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【蒼空のフロンティア秋祭】秋のSSシナリオ

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【蒼空のフロンティア秋祭】秋のSSシナリオ
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リアクション

「……じゃあそろそろおいとまするわ」
 陽太が名残惜しそうな表情をすると、隼人はぐっと肩を引き寄せてこう言った。
「おいおい、そんな顔すんなよ。折角、かみさんと2人きりにしてやるんだ、もうちょっと喜べよ」
「え、その……」
 陽太と環菜は視線を交え、頬を桃色に染めた。
「……な、なにこの空気。正直、羨ましいぐらいなんですけど。なんだよろしくやってんじゃねぇか、この野郎!」
「は、はぁ。どうも……」
「照れてる照れてる。そんじゃあとはノロケ療法に任せるぜ。お大事にな」
「陽太さん、環菜さん、お邪魔しました」
 そう言って、隼人とルミーナは元気に御神楽家をあとにした。
 彼らに続き、刀真たちも別れを告げる。
「じゃあまたな、陽太。次は元気な時に会おう」
「ええ、今日はわざわざお越し頂いてありがとうございました、樹月さん」
「ああ、俺たちの土産を存分に使って、早くよくなってくれよ」
 そして環菜に視線を向ける。
「……御神楽さん、君は元気ですか?」
 訊かれた彼女はしばし視線を漂わせ、それから刀真の目を見て小さく微笑んだ。
「ええ、このとおりよ」
「そうですか。それなら良かったです」
 刀真も微笑みを返す。
「本当に……じゃあ、さようなら」
 ゆっくりと扉が閉まり、バタンと言う音が2人きりの家に響く。
「……皆さん、帰ってしまいました」
「静かになったわね。じゃあ、そろそろベッドに戻りましょう。刀真の作ったおかゆを持ってくるわ」
 手を引く環菜を、すこし照れた様子で陽太は見返す。
「あのぉ……ひとつお願いしてもいいですか?」
「?」
「折角、風邪を引いたことですし……その、夫婦っぽく看病してもらえたらなぁ……って思ったんですけど」
「例えばどういうこと?」
「おかゆを『ふーふー』して『あーん』とか。おでこをコツンとくっつけて、熱を測ったりとか……」
「ふぅん……」
 環菜は目を細め、冷ややかな視線を送る。
「す、すみません……。イヤなら別に無理にとは……。風邪だからって調子に乗ってしまっ……」
 とその時、コツンと冷たいデコが陽太の額に押し当てられた。彼女の鼻が自分の鼻をくすぐるようにそこにある。
 陽太の胸はドキドキと高鳴った。環菜も恥ずかしいのだろう、白い頬がほんのり赤くなるのがわかった。
「……熱が上がってるみたい」
「すみません。なんだか熱がぶり返してきたみたいです……」
「じゃあ、早く寝ないと……」
「でも、もうすこしこのままで……」
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 陽太には「また」で、環菜には「さよなら」か……。
 帰り道。月夜は前を歩く刀真の背中に目を向ける。
 日が傾き、オレンジ色に染まる背中、そよぐ風に銀髪が揺れている。彼はどんな顔で歩いているのだろう。
 いつものように腕に飛びついて並んで歩こうか……けれど、今日はこうして歩くのがいいのかもとすこし思う。
 その時、ふと、刀真は足を止めた。
「刀真……?」
「なぁ月夜」
「な、なに?」
 月夜は柄にもなく緊張して声が上ずった。
「……あれ、なんだと思う?」
「へ?」
 予想外の反応。不審に思いつつ、彼が指差すほうを見る。
 そこには御神楽家の番犬である賢狼と……そして、なぜだか棒を構えて睨み合う天斗の姿が……!
