なし

（……うお、まぶし）
　目を覚ましたアッシュ・グロック（あっしゅ・ぐろっく）は、映った見知らぬ天井と、明かりに顔を顰めます。
「あ、起きた」
　そんなアッシュの顔を覗き込むように、アゾート・ワルプルギス（あぞーと・わるぷるぎす）が見下ろしていました。
「アゾート？　ここは何処――」
「いい、落ちついてね。驚くと思うけど、何があっても絶望しちゃだめだよ？」
　ここは何処だ、と聞こうとするアッシュに、アゾートが真剣な表情を見せます。その気迫に、思わずアッシュは頷きます。
「……これで自分の身体を見てみて」
　そう言うとアゾートが鏡を見せました。
「俺様の身体？　俺様の身体がどうしたってなんじゃこりゃあああああ！？」
　まるで悲鳴のようなアッシュの叫び声が響きます。
　まず、映ったのは見慣れたアッシュ自身の顔。しかし眼球はガラス玉で、更に首から下に映し出されたのは見慣れたアッシュの身体――ではなく、木彫りの人形の身体でした。
「ちょ、一体何がどうなってってえ！？　何で！？　何でこんなことに！？」
「それを聞きたいのはボクだよ。変な物音がしたから覗いてみたら、変な魔方陣の上にキミの生首が『使い道ないし、要らないから返す』って張り紙付きで転がってるし、眼にはガラス玉がはめ込まれてる状態だっていうのに生きているんだもん」
「なん……だ……と……！？」
「慌ててエリザベートに相談してみたんだけど、魂は無事みたいだったから応急処置として手近な人形に定着させたんだけど……一体何をしたのさ？」
「変な魔方陣……そ、そうだ、思い出したぞ！」

――それは少し前に遡ります。
　イルミンスール魔法学校の図書室。そこでアッシュは『願いをかなえる』と言われる秘術が記されていた書物を見つけました。
　これは好機と見たのか、すぐに書物片手に自分の部屋へと戻りました。
　部屋の床に魔方陣を描き、そして跪くようにしてアッシュが願いを口にします。
「頼む……どうか……俺様にもっと活躍できる機会を！」
　何とも哀しい願いでした。
　しかしその願いを口にした瞬間、部屋はまっ白い空間へと変わりました。いつもの見慣れた家具は勿論、壁や床も無くなり、残ったのは足元の魔方陣ただ一つ。
　突然の展開に戸惑うアッシュでしたが、

『おっけー』

そんな彼の耳に、やたらと軽いノリの男とも女ともつかない声が入りました。顔を上げるとそこには何者かが居ました。
　それは、輪郭は人の形こそしているものの、全てがぼんやりとまるでモザイクでもかかっているような奇妙な存在でした。
『うんうん、キミの願いは聞き入れたよ。活躍の機会が欲しいんだって？　それじゃその機会を用意しようか』
「ほ、本当か！？」
　アッシュの言葉に何者かは「うんうん」と頷くと、口の様な物を開きます。
『それじゃ、代わりにキミの身体貰うよ』
「……は？」
『等価交換ってやつだよ。この世は全てギブアンドテイクってね。それじゃ、貰うからねー』
　何者かがそう言った直後、魔方陣から黒い手が出現し、アッシュの身体を掴みます。
「な！？　くっ……は、離せぇッ！」
　アッシュは必死に抵抗しますが手は次々と増え、やがてアッシュの口をも塞ぎ、まるで魔方陣の中に引き摺りこもうとするかのように押さえつけます。
　すると、アッシュの身体は魔方陣へと飲み込まれ――そこで意識を失いました。

「……そこまでして出番が欲しかったの」
「ああ……ってなんだその憐れんだ眼は」
　アゾートがアッシュをまるで可哀想な物を見るような目をしますが、直ぐに顎に手を当て考える仕草を見せます。
「けど『等価交換』か……錬金術の原則が何で出てきたんだろう？　けどどう見ても錬金術の手法とは違うし……」
　ぶつぶつと呟くアゾート。
「……ん？　何だこの音は？」
　その時アッシュの耳に、ドタドタと走るような音が聞こえたかと思うと、扉の前で止まりまるで弾けた様に勢いよく開かれます。

