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【蒼空のフロンティア秋祭】秋のSSシナリオ

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【蒼空のフロンティア秋祭】秋のSSシナリオ
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リアクション

「えっとねー、ショートケーキにチョコレートケーキ、チーズケーキにフルーツタルトー!」
 ルーシェリアが注文を取りに来るなり、怒濤の勢いでメニューを片っ端から読み上げていくのは白黒が逆転したパンダのような着ぐるみ姿のゆる族、熊猫 福(くまねこ・はっぴー)だ。
 その向かい側で、パートナーの大岡 永谷(おおおか・とと)がお財布を覗き込んでいる。残高を確認して、うん大丈夫、と判断したか、ルーシェリアをチラッと見て「それで」と唇を動かす。
 机の上には、既に福が元気に食べ散らかしたケーキのお皿が二三枚、では済まない量積み上がっている。福の着ぐるみの口元は、生クリームとチョコレートでべとべとだ。
「洗濯大変なんだから、綺麗に食えよ?」
 永谷が苦笑混じりに忠告するけれど、福は素知らぬ顔で紅茶で一服している。
 やっぱり聞いちゃ居ないか、と、永谷も紅茶を一口啜った。
 そこへ、ルーシェリアが両手のトレイいっぱいにケーキを載せて戻ってくる。机の上に並べられたケーキの山に、福は幸せそうに目を輝かせてフォークを掴んだ。
「本当、幸せそうに食べるよな……」
 もぐもぐもぐもぐ、休み無く口を動かしながらも、一つ一つしっかり味わっては、幸せそうに目を細める福に、永谷も幸せな気分になる。お財布の中身は気になるけれど、福の幸せそうに潤む瞳を見ていると、そんなことはどうでもよくなってしまう。
「まあ、たまにはいいよな」
 今日はちょっぴり特別な日だから。
 普段は教導団の中尉として男性の制服に身を包み、ピリッとした雰囲気を漂わせている永谷だが、今日は胸元に細いリボンの付いた白いブラウスに、淡い色のスキニージーンズ、襟に白いパイピングが施されたカーキ色のテーラードジャケットと、滅多にしない女の子スタイルに身を包んでいる。そんな永谷とおそろい気分で、福もそのもこもこの首に細いリボンを巻いて、後ろで蝶結びにしている。
 デート、という訳では無いけれど、日頃の感謝を伝える為に、今日はいつもとはちょっと違う趣向でお出かけだ。
「トト、見てても分けて上げないよー? 欲しかったら、自分で頼んでね」
 じっと見詰めている永谷の視線を勘違いして、福は自分のケーキを抱え込むようにして永谷を睨む。……まぁるいつぶらな瞳で睨んでも、睨んでいるようには見えないのだけれど。
「いや、俺はもういいよ」
「そう? じゃああたいは、もーっと食べちゃおっと」
 今さっき運ばれてきた分は、もう既に最後の一つになっている。
 永谷の顔がちょっとだけ、引きつった。

 そんな二人のティータイムを、少し離れたところのテーブルからじっと見ていたのは、蒼空学園生のシャーロット・マウザー(しゃーろっと・まうざー)だ。
 臨時開業の喫茶店の噂を聞いて、今日は一人でやってきた。
 たまには一人でのんびりするのも悪くないかな、と思っていたのだけれど、いざこうして、仲の良い相手と賑やかな時間を過ごしている人たちの姿を見てしまうと、ちょっとだけ寂しくなる。
「一人もいいですけど、やっぱり……こ、恋人さんとか、一緒の時も、楽しい、ですよね……」
 シャーロットにも、一緒に過ごしたい相手が居ないではない。けれど、今日は偶々都合が悪くて。
 机の上に乗っているイチゴのショートケーキと、アールグレイのミルクティーが、仲間がいなくてちょっぴり寂しそうだ。
 永谷は知らない顔ではないけれど、あまりに幸せそうな顔で向かいのパンダの着ぐるみを眺めているものだから、ちょっと声が掛けづらい。
「だ、誰かと、一緒に来た方がよかったでしょうか……」
 一人で座って居るのはシャーロットだけではないけれど、もう一人の向こうに座っている人はどうやら、店員さんの知り合いのようだし。
 ちょっとだけ居心地が悪くて、シャーロットは俯いてケーキを突く。真っ赤なイチゴはとても美味しいけれど、ちょっと、ほんのちょっとだけ、失敗したかも、という思いが胸に過ぎる。
 と、そこへ、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
 
「いいじゃないの、ちょっとだけ、ね?」

 シャーロットはぱっと顔を上げる。
 すると公園の入り口から、知人の崩城 亜璃珠(くずしろ・ありす)が歩いてくるのが見え、シャーロットは声を掛けようかと腰を浮かしかける。けれど、すぐに亜璃珠のパートナーのマリカ・メリュジーヌ(まりか・めりゅじーぬ)の姿が見えたので、声を掛けそびれてしまう。
 亜璃珠の方はといえば、シャーロットの存在には気付かずに、パートナーの腕に自分の腕をするりと絡めたまま、マリカを半ば引きずるようにして公園へと入ってくる。
「あ、あのっ……!」
「どうしたの? 私とのデートは不満かしら?」
「でッ……! デートだなんて、そんな……決して不満ということでは……」
 おどおどと落ち着きのない様子のマリカの言い分は気にも留めずに、亜璃珠はそれならほらほら、と空いているテーブルにマリカを座らせる。
 四人掛けのテーブルセットには、四つの椅子が丸テーブルを挟んで丁度二組ずつ向かい合うように置いてある。にもかかわらず、亜璃珠はマリカのすぐ隣の椅子を選んだ。その上、椅子を引いてより一層マリカに近づく。
 新たな来客に、店員の少女が素早くやってきてメニューを差し出す。その中から素早く頼むものを決めて亜璃珠が注文を済ませる。
 程なくしてケーキと紅茶のセットが運ばれてきた。
 けれどマリカはどこか落ち着かない様子で、きょろきょろと店員の方を見たり、亜璃珠の方を見たり、ケーキを見たりしている。
「やっぱり不満そうな顔ね?」
 亜璃珠がマリカの顔を覗き込むと、顔を赤くしたマリカはい、いえ、と口ごもる。
「その、ただ……普段はご奉仕する側ですので、その、サービスを受けるというのが、落ち着かないというか……」
 崩城家のメイドとして、普段は亜璃珠の身の回りの世話をするのがマリカの仕事。今日は青空喫茶に行きたいと言う亜璃珠の付き添い、の、はずだったのだが、いつの間にか腕を絡められ、まるでデートの様相だ。
「あら、本当にそれだけかしら?」
 クスリ、と意味ありげに笑う亜璃珠の言わんとしている所を察して、マリカは頬をぽっと染める。
「確かに……二人きりでこういう時間を過ごすなら……そうしたい人がいる、というのは……否定は、しきれませんけど……」
 ぼんやりと中空を見詰めて、愛しいひとの顔を思い浮かべるマリカがふと我に返ると。
 亜璃珠はそこにいなかった。
「って……もういませんし……」
 ちょっと、泣いた。