブの夜に思い人から殴られて終わりでは、あまりにも哀れだと感じたのだろう。
「お前ら、秦天君を逃がしたんだってな?それは仲間に対して裏切じゃねぇのか。まったく笑えるぜ、あっははは!」
「あぁ・・・そうだな。俺たちの考えがどうあれ、結果的にはそうなってしまった・・・。―・・・丁度いい・・・董天君も来い・・・」
「フンッ。あたしをどこへ連れて行く気だ?場所を言っても、ついて行かねぇけどな」
「ささっ、行きましょう♪」
 鼻で笑い飛ばす董天君にお構いなしに、ソニアとグレンはゴンドラの乗り場へ彼女の腕を掴み強引に引っ張っていく。
 暴れて逃れようとするその姿は、まるでトラやライオンのような肉食獣を思わせるような感じだ。
「毎度のことだけどやっぱり抵抗するんだな」
 どうしたら素直についてきてくれものかというふうに言い、頭についた雪を片手で落としたナタクは3人の後を追う。
「あたしに触るんじゃねえ!このっ、離しやがれーっ」
 誰がついて行くものかと必死に振り解こうとする。
「一緒に来ねぇと大声で俺のテメェに対する想いを、町中で包み隠さず全部叫ぶぞ?それでもいいのか?」
 彼女を逃がさないよう、ナタクはニヤリと笑い脅しめいた言葉を直球でぶつける。
「ふっ、ふざけんな。その前に川へ突き落としてやるっ」
「へぇえ、いいのか?落とされる前に叫んでやるからな。―・・・俺はーっ、董天君のことがーっ、だ・・・」
「―・・・や、やめろバカナタク!」
「ほら、乗るんだ」
 動揺した董天君の隙をつき、彼女の腕をグレンとソニアの2人がぐいっと引っ張り、無理やりゴンドラへ乗せる。
「何でてめぇらと乗らなきゃならないんだ。あたしは降りるぞ」
「ほぉう・・・。この幅の川をどうって飛び越える気だ・・・?」
「何だと?―・・・あぁっ、ふざけんじゃねぇえっ!」
 2人の手を振りほどいた董天君は、すでにかなり離れてしまった乗り場を見て怒鳴り散らす。
 ナタクが船頭からオールを借り、彼女が戻れないように乗り場から離してしまったのだ。
「空飛ぶ魔法や地獄の天使だとかで飛べなければ・・・、まず・・・戻ることは不可能だな」
「ちっ、降りたらギタギタにしてやるからな!」
 遠く離れた乗り場を睨み董天君はムッとした顔で舌打ちをする。
「―・・・そう怒るな。ゴンドラに乗せたのは理由がある・・・。あのシュヴールの橋の下を通り過ぎるまでの間・・・、相手に誓の言葉を心の中で言うと、その相手と・・・縁で結ばれるかもしれないという言い伝えがあるんだ・・・」
「はぁ?ただの迷信だろ。信じるなんてまるでガキだな」
「いいじゃないですかそれでも」
 ニコニコと微笑みソニアは、董天君からナタクの方へちらりと視線を移す。
 こくりと頷いた彼は突然、思い人の手を握った。
「なっ!?何しやがるんだ!今すぐ離さねぇと本当に川へ沈めるぞ」
「まぁまぁ、ナタクさんを沈めるのは後でも出来ますよ。少しの間だけですから、ねっ?」
 その手の上にソニアが片手を置き、眉を吊り上げて怒る彼女を宥めるように言う。
「もうすぐ橋の下につくな・・・」
 ソニアの手の上にグレンも片手を置く。
「縁をより強くする言葉を考えたんで言いますね。今後、何が遭っても助け合うことを誓い・・・の後に、それぞれの思いをつなげてください」
 彼女の言葉にグレンとナタクが頷く。
「離さないからな。死の地獄の苦しみへ送らせたくないんだ」
 董天君をじっと見据え、ナタクは手を離そうとする隙を狙っている彼女の手を強く握る。
「(今後、何が遭っても助け合うことを誓い、そしてずっとグレンの傍に居ることを心の中で誓います)」
 目を閉じたソニアはここにいる4人でいかなる時も助け合い、彼と永遠に共にある、そう心の中で誓の言葉を呟いた。
「(今後、何が遭っても助け合うことを誓い、そして結果的にどうなろうとも中途半端に投げ出さないことを誓う)」
 グレンも目を閉じ、誓の言葉を心の中で呟き始める。
 かつての仲間たちを裏切ってしまったことになったにせよ、関わってしまったからには4人で協力し合い、途中で放り出さないと誓った。
「(今後、何が遭っても助け合うことを誓い、そして一生を賭けて董天君を護ることを誓う)」
 思い人の姿を瞳に映し、ナタクは目を閉じて誓う。
 ずっと彼女を守り、愛しき者を死なせはしないと・・・。
 橋を通り過ぎ、4人を乗せたゴンドラは乗り場へ戻っていった。
「なぁ、董天君も誓いの言葉、言っただろ?心の中でさ」
「さぁな」
 ゴンドラから降りた董天君はそっけなくフンッと彼に背を向ける。
「お、おい待てよ!」
 帰ろうとする彼女の後を慌てて追いかけていく。
「せめて何か誓ったのか教えてくれよっ。―・・・イッてぇ!急に止まるなって」
 突然ピタリと止まった相手の背にドスンッとぶつかってしまう。
「気が向いたら教えてやるよ」
 追いかけてきた彼に対して彼女は振り向かず無愛想に言い放つ。
「董天君・・・1つ言っておきたいことがある・・・。俺はお前さえ良ければ・・・お前と契約をしてもいいと思っている・・・。その気になったら・・・いつでも言ってくれ・・・」
 それだけ言い町を出ようとする董天君をグレンが引き止め、自分と契約しないかと話を持ちかける。
「―・・・お前らは封神台を作る側に協力して、あたしの戦友を殺すきっかけをつくったやつらだ。そう簡単に契約すると思うか?それにあたしは妖怪で、本来の本能に従って生きている。冷酷で残忍な本能にな!」
「それは分かっているつもりだ・・・。だからもし・・・気が変わったらでもいい。考えてみてくれ・・・」
「どうだろうな?一生変わらないかもしれないぞ」
 グレンをひと睨みして言うと、董天君は町の外へ出て行ってしまった。
「孤島の時よりも・・・ずっと前に・・・、時間を巻き戻せればいいんだが。そうしたら・・・もっと別の形で俺たちと出会えていたかもしれないな・・・」
「後悔しても始まらないぜ。過去のことはもう絶対に変えられないんだ。1度進むと決めたからにはそんなこと考えるのはよさねぇか」
「確かにな・・・」
 これはもう起きてしまった出来事。
 彼女が恨みに思うのも当然かと、ナタクの言葉に頷いた。
「過去へ戻ってやり直しがきくような生き方なんて出来ないだろ?たとえ出来たとしても自分の都合で変えるようなマネは、俺なら絶対にしないけどな。大事なのは後悔しないように生きることなんだ」
 たとえ失敗してもころころ変えるようなマネは嫌なのだ。
 それはナタクたち3人が思うことだが、特にナタク自身は後悔なんて絶対するものかとそう言い放った。
 だからこそ大切な存在を失わないように強くあり続け、彼女を護りたいとシュヴール橋の下で思い人の手を握り誓った。