天御柱学院へ

蒼空学園

校長室

蒼空学園へ

【神劇の旋律・間奏曲】空賊の矜持

リアクション公開中!

【神劇の旋律・間奏曲】空賊の矜持
【神劇の旋律・間奏曲】空賊の矜持 【神劇の旋律・間奏曲】空賊の矜持 【神劇の旋律・間奏曲】空賊の矜持

リアクション

  
  
共に肩を並べる者同士の対戦というカードは
観衆にも混乱を与える反面、予測不可能な展開を期待して徐々に興奮で沸き立っていた
その淀みきった歓声を背に受けリネン・エルフト(りねん・えるふと)が口を開く

 「久しぶりね、フリューネ……思ったより元気そうで嬉しいわ」

感情の読めない声にフリューネ・ロスヴァイセ(ふりゅーね・ろすう゛ぁいせ)も淡々と言葉を返す

 「驚いた……いろいろ事態は考えたけど、まさかあなたと戦う事になるとはね」

周囲の困惑を余所に、等の二人は驚くほど冷静に見えた
リネンはその身をいつも通りの装備で包んでいながらも、明らかに傷を残しており
一方のフリューネは一切の武装を奪われ、簡易な囚人服に両足には鉄球がついている
お互い自慢できない様相だが、身から出る殺気は迷いなく逆に研ぎ澄まされていた

 「知ってる?元々のあなたとの対戦カード
  【パラミタ虎】と【シボラのジャガー】しかも大きさは最大級ですって
  しかも、本当は私でなく彼がここにいたのよ?
  覚えてる?この前の【私掠船騒ぎ】のお礼がしたかったんですって……人気者ね」

そう言ってリネンが指示したステージの先にはエッツェル・アザトース(えっつぇる・あざとーす)が立っていた
リネンの言葉と彼の姿に納得したようにフリューネは目をつぶる
それに満足したかのようにリネンも言葉を続けるのだった

 「わかってる?あなたも私も……もう終わりなのよ
  だったら下らない連中になんてあなたを殺させて楽しませるわけにはいかないじゃない?
  だから私が相手になってあげる……私の手で終わりにするわ」

そう言って【カナンの剣】の切っ先をフリューネに向ける
それを受け止め……程なくして彼女の目が開かれた

 「わかったわ……だったら私の自分の意志を伝えてあげる
  私は……生きる、たとえどんな事があっても生きる事を諦めない!」
 「だったら……私の手で足掻きなさい!!」

刹那、リネンの姿が消え轟音が鳴り響く
フリューネが最小限の動きで身をを交わすと同時にその囚人服の袖が微かに破れ
奥の金網にリネンの足がめり込んだ
【バーストダッシュ】を使っての強烈な迷いのない蹴りに
期待通りの展開を目の当たりにした観衆が大声を上げて盛り上がる

 「魔獣などに、あなたは殺させない。本気できなさい!」

叫びと共に容赦ない連撃がフリューネに繰り出される
【ゴッドスピード】で金網を壁代わりに動き斬撃を繰り出すリネンの攻撃に
体力の温存と先ほどの様な最小の動きで回避を試みるが、そのスキルによる威力で少しずつ傷が刻まれる
それでも致命的な効果はないと思われたが、フリューネがステージ中央に移動した時その真意がはっきりした

 「!?退路が!!」

それは十分に用意された位置、対処を考える間もなく彼女の周りに乱気流が渦巻いた
リネンの得意技【タービュランス】【エアリアルレイヴ】をミックスした必殺コンボである
全方向からの容赦ない攻撃に両足の鉄球ごと、体が金網に叩きつけられる
先ほどリネンがめり込んでひしゃげた金網が激しい軋みを上げた

 「……これが私の本気よ!」

止めとばかりに動けないフリューネにリネンは剣を突き出す
だがそこがフリューネの狙いだった
全力を込めて床に臥す彼女の頭上をリネンの剣がすり抜け、金網に突き刺さる
そこにフリューネの渾身の蹴りが炸裂する……否、打点は足ではなくその鉄球
思ってもない攻撃を胸部に喰らい、反対側に飛ばされるリネン
……たかが蹴りだが彼女にとっては効果絶大だった
起き上がれず苦悶する彼女に、金網に突き刺さった剣を抜き取りフリューネが口を開く

 「悪いわね……その傷、私以上にダメージがあるみたいじゃない?
  いきなり全力すぎる攻撃は体力のリミットがあるからでしょ……見抜けないと思った?」
 「そうね……それがあなた……フリューネ・ロスヴァイセだったわ!!」

