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空賊よ、パパと踊れ−フリューネサイドストーリー−

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第4章 I Love You More Today Than Yesterday(3/3)



 町外れの教会。
 質素な作りながらも荘厳な空気の醸し出す建物は、百合や薔薇、マユミの花で美しく彩られていた。色彩豊かなステンドグラスの下、真っ白なタキシードを纏った武神牙竜が待っていると、水色のドレスを翻してセイニィが現れた。
 その様子を『獅子と田中のフラグ立て』のメンバーは物陰から息を殺して見守っている。いや、見守っているのは彼らだけではない。たくさんの生徒やロスヴァイセ家の面々、なんだかよくわからないが集められた町の住民が、なんだかよくわからないイベントを成り行きを見守っている。
 小さな教会に隠れるにはいささか大人数で、わさわさと妙な気配がそこら中から漂っていた。
「いつになく、牙竜が真剣に悩んでると思ったら……、セイニィへの告白ね。セイニィちゃんの心も救いたいと、ずっと行動してたから、もしかしてと思ってたけど……、これはのぞき見しないと!」
 牙竜の相棒であるリリィ・シャーロック(りりぃ・しゃーろっく)は食い入るように見ている。
「鈍感男がようやく自分の気持ちに気が付いたか……、セイニィへの恋と正義のヒーローとしての葛藤。見てて楽しくなってきたね。うんうん、やっぱり、正義のヒーローと契約してよかった、よかった」
「何が良かったんですか。覗き見なんて趣味の悪い……、しかも、こんな大所帯で……」
 もう一人の相棒重攻機 リュウライザー(じゅうこうき・りゅうらいざー)はため息を吐いた。
 奇麗に並んだ長椅子の陰に隠れ、二人はすし詰め状態である。
「へぇ、あの二人がねぇ……。これはちゃんと見ておかないと、ロスヴァイセの名にかけて……」
 ロスヴァイセの名にかける必要はどこにもないが、フリューネもどこか楽しそうだ。
 そんな彼女に、レン・オズワルドが小声で話かけた。
「……すまないが、ちょっと来てくれないか。話があるんだ」
「もうすぐ動きがありそうなんだけど……、それ、今すぐじゃないとダメな話?」
「頼む」
 真剣なレンの様子に気圧され、フリューネはしぶしぶ席を外した。勿論、二人に見つからないようにこっそりと。
 その時、二人の間に動きがあった。
「……で、こんなとこに呼び出してなんの用よ?」
 セイニィは腕組みをして、長椅子の上に腰掛けた。近くに隠れていたデバガメ達はギクリと身を震わせた。
「なんか、妙な気配がするわね。この教会……?」
 周囲に注意を向けるセイニィに、イを決して牙竜は話し始めた。
「……セイニィ、今日ここに呼んだのは他でもない。俺の気持ちを、君に知ってもらいたくて呼んだんだ」
「はぁ……?」
「マ・メール・ロア要塞で『セイニィが笑顔でいられない未来を俺は否定する!!』と叫んだ時に、俺は気が付いた。セイニィ、君を1人の女性として愛してしまったことに」
「え……」
「いきなりの告白ですまない。だが、この先エリュシオン帝国やシャムシエルとの戦いが激しくなる。下手をしたら戦いで、俺は命を落とすかもしれない。その時に想いを伝えておけば良かったと後悔だけはしたくないんだ」
 真っすぐに目を見つめると、セイニィは頬を赤くして目をそらした。
「な、なによ、そんな事急に言われても……」
「返事は今すぐ欲しいわけじゃない。ゆっくりでいい、見極めてくれ、俺が君の隣に並んで立てる男かどうかを……。いつか『獅子座の爪』と呼ばれる男になってみせる。だから、友達から始めてくれないか?」
「う……」
 みんな、固唾を飲んで見守った。恥ずかしそうに視線を彷徨わせていたセイニィ。やがてその小さな口が呟いた。
「まぁ、別に友達なら……」
 その瞬間、二人の頭の上に花びらが舞った。風森巽がせっせと仕掛けたものだ。
 そして、教会の鐘が鳴り響いた。二人が見上げると、鐘のところに巽がよじ上っていた。
「蒼い空からやって来て、幸せの鐘を鳴らす者……、なんてね」
 隠れていた人々も姿を現し、拍手で二人を祝福した。
「おめでとう」
「おめでとう」
「おめでとう」
「めでたいなぁ」
「おめっとさーん」
「グェグェ」
「おめでとう」
 しかし、ヒルデガルドはどこか呆れた顔で見つめていた。
「なんだい、友達になっただけじゃないか。なにが、そんなにめでたいんだい?」
 まあ、確かに。
 怪訝な顔をしていると、パパがふぅとため息を吐いた。
「少しは空気を読みなよ、バーさん。とりあえず拍手しとけばいいのさ。それが大人の対応ってもんだよ」
「これだから、あんたは信念がないってんだよ。あんただって何がめでたいのかわかってないんじゃないか」
 まあ、この親子の会話はとりあえず置いておこう。
 突然の拍手と歓声を浴びて、セイニィは顔を真っ赤にして固まっていた。
「セイニィ嬢……」
 リュウライザーが優しい眼差しで話しかける。
「先日はティセラさんの洗脳解除お見事でした。友情とは素晴らしいものですね。僅かな希望の光を掴むことが出来たのは貴方の想いがあればこそでしょう。そのお手伝いが出来たことを生涯の誇りにします」
 そして、手を差し出した。
「私とも友になって頂けないでしょうか?」
 だが、セイニィは固まったまま動かない。
「あの……?」
 リュウライザーを牙竜と目を見合わせ、苦笑いをした。
「ええと……、どうやら緊張されてるようなので、それでは今のうちに写真を一枚撮らせて頂きましょうか。空賊の最終回では記念写真が上手く撮れなかったので……。牙竜、隣りに並んでください」
 牙竜がそっと隣りに並んだ瞬間、神速の動きでセイニィが飛び上がった。
「な、な、な、なんなのよ!? ちょっと変身変態男!! あたしの事ハメたわね!」
「い、いや……、そういうわけじゃ……」
「大体、友達なんだからね! あたしと肩を並べようなんて百万年早いんだからね!」
 セイニィはそう言うと、ステンドグラスをガシャンと突き破って出ていった。
「に、逃げた……!」


