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ブラウニー達のサンタクロース業2023

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ブラウニー達のサンタクロース業2023
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リアクション

「……何も考えずにヘリファルテに乗ってきたけど、よく考えりゃ、ツェツェの病院知らねぇんだよな」
 章に借りた小型飛空艇ヘリファルテに乗っている太壱は自分が心配と勢いだけでここにいる事を思い出し、一時停止。

 しかし、すぐに
「とりあえず、海京の方にかっ飛ばせば良いか」
 動き始めた。ここで止まっていてもどうにもならないからだ。どうにもなるようにするには動くしかない。

 海京に向かって飛行中。
「うっひゃ、さみー! もうちょっと厚着して来るんだった。凍える前に見つかればいいけど」
 冬空にすっかり体温を持って行かれるわ、鼻水は出るわで大変な事になっていた。飛行しているので余計に寒さが身に染みるが、諦める様子は無い。
 それから少し飛行した所、前方に医療施設を発見した。
 しかも、
「……って、あの窓から見えるのはツェツェ? 嘘だろ、こんなにすぐに……まぁ、いいや」
 太壱が一番に目に映した病室に目的の人物がいた。思いの外、早く発見出来た事に訝しんでいたが、会いたい人に会えるという喜ばしい事によって消去された。これが実は健気な太壱に贈られた奇跡であった。

 天御柱学院付近の強化人間に対応している総合医療施設の病室。

「……検査入院は今日でおしまいか」
 セシリア・ノーバディ(せしりあ・のおばでぃ)は明日の退院のため荷物をまとめていた。その動作はなぜか元気が無くゆっくり気味。
「あぁ、結局ここの場所、タイチに教えないまま退院かぁ。ま、教えたとしても葦原に引っ越して初めての年末だから来てくれるわけもないし」
 セシリアは手を止め、溜息を吐いた。これが元気の無い理由。好きな人に会えないとうのが。
「……はぁ」
 また溜息を吐いた。
 そんな時、
「ツェツェ、生きてるかー?」
 聞き覚えのある声と窓ガラスを叩く音がセシリアの耳に入って来た。
「……この声に……あのでかい図体って、まさか……」
 セシリアは声がする方に振り向いた。
 そして、いたのは
「タイチ!?」
 会いたいと思っていた人、太壱だった。
「よう!」
 セシリアに気付いて貰えた太壱はニカっと笑った。
「何が、よう、よ。というか、見ての通り生きてるわよ。それより場所教えてないのに何で分かったの?」
 勢いよく窓を開けるなり、セシリアは呆れたように言った。
「いや、海京を飛んでたらいつの間にか着いてた。無事に顔も見れたから帰るわ。じゃ」
 太壱は会いたい人に無事に会う事が出来て安心した。ただし、顔は垂れる鼻水で酷い事になっていた。
「……顔を見たから帰るって、鼻水垂らしていう言葉じゃないわよ。バカじゃないの?」
 セシリアは呆れ、ツッコミを入れた。
「……あぁ、やべぇ、ちり紙くれ」
 セシリアに言われた太壱は、鼻水をすすって何とかしようとするも上手く行かず自力での解決を諦めた。
「ちり紙は病室の中よ。窓からでもいいから入ったら? ここ個室だから一人増えてもた大丈夫よ……多分」
 セシリアはベッドのサイドテーブルを指さした。
「……それじゃ、えっと……おじゃましまっす」
 ご招待に少し緊張するも切羽詰まった状況のため急いで窓から病室に入り、ちり紙に直行した。

 鼻をかんで落ち着いた後、
「助かったぜ……そういやぁ、お腹空いたな。何か飯買って来る」
 太壱は軽く空腹を感じた。何せ、ろくに食べずに飛んで来た故無理もない。
「ご飯ならパパーイがお見舞いに持って来てくれたカップ麺とか色んなものがあるから、それ食べたら? お湯は、そこのポットに入ってるから」
 セシリアは大量にある食料とポットの場所を教え、自身は荷物まとめを続けた。
「……お言葉に甘えて頂くぜ」
 空腹故に太壱はありがたくセシリアの厚意を受けた。

 カップ麺でひとまずお腹を落ち着かせた後、
「ツェツェ、この箱は?」
 太壱は手作り感満載の可愛らしい箱を発見した。他の食料とは違う感じから開ける前に問うた。
「昼のクリスマス慰問に来たどこかの団体から貰ったクリスマスケーキよ。食べていいわよ。食器はあそこにあるから」
 セシリアは手を休めずに答えた。今日はクリスマスなので病院で何かしらイベントがあってもおかしくない。
「……すげぇ崩れてんな」
 箱を開けるなり太壱は無残な姿のクリスマスケーキに声を上げた。
「ここに運ぶ時に落としたとか言ってて……味はいいらしいから」
 セシリアは団体から受けた説明をそのまま太壱に伝えた。
「それじゃ、食べるか。ほら、ツェツェ」
 箱から出したと言う事もあり言葉に甘えて太壱は一人用ケーキをフォークで二つに分けて形崩れが酷くない方をセシリアに手渡した。よく考えると太壱はセシリアにケーキを食べるか訊ねていなかったり。
「……(食べるって言ってないんだけど、まぁ、いいか)」
 セシリアは渡されたケーキを見た後、美味しそうに思いっきり形崩れしたのを食べる太壱を見て何気ない気遣いに黙ってケーキを頬張った。
「ツェツェの言った通り美味いな」
 太壱はすっかり食後のデザートをお楽しみ中。いや、デザートだけでなくセシリアと過ごしているクリスマスをお楽しみ中。
「そうね」
 呑気にケーキを頬張る太壱を見てセシリアはわずかに口元をゆるめた。こういうクリスマスもいいかと。