「見舞いに来ただけなのに、まったく躾のなってねぇ、番犬だぜ」
「ぐるるるる……!」
「クックック、この風祭天斗、ケルベロスごとき叩き殺して突破するなど造作もないんだぜ……」
 とその時、ピピーッと警笛が鳴った。
 はっと振り返る天斗。釣られて刀真と月夜も振り返る。そこにいたのは制服姿のお巡りさん。
「貴様ァ! ひとんちの庭でなにやってる! 不法侵入は立派な犯罪だぞぉ!!」
「さ、さっきのお巡りさん……!」
「さっきは証拠不十分で釈放したが、俺の目に狂いはなかった。思ってたとおり、やっぱりやらかしたな!」
「ち……ちなうんです!」
「何が違うか! 今ハッキリそのワンちゃんを殺すと言っただろ!」
「ちなうんですちなうんです。それは言葉のあやと言うか……」
「言い訳は弁護士と相談して決めるんだな! 大人しくお縄につけぃ!」
「た、助けてー! 隼人ー!!」
 呆然と逮捕劇を見守る刀真と月夜。
「ねぇあの人、隼人のおとうさん……だよね?」
「彼も苦労してるんだなぁ……。まぁ見なかったことにしておこうか……」
 苦笑いを浮かべるその顔に、彼女もくすくすと笑った。
「……うん。じゃ帰ろ」
 刀真の腕に飛びつき、月夜は差し迫る闇の中、並んで家路につく。
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「うーん、なにか忘れてる気がする……」
 帰り道。隼人はポツリと呟いた。
 夕暮れの森林公園は人もまばらで、秋風がさわさわと吹き抜ける芝生を、木立が不思議な影模様で彩っている。
「忘れものですか? 環菜さんに電話して確認してもらいますか?」
「ああ、大丈夫です。どうせ大したもんじゃないから」
 その大したことのない忘れ物は、ちょうど留置所で隼人の名を叫んでいるところだ。
「……それよりルミーナさんも風邪には気を付てくださいね」
「心配してくれるんですか?」
「当然です。もし風邪引いたらすぐ俺に連絡してください。おかゆ持って飛んできますよ」
「隼人さんたら……」
 ルミーナはくすくすと笑った。
 隼人はドキリと脈打つ胸を押さえる。惚れた女の笑顔は秋風もなんのその、ハートの奥からじーんと暖めてくれる。
 ルミーナさんの笑顔はやっぱまぶしすぎるぜ……! 今日は勇気出してお見舞いに誘って良かった……!
「じゃその時はよろしくお願いしますね」
「ま……任せてください! さぁ寒くなる前に帰りましょう! 家まで送っていきます!」
「はい。ありがとうございます」
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「……う、ううん?」
 ぐるぐる回る景色の中、衿栖は目が覚めた。
 そこはナラカ……ではなく、見知ったツァンダの森林公園。
 最後の光を放つ夕陽とすこしづつ空に混じる闇夜……と茅野瀬 朱里(ちのせ・あかり)の顔があった。
「良かった。目が覚めた……」
「あれ……?」
 すこしづつ意識の混濁がほどけていって、朱里の膝の上で寝ている自分にハテナマークを散らす。
 ふと横を見ると、ラムズとクロも奇妙なものを見る目で、衿栖を見ていた。
「気が付かれましたか。ご気分は如何ですか?」
「おうwwwジュース飲むかwwwww」
「あのー、ちょっと状況がよくわからないんですけど、一体何が……?」
おまえ、マンホールに頭突っ込んで気絶してたんだぜwwwww
「ええっ!?」
「突然、凄い音がしまして、私とクロで様子を見に行ったところ……その……」
「ケツだけこっちに向けてのびてたwwwマジ糞笑ったwwwww」
「う、うそ……」
 朱里にすがるも、彼女はお気の毒ですが……と言わんばかりの顔で首を横に振る。
 原因はまったく不明である。つまずいたところ、たまたまマンホールの蓋が開いてたのだろうか、謎だ。
「……じゃあナラカのあれは夢だったんでしょうか……」
 不思議と頭の中はクリアーだった。けれども、どこか現実味のない浮遊感に包まれている。
 あれは秋の初めに見た白昼夢……それとも?
 森林公園に静かに夜が訪れる。