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リアクション
涼介・フォレスト(りょうすけ・ふぉれすと)、ミリア・フォレスト(みりあ・ふぉれすと)夫妻は、ゆったりとした足取りでクリスマスの買い出しを楽しんでいた。
(中央広場ではなにやら変なことが起こっているという噂もあるので、今日のところは近寄らないことにしている。)
「そういえば、家用もですけど、お店用のツリーの飾りも買わないと行けませんね」
「そうですね……そういえば、さっきの露店に、かわいいオーナメントが並んでいましたっけ」
「じゃあ、見に行きましょうか」
涼介の言葉に、思い出したように両手を打ち合わせるミリア。
そして二人は、今来た道のりをまたゆっくりと引き返していく。
クリスマスというイベントの喧噪の中、また年末のせわしなさの中、二人の周りでだけ、時間がとても穏やかに流れていた。
イルミンスールで営業しているカフェテリア用の飾り、それから、自宅用の小さなクリスマスツリーとそのオーナメント、玄関用のリースに、リビングに掛けるタペストリー。
二人で、夫婦として過ごす最初のクリスマスだから。買わなければならない物はたくさんある。
もちろん――大切な人への、プレゼントも、だ。
何を買うかは、今日決めることにしている。涼介は先ほどから、買い出しの品を見定めるふりをして、あれでもない、これでもないと頭を悩ませていた。
アクセサリーのような、身につけられる物が良いだろうと狙いは付けている。けれど、アクセサリーを扱う露店だけでも、かなりの数だ。
なかなかこれ、という物には巡り会えない。
けれど、こうして悩むのも買い物の楽しみの一つだ。二人は時折、会話と笑顔を交わしながら、ゆっくりと買い物を済ませていく。
そのうちに、あちらこちらで店頭に並べられているコサージュが目に付いた。
クリスマスカラーの花を模した様々なコサージュは、見ているだけでも目を楽しませてくれる。
その一つ、ポインセチアの花をかたどった、赤と金のものが特に目を惹いた。
普段のミリアはあまり身につけない色だけれど、きっと似合うだろう。
ミリアさん、これ、と振り返ると、ミリアの姿が無い。
あ、と思って辺りを見回すと、少し先の露店で足を止めているミリアの姿。
「これを下さい」
涼介は慌ててそのコサージュを手に取ると、店主に差し出す。
それから会計を済ませて、ミリアの後を追いかける。
「ミリアさん」
「あ、涼介さん」
ごめんなさい、置いてっちゃいました、と申し訳なさそうに頭を下げるミリアに、僕がはぐれたんです、と笑って、涼介は今し方買ってきたコサージュを差し出した。
「これ、クリスマスプレゼント……です」
買ってたら置いて行かれちゃいました、と言いながら、そっとミリアの胸元にコサージュを留める。
それをちょっと驚いていたように見つめていたミリアは、胸元に咲いた赤い花を見て、にっこりと笑う。
「クリスマスらしいお花ですね」
ふふふ、と嬉しそうにコサージュを撫でる妻の姿に、涼介は幸せそうに目を細めた。
「じゃあ、私からも」
そう言うと、ミリアはちょうど今会計を済ませたのだろう紙袋を差し出す。
受け取って、開けても良いですか、と問いかければ、もちろんと優しい笑顔が返ってくる。
中には、長細い箱がひとつ。
フタを開けると、色違いのマグカップが二つ、ちょこんとそこに収まっていた。
「これ……」
「えへへ……お揃いのマグカップです。おうちで使いましょう」
ちょっと恥ずかしそうに笑うミリアが愛しくて、思わず涼介の頬が緩む。
「ありがとうございます。早速今夜、これで美味しい紅茶を飲みましょうか」
「そうですね」
二人はそう言って笑いあうと、こんどははぐれないようにしっかりと手を繋いで家路についた。
■■■
クリスティー・モーガン(くりすてぃー・もーがん)は、学友であるウェルチ・ダムデュラック(うぇるち・だむでゅらっく)を誘って空京に買い物に来ていた。
クリスマスパーティーの用品やらクリスマスカードやら、あちらこちら二人で買い物に回った後、クリスティーの提案で桜の森公園へとやってきた。
「何かイベントをやっているらしいんだ、折角だから寄っていこう」
買い物の荷物を抱えたまま、二人は中央の広場へと向かう。
はらはらと雪が舞い落ちる中央広場には、数組のカップルの姿が見える。なぜかやけに同性のカップルが多いが、偶然だろうと気にしないことにする。
「人工のものと分かっていても、綺麗な物だね」
「そうだね」
二人は並んで、穏やかに降る雪を眺めていた。
と。
「そういえば……さっき、下着を替えたんだ」
「……ああ、トイレに行っていたね」
ぽつりと呟いたクリスティーの言葉に、ウェルチは少し悩んでから、思い当たる節が在ったのかぽんと手を打った。
ウェルチは、クリスティーの秘密を知る数少ない人間の一人だ。
下着とは、おそらく体型を補正するためのものだろう。
「ファスナーが無いタイプを見つけたんだ。……その、以前と比べて、違和感があったりしないだろうか」
「そうだね、言われるまで、変わったということには気づかなかったよ」
ウェルチからの感想に、クリスティーはひとまず安心したようだった。
それから、少しあたりを動いてみたりして、違和感が無いかどうかを確かめて貰う。
「うん、良いんじゃ無いかな?」
「そうか……良かった……って、ウェルチ?」
クリスティーが素っ頓狂な声を上げる。
その目の前で、ウェルチがぺた、とごく自然にクリスティーの胸部に手を当てていた。
「あ……ごめん、あまりに自然だったから、つい」
まあ、見た目は男同士なのだし、それほど問題ある行為ではないだろう……たぶん。
そう思い直し、クリスティーはごほん、と咳払いを一つ。
「そういうことなら――」
しかし、ウェルチに触れられた時に感じた――動悸は何だ。
クリスティーはぶんぶんと首を振る。自分にいわゆるボーイズラブ属性は無い……いや、ボーイズ? ……そもそもこの体のうちに、恋愛などは考えないことにしているのに。
びっくりしただけだ。
そう、無理矢理結論づけると、クリスティーはおもむろに、今日はありがとう、と切り出した。
「そろそろ冷えてきたし、戻ろうか」
「そうだね」
ウェルチは特に気にしていないのだろうか。いつもと変わらない調子で笑うと、くるりときびすを返した。
そして二人は、再び並んで帰途につくのだった。
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