 過ごす相手がいれば、場所が豪華な所じゃなくても幸せなのだろう。大事なのは誰と過ごすかだから。

 夕方、天御柱学院関係者用宿舎。

「…………」
 アルテッツァ・ゾディアック(あるてっつぁ・ぞでぃあっく)はセシリアの病を治すために六連 すばる(むづら・すばる)が取り寄せた文献と病院からの検査結果を分析していた。セシリアの病は『原因不明のパートナーロスト様遺伝子変異症候群』と呼称するべき症状を持つものであった。
 分析の結果は
「……どう分析してもシシィの『遺伝子疾患オンパレード』という結果には変わりはありませんね」
 というものであった。
「……ほんの少しでも何か手掛かりがあればいいのですが」
 アルテッツァは諦めずに見逃している可能性を考え再度手元にある全ての資料の確認し直しを始めた。何としてでもセシリアを救うために。
 時間は早馬の如く過ぎ去り、空は茜色から闇色に染まり、雪が降り出していた。

 時間が進めどアルテッツァの作業は遅々として進まず
「……さて、どうしたものでしょうか」
 アルテッツァは息を吐くも資料を探る手は止まらない。
 外は賑やかなクリスマスで誰もが幸福な顔をしているのにこちらは何も喜ばしい事が無い。あまりにも不公平である。
「マスター、少し休憩を挟んではいかがですか?」
 コーヒーが載った盆を手にすばるが現れた。
「あぁ、スバルですか」
 知った声にアルテッツァは休みなく動かしてた手を初めて休めた。
「あまり、根を詰めてしまうと学院の授業に支障が出てしまいます。止めても無駄だと存じ上げておりますので、せめてコーヒーをとお持ち致しました」
 すばるは気遣いたっぷりのコーヒーを机に静かに置いた。分析が上手く行っていないのを知っているため少しでもアルテッツァの心が安らげばと。
「……ありがとうございます」
「インスタントではありますが、最近、美味く入れられるようになったんです。いかがでしょうか?」
 カップを手に取り喉を潤すアルテッツァにすばるは味を訊ねた。
「確かに前よりは飲めるようになりましたね」
 アルテッツァは微笑を浮かべた。
「ありがとうございます」
 すばるは嬉しそうに礼を述べた。
「……しかし、考えてみると不思議な話ですよね」
 ふとアルテッツァはカップの水面に目を落としながら洩らした。
 喉だけでなく気持ちの疲れも少し癒し、物思いに耽させた。自分の娘だと名乗る女性が現れた事、そして出会ってからの日々、こうして自分が彼女のために探し物をしている事。
「セシリアさんの事ですね」
 すばるにはすぐに誰の事か見当がついた。
「ふと、思いましてね。おそらくシシィくらいの娘がいてもおかしくない年齢だからでしょうけど」
 アルテッツァはすばるに答えた後、無意識のうちに唇を噛み締めた。
「……」
 すばるはじっとアルテッツァを見つめた。アルテッツァに依存しているすばるにとってアルテッツァがセシリアを大層心配して無理をすればするほど心配でたまらず、どうにか力になりたいと強く思うばかり。
「……マスター、お願いですからお体を大事にして下さい。もしマスターが倒れてしまうとセシリアさんにも影響が出てしまわれるんですから……ワタクシも」
 すばるは必死な気遣いと訴えを言葉にした。倒れて影響云々以外に心底心配だから。
「確かにボクが倒れてはどうにもなりませんね。それに最近、キミが暴走しなくなったのはボクの精神がシシィによって安定しているからかもしれませんし……気に掛けてくれてありがとうございます、スバル」
 アルテッツァは心底自分を気遣うスバルに笑み、カップに口を付けた。
「いえ、ワタクシは感謝されるようなことは何もしておりません。ただ、マスターが生きていてくだされば良いと……」
 自分のアルテッツァを気遣う気持ちが届いた事にスバルは嬉しさを感じ、それだけで幸せだった。クリスマスの奇跡が気持ち運びに手伝った事は内緒である。

 一休みを終え、検査結果としばらくにらめっこした後、
「スバル、キミの視点からも分析を手伝っては頂けませんか?」
「はい。お手伝いします」
 アルテッツァはスバルに協力を求め、次はスバルが検査結果とにらめっこをする番だ。

 しばらくして、
「……マスター、この疾患にはどうやら一定の規則性があるようです。まるで循環小数のような……もしかしたら循環詠唱呪法で対応出来るかもしれません」
 すばるは検査結果から顔を上げ、見つけた治療の糸口を報告しつつプリントをアルテッツァに渡した。
「つまり魔法治療ですか……その辺りは考えていませんでしたね。スバル、助かりました」
 アルテッツァは検査結果を再度確認しつつ報告から有効な治療法に辿り着いた。アルテッツァにも奇跡という幸せが届けられたようだ。
「いえ、マスターのお役に立てて何よりです」
 すばるはアルテッツァの力になれた事が感謝の言葉以上に嬉しかった。
 この後、樹達の連絡によりセシリアの治療方法について追加の情報を得る事が出来た。

 アルテッツァ達にも幸せなクリスマスが訪れた。