 ◇◇◇


「突然、フリューネの家に遊びに行って驚かせよう!」
 琳 鳳明(りん・ほうめい)はルンルン気分で支度を整えていた。
 フリューネの家に行くのは初めて、いや、パラミタに来てから友達の家に行くのは初めてだった。と言ってしまうと、完全に友達のいない奴だが。みんな寮住まいなので家に行くのは初めてという事らしい。
 お土産のお菓子を持って、家を出たのが30分前の事である。
「それなのに……、ど、どうしてこんな事に……」
 彼女は教会横の茂みに隠れ貝のように黙っていた。茂みの隙間から見えるのはフリューネとレンである。
 ロスヴァイセ邸に着いたものの、何故だかみんな出払っていた。屋敷の再建をしていた人たちに話を聞き、ここまでやってきたのだ。しかし、やってきたのはいいが、この光景はいったいなんなのか。
「……ちょっと、レン。ふざけないでよ」
 フリューネは頬を染め、目の前に立つレンを見返した。
「冗談で言ってるわけじゃない。いつからおまえの事を意識していたのかはわからない。だが、気付いた時にはおまえは俺の心の中にいたんだ。俺はおまえの力になりたい、その傍で共に戦いたい……」
「……そんな事言って、またバスケをするんでしょ。安西先生とまたバスケがしたいんでしょ」
「ご……、誤解だ。俺は丸腰だ、もうバスケットボールは持ってない。バスケはやめた!」
 鳳明はゴクリと息を飲み込んだ。
「こ、これはもしかしてもしかすると……、告白!? レンくんがフリューネさんを好きだったなんて……!」
「ほう、それはそれは」
 パートナーの南部 ヒラニィ(なんぶ・ひらにぃ)はそう言うと、ビデオカメラを取り出した。
「ってヒラニィちゃん!? なに余裕ぶっこいてビデオなんて撮ってるのさ!?」
「……ぬ、琳よ。そんな非難するような目で見るでない。これはあくまでもお主の為なんだぞ。色恋沙汰に疎いというお主の後学の為にこうしてわしは身を粉にしておるのよ! 決して面白いとかそんな理由ではないぞ!」
「完全におもしろがってるじゃないの!」
「静かにせんか。ほら、見てみろ。盛り上がってきたぞ……」
 注意をしつつも、続きが気になるのか、鳳明は息を潜めて二人を見守った。
「フリューネ、俺と一緒になってくれ」
 レンはハッキリと言い放った。これ以上ない簡潔な告白であるが……、しかしフリューネは目を伏せた。
「……ごめん、ずっと友達だと思ってたからそんな風に見れないよ」
 鳳明とヒラニィは顔を見合わせた。尋常じゃなく気まずい。
「ご、ごめんね……?」
 そう言って、フリューネは翼を広げて飛んでいった。
 残されたレンはそよ風に赤いコートをなびかせたまま、立ち尽くしている。
「ど、どうしよう……、レンくん固まっちゃってるよ」
「いや、まだだ……、まだあのグラサン、死んではおらんぞ」
 ショックのあまり心のブレーカーが落ちていたレンだが、我を取り戻した。サングラスの奥の紅眼はまだ輝きを失ってなかった。まだ引き下がれない。本気で告白したのなら、一度断られたぐらいで引き下がる事は出来ないのだ。
「フリューネ……、待ってくれ! 俺はまだ……!」
 