倒れていたリネンから銃声が放たれる
【空賊王の魔銃】による弾丸……剣で捌いたものの、スキルを封じられたフリューネはその威力を相殺できず
頬をかすめた銃弾の傷から激しく血があふれた

そこでようやく一方的な殺戮を予想して盛り上がっていた観衆の声が
うってかわって静まっていることに観衆自体が気が付いた
ならず者の集団とはいえ、基本は力を信条にする猛者の集まり
想像以上の拙戦に血が騒がないわけがない……静まった空気が一転して大歓声に切り替わる
だが、全員がその血沸き肉躍る戦いを楽しめるわけではない


 
 「ふ………っざけるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

その歓声をかき消すように一人の咆哮が会場に響き渡る
エッツェル同様、金網のそばで監視役を務めていた白津 竜造(しらつ・りゅうぞう)の叫び声だった

 「冗談じゃねぇ!こんな対決遊びを楽しむために俺はここにいるんじゃねぇんだよ!
  俺の手ですべてを血祭りに上げる!その為に来たんだろうがぁ!
  馴れ合いなんてまっぴらごめんだ!ぶっ殺すぞ!」
 「やめて下さい、あなたが暴れるのは契約違反でしょう?」
 「俺に偉そうに話しかけんなぁ!!」

【ギガントガントレット】を振りかざし、暴れようとする竜造を止めようとエッツェルの触手を
【龍鱗化】の腕で豪快に弾き飛ばす、弾かれた触手が金網に突っ込んだ

 「何ならテメェから地獄に送ってやろうか!?ああ」

全力の殺気をエッツェルに向ける竜造
だがその言葉に、困ったように……そしてやや楽しげに彼は受け答えた

 「困りましたね……ご期待に添いたいのはヤマヤマなんですけどね」

そう言って、触手を金網から引き戻す。そこには立派に人が入れるほどの穴が開いていた

 「……すいません、穴、開いちゃいました」

そこでようやく見守る数人が理解に至る
彼の触手が食い込んだ先は、先ほどからリネンの攻撃を何度も受けていた所だった
最初の蹴りも、フリューネがめり込んだ先も、剣が刺さった所も同じだったのである

 「……やっぱり狙っていた?」

フリューネの問いに、不敵にリネンが立ち上がる

 「言ったでしょ?私以外にあなたを殺させはしないって」
 
 
=============================================================================================
 
 「くそ……一杯喰わせやがったな!」

巧妙な計画に、高みの見物を決め込んでいたガイナスが事態を悟り
慌てて収集をつけようと周囲に命令をしようとした刹那、手下の伝達係がある事態を報告に走ってきた
その報告を聞き、ガイナスの顔色が変わる

 「貨物庫と監獄房に襲撃……だと?」

そう言い終わらないうちに
今度は突如目の前の金網ステージにズガァァァァァンと激しい音が響き渡る
急いで見下ろすと金網の上に3人の影が降り立つのが見えた
強度の一角を脆くされた金網がいっそう歪む中、それぞれの影がゆっくりと立ち上がる

その一人コハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)がやや脂汗を垂らしている中
一人は身にまとっていたエプロンドレスと髪飾りを豪快に取り払う

 「はろー♪ご来場の皆々様。…パラ実の伏見明子よ。名前ぐらいは聞いた事あるんじゃないかしら?
  怪我してる空賊二人じゃつまらないでしょう。私にも賭けてみない?」

陽気に自己紹介するのは【荒野の女番長】伏見 明子(ふしみ・めいこ)
周囲がほぼ敵に等しい状況なのを意に介さず、ひらひらと【波羅蜜多セーラー服】を舞わせる
そんな彼女に誰も手を出せなかったのは
恐らく3人目の人物から放たれる尋常じゃない殺気を感じたからかもしれない

 「……もう誰も信じないんだから……でも」

そこにいる竜造すら呆気にとられる覇気をそのツインテールに纏わせながら
小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)は【レゾナント・アームズ】で強化された手で金網の天井を掴み取る

 「フリューネとリネンをこんな目に遭わせたんだから……悪いけど、あまり手加減しないよっ★」

オーラと真逆な壮絶な笑みと共につかんだ金網を引き抜く
ごっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁっと誰もが聞いたことない音を上げて彼女の足元の金網がごっそり毟り取られた