なし

　――ツァンダ郊外。

「先生、どうなんだ！？　妹は、ミュゼットは治るのか！？」
「ダメだ、治らん」
「ほら、地球人からもらったっていう薬があるだろ！？　点滴とか解熱剤とか！」
「スタイン、お前に言われるまでもない。手持ちの薬で使える物は全て使ったよ。薬とて万能ではない、正しく処方しなければ意味がないのだ。この病気はツァンダの地方病だ。地球の薬では、な」
「そんな……」

　小さな木造の一軒家に住むスタインの妹ミュゼットは、高熱を発して病の床に就いていました。
　彼は医者に診せましたが、医者は匙を投げてしまいました。
　途方に暮れるスタインの手を、とても熱く震える小さな手がそっと握りました。

「はぁはぁ……あたしは大丈夫、だから……はぁはぁ……寝ていればすぐに良くなるよ……はぁはぁ……だから安心してお兄ちゃん」
「ミュゼット……」

　弱々しく微笑む妹に、兄は手を優しく包み込むことしかできません。
　医者は後片付けをした後、スタインを手招きして外に連れ出しました。

「特効薬が無い訳では無い」
「本当か！？」
「うむ。ツァンダの南の山脈に、１０年に一度花開く高山花マリアローズならあの地方病にも効果がある。採取が困難だから私は持っていないが、領主様やクロカス家に掛け合えば……」
「マリアローズだな！」
「出来るだけ早い方がいい。あの地方病は高熱を発し続けるが、発し続けている間ならまだ良いのだ。熱が急に下がったら数日と保たないだろう……」
「くっ……分かった、行ってくる！」

　スタインは医者への礼もそこそこに駆け出し、比較的近くにあるクロカス家へと向かいました。
　クロカス家はツァンダを統治するツァンダ家に連なる地方領主です。

「マリアローズですか……申し訳ございませんが、当家にもございませんの」

　応対に出たレティーシア・クロカス（れてぃーしあ・くろかす）は申し訳なさそうに首を横に振りました。
　それだけ希少な高山花のようです。

「この分だとツァンダ家にも無さそうだよな……採りに行くしかないか！」
「！？　危険ですわ！　今の時期は冬眠から目覚めたばかりの熊が徘徊しておりますし、途中には食虫植物やドリアードのいる森を抜けなければなりませんし、あの一帯は機晶石の鉱脈もあるとかで、小型飛空艇なども正常に飛行できませんのよ！？」
「なら、私達コントラクターが護衛すればいいわ」

　奥からレティーシアのパートナーの加能　シズル（かのう・しずる）が姿を現しました。
　腰には日本刀を帯びています。

「話は聞かせてもらったわ。こういう時こそ私達コントラクターの出番じゃない。それに、スタインさんがマリアローズを採りに行く間、妹さんを看病する人手も要るでしょう？」
「そうか！　ミュゼットを１人にしておくわけにはいかなかった！」
「呆れた。そこまで頭が回らないなんて猪突猛進も良いところだけど……かつての私を見ているみたいだから放っておけないのよね。レティーシア、すぐに各校に依頼を出して」
「ええ！」

　スタインの真っ直ぐさに微苦笑しつつ、シズルはレティーシアに依頼の手配を頼みました。
　その間、彼女とスタインは出発の準備を進めました。


　数時間後、蒼空学園の掲示板を始め、各校の掲示板に高山花マリアローズを採りに行く募集の張り紙が貼り出されました。

　初めまして、今度ゲームマスターになりました　天宮　あると　です。
　これからよろしくお願いします。

　このシナリオでは、地方病に罹った妹ミュゼットを助けるために、兄スタインと一緒にツァンダの南の高山に咲く高山花マリアローズを採りに行きます。
　ツァンダが舞台ですので蒼空学園生が請けやすいですが、レティーシアは全学校に依頼を出しているので、「依頼を見た」「蒼空学園の友達から依頼のことを聞いた」といった理由で、他校の生徒も気軽に参加して下さい。

　舞台となる山は、機晶石の鉱脈があるせいか、小型飛空艇など機晶技術で動くものは正常に作動しなくなるようです（機晶姫、クラススキルは除きます）。また、空飛ぶ箒等にも影響を与えるようなので、「一気に空を飛んでいく」ことは出来ません。
　それだけに入手が困難な高山花となっているようです。

　山の麓にはは森が広がっており、蔓草のような食虫植物がうようよいます。睡眠効果のある香りを撒き散らして、眠った獲物を蔓草を伸ばして補食するようです。
　また、冬眠から目覚めたばかりで腹を空かせたヒグマが徘徊しているそうです。警戒を怠ると不意打ちを食らう可能性がありますので、こちらも注意が必要です。
　その他、ドリアードと呼ばれる樹の精霊も見掛けられます。彼女達は美少女・美女揃いで、基本的に人畜無害なのですが、気に入った男性を自分の樹の中に取り込んで数日から数年帰さない困った癖があります。捕まらないようご注意下さい。ただ、自分の子供である苗木や種を託す場合もあるので、見極めが大変ですが。

　マリアローズは数自体が少ないので、スタインの妹の分以外は摘まない方がいいでしょう。

　スタインが家を留守にしている間、ミュゼットを看病してくれる人も募集します。
　ミュゼットが罹っている地方病は、健康であれば罹りませんので安心して看病してください。
　スタインとミュゼットの家は間取り２Ｋ程度の小さな家ですが、キッチンなどはあります。

　なお、スタインと加能シズルが同行しますが、それ以外のNPCは登場しません。

・食虫植物と戦う！

・ドリアードのお相手をする

・ミュゼットを看病する