『アッシュ・グロック出て来いやぁ！』

　そこにいたのは、高円寺　海（こうえんじ・かい）に雅羅・サンダース三世（まさら・さんだーすざさーど）、金元　ななな（かねもと・ななな）に小暮　秀幸（こぐれ・ひでゆき）といった他校の生徒達でした。

『ってキモっ！？』

　そしてアッシュの姿を見てハモり、戸惑っています。
「まぁ戸惑うのも仕方ないよね。実はかくかくしかじか」
　ざっとアゾートが説明すると、皆がまるで可哀想な物を見るような目をアッシュに向けます。
「で、みんなはどうしたのさ？」
　アゾートに言われ、皆が説明を始めます。曰く、

――ツァンダでアッシュが謎の怪力で街を破壊していたりとか。
――ヒラニプラではアッシュがとある兵器の研究所を占拠していたとか。
――キマクのオアシスでアッシュが目から謎のビームを出していたりとか。
――イルミンスールの森でアッシュを目撃したが、その事実を記憶から消し去りたいと証言する者が多発しているとか。

――簡単に言うと、各地でアッシュが迷惑をかけているという事でした。
　しかもどいつもこいつも、動く度に灰を撒き散らして、至る所灰だらけと更に迷惑な感じでした。

「ってちょっと待て！　俺様がこれでどうやって迷惑をかけたって言うんだ……ん？　何だこれは？」
　アッシュは床に、何か書かれた紙が落ちているのを見つけ拾い上げます。

『キミの身体のパーツを使って各地でトラブルを起こしたよー。身体返してほしいっていうならトラブルの原因倒してねー。というわけで、願いは叶えた。さらばじゃー』

「……うん、キミが原因だよね」
　紙を覗き込んだアゾートが呆れた様に呟きます。
「あれ？　まだ何か書いてある」
　ふと、紙の裏側に何か書いてあるのを発見します。

『あ、書き忘れてたけどもし倒せなかったら身体は返せないよー？　後世界中灰まみれでさあ大変になっちゃうよー。何で灰かって？　その質問は野暮ってもん（以下略）』

「うがー！　こうしちゃいられねぇ！　偽物を今すぐ倒してやる！」
　紙を怒りに任せて投げ捨てたアッシュが意気込みます。
「落ちついてよ！　そんな体だっていうのにキミ一人で全員を倒すのは無理だよ！　ここはみんなの力を借りようよ！　力を貸してくれる！？」
　アゾートの言葉に、他校の生徒たちは「仕方ねぇなぁ」という顔を浮かべはしましたが、灰まみれになっては困ると「協力はする」と頷きました。
「よし、早くしよう！　その体も早くしないと魂定着して元に戻れなくなるってエリザベートが言ってたし、急ごう！」
「ちょっと待て！　何重要な事さらっと言ってるんだよ！？」

――こうして、はた迷惑な魔法使いの身体を取り戻す戦いが始まりました。

　本シナリオは複数回行われるシナリオの第一回目となります。

　第一回目である今回のシナリオは、複数名のマスターによる合同シナリオとなります。
　二回目以降は合同シナリオではなく、綾瀬　亜紀マスターが担当いたします。

担当マスターは以下の４名となります。
・綾瀬　亜紀
・革酎
・寺岡　志乃
・高久　高久

■目的
　各地で迷惑をかけている偽アッシュを何とかして、本物のアッシュの身体を取り返す事がメインの目的となります。
　本物のアッシュは現在頭部以外のパーツを奪われ、木製人形に魂を定着してある状態です。
　魂は無事だったので木製の身体で動けますし、ガラス玉の眼球でも物は見える状態です。
　一応腕に何かあった時用にとネギが仕込んであります。ネギです。ただの野菜のネギです。
　もし倒す事が出来れば、倒したパーツがアッシュの下に戻ります。
　逆に倒す事が出来なかったらアッシュは悲惨な目に遭い、更に世界中が灰まみれになってしまうでしょう。

■偽アッシュに関して
　偽アッシュは各地に１体ずつ存在し、色々と迷惑をかけています。その上動く度に灰がばら撒かれるので何ともはた迷惑な存在です。
　偽アッシュはそれぞれ本物の身体の一部を用いて何者かによって創られました。
　それぞれがその一部に則った特徴を持っています。対処法に注意してください。

