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【金鷲党事件 二】 慰霊の島に潜む影 ~中篇~

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【金鷲党事件 二】 慰霊の島に潜む影 ~中篇~
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序章  今、出来ることを


 ジャジラッド・ボゴル(じゃじらっど・ぼごる)から、『月美 あゆみ(つきみ・あゆみ)ミディア・ミル(みでぃあ・みる)を捕虜とした』という旨の連絡があった、その翌日−−。

 本部で行われる会議のために、契約者たちが三々五々集まり始めていた。皆一様に、厳しい顔をしている。
 その片隅で、五十鈴宮 円華(いすずのみや・まどか)は1人ポツンと、椅子に腰掛けていた。その表情は暗く沈んでいる。

「お!なんやぁ。そんな辛気臭い顔して〜。折角のべっぴんさんが、台なしやでぇ」

 突然の声に円華が顔を上げると、そこには腰に手を当てた日下部 社(くさかべ・やしろ)が立っていた。

「く、日下部さん……!す、すみません。全然気づかなくって。あ、あの、何か御用ですか?」

 そう言ってにっこりと笑う円華。さっきまでの表情は一瞬で掻き消え、今はいつも通りの笑顔に戻っている。

「『御用ですか?』やないでぇ。さっきまで、泣きそうな顔しとったで」
「え……?わ、私、そんな顔してました?」
「はぁ……。自覚ないんか。こりゃ、相当重傷やな。鏡見てみぃ。目の下、クマ出来とるで」
「え、えぇ?」

 慌てて鏡を取り出す円華。
 社は、その隣に腰掛けた。

「その様子じゃ、昨日もロクに寝てないんやろ。何か、悩みがあるんちゃうか?俺で良かったら話、聞くで」
「な、悩みなんて……」

 とそこまで言いかけて、口を噤む円華。
 社は、次の言葉をじっと待った。

「私はただ、自分のせいであゆみさんやミディアさんが捕まってしまったことが、申し訳なくて……」

 力なく、視線を落とす円華。

「『自分のせい』て……。別に、円華さんのせいやないやろ。自分のミスや、そんなん」
「で、でも、『調査に協力して欲しい』と言ったのは私ですし……」
「そんなんゆうたら、俺らだって、危険を承知で手伝っとるんや。別に誰も、お嬢のせいやなんて思ってナイ」
「それは……そうなのかもしれません。御上先生にも、そう言われました。でも、どうしてもそうは思えないんです」

 そう言って、顔を上げる円華。わずかに潤んだ瞳が、真っ直ぐに社を見つめる。

「う、う〜ん。そうやなぁ……。なら、自分に出来ることをするしか、ないんや無いかなぁ」

 腕組みをしたまま、社は答える。

「出来ること、ですか……」
「そうや。いくら責任感じたゆうても、ここで、1人で悶々としててもどうにもならん。なら、2人を助けるために今の自分に何が出来るか、それを考えた方がいいんやないかな」
「で、でも……。私に出来ることなんて……」
「別に誰も、『助けに行け』ゆうてる訳やないんやで。かといって『作戦考えろ』いうとる訳でもない。そういうのは、プロに任せとったらええのんや。お嬢には、お嬢にしか出来んこと、あるやろ?」
「私にしか、出来ないこと……?」
「そうや〜。お嬢は『シャンバラと地球の絆を深めたい』いうて、みんなに訴えかけてる。『マドカ』の活動も、その一環や。そして、お嬢のそのメッセージに、共感してる人もぎょうさん居てるやないか!お嬢には、人に訴えかける『力』があるんや!それを使わんで、どうするんや?」

「訴える、力……」
「そうやがな!お嬢が心を込めて、『お願いします』と頭を下げれば、きっとみんなのヤル気にも火がつく!」
「そうでしょうか……」

 未だ、半信半疑という感じの円華。
 社は、そんな円華の肩を『ガシッ!』と掴む。

「そうや!この俺が保証する!こう見えても俺、『846プロ』の社長兼プロデューサーなんやで!お嬢には、人を動かす何かがある!」

 勢い込んで、円華に熱弁を振るう社。円華は、その社の目を身じろぎもせず見つめ返す。

「……分かりました。私、やってみます。私の言葉が、どれだけ人を動かせるかわかりませんけど、私、皆さんに精一杯訴えてみます!」
「お!いい顔になったやないか!そうや、その意気や!うんうん、人間やっぱり笑顔が一番やでぇ〜」

