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第7章 何より大事な時間
 
 シャンバラ宮殿の展望レストラン。
 ピークの時間が過ぎたこともあり、店内はとても静かだった。
 見下ろせば、まだ明るい空京の街が見える。
「ひとつ、ひとつの明かりの下に、パラミタや地球から訪れた人々が、いるんだよね」
 地上を眺めて、ふと代王の高根沢 理子(たかねざわ・りこ)がそう呟いた。
「人々が活きているあかしですね」
 向かいに座っているのは、酒杜 陽一(さかもり・よういち)だ。
 1日の仕事を終えてから、理子と陽一はこの展望レストランで軽食をとることにした。
「理子さん」
「ん?」
 陽一が名前を呼ぶと、理子は彼に輝きのある瞳を向けてきた。
 陽一は街の光よりも、彼女の瞳の輝きの美しさに惹かれながら、話す。
「俺を選んでくれてありがとう」
「え?」
 理子は不思議そうな顔をして。
「なに、突然……」
 すぐにちょっと照れたように笑う。
 微笑した陽一だが、直後に少し表情に影が生まれる。
「でも、将来への不安もある」
 子供の頃、陽一は常に家族の顔色を伺ってビクビクしてきた。
 その頃の事を思いだすと、今でも少し怖くなるのだと、陽一は素直に理子に話す。
「俺が理子さん達から笑顔を奪ってしまうんじゃないかって」
「なんで? 今、悩みがあったり、今が辛いのなら同調もするけれど、昔のことだよね。だったらあたし、普段通りだよ。普段通り楽しく過ごしていれば、陽一さんの気持ちも晴れるんじゃないかな」
 そんな理子の笑顔を見て。
 陽一はほっとする。
「俺はこれからも君を支えるよ。それで、俺が不安な時は理子さんに助けてほしいんだ」
「うん、あたしも陽一さんを助けられたらなって思うよ」
 理子の返事を聞いて、陽一はこくっと頷く。
「言いたいことはそれだけ。さぁ食べよう!」
「いっただきまーす!」
 届いていたサンドイッチとスープを、食べ始める。
 陽一が頼んだのは、野菜中心のサンドイッチ。
 理子が頼んだのは、たまごや、カツが入ったサンドイッチだった。
 スープも、陽一は野菜たっぷりのミネストローネで。
 理子は鶏肉の入った玉子スープ。
 互いに頼んだものを、味わって食べていく。
「ううーん、このスープの玉子、ふわふわで柔らか〜。味もとっても美味しい!」
 理子がとても嬉しそうな笑みを浮かべると、陽一も笑顔になる。
 こんな風に、屈託なく過ごせる時間が何より大事だと、陽一はしみじみ思う。

 食事が終わってから。
 先に席を立った陽一は理子に手を伸ばしながら……。
「理子さん、キスをしていいかな……?」
 そう尋ねた。
 理子が「えっ」と目を見開く。
「え、ええと、理子さんさえ良ければってことなんだけど。俺としては、できたらすごく嬉しいなーって……」
 少し照れている陽一に、理子は手を伸ばして。
 彼の手を掴んで立ち上がった。
 そのまま何も言わずに、こくりと頷く。
 陽一は理子を引き寄せて。
 彼女の唇に、そっと自分の唇を重ねた。

 2人きりでいられた時間は、ほんのわずかな時間。
 高根沢理子には代王としての職務があるから……。
 この僅かで貴重な時間を、彼女と触れあるこの時を。
 大切に守っていきたいと陽一は思うのだった。