 ◇◇◇


 小さな教会は創設以来の騒動に見舞われていた。
 逃げ出したセイニィを探して右往左往する人々、それに混じってフリューネを探すとグラサンとフリューネを探すグラサンを始末しようとするパパ。呆れた顔で一喝するヒルデガルドに、まぁまぁとなだめるスケルツァーノとカークウッド。牙竜の告白について詳しい話を聞こうと、『獅子座と田中のフラグ立て』の面々に詰め寄る生徒。いまいち状況がわからず雑談を始める人々。昼下がりの教会はお祭りさながらの賑わいを見せていた。
 フリューネとセイニィは、教会の屋根の上からその様子を見ていた。
「随分と人気があるじゃない、セイニィ。みんな、キミの事を探してるみたいよ?」
「あんたもね、フリューネ。グラサンとおっさんが必死で探してるけど……?」
「うう……、気まずいなぁ。次にレンに会ったらどんな顔しよう……」
「あたしだって恥ずかしいわよ。なんであんなにいっぱいいんのよ、もう。見せ物じゃない」
「お互い大変ね……」
 二人は肩をすくめて、屋根の上に寝そべった。
 太陽は高く、空には雲一つなかった。今日もまた暑い日になりそうである。

担当マスターより

▼担当マスター

梅村象山

▼マスターコメント

マスターの梅村象山です。
本シナリオに参加して下さった皆さま、ありがとうございました。


空賊シリーズの後日談シナリオとして、今回はわりとゆるーく書かせて頂きました。
パパとフリューネの仲直りが本筋ですが、ガイドでも書いたようにさほど重視はしていませんでした。
あくまで後日談ですので、プレイヤーの皆さんに好き勝手してもらえればいいかなと思ったのです。
最悪、問題が解決しなくても、それなりのハッピーエンドは用意してたので気にしてなかったのですが、
アクションが揃ってみると、意外と仲直り物語に絡む人が多くてビックリしました。
そのかいあって、パパの勘当は解け、フリューネとも親子関係が修復出来そうです。

個人的に『フリューネグッズ開発』アクションをかける人が皆無なのが意外でした。
誰かひとりぐらいあるかと思ったのですが、風と踊れ第二回の罠アクション同様にゼロという結果です。
しかし考えてみれば、フリューネにセクハラ……失礼、特殊なアプローチをする方は、
彼女に直接非道を働く方が多く、こういう間接的な方式で行う人はいないような気もします。
まあ、セクハラは目の前でやって殴られるのが、美しいと言えばそうなのでわからなくはありません。

ちなみに、フリューネとパパが和解しなかった場合のエンディングですが、
パパが双眼鏡で変わらず娘を見守りつつ、協力してくれなかった生徒に刺客を差し向けるラストを考えてました。


次回シナリオガイド公開は、まだちょっと未定となっております。
見通しが立ち次第、マスターページのほうでご報告しますので、チェックして頂ければ嬉しいです。
それでは、また次回、お会い出来る事を楽しみにしております。