【１】ヒラニプラ……胴体パーツ（担当マスター：綾瀬　亜紀）
　ヒラニプラのとある研究所を乗っ取り、そこで研究されていたアーマーを奪い全身に装着しています。
　アーマーは岩のように大きく固く、ちょっとやそっとじゃ壊れそうにありません。
　更に全体的に丸みを帯びており、通常なら弱点となりそうな関節部分は「ほら、刃物とか入ったら痛いじゃん？」という研究員の遊び心というかなんというかが見られる設計になっている為攻撃が通らないようになっています。
　尚本人は動けないわけでは無く、体当たりなどで攻撃を仕掛けてきます。
　中にいるアッシュにダメージを与える方法を考える必要がありそうです。
　また周囲に灰を撒いて目くらましに使う以外に、灰で人形を作りだして邪魔をしてきます。
　アッシュの周りに数体いる灰人形は特段強くも無く、攻撃を受けると簡単に灰に戻りますが、すぐに復活してしまいます。
　登場ＮＰＣ：金本　ななな、小暮　秀幸

【２】イルミンスールの森……脚パーツ（担当マスター：革酎）
　イルミンスール魔法学園近辺の森で灰を撒き散らしながら走り回る姿が目撃され報告されています。
　しかし目撃者は『見た記憶を消し去りたい』『ああ！　網タイツが！　すね毛が！』『てめーは俺を怒らせた』という供述ばかりで、どうやら目撃するとＳＡＮ値が減るような恰好をしていたり、行動をすると思われます。
　目撃者は特に肉体面での怪我を負った、という報告はありません。ですが精神面はズタボロです。
　一番の脅威は精神面の攻撃と思われます。対処するにはその対策が必要と思われます。
　尚こちらのアッシュは下半身しかないせいか、灰は撒き散らしますが灰人形は作れないようです。
　登場ＮＰＣ：アゾート・ワルプルギス

【３】ツァンダ……腕パーツ（担当マスター：寺岡　志乃）
　ツァンダで偽アッシュは本物とは似ても似つかない怪力で街を破壊したり、灰を意図的に撒き散らしたりしており現在街は灰まみれになっています。
　この偽アッシュは純粋に腕力による攻撃の他、本物のアッシュが使えないような炎系のスキルを用いてきます。
　更に灰を撒き散らして目くらましや炎と組み合わせて粉じん爆発の様な行動をしてきます。
　アッシュと思って舐めてかからない方がいいかもしれません。
　またこちらでも灰人形が邪魔をしてきます。こちらでは灰人形はどんどん増殖し、倒した所で灰に戻り、その灰から次々と生まれてきます。
　登場ＮＰＣ：高円寺　海、雅羅・サンダース三世

【４】キマク……眼球パーツ（担当マスター：高久　高久）
　オアシスで目からビームを放つアッシュが破壊活動を行っています。
　攻撃方法は目から威力のあるビームの他、攻撃を見切ったり、何やら目を光らせて隙を作ったり、メンチ切って来たり、更には意味ありげな視線を送ってきます。この各種視線は様々な状態悪化を引き起こし、最悪行動不能に陥ります。
　非情に厄介な目ですが、眼球であるからこそ付け入る隙もあるでしょう。
　また、こちらのアッシュは灰を撒き散らせても灰人形は作れないようです。
　登場ＮＰＣ：アッシュ・グロック

■注意事項

　アクションは行きたい場所へ番号で指定をしてください。
　１ＰＬにつき、行ける場所は１ヶ所のみとなります。ＭＣ、ＬＣで別の場所に行くことはできませんのでご注意ください。
　パートで大きな人数の偏りが出た場合、他ＭＳが執筆協力することがあります。
　また、各地でＮＰＣは必ずしも登場するわけではありません。御了承下さい。

■何者かについて
　アッシュをこのような目に合せた何者かはガイドには登場していますが、今回のリアクションでは登場しません。
　その為この何者かに関するアクションはＮＧとなりますので御了承下さい。

　それでは皆様のアクションをお待ちしております。

・【１】胴体パーツに挑む

・【２】脚パーツに挑む

・【３】腕パーツに挑む

・【４】眼球パーツに挑む