 嬉しそうに『ウンウン』と頷く社。

「よっしゃ!それじゃ俺が、景気付けに一曲プレゼントしたるわ!一緒に来たってや!」

 円華を引きずるようにして外に出ると、社は『ピィーー』と長く尾を引くように指笛を吹いた。
 たちまち、無数の小鳥たちが社の周りに群れ集う。

「みんな、今からこのお嬢にステキな歌のプレゼントをするさかい、協力したってや!」

 鳥たちは、社の言葉に賛同するように、てんでに囀り続けている。

「よーしよし。そんじゃ、あとはコイツと……コイツや!」

 どこから取り出したのか、社の手には【ディーバード】と【銀のハーモニカ】が握られている。

「ほないくでぇ!ゆっくり、ご清聴したってや!」

 社のハーモニカから、明るい、陽気な音が流れる。そこにディーバードと小鳥たちの囀りが合わさって、見事なハーモニーとなった。聞いていると、心が自然と暖かくなってくるような、そんな曲だ。 

「ステキな曲ですね〜、円華さま〜」

 その声に、目を閉じて演奏に聞き入っていた円華が目を開くと、いつの間にか、隣になずな神狩 討魔(かがり・とうま)が立っている。

「えぇ。本当に」

 なずなのその言葉に、円華は笑顔で答える。

「いい人ですね〜、日下部さん〜。突然お嬢様の肩を掴んだ時には、一体どうするつもりなのかと思って、ちょっとドキドキしちゃいましたけど」
「……どうにかって?」
「あ〜……。いや、あのですね。若が突然親の仇でも見るような顔になって、刀の鯉口を切るもんですから……」
「なずな!お前また、余計なことを−−」
「い〜や〜!だから若、そんな顔で刀の鯉口切らないでくださいよぉ〜!」

 騒がしく去っていくなずなと討魔。
 円華はそんな2人を微笑ましそうに見送ると、再び《幸せの歌》に耳を傾けた。



「わざわざ駆けつけて下さった皆さんには、本当に感謝しています。お礼の言葉もありません」

 冒頭挨拶に立った円華は、最後にそう切り出すと、居並ぶ十人程の生徒に、深々と頭を下げた。

 皆、昨夜から今日にかけて、この島に駆けつけた生徒たちである。
 ある者は円華のため、またある者は友のため、あるいは内に秘めたる目的のため……とそれぞれ動機は様々だったが、皆命を賭して戦おうという『想い』は一緒である。
 そのことが円華には、涙が出そうになるほど嬉しかった。

「お集まりの皆さん!金鷲党の企みを阻止するために、そしてあゆみさんとミディアさんを無事救い出すために、どうかご協力をお願い致します!」

 思わず涙ぐむ円華に、会場から、自然と拍手や、『任せろ!』という声が上がる。
 円華の短い、しかし熱のこもった挨拶の後を、御上 真之介(みかみ・しんのすけ)が引き継いだ。


「みんな、もう分かっているとは思うが、目的は2つだ。1つは白姫岳要塞に囚われていると思われる、月美あゆみ君とミディア・ミル君の救出。もう1つは金冠岳で活動中の、金鷲党の残党の目的を探ることだ。こちらから、特に行動について指示はしない。みんなで相談して、自分が一番いいと思う行動を取ってくれ。ただし、行動内容については、事前に本部から了承を得て欲しい。いいね?」

 御上の言葉に、全員が頷いた。

「それから作戦開始後は、ここにいる宅美 浩靖(たくみ・ひろやす)さんに、全体の指揮を執ってもらう」

 その御上の言葉に、宅美が立ち上がった。

「知っている人も多いと思うけど、宅美司令は、前の『二子島(ふたごじま)紛争』で全軍の指揮を執り、戦いを勝利に導いた方だ。宅美さんの判断は、全面的に信頼してくれていい」
「おいおい御上君、あまりプレッシャーをかけんでくれんかね」

 口ではそういうものの、宅美がプレッシャーを感じている様にはまるで見えない。

「今回の作戦の指揮を任されることになった宅美浩靖だ。状況によっては、本部から個別に指示が行くこともある。その場合は済まないが、本部の指示を優先して欲しい。それと、どんな些細な事でも構わん。状況に変化があった場合には、すぐ本部に報告して欲しい。今回は、スピートが命だ」

 ここで宅美は言葉を切ると、一段と厳しい表情を引き締める。

「とにかく、引き受けるからには、絶対にこの作戦を成功させるつもりだ。みんな、よろしく頼む」

 宅美は、皆に向かって頭を下げた。

「ブリーフィングは以上だ。質問は……ないね。では早速、打ち合わせに入ってくれ。それじゃ、解散」

 御上の言葉に、次々と席を立つ生徒たち。たちまち、そこここで侃々諤々の議論が始まった。